佳境、辛酸に入る-第14章-

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波下は、資材の関係者に云いに行ったらしい。
話はすっかり抉れてしまっているようで、資材からは何の連絡もないのである。波下はそれでも資材の役員のところまで催促にいった。
「今、やっていますから」という回答であったようである。
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しばらく時がたち、波下がいらいらしてきた頃、専務から呼び出された。
「波下さん、あの話ね、あなたに三十万円支払うことで決りました。」
彼の云っていた話の十分の一になってしまった。結局、波下が三百万円と云って行っても資材では相手にしなかったのである。

波下は彼を呼びとめ
「あなたが興味を持っているようですから、話しますが、結局三十万円で決りました。」
何故、彼にこんな話をするのか、一瞬合点が行かなかったが、直ぐに、波下は彼に同情してもらいたいのだと悟り
「随分、少ないですね。」と云ってやった。波下は満足した様子であった。
その姿を見てこんなに可哀想な生き方もあるのかと彼は想わずには居られなかった。もしかすると戦時中将校であったから、命令のみで動くことに慣らされて、このような人になってしまったのか。すると戦争の犠牲者であるかも知れないと彼は想った。人にはその人が歩む固有の人生があろうが、谷口部長の人生といい誰かお膳立てをしてくれて、生きる人生など彼には到底絶対に考えられない事柄であった。(第14章終わり) 第15章へ

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