佳境、辛酸に入る-第13章-

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途中、フランクフルトとパンとビールを買い、これを頬張ることにした。フランクフルトとパンは豊沃とした若い娘が売っていた。
彼がフランクフルトとパンをくれというと「アイン(一つ)」と云って右手の親指を立ててみせた。彼は「ヤー(そうだ)」と答えてフランクフルトとパンを手に入れた。
幸にもそのフランクフルト売場の隣りがビヤホールになっている。このビヤホールは売り場が道路側にもあり、ここからビールを買うことができる。
彼は「ビッテ、アインビア(ビールを一杯)」と云ってビールを一杯もらった。彼はドイツ風の立ち食いをしたのだ。

空は晴れて、乾燥しているせいか雲一つなかった。腹拵えをして彼はライン川の方に向けて歩き出した。
ドームからライン川への近道は、途中ケルン駅を通り抜けなくてはならない。駅に近づくにつれ、女性の甲高い声がしてきた。
気の振れた女がヒットラーよろしく駅前で演説しているのである。西独でもめずらしい光景であるのか人だかりがあった。皆、立ち止ってはニヤリと笑って立ち去って行く。

ケルンの九月の日曜日のライン川添いの道はのどかである。九月は日本では汗ばむことがあるがここでは非常に快適である。
川沿いの道を行く老夫婦の姿は、どこか西独の歴史を体全体に染み込ませているかのごとく、歩みもゆっくりとおだやかに散歩している。
犬を伴った中年の紳士が歩いて行く。犬はよく訓練されているとみえて主人の側面に付いて主人と歩調を合せている。
ヨーロッパ特有の犬であろうか、足の長い毛のふさふさした大きな犬が二匹、若い女性に連れられ、これも主人の後から付いて行く。主人より前を駆けて行く犬など見受けられない。

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