ある少年の今と同じ秋のよく晴れた日に、老婆から伝えられた一言は彼の人生に大きく影響し、それが今も影響し続けている。 この一言が今日の彼を作ったといっても云い過ぎではないと彼自身で思ったのである。しかし、彼は残念ながら東大を出ることができなかった。出なかったために損をすることもあったが逆に得るものも多かったと思っている。
現在の日本の社会は、東大閥が至るところに存在しやりにくい。彼のところにいる谷口も同様で、東大を出たということで、能力がなくとも周りが引き立ててくれる。 得をしている人間の一人だと思うが、ここまで来てこんなことを考えるのはナンセンスな気がしてきた。
ライン川にはラインを上り下りするディーゼルエンジンを搭載した船が往き来している。川のほとりには休日のためであろうか岸辺の並木の道を散歩している人影が見える。隅田川の岸辺を散歩する人はこの様には多くない。 彼もそこに行きあの人影と同じように歩いてみたい衝動にかられた。
機会があればライン下りの船にも乗ってみたいと思った。早速、ドームの円筒状の窓なしの石積みの狭い回転階段を、何回もこれでもか、これでもかと回転して下まで下りた。昇りより下りの方が長い時間かかったように彼には思えた。 このドームからライン川のほとりまで一キロ程ある。歩いてゆくことにした。
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