食前酒が出された。これは非常に強い酒である。 彼は「ガンツー(強い)」とまで云い出したが後の言葉が出てこない。単語を忘れたのである。いや何を云うかも考えていなかったのである。 すると彼の横に腰掛けている奥さんが後を続けてくれた。彼は頷づいてみせた。
奥さんが満足の表情を顔に出したのを見て、彼は気の毒に思ったが、彼は多分いい出そうと考えていたであろうことと大差ないと勝手に解釈していた。 食事は次々と運ばれメインディッシュとなった。ドイツの森に住む野生の鹿の肉だという。 大きな皿に盛られたその肉の塊から彼が食べる分だけボーイが切り取って彼の皿に盛ってくれた。
確かに美味であった。その肉とともに出されたドイツワインも、彼にとって忘れることができない思い出となった。
翌朝ドームに上ってみることにした。このドームは第二次大戦中に一部が破壊されたが、その後これを修復し今では元の通りにそびえ建っている。
石を積み重ねて作られた寺院である。 中に入ると、下の方の階では石が摩耗して、角のとれた階段が連なっている。次第に上に昇るにつれ、新しい角の付いている石の階段が上まで続いている。この階段は回転して昇るような格好に作られている。
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