佳境、辛酸に入る-第13章-

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(十三)

彼が西独のケルンに出掛けていったのは、夏も終り、秋が始まったばかりの九月の中旬であった。
彼が南フランスで初夏を過してから、一年後のことであった。
成田からアンカレッジを経由して、十七時間してやっとの思いで、ハンブルグに到着したのだった。ハンブルグの空港は朝靄に含まれていた。
ハンブルグ空港から国内便でケルン空港まで行くのであるが、いつになく警戒が厳しく感ぜられた。拳銃を持った警官があちこちに立っていた。
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航空機で仕事に出掛ける時間帯であったのか、ビジネスマンで、空港も国内便の中も満杯であった。
国内便に乗っているものは、女性の姿が見られず、働き盛りの男性で占められ、機内に入るときに渡された新聞に見入っていた。
彼も新聞をもらったがドイツ語なので、あまりよく理解できなかった。事件が起ったのである。
内容ははっきりしないがハイジャックのようである。

機内の乗客が新聞を読んでいるが、皆この記事を見ていることに彼は気付いた。彼はなおも新聞を読んで行くと、犯人はケルンで逮捕されたということが解った。どうも、ハンブルグの警戒がこの事件と関係がありそうだと彼は考えていた。
航空機は無事にケルンに着陸し、バッグの出てくるのを待っていると、なかなかバッグらしいものが出て来ない。ただベルトだけが回転しているだけであった。
ふと空港ホールのコンクリートの太い柱のある角のところを見ると彼のバッグが一つ置かれていた。

朝のケルン空港ではバッグを持ってくる人が少ないためベルトにのせずにホールのコーナに置いたのであろう。
彼はバッグを受け取り、出迎えのドイツ人を捜したが、まだ来ていないのである。しかたなくそのドイツ人のもとに電話することにした。

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