佳境、辛酸に入る-第10章-

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会社は彼が仕事をしたために、金を使っているのであるから、実績として残らない以上、会社は損をするし、個人的には誰も得をするものはないのである。
彼は喧嘩の上に、さらに喧嘩をして、彼自身が出した成果を人にさせることができるであろうか。
商品化は設計の仕事であり、この仕事に彼は手を出すことができないようになっている。その上、当の設計部長の永田が実績に結びつかないように工作するのであるから、どうしようもないのである。

今までと同じように専務にも、永田にも、谷口にも、常に、にこにこと従順に振る舞い、心の中では色々と思案を練ることにした。心の中の葛藤は、彼自身の地位も、待遇も、変ることはまずない。
社長のご機嫌を損うこともないのである。
心の中の葛藤と彼自身の頭の中でする研究は誰にも奪われることなく、妨げることはできない。その個人所有の研究成果を、必要なときに、出してやるなどと要領のよい事を考えたりする。ここまで考えて、彼は床についた。

目が覚めると、秋晴れの日の光が窓から射し込み、小鳥の鳴き声の聞えるすがすがしい朝であった。今日はあまり張り切らないで、ゆっくり様子を見ることにしようと心の中で決意した。これで、彼の身の上も暫らく安泰である。
しかし、彼はもともと、変化がないと生きられない性格の持主である。彼自身も、自覚しているのであるが、最近ではこれを抑えることができるようになった。静かな生活をすることが、彼には忍耐なのである。

彼ら子飼いの人間がいくら頑張っても、部長止まり、部長になるのは停年の数年前である。
それまでは、子飼いの連中が会社の仕事を進める上での主力エンジンのようなものである。この人達に不貞腐れられてはこの上に乗っている親会社から派遣された人間は困まるので子飼いは殺さぬように、活さぬように扱うのである。
ちびり、ちびりと時間を掛け、子飼い同士の中で昇進、昇格に差をつけながら、巧妙にコントロールするのである。

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