佳境、辛酸に入る-第9章-

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また、社長は新聞社にこの谷口のことを東大出のカリフォニア大博士課程終了の秀才であり、それが我が社の研究部長をしているなどと云って、新聞に書かせたりして、可愛いがり、辞めないようにしているのだから尚更である。
このような新聞記事を事務当局が研究部内にも回覧するものだから、その新聞記事に?印を記入するものも出てきた。
ますます研究部内は動揺していった。

このような状態で、三〜五年を経て、会社の状況が解り、仕事ができるようになった人間に退社願を出すものが多くなった。
このようになっても、この理由が何であるかよく調べるでもなく、成り行きに任せているのである。

将来の夢を見ながら進める彼のやっている研究の仕事は大変である。その夢があるからこそ耐えられる。
しかし、その夢が実現しそうになると鳶に油揚げよろしく、夢諸共根こそぎ、攫って行かれるのである。そのような目に合うと、暫くは、仕事が手につかず、人生までいやになるのである。その上、谷口のような人物の存在である。

昔は、彼も懸命に将来の夢を見ながら、研究を育てて行ったものであった。
苦労に苦労を重ねて、商品化設計の承認を得るべく、役員会に資料を提出したものである。それが承認を得て、彼自身がその責任者をやれと役員会から命令された。
喜んだのも束の間で、変な理由を付けられ、この仕事を親会社の産洋自動車から派遣されている永田に奪い取られたのである。
その揚句の果てに、彼の部下まで奪い取られてしまった。

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