グロートが来た


 ベルリン・フィルのトランペットといえば、その圧倒的な音量と恐るべき体力で、金管奏者を恐れ入らせることで有名だ。「体力がある」とは豊かな音で、長時間、ハイトーンを含む演奏をいかに続けられるかということ。ワーグナー、ブルックナー、マーラー、チャイコフスキーなどの演奏にはこの「体力」が必要だ。

 古くは、60−70年代初期のカラヤンのディスクで聴かれる、フリッツ・ベーゼニック教授の誰よりも早く、強く、音程は上ずり気味の独等の演奏スタイルは、いわばBPOの看板で、いまだに根強いファンも多い。(ベーム指揮の時はもう一人のホルスト・アイヒラーが主席だったらしい)
 全ての曲をB管のロータリーで吹くとのこと。代表的なものは、1962年の「運命」(DG)、70年のチャイコフスキー交響曲(EMI)など。これは、カラヤンが指揮するときの演奏の時だけに許された演奏スタイルだったそうだ。中学生のときに聴いたBPOのレコードは皆これだった。自分が受けた影響は大きかった。

 その後を継いだのが、コンラーディン・グロートとマルティン・クレッツァーの二人。73年より後の録音のディスクでは、彼らがトップを吹いている。クレッツアーについては、別のところで詳しく書いている

 彼らの演奏スタイルは、ベーゼニック等と比べて、よりソフトで現代的なな音色・スタイルだがクラマックスでの存在感は同じく圧倒的なものである。もっとも、下吹き(2番、3番)が前任者のベーゼニック、アイヒラーだから、そうなるのは当たり前だ。高校・大学時代に放送で聴いた、70年代後半から80年代初頭のブルックナーの5番、9番等の演奏は、まさに、当時のベルリン・フィル、ブラスセクションのスタイルの典型。オケの現場を良く知っているFM放送解説者の金子健志氏が、「恐るべき体力!」と呆れていたのを思い出す。
ベルリンフィル
 その後、自分のラッパ生活とほぼ平行して、グロート、クレッツアーは歳を重ねていった。グロート氏は、99年にはベルリン音楽大学の教授職に専念した。つい最近、クレッツアーも主席を降りたという。一時代がまた終わった。
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