亀倉康之の仕事
南仏の野生馬を見て
文:亀倉康之 中央競馬新潟馬主協会会報「夢を追って」1990.夏期号 掲載
去年のゴールデンウィーク、4月29日〜5月5日迄の間、フランス革命200年記念「フランス映画名画祭」として、7本の名画が新潟Mデパートのロイアルホールで上映され、「白い馬」も含まれていました。三十数年前、東京で観た時の感動は、忘れられない印象として、待ちに待った映画でした。
「白い馬」( 原題CRIN BLANC) 1953年、 脚本・監督アルベール・ラモリス。南フランス、カマルグの大自然を背景に、少年と野生の白い馬との心のふれあいを、美しいモノトーンで詩い描いた世界。再び観てのよろこびは、その野生の世界に一体となり、その大自然の風を感じました。生きた馬を、その白い馬を見たいと思いました。
1年後、映画「白い馬」を観た感動を持って、4月5日ヨーロッパへ向けて出発しました。モスクワを経てスペインに入り、マドリード、バルセロナに2週間程、美術館、建設中のオリンピック会場の様子などを見て歩いて居りましたが、どこの公園にも、広場にも、見事な騎馬像が在り、ベンチでぼんやり楽しんで居ると、2組の騎馬警官が、ゆっくりと話をしながら歩いて来る。人も馬も堂々とした美しいものでした。
スペイン・アンダルシア地方での1200年の歴史を持つ名馬、アンダルシアンにも出会いたいと思いましたが、その方は、聖週間に入って居り、フリーの旅では宿もどうかなという話でした。
いよいよ、南フランスのプロヴァンス地方、アルルへの出発です。アルルの名は、画家ヴァン・ゴッホが愛した、明るい光と、美しい自然があることで知られていますが、古代ローマ時代に小ローマと讃えられた、プロヴァンスを代表する町です。人口5万人の小さな石の彫刻のカタマリの様な街には、数多いローマ時代の遺跡が在り、巨大な古代闘技場、古代劇場があり、それぞれ闘牛が行われ、コンサートやオペラが開かれています。
「白い馬」の居るカマルグは、アルルから地中海へ向かって1時間程南下した所の大沼沢地です。アルルで、ローヌ川は支流と枝わかれ、地中海にそそぐ、その河口に広がる三角州の一帯の湿地帯です。
アルルの町からバスで行くことにして、気持ちはいろいろに動いたりしました。本当にあの白い馬に会えるのだろうか。
バスは30分程で大きな沼地、小さな沼地、草原が湿地帯と、とりまぜになって左右に広がって見えて来た。
遠くの方に、2頭、1頭と白い姿が見える光景は、なんとも原始的なものでした。
サラブレッドやアラブを見ている感じとは違い、昔の時代に居るような気持ちになります。
遠くに2、3頭づつの白い馬を見る風景が続きましたが、先程のような近くでの群に出会うのは、あまり度々のことではないそうで、運が良かったようです。
その後、イタリー各地でも、人間と馬との世界、ギリシャ、ローマの時代から中世へと、人間は沢山の彫刻作品、絵画、工芸品を造り、語り続けていますが、ほんとうに、馬と人間のドラマが、地球上の姿です。
帰って感じるに、又訪るだろうと思い、何かのびのびと作れるなと思い、いよいよ仕事場に入っている毎日です。
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