ピコ通信/第13号
発行日1999年9月17日
発行化学物質問題市民研究会
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目次

  1. 難燃剤等の焼却によって発生−臭素化ダイオキシンも規制すべき
  2. 第2期・連続講座 第5回「家庭用品の中の有害化学物質A−こんな製品に、こんな危険が−
  3. 塩ビ使用状況企業アンケート調査結果
  4. 第3回POPs会議開かれる
  5. 8月の動き
  6. 第2期・連続講座 第6回案内/編集後記

1.難燃剤等の焼却によって発生−臭素化ダイオキシンも規制すべき

環境庁が臭素化ダイオキシンの実態調査
 8月17日付の毎日新聞によると、環境庁は、家電製品やOA機器のプラスチック部分に含まれる臭素系難燃剤を燃やしたときに発生する臭素化ダイオキシンについて、環境汚染や人体影響に関する本格的な調査に着手することになったと報じられています。これは、7月に成立した「ダイオキシン類対策特別措置法」の付則第2条に、「政府は、臭素系ダイオキシンにつき、人の健康に対する影響の程度、その発生過程等に関する調査研究を推進し、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする」という規定が盛り込まれたことを受けての措置です。
 先の新聞報道によれば、環境庁はこの調査結果を踏まえ、臭素化ダイオキシンをダイオキシン類として扱うかどうかについても検討するということです。この記事を読んで、読者の中には、今回の法律でダイオキシンと名のつく化学物質はすべて規制されたのではとお思いの方が、少なからずおられるのではないでしょうか。

ハロゲン化ダイオキシンの全部が問題!
 実は、ダイオキシン類にはハロゲン元素(塩素、臭素、フッ素、ヨウ素など)の種類と組み合わせによって、塩素化ダイオキシンや臭素化ダイオキシン、フッ素化ダイオキシン、ヨウ素化ダイオキシンなどの単一ダイオキシンと、塩素と臭素あるいは塩素と臭素とフッ素などが組み合わさった複合ダイオキシンなどが複数存在する可能性があるのです。その化合物(異性体と呼ぶ)の数は数千種類に及ぶとされています(複合塩素・臭素化ダイオキシン類だけで4800種)。このうち今回の法律で規制等の対象にされたのは、塩素化ダイオキシン(ポリ塩化ジペンゾパラジオキシンPCDDs75種、ポリ塩化ジペンゾフランPCDFs135種及びポリ塩化ビフェニールPCBs209種)だけです。これらのすべてについてその毒性が知られているわけではないが、その構造から考えて何らかの毒性を有すると思われます。
 塩素化ダイオキシン以外のダイオキシンについては、臭素化ダイオキシンの存在が以前からドイツやスウェーデン、オランダなどでは確認されており、一部の国(ドイツ、スウェーデン)では規制もされてきています。また、最近ではフッ素化ダイオキシンに関する情報もわずかに公表されてきています。しかし、それ以外のヨウ素化ダイオキシンや複合塩素・フッ素化ダイオキシンや塩素・臭素・フッ素化ダイオキシンなどの環境中での発生については知られていません。
 これらのダイオキシン類のうち塩素化ダイオキシンと臭素化ダイオキシンについては、その発生源と毒性がかなり知られてきています。

まず臭素化ダイオキシンの規制を!
 臭素化ダイオキシンの生成とその毒性が知られたのは、1982年のことで、スイス連邦研究所が臭素系化合物であるDBDE(デカブロモ・ジフェニル・エーテル、略称デカブロ)を510〜630℃で不完全燃焼させると、臭素化ジペンゾパラジオキシン(PBDDs)と臭素化ジベンゾフラン(PBDFs)が生成するとのデータを発表しました。そして、これが人体の培養細胞に悪影響を及ぽすことも確認されました。
 このスイス連邦研究所の発表を契機として、その後、各国の公的研究所や樹脂メーカー、世界の難燃剤メーカーによって構成されるBFRIP(難燃剤工業会)などが追試を行ってきました。けれど、デカブロが燃焼時に出すガスの危険性に関する議論は、現在に至るまで決着がついていません(いわゆる「デカブロ問題」)。
 しかし、ドイツやスウェーデンでは、「環境適合製品認定ラベル」(エコラベル)の取得に際して、複写機やプリンター、電気電子製品等のプラスチック製品への臭素系難燃剤やハロゲンを含むプラスチック及び有機ハロゲン化合物の使用禁止措置を採っています。また、本紙第10号(99年6月16日発行)に掲載した酒井伸一論文に紹介されているように、EUでは、廃電気電子機器に含有される有害化学物質について、鉛や水銀、カドミウム、六価クロムとともにハロゲン化難燃剤を2004年1月1日までに段階的に廃止するドラフト案が検討されています。日本でも、家電やOA機器メーカーでは、この事態を重く見て、デカブロを含む臭素系耕燃剤の使用を自粛する方向に動き出しています。
 日本では、摂南大学の宮田秀明教授が以前から臭素化ダイオキシンの規制について言及してきました。実際に臭素系難燃剤の燃焼によって臭素化ダイオキシンが生成することは、プラスチック処理促進協会による実験や、京都大学の酒井伸一教授らが行った臭素系難燃剤を含む廃テレビにプリント基板を混入して燃焼させた実験例など、数少ないですが確かめられています。日本でも、ヨーロッパにならって早急に規制対象に加えるべきでする。
(当研究会代表 藤原寿和)


2.第2期・連続講座 第5回「家庭用品の中の有害化学物質Aこんな製品に、こんな危険が−
9月4日(土)に行われた槌田 博さん(生活クラブ生活協同組合連合検査室)の講演より
(文責・当研究会)

家庭内の有害化学物質とは
 前回に引き続いて2回目の今日は、家庭用品の中の有害化学物質ということで、具体的にどんなところにどんな問題があるのかという話をしていきたいと思います。
 まず家庭用品の中にどんな有害物質があるのかということを見てみます。どういうふうに自分で暮らしていくか、タバコを吸うだけでも、暖房機器を燃焼させても室内を汚します。そのように自分自身で汚してしまうことがあります。事務機器もけっこう汚染源となっています。コピー機から出るオゾンガスは酸化力が強すぎて、遺伝子を壊します。
 殺虫剤も、毒性があるからこそ使っているのです。毒性と便利さをはかりにかけながら使っていますが、便利さにおぽれて、安易に使い過ぎて健康被害を起こしているのです。これらは、みんなが被害にあうような猛烈な毒物ではありません。濃度が低くて多くの人は平気だけれども、ごく一部の人が被害を受ける、そういう製品です。これについては法律ではきちんと規制ができていません。発がん性というのも確率の問題で、濃度が高くなると確率が高くなります。自分が大丈夫だからといっても、耐えられない人もいます。それが家庭用品の中の有害化学物質の特徴です。

中毒110番
 建材からもいろいろな化学物質が出てきて、シックビルシンドロームを生んでいます。火災になった時も、例えばウレタンフォームのマットは青酸ガスを出します。消防法で燃えにくくするために難燃剤が使われていますが、いったん燃えれば有害なガスを出すし、ダイオキシンまで出すかもしれません。
 住まいに使われる毒性物質の他に、医療品、化粧品、衝生材などいろいろなものが家庭内にあります。中毒110番によると、月に2000件ぐらい家庭内の用品による事故が起きています。一番がタバコの誤飲によるもので、化粧品、洗剤も多く、防虫剤も衣がえの時期に増えています。

化学物質の4分類
 前回、化学物質の構成要素によって4段階に分類して、1に近いほどよりシンプルで、できるだけ1の段階のものを使いたいとお話しましたが、実は発がん性の問題がこれではわかりません。オゾンは酸素が3つだけですから、第1段階に入るし、過酸化物質もそうですが、過酸化物質にこは発がん牲があり、この表の例外の部分です。
 プラスチックのモノマーには、発がん性のあるものがたくさんあります。一番強いものが塩ビモノマーです。メラニン樹脂やユリア樹脂の原料であるホルムアルデヒドも、IARC(国際がん研究機関)によると、発がん性が2A、「人に対して発がん性がある可能性が高いもの」に入ります。これらの樹脂は合板の接着剤として使われて、そこからホルムアルデヒドが揮発します。基準があって、匂いがわかるようでしたらその基準を越えています。
 ABS、AAS、AS樹脂(注)、ポリスチレンには、モノマーのスチレンが含まれています。発がん性は2Bランク、「人に対して発がん性の可能性があるもの」と分類されています。昨年カップ麺の容器から溶出するかどうかで業界が大広告を打って話題になったものです。このスチレンが2つ、3つくっついたダイマー、トリマーが環境ホルモンのう疑いがある物質とされ、それが検出されて問題になりました。
(注)
ABS樹脂アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂
AAS樹脂アクリロニトリル・アクリル酸エチル・スチレン樹脂
AS樹脂アクリロニトリル・スチレン樹脂

発ガン性のある職場
 IARCでは、職場の作業環境についても発がん性の段階分けをしています。グループ1「人に対して発がん性がある」には、アルミ生産、黄色染料製造、石炭ガス化、コークス生産などがありますが、日常的な生活に近いところでは、靴製造、家具製造、塗装業、ゴム工場があります。これらは接着剤や塗料をたくさん使うところです。合成ゴムをつくるために、長く鎖状になっている原子の間にイオウではしごをかけるようにして網目状にすることで弾力が出ます。この加硫促進剤は農薬そのものです。そのためにゴム工場が発がん性のある戦場になっているわけです。
 グループ2Aに入る、美容師・理容師の職場は整髪料のせいです。2Bの大工仕事・指物師の仕事は合板のせい、クリーニングは有機塩素系の化学物質で洋服を洗うから、印刷業はインクの有機溶剤、織物製作は布処理に薬剤を使うから、といったように、日常的な仕事がたくさん上げられています。
 ここで作られた製品が家庭の中に入ってきます。
 職場環境をきちんと安全にすることも必要ですし、危険な思いをして作られているものが使い捨てにされていることが一番の問題なのだと思います。

血液中からも防虫剤成分
 家庭内の薬物で一番問題なのは殺虫剤、次は衣料用防虫剤です。防虫剤として日常使われるのは、しょうのう、ナフクリン、ピレスロイド系、パラジクロロベンゼン、ポプリ類です。しょうのう、ナフタリン、ピレスロイド系は第2段階(前号参照)のものです。パラジクロロベンゼンは第4段階のもので、毒性がはっきりしており、家庭の中には持ち込んではいけないものです。安く大量に売られているので、最近発表された厚生省の調査で、血液中から高濃度で検出されました。タンスから出たガスが寝室に充満して、長時間さらされるので当然なことです。
 かといって、しょうのうは楠の成分を抽出したものなので安全かというと、子どもが一粒でも食べたら死んでしまいます。ピレスロイド系のものは匂いがないので、危険信号が出ず、いくらでも使ってしまいます。どうしても使わなければいけないなら、妥協して使わざるをえませんが、虫の餌になるものや空気を断つという方法もあります。

天然由来のものは安全か
 天然の成分を抽出したものは人工の化学物質と同じものです。天然のものが、自然に生きていた状態に近い使い方ならその限りで安全と考えられます。食品添加物も、天然のものなら安全とはいえません。コンブのうまみは確かにグルタミン酸ナトリウムですが、それだけ取り出して味の素にしてしまえば、使い過ぎということが出てきます。小さじ一杯分をコンブから採ろうとしたら、ドンブリ一杯のコンブを食べないといけないように、天然のものはおのずから歯止めがかかります。

化学的手段よりも物理的手段を
 薬剤の毒牲という化学的方法に頼るのではなくて、移動するとか洗うとかというような、物の量を調節する物理的なコントロールが大事です。
 塩素系漂白剤は塩素の力で色の物質を分解して白く見せます。しかし分解した化学物質に塩素がくっついた有機塩素系化合物になって残っています。酸素系漂白剤は酸素の力で色の物質を分解するので、酸化物がそこに残るけれども、その先は生き物が分解できます。
 この2つを混ぜると塩素ガスが発生するので「混ぜるな危険」と書いてありますが、2つを同時に使わないだけじゃなくて、酸素系のものだけを家庭内におけばいいのです。漂白力の弱さは、お湯を使えば補えるので、その範囲ですまそうと考ればいいのです。殺菌、除菌もできて衝生的な生活はできます。

抗菌剤頼りはサボリの証拠
 抗菌防カビ剤も、例えば抗薗加工のまな板も過信して洗わないと、汚れの上に菌がついて食中毒になります。熱湯で洗うとか日干しするとか、あるいは風呂場のカビをブラシでみがくという物理的手段を、手間を惜しまずやれば対応できます。それをサボッて化学的手段に頼るのはよくありません。ダニや生物を化学的手段で殺しても、きちんと掃除をしなけれは死骸が残っていて決してきれいな状態ではないのです。
 最近合成洗剤が除菌効果を売り物にしていますが、洗剤には毒性があるから除菌できるのはあたりまえで、あれは洗剤がいかに毒性があるか宣伝しているようなものです。

表示が大事
 化粧品には表示指定成分というのがありますが、一部の構成を変えれば書かずにすむという抜け道もあります。ズラっと書いてある方が書かないでいるよりもいずっといいし、全部書いてあるけれども書いてある量が少ないものがもっといいのです。すべてを表示させることが一番大事です。消費者は勉強すればわかるようになります。食品添加物のように、すべて表示させることで減らすことができるので、プラスチックも、素材と添加剤を表示させることが大事です。
 文具やおもちゃは、状況がどんどん進んでいて、大きく変わる節目にあるので、自信をもったことが言えません。文具では、私自身も最近まで消しゴムが塩ビだとは気がつかなかったのも、表示がないせいで、すごくくやしいですね。

地下から出した重金属をどうするか
 重金属は分解して無くなることがありません。水銀は電池では使わなくなりましたが、蛍光燈とか回収できないものが残っています。水銀系農薬のため水田にも大量に残留しています。カドミウムはあまり対策がとられておらず、最近ではニッカド電地にたくさん使われています。地下資源として眠っていたものを人間がひきずり出して環境中にばらまいてしまったことはとりかえしがつかないことで、これをどこまでも続けていいのかということにはなんの合意もできていません。

石鹸カスになってこその石鹸
 石鹸がなぜいいか。石鹸も界面活性作用をもつ点では他の合成洗剤とかわりません。水と油を混ぜる、という力はそれ自体が毒性を持ちます。水と油がはじきあうことを利用して生物の体は袋を形作っているからです。界面活性作用はその袋を破ってしまいます。石鹸は、界面活性作用のない、魚の餌になる石瞼カスになることで、環境中に出ても毒性を持たないのです。石瞼カスが出ることが石鹸の使いにくさの原因とされていますが、石鹸カスが出るからこそ石鹸を選んでいるのだということを共通認識として、使い方については工夫をしていけばいいのだと思います。

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