ピコ通信/第12号
発行日1999年8月16日
発行化学物質問題市民研究会
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目次

  1. 化学物質をめぐる重要2法案が成立
  2. 第2期・連続講座 第4回「家庭用品の中の有害化学物質@−プラスチックのはなし−
  3. 油症(PCBs中毒)と周産期
  4. 「身近にあふれる抗菌グッズ」講師 鹿庭正昭さんからの回答
  5. 世界銀行、途上国で医療廃棄物焼却炉に融資
  6. 7月の動き
  7. 第2期・連続講座 第5回案内/編集後記

1.化学物質をめぐる重要2法案が成立

 現在会期中の第145国会で、化学物質関連の重要な法案が2つ成立しました。「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律案」(「PRTR法案」と略す)と「ダイオキシン類対策特別措置法案」(「ダイオキシン法案」と略す)です。
 前者のPRTR法案は7月6日の参院国土・環境委員会、8日の本会議で可決、成立。後者のダイオキシン法案は公明提案の独自法案に、自民、民主を加えて3党が協議、合意に達した法案が7月6日の参院国土・環境常任委員会で全会派の合意による委員長提案として可決され、7日参院本会議、9日衆院環境委員会で可決、12日の衆院本会議で全会一致で可決、成立しました。

骨抜きにされたPRTR法案
 PRTR法案は、環境庁と通産省との妥協の産物ですが、法案の審議過程で企明党から政府提案に対して修正案が出され可決されました。その主な内容は、

  1. 対象物質の選定に際しては未然防止の観点をより強く考慮する。
  2. 事業所による届出は都道府県経由で行う。その際、都道府県は主務大臣に意見を述べることができる。ただし営業秘密の請求は従来通り主務大臣が行い、都道府県には対応化学物質分類名で届け出る。
  3. 見直し期間を10年から7年に短縮する。
の3点です。
また、付帯決議として、
  1. 都道府県の届出・受付業務が円滑・的確に行われるよう、体制整備を図る。
  2. 対象物質選定に際しては、広く関係者からの意見を聴取する。
  3. 有害性の強い指定化学物質の含有率や取扱量の下限は小さくする。
  4. 非点源排出量の推計資料は公表する。
  5. 営業秘密の審査に関する事業所所管省庁による環境庁、都道府県への説明は十分納得できる内容とする。
  6. 大量に請求する場合は手数料をできる限り低廉化させる。
など。
 この成立を受けて、今後99年度中に対象物質と対象業種・スソ切りなどを政省令で定め、2001年4月からデータ把握に着手、2002年春頃に最初の集計・公表を行う予定とされています。住民、国民にとって必要なのは、個別企業の有害化学物質に関する排出量や毒性等に関するデータを、企業や自治体から直接入手できることです。
 今後、企業情報がどこまでオープンになるかが鍵ですが、当面は政省令の中身をパブリック・コメント(意見提出手続)により充実させることと、地方公共団体に対して条例によって法律の不備な点を整備させること、そして、この法律を武器に得られる企業情報の活用と、7年後の見直しに向けて市民、国会議員、研究者らが連携して取り組みを強化することが必要です。

妥協の産物か? 議員立法のダイオキシン法案
 PRTR法案はマスコミの取り上げ方も脆弱で、今ひとつ関心の盛り上がりに欠けたのに対し、ダイオキシン法案は議員立法でもあり、国民の注視の的であったはずです。しかし、国会に上程されてからは政党間の協議・駆け引きが主となり、法案審議の過程が極めて不透明なものになってしまいました。
 その結果、最終合意に達した法案の中身は、所沢や能勢などの高濃度汚染地域の住民や食品汚染に不安を抱いている多くの国民、またダイオキシン問題の根本的な解決を求めて国民運動を行ってきた市民団体などにとっては、期待を裏切るものでした。
 まず、塩ビ製品等、焼却によってダイオキシン類の発生源となる素材等に対する上流側対策が全く法制化されませんでした。そして、国民の最大の関心事でもある食品対策については、「ダイオキシン類に係る健康被害の状況・食品への蓄積の状況を勘案して、その対策は科学的知見に基づいて検討」と付則による検討事項止まりとされてしまいました。
 また、母乳汚染に対する対策や胎児、乳幼児等感受性の強い集団に対する対策もなく、肝心の耐容1日摂取量についても、自民党との妥協で、WHO(世界保健機関)の提案値の上限値である「4pg/kg体重/日以下で、政令で定める」として究極目標値である1pg以下を見送ってしまいました。
 一定の前進を見たのは、大気、水質、土壌の環境基準を決めるとしたこと、高濃度汚染地域に対しては総量規制基準と総量削減計画を定めるとしたこと、また規準違反のおそれがあるときには施設の改善命令等が出せるようにし、これに対する罰則の適用(直罰)を設けたことなどです。
 同法の施行は公布後半年以内(来年1月予定)とされており、それまでに環境庁では大気等の環境基準や排出基準、国の計画、主要な政省令の整備を進めることとされているので、PRTR法と同様、パブリック・コメント制度の活用などによる、より一層の前進に向けた取り組みが課題です。


2.第2期・連続講座 第4回「家庭用品の中の有害化学物質@−プラスチックのはなし−

 去る8月7日(土)に行われた槌田博さん(生活クラブ生活協同組合連合検査室・課長)の講演を研究会でまとめたものです。

 今回は家庭用品の中の有害物質の2回の連続講座の1回目ということで、素材のプラスチックの話をします。キーワードは「処分できるものに囲まれて暮らしたい」です。今、処分できないものが私たちの暮らしの中にどんどん入ってきて、それを廃棄物として出すことが問題を起こしているのです。

廃棄物の処分方法
 廃棄物の処分方法には、そのものをなくしてしまう本質的な処分と、とりあえず片付けておく貯蔵的な処分があります。後者は解体、埋立、海洋投棄、不法投棄の4つです。前者で人間に許されている処分の方法は、生物分解と焼却で、ともに酸化分解です。これは、酸素をくっつけて水と二酸化炭素と無機塩類に分解するものです。生物分解は生き物の酵素によるもの、焼却は高温によってその過程を早めるやり方です。酸化分解できるかどうかが私たちが処分できるかどうかの分かれ目になります。

有機化合物の4分類
 有機化合物を構成元素によって4段階に分類してみました。第1段階は炭素、水素、酸素だけでできているもの、アルコール、酢、パラフィン、体の中の脂肪、炭水化物、糖、デンプン、植物繊維などです。生物の基本要素はこの中に入ります。第2段階は、3元素は同じですが、環の構造をもっているものです。第1段階の多くは炭素がひも状につながっているのに対して、第2段階のものはベンゼン環、亀の甲と言われる6個の炭素ががっちりとくっつきあっているものです。カッチリしているので環境ホルモンの鍵になれるのです。燃やしても燃えにくく、ススがたくさん出ます。
 第3段階は、3元素に窒素、リン、硫黄を加えたものです。蛋白質、アミノ酸、DNA、RNAが入ります。カーバメート系(窒素)、有機リン系、ジチオカーバメート系(硫黄、窒素)などたくさんの農薬が含まれます。生き物の体の構成要素はここまでの3段階におさまります。第4段階はフッ素、塩素、臭素などのハロゲン元素が有機物にくっついたものです。農薬ではドリン剤、PCP、CNP(ダイオキシンが含まれていた)。プラスチックとしてはポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデンです。

プラスチックの毒性
 プラスチックそのものは毒性はあまりありません。分子をじゅずつなぎにして巨大な分子をつくっているので、腸壁を通らず、吸収されないので悪さをすることがないのです。製造過程で、モノマーやダイマー、トリマーという、ポリマーにならなかった小さいものが残った場合、また、劣化して切れて小さくなって出てくると毒性をもちます。モノは1、ダイは2、トリは3、ポリはたくさんという意味です。

有機化合物と酸化分解
 第1と第2は燃やすと炭素が炭酸ガスになります。これは地球の歴史上で藻が二酸化炭素だらけの大気に酸素を増やした、その逆をやっているので、生物がやってきたことの範疇に入ります。処分を植物にまかせられるのです。水素を燃やすと水ができます。水と炭酸ガスができるだけで問題がありません。
 第3は、燃やすとイオンになります。窒素は硝酸イオン、リンはリン酸イオン、硫黄は硫酸イオン。酸性物質をまきちらすことになるので排ガス処理が必要です。酸性物質は酸化すれば肥料です。
 第4は、酸素とは結びつきにくく、酸化処理できません。分子が同じマイナスなので、反発しあい、人間がエネルギーを使ってむりやりやらないといっしょになりません。生き物の世界にはないもので、生き物はこういうものを巧妙に避けて進化してきたのです。海水には大量に食塩があるのに、生物がそれを体の構成要素としてとりこむことがなかったのはなぜか、たぶんそれを試みた生物は絶滅して残らなかったのだと考えられます。有機塩素系化合物は生物にとってうまくわたりをつけられないものなのです。人間がそれを試みるのは無謀なことです。

プラスチックの4分類
 何十という種類があるプラスチックを以上の4段階でわけてみました。第1段階のものは、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)。モノマーの毒性も比較的少ないので、プラスチックの中で一番安全なものです。食品の包装にどうしても使わなければいけないときは塩ビではなくこれに替えさせていくことが必要です。エチレン酢酸、エチレンビニルアルコール、メタクリルなどが食器につかわれています。ポリエチレンは酸素を通すので、エチレンビニルアルコールと貼り合わせて包装材に使うというやり方があります。
 第2段階はPET(ペット)=ポリエチレンテフタレート、AS樹脂、ABS樹脂、ブタジエン、ポリスチレン、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、ベークライト。ペットはリサイクルが進んだために需要が伸びてしまいましたが、もう一回別のものとして使うだけでリサイクルとはいえないものです。ポリスチレンはカップ麺の容器からモノマー、ダイマー、トリマーが出てくることが問題になりました。AS樹脂は、アクリロニトリルとスチレンをまぜたもので固く、ABS樹脂はそれにブタジエンを加えて弾力をもたせたものです。ABS樹脂からアクリロニトリルをとると乳酸飲料の容器になります。
 このように原料のモノマーを組み合わせて、いろいろな性質をもつプラスチックが作られています。ポリカーボネートは固くて熱に強く、熱湯消毒できるので哺乳瓶に使われました。ビスフェノールAの環境ホルモンの問題がおこるまで安全とされていたものです。そういう意味で、ペットもたまたま今まで毒性が明らかになっていないだけで、疑いをもっていた方がいい物質です。
 エポキシ樹脂もビスフェノールAが含まれています。スズメッキが溶け出さないように、缶詰の内側の塗料に使われています。フェノール樹脂、第3段階のメラミン、ユリア樹脂は接着剤に使われます。接着剤はプラスチックと親子関係で、固まる前のプラスチックが接着剤であるといえます。
 合板の接着剤で発がん性のあるホルムアルデヒドが揮発して問題化しています。メラミンはホルムアルデヒドが出るので給食の食器からかなり追放されましたが、ポリカーボネートからビスフェノールAがでるというのでユリア樹脂(材料は尿素とホルムアルデヒド)にもどったところもあるとききます。そこに戻さないでも強化磁器などちゃんとした素材を使えばいいのです。
 第3段階は、ポリアミド、ナイロン、ポリウレタンです。ポリウレタンはクッション材で、火事で燃えると青酸ガスがでます。第4はポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデンで、燃やすとダイオキシンができ、生き物が酸化分解できないという一番の問題物質です。

表1 構成元素による有機化合物の分類
段階構成要素体内にある
物質の例
合成樹脂の例農薬の例
(基本構造の部分について評価した。例外多数あり。)
その他の例
炭素
水素
酸素
窒素
リン
硫黄
フッ素
塩素
臭素
1C
H
O
   アルコール、酢酸、パラフィン、脂肪、グリセリン、脂肪酸、炭水化物(糖、澱粉)、植物繊維ポリエチレン(PE,LDPE,HDPE)、ポリプロピレン(PP)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂 石けん、ノルマルヘキサン、アセトン、酢酸エチル
2C
H
O





  香気成分、精油、多くのホルモン類ポリエステル(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂(EP)、ABS樹脂ピレスロイド系ベンゼン、トルエン、キシレン、フェノール、ノニフェノール、ビスフェノールA、フタル酸エステル
3C
H
O





N
P
S
 たんぱく質、アミノ酸、DNA、RNAポリアミド(PA、ナイロン等)、ポリウレタン(PUR)カーバメート系、有機リン系、チオカーバメート系、ジチオカーバメート系多くの合成洗剤、アセトニトリル
4C
H
O





N
P
S
F
Cl
Br
ほとんどなしポリ塩化ビニール(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、フッ素樹脂有機塩素系(DDT、HCB、アルドリン、PCP、ディルドリン、クロルデンなど)、有機臭素系ダイオキシン類、PCB、TCEP、パラジクロロベンゼン、フロンガス、トリハロメタン、有機塩素系溶剤

注)無機イオンや金属は別に考える。   出典:槌田博著「ダイオキシンの原因を断つ」コモンズ、 1999

表2 有機化合物の酸化分解
段階構成元素酸化分解の最終生成物その後の運命
1,2炭素(C)炭酸ガス(CO2植物の光合成により、有用な有機物に再合成される
水素(H)水(H2O)
酸素(O)酸素(他の元素を酸化)
3窒素(N)硝酸イオン(NO3-
リン(P)リン酸イオン(PO43-
硫黄(S)硫酸イオン(SO42-
4フッ素(F)安定な酸化物を作らない生物分解されず、環境に蓄積
塩素(Cl)
臭素(Br)
ヨウ素(I)

添加剤
 プラスチックには添加剤の問題もあります。熱に強くするための安定剤は、塩ビに使われます。安定剤の有機スズが温水用塩ビ管から溶出することがわかりました。有機スズは食器には使っていけないが、水道管にはいいという、ちぐはぐなことになっていますが、添加剤の規制は業界の自主基準でやっているからです。
 柔らかくする可塑材も塩ビの問題です。重量の半分近く含まれるものもあります。壁紙や農業用ビニールがやがてパリパリになるのは、可塑剤のフタル酸エステルが抜けて空気中にばらまかれているからです。難燃材は燃えにくくするためのもので、有機塩素系化合物などをまぜた結果、ダイオキシンの原因になってしまいます。プラスチックには他にも山のような化学物質を混ぜ込むことでいろんな性質を持たせているのです。

表示と気をつけるべきこと
 プラスチックは、このようにいろいろな素材や添加剤が使われていて、複数のプラスチックを貼り合わせたりもしています。素材名は表示されているものもあるけれど、添加剤は出ていません。昔、食品添加物の名前を表示するようになって、使用量が減ったということがあるので、表示をきっちりさせていくことが必要です。
 そうすると、表示をみて、我が家で処理できるものかどうか判断できるようになります。まず第一は、ほんとうに必要かどうか、必要としても使い捨てでない使い方かどうか考える。ダイオキシンの原因となる塩ビをまず排除する。環境ホルモンや発がん性のものを避ける。熱を加えない。使うのなら安全な第一段階のものを使う。自分の中で優先順位をつくって、だんだんといらないプラスチックを排除していく、レベルをあげていくことが大事だと思います。

化学物質問題市民研究会
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