ピコ通信/第11号
発行日1999年7月15日
発行化学物質問題市民研究会
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東京都目黒区目黒本町 5-8-12
廃棄物問題市民活動センター内
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目次

  1. 塩ビをめぐるヨーロッパ最新情報
  2. 6月の動き
  3. 第2期・連続講座 第3回「身近にあふれる抗菌グッズ」鹿庭正昭さんの講演から
  4. 神奈川県環境ホルモン調査結果
  5. 東京都水道水におけるダイオキシン検査結果
  6. 海外情報・シンポジウムの案内
  7. 第2期・連続講座第4回「家庭用品の中の有害化学物質@/編集後記

1.塩ビをめぐるヨーロッパ最新情報

(1)デンマーク政府が塩化ビニルとフタル酸エステル類に課税

 99年6月18日 デンマーク政府は、塩化ビニルとフタル酸エステル類の使用を規制する計画を発表しました。この計画では、塩化ビニルとフタル酸エステル類に税をかけている他、塩化ビニルを焼却施設に持ち込まないなど、広範囲の塩化ビニル対策が含まれています。

新しく提案されたデンマーク政府の塩化ビニルに関する計画の要点

  • 塩化ビニル1キログラム当たり約38円を課税する
  • フタル酸エステル類1キログラム当たり約150円を課税する
  • 新規の塩化ビニルは健康や環境に有害な添加物を含まないこと
  • 廃棄物の中から塩化ビニルを分別回収することが困難な場合は、塩化ビニルは別のものに代替すること
  • 塩化ビニル廃棄物は焼却しないこと
  • 新たな廃棄物処理技術を開発すること
  • リサイクル可能な塩化ビニルは回収し、リサイクルすること
  • 重金属を含む塩化ビニルのリサイクルは制限し、制御された系でのみ行うこと
(2)「ドイツ緑の党が塩ビ容認」報道は本当?

 ドイツの緑の党と塩化ビニルメーカーが、緑の党の塩化ビニルに対する見解を巡って衝突しています。
 緑の党が塩化ビニルを容認する方向へと見解を変更したという報道がなされたためです。この内容は日本でも塩化ビニル業界によって引用されて、報道されてきました。(たとえば、99年4月23日付け日刊工業新聞に金川千尋塩ビ工業・環境協会会長のコメントとして「ドイツ緑の党も塩化ビニルを容認すると発表するなど、ようやく理解が得られてきた」など)。
 これはそもそも、ドイツ緑の党の環境報道官のミヒャエル・フュステット氏が、3月に塩ビ製造工場を訪れた際、新たな見解ともみられる発言を行ったことに始まります。
 塩ビは緑の党が好ましいとする素材ではないが、「技術発展については認識」するべき、というステートメントを出したのです。これを聞いて、業界団体「塩ビと環境のための作業部会」は、このステートメントは緑の党が塩ビに対する反対姿勢を和らげていることを示すものだと、主張したのでした。
しかし今日(4月29日)、緑の党の報道官は、方針の変更については正式に否定しました。
( ENDS Daily 99年4月29日号より抜粋)

緑の党ドイツ議会議員 ミヒャエル・フュステットからの書簡
ボン1999年5月10日
(1999年4月20日のグリーンピース・ドイツからの書簡への回答)

ベーレンス様、カンタク様
緑の党の塩化ビニルに対する見解あるいは私自身の言動が、塩化ビニルを支持するものへと変更したのではないかとの懸念を持っていらっしゃることを十分理解致しました。しかし、私は90年連合・緑の党が塩化ビニルに対する評価を変えていないことは確かであると保証致します。この見解は広く知られたものです。[…中略…]これ以外の見解を主張したり掲載してきたすべての報道は間違ったものであり、客観的な根拠の全く欠落したものです。
 すべての誤解のもとになったのは、私がクナップザック化学パークを訪れたことにあるように思われます。しかし、この訪問の趣旨は塩化ビニル生産に関するものではなく、その工業プラントにおけるエネルギー供給に関するものでした。これで状況が明確に理解されることを期待します。そして、もし可能であれば、他の関係者の方々へ上記の事項についてお知らせください。今回の件が混乱を起こしてしまったとしたら大変残念です。
敬具
「仮訳:グリーンピース・ジャパン」

(3)コソボ紛争による環境被害深刻

 コソボ紛争の爆撃によって流出した化学物質がドナウ川やその流域の環境を著しく汚染しています。
 1000トンの二塩化エチレン(塩ビの原料)、それとほぼ同量の塩酸が4月18日のパンチェボの化学工場襲撃以降ドナウ川流域に流れ込み、何トンという液体塩素やおそらくは水銀も流出しました。ドナウ川は全長2800km、ルーマニアやウクライナを通り、黒海にそそぐ川です。この他、1000トンを超える塩ビモノマー、アンモニア、石油、石油製品がパンチェボ爆撃以来大気中に放出されてきました。国連環境計画は、7月後半に、より詳細な環境影響調査を行うために20人の専門チームを送る準備をしています。
(ENDS Daily 99年7月6日号から抜粋)


3.第2期・連続講座 第3回「身近にあふれる抗菌グッズ」

 去る7月3日(土)に行われた鹿庭正昭さん(国立医薬品食品衛生研究所療品部第二室長)の講演を研究会でまとめたものです。

厚生の家庭商品研究部門
 私が勤めているのは国立医薬品食品衛生研究所という厚生省の試験研究機関で、医薬品、食品など化学物質に関連した問題を一手に引き受けています。私の室は生活環境部門といって、身の回りで使う衣料、靴、家具、内装材等が全部入ります。たった二人で厚生行政の家庭商品に関する仕事をしています。
 抗菌剤は5年前ぐらいから取り組んでいて、主に皮膚への影響を調べています。化学物質が悪だという人がいますが、私たちのからだも化学物質です。悪者にしているのは使っている人間です。合成でも天然でも同じ構造式なら毒性は同じです。天然だから安全ということはありません。天然でも有効成分を一つだけ取り出してきたら合成と同じです。抽出物といって混合物なら、きく成分と打ち消す成分もあって、きき方がマイルドということはあります。

PLのフィロソフィー
 PL法(製造物責任法)ができて4年経ちますが、表示ができていません。物を作って売るのなら、その商品で健康被害が出るのを予防しようというのがPL法のフィロソフィーですが、それが今の日本の企業に決定的に欠けています。私は抗菌商品の2つの業界団体に入って、今一生懸命それを言っているところです。
 メーカーに情報を出させる、表示をさせるのは消費者やその声を代表している団体です。国民生活センターなどに苦情をあげていったり、マスコミに記事にしてもらうことが大事です。

化学物質とアレルギー
 化学物質が、アレルギーやアトピーの原因の一つと理解されるようなったのはここ5年くらいです。それまで原因はカビやダニと言われて、その対策としてフローリングにしたり、防ダニ布団にして、そこから発生する化学物質がかえって健康を悪化させたりしたのです。
 健康被害を受ける経路には、まず経口があります。直接口に入れたり、ガスとなって空気中に漂っているものを吸いこむことです。鼻の粘膜は吸収がよくて、敏感です。一度感じたいやな臭いを脳が覚えて、二度目には逃げればいいけども、我慢していると健康被害につながります。もう一つが皮膚で、皮膚刺激性というのは直接的な被害、それとアレルギーです。アレルギーには二種類あって、遅延型と、最近増えているT型のアナフィラキシーというショック症状を起こすものがあります。例えば、手術時に使うゴム手袋でショックを起こすことが知られています。これは天然ゴムのタンパクが原因で、ソバによるショック死もタンパクが原因です。

法制度
 化学製品の安全性をみる法律は、国内法として化審法(化学物質の審査及び製造等の規則に関する法律)や家庭用品法(有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律)など、最近は国際基準としてISOができました。国内法の上にあるのがPL法です。それに安全情報をきちんと伝えるMSDS(化学物質安全性データシート)があります。PRTRのデータをきちんと出すためにもMSDSが大事です。システムができても魂が入っているかどうかが問題です。PL法もMSDSもまだ魂が入っていません。ここにほんとうに魂を入れるのは国でもなく企業でもなく、消費者の具体的な活動です。

業界の対応
 昨年12月に通産省が抗菌製品のガイドラインをつくりました。懇談会には私は呼ばれなかったのですが、抗菌製品の2つの協会が入っていたので、そこの後押しをしました。消費者への情報提供として、抗菌剤の種類や警告表示をちゃんと書く、消費者を含めた委員会をつくる、ということまで入りました。製品によっては表示が無理なこともありますが、求められれば情報が出てくるようにしていくことが必要です。
 業界団体には繊維製品新機能評価協議会(JAFET)と、プラスチックや金属の製品を扱う抗菌製品技術協議会(SIAA)があります。SIAAは情報公開に積極的で、ホームページで公開しています。MSDSも公開するといっています。こういう業界団体を育てて欲しいと思います。JAFETも事務局が変わりつつあるので、全体もよくなると思います。 

抗菌剤の種類
 種類を大きく分けると無機系(金属など)、有機系、天然系の3つです。無機系は比較的安定していますが、有機系は汗や脂に溶けやすく、ガスとして出やすいので問題がおこりやすい。無機系は練りこんだり、シート状に加工したりします。有機系は樹脂にまぜて表面にのり付けするのがほとんどです。マイクロカプセルに入れて長持ちさせる方法もあります。無機系のうち、酸化チタンを使う光触媒型は、光で活性酸素をつくり、菌を殺したり有機物を分解するものです。(研究会注記:光触媒型については新聞切り抜き帳(毎日新聞7月15日)で解説)有機系の毒性はあまり調べられていません。天然系のワサビ、ヨモギ、ハーブなどが安全イメージで使われていますが、ほとんどは抽出物です。

抗菌剤による健康被害
 抗菌製品によるアレルギー事例としては、国民生活センターに98年までに57件の苦情が寄せられました。詳しい生のデータを要求しましたがもらえませんでした。咳き込む、頭痛がするというのは空気中に出てきているものです。布団というのは防ダニ加工、掃除機は紙パックの抗菌、防虫加工です。これはだいぶ天然系に置き換わってきました。抗菌マスクは亜鉛で加工しているので、金属アレルギーと思われます。
 手指殺菌剤の四級アンモニウム塩、アミノ酸が皮膚炎を起こしています。クロルヘキシジンというのはT型アレルギーを起こす典型的な物質で、輸入の抗菌カテーテルに使われていて、厚生省でも許可する時に議論があったけれど、許可されてしまい、事故がおきました。
 トリクロサンはまだ医薬部外品から抜けていません。これは簡単にダイオキシンを生成します。繊維製品にはもう使われていません。うるさく言っていけば業界はやめます。イソチアゾリンはヨーロッパでは化粧品によるアレルギーを引き起こしました。最近はホルムアルデヒドにかわって塗料に使われるようになったので要注意です。
 以上の例は病院などが中心ですが、97年から98年に私の室に持ちこまれた例は身近なケースです。αブロモシンナムアルデヒドという湿気取りの防かび剤や、靴の臭い取りで皮膚炎が起こりました。有機ヒ素系とピリジン系の抗菌剤を含んだビニルレザーのシートでかぶれた例もあります。今までもあったはずですが、抗菌剤が原因とは思われなかったのでしょう。天然のヒノキチオールでもアレルギーの例がありますし、催奇形性を示す実験データもあります。

抗菌製品によるアレルギー事例
原因抗菌剤アレルギー症状原因製品報告年
四級アンモニウム塩系抗菌剤
塩化ベンザルコニウム接触皮膚炎手指殺菌剤1990
塩化ベンゼトニウム接触皮膚炎手指殺菌剤1991
アミノ酸系抗菌剤
アルキルジアミノグリシン塩酸塩(テゴー51)接触皮膚炎手指殺菌剤1989
ビグアナイド系抗菌剤
グルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテン)接触皮膚炎
アナフィラキシー
手指殺菌剤1986
接触じんましん手指殺菌剤1989
接触皮膚炎手指殺菌剤1991
アナフィラキシー抗菌カテーテル1997
フェノール系抗菌剤
2,4,4'-トリクロロ-2'-ヒドロキシジフェニル
エーテル(イルガサンDP-300、トリクロサン)
接触皮膚炎手指殺菌剤1980
イソチアゾリン系抗菌剤
5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MCI)
(ケーソンCG)
2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MI)
接触皮膚炎殺菌防腐剤
(香粧品)
1987, 1989, 1990,
1991, 1992
2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン
(OIT、ケーソン893)
接触皮膚炎殺菌防腐剤
(塗料・接着剤)
1992, 1996
(スペイン,ドイツ)
1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(BIT)接触皮膚炎殺菌防腐剤
(切削油,塗料)
1990
アルデヒド系抗菌剤
α-ブロモシンナムアルデヒド(BCA)接触皮膚炎湿気取り
(防カビマット)
1987
接触皮膚炎靴のにおいとり
(防カビシート)
1998
有機ヒ素系抗菌剤
10,10'-オキシ-ビス(フェノキシ)アルシン接触皮膚炎椅子(ビニル
レザー製表地)
1997
ピジリン系抗菌剤
2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)
ピリジン
接触皮膚炎椅子(ビニル
レザー製表地)
1997

日本のMSDSの実態
 これらの被害例について、私はMSDS(化学物質安全性データシート)を集めています。日本では化学工業協会がひな型を作って指導していますが、企業秘密で非公開といって物質名すら書いていないのがあります。「データはありません」で通ります。物質が何かわからずに安全性情報になるわけがないのですが。
 皮膚への直接の刺激をみる皮膚刺激性というデータはあっても、アレルギーをみる皮膚感作性のデータは載っていません。書いてあっても抽象的で、どこまで具体的な危険性をイメージできるか疑問です。日化協や国が、具体的でなくてよい、できるだけわからないように書けと指導しているとしか思えません。これでどうやって安全性の表示ができますか。
 MSDSに危険性を具体的に書かせるようにしなければなりません。そのために、私はいろんなところに、安全性のデータを要求して欲しいと言っています。こんな不備なMSDSを出してくることは専門家として恥ずかしいし、事故を起こしたのにこんなものを出してくる神経が許せません。企業に恥ずかしいと思わせなければなりません。
 お茶のカテキンののデータはありませんが、日本人が今までなれ親しんで使ってきた天然系の抽出物は、まったく新しく作られたものと比べれば安全度は高いと思います。
 化審法がたくさんの毒性データを要求しているのですが、一つ調べるのに何百万円もかかります。必要のない情報、口の中に入れるわけじゃないのに経口毒性のデータなんかいらないと思うのですが。
 環境ホルモンでは、環境に出たもののが人体へ影響することはほとんどないだろうと思いますが、缶詰や内装材から出てきたら影響はあるだろうと、そこのところを区別して考える必要があります。
 防カビ剤とシートの例では表示がありませんでした。パンフレットに抗菌と書いてあるだけです。靴の場合はタグに表示があり、物質名も書いてありました。専門家からみるとなんでこんなものをここに使うのというものです。輸入したメーカー自身、どういう物質か理解していなかったから平気で表示できたのでしょう。表示があっても基本的なことが理解できていないと、消費者も選ぶことができません。わからない時はわかる人のところへどんどん聞いて下さい。

リスク評価
 化学物質の安全性にはリスク評価が必要です。ごまかすためによく使われる面もありますが、現実問題を考えた時には必要があります。毒性の強弱、毒性があるかないかだけではなく、使われ方、毒性の性質、使われた時にどれくらい取り込まれるかによって、リスクを考えるのが現実的です。それが業界を納得させる理論武装になります。

情報入手の仕方
 どこにデータがあるかというと、メーカー、そして学会です。 今はインターネットで情報がとれます。情報を集めるのは簡単になりましたが、ごみがたくさんあり、ごみの中から必要な情報を集めるには、自分の中に必要とする引き出しがたくさんなければなりません。私が言ったことでも間違いもありうるので鵜のみにせずに、裏をとって下さい。私が集めた情報は税金で集めたものですから、問い合わせてもらえば、持っている情報は出します。国の機関というのは役に立ってなんぼのものですから。

ハイリスクグループを基準に
 安全性の評価のスタンダードラインをどこに置くかということも大事です。今は健常者に置いているけれど、乳幼児やお年寄り、化学物質過敏症の人のような敏感な皮膚をラインにすべきです。ここが被害を受けやすいハイリスクのターゲットになっているからです。介護用品がいろいろ出ていますが、安全性への配慮はきわめてずさんで、だれもみていません。
 環境ホルモンも乳幼児がターゲットになっているので、親がしっかり見識をもって防衛する必要があります。抗菌剤中の環境ホルモンとしては、フェノール化合物があやしいので、とぼしい予算をやりくりして研究しようと思っています。
 6月27日の東京新聞の大図解は私やメーカーなどがサポートしたもので、よくまとまっているので、参考にして下さい。

化学物質問題市民研究会
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