ピコ通信/第182号
発行日2013年10月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 2013年10月 熊本/水俣 水銀条約外交会議及び関連会議 参加報告概要
  2. 10月9日 水俣 水銀条約開会記念式典 安倍首相ビデオメッセージ 途上国に2,000億円のODA支援  「水銀による被害を克服」発言
  3. 10・13 原発ゼロ☆統一行動 福島を忘れるな・再稼働を許すな 「生きている間に原発を全部止めて死ぬ責任」 (肥田舜太郎さん)
  4. お願い! 学校に強い香りを持ち込まないで 文科省に啓発要望 (香料自粛を求める会)
  5. 神奈川県立保土ヶ谷高校:シックスクール事故の顛末記 Y
  6. 調べてみよう家庭用品(63)トピックス (13)
  7. 編集後記・お知らせ


2013年10月 熊本/水俣
水銀条約外交会議及び関連会議
参加報告概要
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 本年1月のジュネーブでの政府間交渉委員会第5回会合(INC5)で合意された水銀条約の採択/署名のための外交会議が10月7日から11日まで熊本/水俣で開催され、環境省の発表によれば、世界の139か国からの政府代表、国際機関、オブザーバー、NGOs、メディアなど1,000人以上が参加しました。
 海外NGOsからは国際環境NGOsの連合体であるIPENやZMWGから約50人が来日し、そのうちIPENの42人が、外交会議に先立つ10月3日から6日まで水俣で開催されたIPEN主催及び"水俣から水銀条約を問う会"主催の会議/イベントに参加しました。
 IPENのメンバーである当研究会は、ホスト国のNGOとして、ビザを求められるNGOの入国ビザ書類作成支援、受け入れ、宿泊、移動等のお世話をするとともに、これらNGO会議及びイベントの企画及び開催に積極的にかかわりました。
 水俣では、"水俣から水銀条約を問う会"や"ほっとはうす"をはじめとする多くの水俣の方々にお世話になりました。お礼を申し上げます。
 水俣及び熊本での会議/イベントの参加報告については当研究会のウェブサイト"水銀問題/外交会議"で紹介していますが、本稿はではその概要を報告します。

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■IPENが参加した会議及びイベント
 ◆10月3日〜4日:IPEN国際有害金属技術会議(水俣)
 ◆10月5日午前:水俣現地見学(水俣)
 ◆10月5日〜6日:水俣から水銀条約を問う国際シンポジウム(水俣)
 主催:水俣から水銀条約を問う会 
 協力:IPEN/当研究会

 第1日(10月5日)
 水俣から水銀条約を問う
 ・被害者からの証言: 被害者/支援者
 ・水俣病事件の現状と課題:花田昌宣・教授(熊本学園大学)、頼藤貴志・准教授(岡山大学)
 ・水俣・不知火海の環境を考える: 山下善寛(水俣の暮らしを守るみんなの会)
 ・水銀条約と水俣病事件: 安間 武(当研究会)、谷 洋一(水俣病協働センター)

 第2日(10月6日)
 世界の水銀汚染
 ・基調講演:子どもたちの危機:水銀汚染の問題 フィリップ・グランジャン教授(南デンマーク大学)
 ・世界の水銀汚染報告:IPENメンバー(チェコ共和国、タイ、インドネシア、カメルーン、クック諸島)
 ・水銀条約と汚染サイト:ジョー・-ディガンギ(IPEN)
 ・水俣宣言:マニー・カロンゾ(IPEN)

 ◆10月8日:サイドイベント(熊本)
 水俣を敬う:水俣病からの教訓と水銀条約
 主催:IPEN/当研究会
 ・坂本しのぶ(水俣病被害者)
 ・谷 洋一(水俣病協働センター)
 ・津田敏秀・教授(岡山大学)
 ・フィリップ・グランジャン教授(南デンマーク大学)

 ◆10月10日: サイドイベント(熊本)
 ASGMにおける女性と水銀:女性と将来の世代の健康への影響
 主催:IPEN/WECF/Women's Major Group)
 発表:女性閣僚・政治家、女性NGO活動家、津田敏秀・教授(岡山大学)

■外交会議
 ◆10月7日、8日:準備会合(決議案の検討・合意)
 ◆10月9日:水俣現地視察、開会記念式典(水俣)
 ◆10月10日:決議案採択
  1.暫定期間における取り決めに関する決議
  2.財務的取り決めに関する決議
  3.他の国際組織に関係することがらに関する決議
  4.日本政府への賛辞
 ◆10月10、11日:条約採択、署名:92か国が署名。  署名しなかった主要国:アメリカ、ロシア、インド、韓国、ミヤンマー、タイ、ラオス、マレーシア、ポーランド、アイスランド、ポルトガル、キプロス、多くの旧ソ連邦諸国、多くのアフリカ諸国、キューバ、ハイチ、ホンジェラス、スリナム、パラグアイなど。
 ◆10月11日:閉会スピーチ

■水銀条約の署名、批准、加入とは?
 ◆署名(Signing)
  国家が原則として条約に同意し、条約を損なうようなどのような行為をもしないことに同意することを意味し、批准の意図を示す。水銀条約では2013年10月10日から1年間、署名のために開放される。

 ◆批准(Ratification)
  条約の規定を実施する法的に拘束力のある義務が国家に生じる。通常、条約義務と矛盾しないよう国内法が整備されなくてはならない。水銀条約は、50か国の批准後、90日で発効するが、通常3〜4年かかる。批准すると加盟国になる。

 ◆加入(Accession)
  条約に署名していない場合に、条約の規定に拘束される意思があることを正式に宣言する行為。署名期間中に署名していない国でも、加入により加盟国となることができる。これは、署名と批准がひとつの手続きで行われることを意味する。国内法の整備が必要であり、批准と同様の法的義務が生じる。

■10月9日:安倍首相ビデオメッセージ (次頁で報告
 ◆途上国に総額20億ドル(2,000億円)の支援
 ◆「水銀被害を克服」発言

■IPEN及び"水俣から水銀条約を問う会"声明/要請の紹介
 両団体は期間中にいくつかの声明を発表したので、その一部の概要を紹介します。

 ◆IPENの声明-1(2013年10月6日)
 水俣を環境危機の解決のための国際的なモデルにせよ
 条約は、水俣という名称を持つことにより特別の責任が伴う。水俣はひとつの悲劇に関連するだけでなく、世界で最悪の水銀中毒大惨事の解決に積極的なモデルとなるための行動を起こす機会を与えられる。つぎのように勧告する。
 ・全ての被害者の認定と補償。
 ・エコパークの下に"暫定的に"保管されている150 万m3 もの有毒な水銀ヘドロを含む汚染区域の浄化。
 ・汚染場所の修復と全ての被害者に対する責任を汚染者が認めること。
 ・包括的で、独立した組織的な健康調査が影響を受けた地域で実施さること。
 ・日本の水銀輸出を止めること。日本は、年間100 トン近くの水銀を、主に開発途上国に輸出している。

 ◆IPENの声明-2(2013年10月10日)
  新たな水銀条約:今すぐ実施すべき3つのこと
  1. 条約に早急に署名し、批准すること。
  2. 汚染源を特定し、計画を立案すること。主要な水銀発生源は石炭火力発電所と人力小規模金採鉱(ASGM)である。
  3. 水俣の悲劇の教訓を適用すること。我々はすでに、女性、小さな子ども、そして男性の中に、水銀汚染による被害を見はじめている。
  ・水俣のように、我々が見たことを確認するために20年も待つ必要はない。不作為のコストは非常に高くつく。
  ・水俣の悲劇は単独の産業排出源が引き起こしたが、世界中の水銀汚染源は広く拡散している。とるべき措置の優先場所を特定し、水銀貿易を禁止して危害の輸出を止めること。
 ・ 汚染場所を管理するのに20 年も待つな。水俣の汚染場所の浄化は、水俣病の問題が発見されてから20 年後に開始された。これでは遅すぎる。もし、早急に行動を起こさなければ、現在の世界のゴールドラッシュの遺産は、世界中に数千の汚染場所と荒廃した地域社会をもたらす。

水俣から水銀条約を問う会から日本政府への要請(2013年10月7日)
  1. 水俣病被害の全容解明と被害者賠償、補償制度の確立
  2. 水俣病発生・拡大に至る責任の検証
  3. 水銀排出ない社会の確立と国内法の整備(水銀ゼロの日本モデル確立)
  4. 汚染サイトの再検証と安全な処理体制の確立
  5. 水銀条約の実施及び推進のための機構整備
(まとめ:安間武)



10月9日 水俣 水銀条約開会記念式典
安倍首相ビデオメッセージ
途上国に2,000億円のODA支援
「水銀による被害を克服」発言


 2013年10月9日、水銀条約の開会記念式典が熊本県水俣市の市文化会館で開催され、世界各国の代表者や国際機関、NGOsが多数出席しました。この記念式典で、安倍首相のビデオメッセージが放映されましたが、その内容は環境・健康よりも産業を優先する日本政府の立場を明確に示すものでした。そのひとつは▼途上国に3年間で20億ドル(約2,000億円)のODA支援であり、もうひとつは▼「水銀による被害を克服」発言です。

■途上国に2,000億円のODA支援

 首相のビデオメッセージ後に政府から発表された「具体的施策」によれば、次の3分野への支援です。

◆大気汚染対策
高効率の石炭火力発電所の建設、排煙脱硫装置を備えた火力発電設備の設置等

◆水質汚濁対策
下水道施設の整備・改築、地方自治体の汚水管理計画の策定支援等

◆廃棄物処理
廃棄物焼却施設の建設、廃棄物による発電・リサイクル事業の推進、地元自治体の廃棄物管理計画策定支援等

 政府開発援助(ODA)は、途上国の支援という名を借りた途上国でのビジネス展開を図る日本企業の支援です。特に、廃棄物処理については、途上国でのゴミ焼却ビジネス展開に、脱焼却グローバル連合(GAIA)など開発途上国のNGOsから、途上国に大気汚染と健康被害をもたらし、廃棄物を増大させるとして、強い反対があります。
 この様な巨額な資金は、真に人の健康と環境を保護する施策に使用されるべきです。水銀汚染については、小規模金属採鉱(ASGM)、水銀を使用した製造プロセスからの排水による汚染、水銀を使用した工場の跡地など、世界中に数多くの水銀汚染場所があり、その調査、特定、浄化、その汚染による被害者の補償などに使用されるべきです。

■「水銀による被害を克服」発言

 この様な発言があることは、予想できることでした。2010年5月1日に公式確認後54年目の水俣病慰霊式典で当時の鳩山首相が水銀条約に「水俣条約」と命名したいと述べ、その後の水銀条約交渉会議で日本政府が正式に提案して「水俣条約」と正式に決定しました。当時の鳩山首相の背後で官僚が、水銀条約は水俣問題終息を世界に宣言する絶好の機会と考えて、鳩山首相にそのように発言させたのでしょう。
 この発言は "汚染水は完全にブロックされている"とオリンピック招致で安倍首相が恥も外聞もなく述べた"国際的大ウソ"に匹敵します。「水銀による被害を克服」したという安倍首相の発言は、鳩山元首相の「水俣条約」命名提案の真の意図を明らかにしました。

 ちなみに石原伸晃環境相は、あいさつの中で、水俣病被害者の救済には一言も触れませんでした。

 ・水俣ではまだ裁判が行われている!
 ・特措法の救済申請者が6万人いる!
 ・水銀汚染埋立地が浄化されていない! 

(まとめ:安間武)


お願い!
学校に強い香りを持ち込まないで
文科省に啓発要望

香料自粛を求める会 


 10月4日に、化学物質問題市民研究会と日消連関西グループ、反農薬東京グループ、当会の4団体で、学校等における香料自粛に関する要望書を文科省へ提出しました。

■香りの強い柔軟剤と健康被害の増加

 近年、特に香りの強い柔軟剤の発売以後、洗剤や洗濯・乾燥時用着香剤、衣類用芳香消臭スプレー、シャンプー、リンスなど香りの強い着香製品が増加し、日常的に香料に曝されるようになってしまいました。

 健康被害を受ける人も増加、消費者庁・国民生活センター事故情報データバンク(http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/)でも、「柔軟剤」や「芳香剤」等による健康被害の訴えが数多く報告されています。6月の環境省クールビズ芳香製品推奨撤回の報道後、柔軟剤による体調不良や健康被害に関する新聞報道も続きました。

 9月19日には国民生活センターが報道発表で、「柔軟仕上げ剤」に関する危害相談件数の急増を報告、消費者に注意喚起し、業界にも「商品の注意表示や啓発活動など周囲への配慮を促す取り組み」を求めました。

 センターの商品テストでは洗濯物を干した室内空気中の揮発性有機化合物(VOC)を分析、いくつかの成分は香料原料や香料の溶剤として使われる化学物質と推定され、総揮発性有機化合物(TVOC)の室内濃度上昇分は、強い芳香の製品が、柔軟剤不使用の場合や微香の製品より3.5倍から7倍も高く、最も濃度が上昇した製品では、一定の換気率で干してから1時間後の上昇分が140μg/ m3と厚労省の定める室内濃度暫定目標値400μg/m3の3分の1を超えていました。

■教室で授業を受けられない、登校できない

 当会が香料への暴露体験事例を募集したところ、約3週間で47もの事例が集まりました。学校でのさまざまな香料暴露に苦しむ子どもたちの声がありました。

 小学生の頃から洗剤や色々な香料入り製品の匂いに敏感で、頭痛、眠気、身体がだるくなり、先生の化粧品やリンス、衣服の洗剤等の香料も頭が痛くなるという子や、周りの人の服の柔軟剤等の香りで気分が悪く、体がだるくなり、頭痛、不眠、頻尿などの症状に苦しみ、次々と頭痛を起こす物が増えていったという子がいます。2人とも中学進学後、同級生が部活の朝練習後に使用する制汗剤や全身ローションの香りに頭痛がする、頭痛や気分が悪くなる日が増えたと訴えています。

 ある高校生は、クーラー使用のため窓が閉め切られるようになると、頭痛、倦怠感、リンパ腺の腫れなどの症状が顕著になり、教室にいられる時間が少なくなって、大学進学を考えて勉強したいと進んだ高校で、授業が思うように受けられなくなりました。

 別の十代の青年は、小学4年で化学物質過敏症と診断を受けて以来、登校をあきらめ、自宅での自学自習を続けていますが、近くの小学校での行事参加者の香料入り製品で体調不良になり、強い眠気、倦怠感、食欲不振、鼻血、自律神経失調症、平衡感覚異常等に一週間くらい悩まされるといいます。

■新聞報道でも−香料暴露で重症化も

 岩手県のシックスクール事故で発症、重症化したある生徒は、頭痛や疲労感、息苦しさで一日の最後の授業まで受けることが難しく、中学校では、制汗剤に暴露して強い頭痛や吐き気に苦しむ、冬期に暖房が稼働されると洗剤や柔軟剤の化学物質が揮発するようになって登校できなくなるそうです。

 香料暴露で重症化した深刻な事例もあります。教師の整髪料や生徒の制汗剤、机にかけられた香水、来校した卒業生の香水など、香料や香水に繰り返し暴露し、寝たきりになるほど重症化してしまった加古川市の中学生は、喘息症状の出現など徐々に悪化の経過をたどっていますが、学校は適切な対応で生徒を保護することができませんでした。

■香料は業界自主基準のみで安全か?

 香料は、10種から数百種もの物質を混合、溶剤も添加されて作られています。香料にはアレルゲンとなる物質が多く皮膚炎や喘息を誘発し、また偏頭痛を誘発する他、神経毒性や内分泌かく乱作用、変異原性、発がん性、発がん促進作用や異物排出能力阻害作用などを有するものがあります。

 シャンプー等製品含有量は0.1〜1%程度でもアレルギー性接触皮膚炎を頻繁に起こす香料や天然香料でも陽性率の高い香料があるのに、日本では、製品表示は「香料」と一括表示で成分を明示しなくてもよく、安全性は業界の自主基準のみで、明確な規制がありません。また、香料は、空気中のガス状や浮遊微粒子状のアレルゲンとなる可能性もあり、気散した成分は呼吸でも体内に取り込まれるのに、成分の吸入毒性についてほとんど検討されていません。

■EUの規制と海外の香料自粛の取り組み

 EU(欧州連合)では「化粧品規則」により、香料について26種をアレルギー物質として、製品ラベルへの表示を義務化しています。欧州委員会消費者安全科学委員会は意見書でさらに101の物質の表示義務化や12物質の配合率を0.01%以下とすること等を提言しています。

 また、米国でも着香製品による健康被害が深刻化、各地で自治体職員や職場の香料禁止や自粛の方針に取り組む自治体が増えてきました。カナダのノバスコシア州では、州都ハリファックス地域都市が無香料の啓発プログラムを実施、香料不使用の方針を市の職場から公共スペースに拡大して、学校や図書館、バスでの着香製品の自粛を推進、この取り組みは州にも拡がっています。

■今苦しんでいる子ども達の救済と予防を

 学校での香料暴露に苦しむ子どもたちがいます。喘息やアレルギーの子どもたちも増えています。子どもは化学物質への感受性が高く、香料の健康影響の懸念はすべての子どもたちの健康にかかわる問題です。

 国は野放しになって氾濫している香料の規制に取り組むべきですが、すぐには実現しません。周囲への配慮を促す啓発も必要で、文科省には学校等における香料自粛の取り組みを進めていただきたいと思います。

−学校等における香料自粛に関する要望−

 (略)学校等においても、香料によって引き起こされる様々な症状に苦しむ児童生徒等や保護者の多くが、問題の解決に多大な困難を感じています。憲法第25条1項の「生存権」や、憲法第13条に規定される「幸福追求権」、教育基本法第4条「教育を受ける権利」が侵害されてしまう深刻な事例もあります。

 どうか、安全で健康を脅かされることなく、能力の発達に応じた教育を受けられるはずの学校で、香料に暴露して健康を害され、望む教育が受けられなくなってしまうような現状をこのまま放置しないでください。(略)

1.以下の内容について、各自治体の教育委員会にご指導ください。その際、基準またはポスター案などの参考を例示してください。

(1)学校等で働く教員や職員等学校関係者、また児童生徒等および保護者に、強い香りの着香製品の使用を自粛するように呼びかけてください。その際、アレルギーや喘息の児童生徒が増えていることや、学校は強い香りの香粧品をつけてくるような場所ではないことなども伝えて、特に化学物質過敏症やアレルギーなど配慮が必要な児童生徒が在籍している場合は、当該児童生徒への配慮だけを強調するのではなく、いじめなどの2次的被害が生じないようにしてください。

(2)添付資料のポスター要望案(生徒向けおよび保護者向け)をもとに「香料自粛のお願い」のポスターを作成し、学校等の校舎内、玄関、行事案内立て看板等に掲示して関係者に啓発をはかるとともに、年度初めに保護者向けポスターの内容をチラシ(ポスター縮小版)として配布してください。また、行事の案内文書に来校(園)時の注意事項として香料自粛の配慮を求める文を記載してください。

(3)児童生徒等に、現実に香料暴露による被害者がいることや、香料暴露によるさまざまな健康被害の可能性についても啓発してください。

(4)学校等や都道府県および市町村教育委員会のホームページを通じて、学校等における香料自粛について啓発してください。

(5)学校等では、芳香剤や、清掃業務において香料を含む製品を使用しないでください。

(6)教室内に香料臭が充満することがないよう、普段から空気質に配慮し、冷暖房の使用中も換気に留意するなど、毎日の換気を徹底してください。また、児童生徒等にも、保健だより等で換気をしない場合の室内空気汚染のリスクや換気の必要性等の情報を伝えて、季節を問わず換気の励行を呼びかけてください。

(7)入学試験や部活動の大会等においても、関係者や参加者に、強い香りの着香製品等の使用を自粛するように参加案内文書等で呼びかけてください。

2.参考資料「健康的な学習環境の維持管理のために」を各学校等に改めて周知徹底してください。また、参考資料を改訂し、建材や家具、備品だけでなく、個人使用の香料の問題性や健康影響について明記してください。

3.学校等における香料暴露と健康被害の問題について、保護者、児童、教職員へのアンケート、聞き取り調査を行ってください。

以上


神奈川県立保土ヶ谷高校
シックスクール事故の顛末記 Y

H.Y.(元保土ヶ谷高校教諭・保土ヶ谷高校シックスクール裁判原告)


 顛末記TからXで、雨漏り改修工事に使用された有機溶剤が、教室に浸入し室内を長期間汚染した事故の経過を、時系列で追ってきました。Yでは、汚染物質の種類・毒性有害性・使用量を中心に事実を整理したい。揮発性有害化合物の人体に関する危険性に関して、原告は有機溶媒の人体への健康被害についての研究者ではありません。専門家ではなくても、コンクリート内に浸み込んだ量の多さと、多種類の揮発性有機化合物による複合汚染であることは理解できます。
 ピコ通信の読者からのご教示をいただきたく、心からお願い申し上げます。

■健康被害を引き起こした危険物質は何か=教育施設課が提出した一覧表からの考察

 2005年1月27日、教育施設課担当者が「保土ヶ谷高校北棟他防水補修工事に係る使用材料一覧表」(2004年9月13日から9月28日まで)を保土ヶ谷高校に提出した。上記文書名には「北棟他」となっているが、西棟の防水工事に関する資料(9月28日から10月7日まで)は、全く含まれていない。上記の報告書は、北棟音楽室・書道室・書道室前廊下部分の防水工事に使用された防水剤の限定的な報告書といえる。

 神奈川県教育委員会は、「県立学校施設整備に伴う室内化学物質対策検討委員会」を5回開催した(2005年4月27日・6月20日・7月26日・10月20日・2005年3月22日)。検討委員会の議論の事実関係資料はもっとも重要である。2004年9月の保土ヶ谷高校での防水工事にどんな揮発性有機化合物が使用されたかを検討する基礎資料となったものは、「1月27日付けの一覧表」(前述)のみである。西棟防水工事に関しては、使用された有機溶剤に関する報告書は存在しない。検討委員会は、不完全な資料を基にして委員会の議論を進めたことになる。

 2005年4月下旬、西棟5階トイレ付近の廊下の天井からの有機化合物の揮発量が、急激に増大し、308名の体調不良者を出し、テレビ報道・新聞報道が多数行われ、大きな社会問題になった。2004年9月からの有機溶媒臭に対する職員からの苦情に対して、教育委員会は、「窓開け換気」や「2005年4月23日の北棟3階の封鎖」等の安全対策しか指示してこなかった。2005年4月、多数の生徒の訴えと保護者の怒りによって、事故を認めざるを得ない状況になり、保護者説明会を開催せざるを得ない状況になった。

 1月27日付けの使用材料一覧表から、防水剤に含有された揮発性有機溶剤の数量を以下に示す。(2%から4%と表記されているときは、最大値を採用し、kg以下の小数点は四捨五入した。1kg以下の有機化合物は、品名のみを明記した。
●印=揮発性有機溶剤。★=文部科学省学校環境衛生基準にあるもの。*=何らかの有害性がある可能性のある物質。)

●★トルエン=19kg ●★キシレン=58 kg ●酢酸エチル=29kg ●トルエンジイソシアネート(TDI)=9kg ●フタル酸ジオクチル(DOP)=163kg ●酢酸ブチル=7kg ●メチレンビス2クロロアニリン(MOCA)=33kg ●ポリエーテルポリエール=172kg ●プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート=5kg ●アルキルフェノールグリシジルエーテル ●1,6ヘキサジオールジグリシジルエーテル *ビスフェノールA型エポキシ樹脂=2kg *ビスフェノールF型エポキシ樹脂=2kg *ポリイソシアネート=10kg *ポリアミドアミン=2kg *変性脂環式ポリアミン*芳香族炭化水素 *ステアリン酸塩・高級脂肪酸*ウレタンプレポリマー=473kg *ウレタン樹脂 *ポリ塩化ビニール樹脂 *エチレン・酢酸ビニル共重合体=10kg 以上合計=994kgである。

●印(明らかな揮発性有機溶剤)の合計495kgと西棟の工事材料を計算に入れると、800kg程度の揮発性有機化合物の使用を推定できる。●★(文部科学省の学校環境衛生の基準)は合計77kgとなる。(学校薬剤師による検知管検査当日の2004年12月1日に、防水工事を担当した業者は、「USウレタンプライマー塗布に際し、上記以外にも希釈剤として、トルエン20%・キシレン80%を追加使用した」と、保土ヶ谷高校の職員に話した。)

●トルエンジイソシアネート(TDI)、 ●フタル酸ジオクチル(DOP)、●メチレンビス2クロロアニリン(MOCA)に関しては、発がん性・有害性が指摘されており、特にフタル酸ジオクチル(DOP)=163kgは異常な数値である。このような多量で有害な揮発性有機化合物が、授業中の防水工事で使用された。

 階下では窓を開けて、授業をしていた。業者と管理職は、「窓から臭気が教室内に侵入した」と発言した。それにもかかわらず、対策として「窓を開けて換気すること」のみを言い続けた。窓から有機溶剤の臭気が室内に、もし侵入したのなら、音楽室・書道室以外にも階下の家庭科被服室、調理室、及び北棟に隣接する中央棟2階の職員室でも同様の臭気が続くはずであった。窓からの侵入であれば、窓を閉めるように指示するのが普通の判断であろう。

■ダイヤ分析センターによる「小型チャンバー法」で検出された揮発性有機溶剤の考察
(小型チャンバー法とは、実際の居室を想定して、換気を行いながら建築材料から放散される揮発性有機化合物の濃度を測定するもの)

 ダイヤ分析センターが2005年3月22日から24日に行った、防水剤から検出した有機溶剤の主な濃度を示す。検査記録では、脂肪族炭化水素類13品目、芳香族炭化水素類12品目、テルペン類3品目、ハロゲン類11品目、エステル類2品目、アルデヒド・ケトン類5品目、アルコール類その他4品目がTVOCとして報告されている。合計52品目。(数値は四捨五入。単位はμg/m3)。

◆クラック補修材(オートシーラー): TVOC=22,600 脂肪族炭化水素類=1,352(デカン=162、ウンデカン=1090,ドデカン=92)芳香族炭化水素類=2,482(キシレン=29,m-エチルトルエン=186,p-エチルトルエン=75、1,3,5トリメチルベンゼン=198,O-エチルトルエン=22、2,1,2,4-トリメチルベンゼン=1,050,1,2,3-トリメチルベンゼン=620,1,2,4,5-テトラメチルベンゼン=285)。TVOCのうち品目不明83%。

◆下地調整剤(ビックサンコート):TVOC=402、エステル類の酢酸エチル=41

◆防水プライマー(USウレタンプライマーAB):TVOC=9570、芳香族炭化水素類=9607(エチルベンゼン=4130、キシレン=5410)、エステル類・酢酸エチル=79、酢酸エチル=7。エチルベンゼン(MSDSでは記載がない)が高濃度であった。

◆防水剤(US-100AB):TVOC=1460、脂肪族炭化水素類=70(ウンデカン=444)、芳香族炭化水素類=153(1,2,4-トリメチルベンゼン=60)

◆プライマー+防水剤:TVOC=12200 、芳香族炭化水素類=11122(エチルベンゼン=4400、キシレン=6530、1.2.4-トリメチルベンゼン78)、エステル類・酢酸エチル=127

◆プライマー+防水剤+トップコート: TVOC=104000、脂肪族炭化水素類=215(ノナン=102、デカン=66、ウンデカン=43)、芳香族炭化水素類=57955(トルエン=13200、エチルベンゼン=18100、キシレン=26400、m-エチルトルエン=51、p-エチルトルエン=29、1,2,4-トリメチルベンゼン=104)、エステル類=15500(酢酸エチル=4300、酢酸ブチル=11200)、アルデヒド・ケトン類=252(アセトン=127、メチルイソブチルケトン=105)、アルコール類その他=3187(エタノール=709、1-ブタノール=2470)

 この他に、教育施設課が提出した安全データシート(MSDS)に記載されず、小型チャンバー法で高濃度の検査結果が出た有機溶剤が17品目あった。

 安全データシートの11品目と合計すると28品目であり、エチルべンゼンに関しては、極めて高濃度である。トルエン・キシレンによるシックスクール事故ではなく、28品目という多種類・大量の有機化合物が、保土ヶ谷高校の教室内を汚染し続けたと推定できる。

 安全データシート及び小型チャンバー法による検査結果から、汚染物質の全貌が見えてきたように感じる。厚生労働省指針値は、あくまでも単品目の毒性に対する指針値であり、保土ヶ谷高校の事故例のように28種類の有機溶媒による汚染が引き起こす健康被害は、全く検証されていない。

 ウレタン防水剤の主剤の中には、極めて毒性の高いトルエンジイソシアネート(TDI)、フタル酸ジオクチル(DOP)が含まれる。2005年6月24日、校内改修工事委員会にて、教育財務課担当者は、両物質の危険性を理解していると発言し、7月14日に気中濃度検査実施した。検査結果は、労働安全衛生法・厚生労働省の指針値を下回った。2005年12月3日 第4回保護者説明会において、再度、両物質の小型チャンバー法による検査実施を要請したが、教育委員会は、拒否した。

 使用した有機溶剤と気中VOC濃度の間には、関連性が明確なものと、大きな相違があるものがある。有機溶媒にはそれぞれ沸点が違っており、沸点が低ければ比較的早期に揮発するが、沸点が高い場合、揮発速度が遅くなり、継続的な室内汚染が続くのではないだろうか。

■住民(保土ヶ谷高校職員・生徒)から苦情が出た段階で、なぜ安全対策ができなかったのか

 神奈川県が委託契約をむすんでいる「社団法人神奈川県土地建物保全協会」(以下保全協会と記載)の総則を紹介する(2004年4月)。

▼「1.1.15 居住者等への周知徹底 1.工事に先立ち、監督者と協議のうえ、工事名称・工事内容・注意事項・工事期間・施工業者名・現場代理人名及び連絡先等を掲示等により周知する」:
事前に工事関係者の名刺を芸術担当者に渡しただけであった。工事内容に関しては、異臭が発生しても、教育施設課担当者が2004年12月17日に工事ファイル1冊を提出するまで、「わからない」としか回答しなかった。有機溶剤の危険性に関しては、まったく注意がなかった。緊急時連絡先も上記のファイルではじめて判明した。

▼「2章 工事管理 1節2.1.2 8 塗料・シーリング材・接着材その他の化学製品の取り扱いにあたっては、当該製品の製造所が作成した製品安全データ(MSDS)を常備し、記載内容の周知・徹底を図り、作業者の健康・安全の確保及び環境保全に努める。」:
 工事中の苦情に対して、使用した有機溶媒の危険性について情報を提供しなかった。なぜ、施工業者からMSDSの提出がなかったのか。教育施設課は、保全協会にMSDSの提出を請求しなかった理由が理解できない。安全データシートの常備が義務付けられているのに、苦情を訴えた住民(職員・生徒)に健康被害の可能性を示す危険情報の提供がなかった。

▼「2.1.3 災害、公害の防止 1工事施工に伴う災害の防止及び環境保全は、建築基準法・労働安全衛生法・略・大気汚染防止法・略・建築工事公衆災害防止対策要綱・略・に従い、災害の防止及び周辺区域の環境保全に努める」:
 工事中に居住者から苦情が出たにも関わらず、教室からの退避・及び健康被害の確認等の安全対策を全くしなかった。

▼「2.1.4 安全対策 9 工事の作業時間については、監督者と協議し、居住者の生活に大きな支障を及ぼす時間帯は極力避ける。」:
 授業中に防水工事を行い、多量の有害な揮発性有機溶剤を使用した。

▼「2.1.4 安全対策 10 居住者から、工事に起因する苦情の申し出があった場合には、遅滞なくその内容について書面をもって監督者に提出する。」:
 何度も工事中に苦情を申し入れたが、退避等の指示がなかった。危険物質の情報も保土ヶ谷高校の職員に伝えなかった。施工業者の提出した安全衛生日報には、「苦情申し入れの記載」が一件もない。事務長と教室の臭気を確認しているのに、記載が全くない。事故は何もなかったことになっており、異臭苦情に関して、書面を提出していないのではないか。

▼「7節 防水工事 ウレタン防水材の養生時間は、夏8時間 、冬18時間を標準とする。」:
 養生時間は、夏場8時間でウレタン防水幕が乾燥することを示している。3か月間「窓から臭気が入っている。」などの発言を続けてきたことは、常識では理解できない。クラックから室内に浸入していることは、専門の業者であれば、すぐに判断できるはずである。それができなかった。なぜか! また、県教育委員会はその点に関して、全く追求しなかった理由は? 

 多くの健康被害者を出し、教育現場を混乱させ、社会的な信頼を失墜させ、改修工事に、管理職の説明では7千万円以上の県費を支出した責任が県教育委員会にはあるのではないか。健康被害者を救済することなく、ただ、事故責任を回避しようとしている。

(つづく)



化学物質問題市民研究会
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