ピコ通信/第182号
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目次
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本年1月のジュネーブでの政府間交渉委員会第5回会合(INC5)で合意された水銀条約の採択/署名のための外交会議が10月7日から11日まで熊本/水俣で開催され、環境省の発表によれば、世界の139か国からの政府代表、国際機関、オブザーバー、NGOs、メディアなど1,000人以上が参加しました。 海外NGOsからは国際環境NGOsの連合体であるIPENやZMWGから約50人が来日し、そのうちIPENの42人が、外交会議に先立つ10月3日から6日まで水俣で開催されたIPEN主催及び"水俣から水銀条約を問う会"主催の会議/イベントに参加しました。 IPENのメンバーである当研究会は、ホスト国のNGOとして、ビザを求められるNGOの入国ビザ書類作成支援、受け入れ、宿泊、移動等のお世話をするとともに、これらNGO会議及びイベントの企画及び開催に積極的にかかわりました。 水俣では、"水俣から水銀条約を問う会"や"ほっとはうす"をはじめとする多くの水俣の方々にお世話になりました。お礼を申し上げます。 水俣及び熊本での会議/イベントの参加報告については当研究会のウェブサイト"水銀問題/外交会議"で紹介していますが、本稿はではその概要を報告します。 (写真集:ここをクリック) ■IPENが参加した会議及びイベント ◆10月3日〜4日:IPEN国際有害金属技術会議(水俣) ◆10月5日午前:水俣現地見学(水俣) ◆10月5日〜6日:水俣から水銀条約を問う国際シンポジウム(水俣) 主催:水俣から水銀条約を問う会 協力:IPEN/当研究会 第1日(10月5日) 水俣から水銀条約を問う ・被害者からの証言: 被害者/支援者 ・水俣病事件の現状と課題:花田昌宣・教授(熊本学園大学)、頼藤貴志・准教授(岡山大学) ・水俣・不知火海の環境を考える: 山下善寛(水俣の暮らしを守るみんなの会) ・水銀条約と水俣病事件: 安間 武(当研究会)、谷 洋一(水俣病協働センター) 第2日(10月6日) 世界の水銀汚染 ・基調講演:子どもたちの危機:水銀汚染の問題 フィリップ・グランジャン教授(南デンマーク大学) ・世界の水銀汚染報告:IPENメンバー(チェコ共和国、タイ、インドネシア、カメルーン、クック諸島) ・水銀条約と汚染サイト:ジョー・-ディガンギ(IPEN) ・水俣宣言:マニー・カロンゾ(IPEN) ◆10月8日:サイドイベント(熊本) 水俣を敬う:水俣病からの教訓と水銀条約 主催:IPEN/当研究会 ・坂本しのぶ(水俣病被害者) ・谷 洋一(水俣病協働センター) ・津田敏秀・教授(岡山大学) ・フィリップ・グランジャン教授(南デンマーク大学) ◆10月10日: サイドイベント(熊本) ASGMにおける女性と水銀:女性と将来の世代の健康への影響 主催:IPEN/WECF/Women's Major Group) 発表:女性閣僚・政治家、女性NGO活動家、津田敏秀・教授(岡山大学) ■外交会議 ◆10月7日、8日:準備会合(決議案の検討・合意) ◆10月9日:水俣現地視察、開会記念式典(水俣) ◆10月10日:決議案採択 1.暫定期間における取り決めに関する決議 2.財務的取り決めに関する決議 3.他の国際組織に関係することがらに関する決議 4.日本政府への賛辞 ◆10月10、11日:条約採択、署名:92か国が署名。 署名しなかった主要国:アメリカ、ロシア、インド、韓国、ミヤンマー、タイ、ラオス、マレーシア、ポーランド、アイスランド、ポルトガル、キプロス、多くの旧ソ連邦諸国、多くのアフリカ諸国、キューバ、ハイチ、ホンジェラス、スリナム、パラグアイなど。 ◆10月11日:閉会スピーチ ■水銀条約の署名、批准、加入とは? ◆署名(Signing) 国家が原則として条約に同意し、条約を損なうようなどのような行為をもしないことに同意することを意味し、批准の意図を示す。水銀条約では2013年10月10日から1年間、署名のために開放される。 ◆批准(Ratification) 条約の規定を実施する法的に拘束力のある義務が国家に生じる。通常、条約義務と矛盾しないよう国内法が整備されなくてはならない。水銀条約は、50か国の批准後、90日で発効するが、通常3〜4年かかる。批准すると加盟国になる。 ◆加入(Accession) 条約に署名していない場合に、条約の規定に拘束される意思があることを正式に宣言する行為。署名期間中に署名していない国でも、加入により加盟国となることができる。これは、署名と批准がひとつの手続きで行われることを意味する。国内法の整備が必要であり、批准と同様の法的義務が生じる。 ■10月9日:安倍首相ビデオメッセージ (次頁で報告) ◆途上国に総額20億ドル(2,000億円)の支援 ◆「水銀被害を克服」発言 ■IPEN及び"水俣から水銀条約を問う会"声明/要請の紹介 両団体は期間中にいくつかの声明を発表したので、その一部の概要を紹介します。 ◆IPENの声明-1(2013年10月6日) 水俣を環境危機の解決のための国際的なモデルにせよ 条約は、水俣という名称を持つことにより特別の責任が伴う。水俣はひとつの悲劇に関連するだけでなく、世界で最悪の水銀中毒大惨事の解決に積極的なモデルとなるための行動を起こす機会を与えられる。つぎのように勧告する。 ・全ての被害者の認定と補償。 ・エコパークの下に"暫定的に"保管されている150 万m3 もの有毒な水銀ヘドロを含む汚染区域の浄化。 ・汚染場所の修復と全ての被害者に対する責任を汚染者が認めること。 ・包括的で、独立した組織的な健康調査が影響を受けた地域で実施さること。 ・日本の水銀輸出を止めること。日本は、年間100 トン近くの水銀を、主に開発途上国に輸出している。 ◆IPENの声明-2(2013年10月10日) 新たな水銀条約:今すぐ実施すべき3つのこと 1. 条約に早急に署名し、批准すること。 2. 汚染源を特定し、計画を立案すること。主要な水銀発生源は石炭火力発電所と人力小規模金採鉱(ASGM)である。 3. 水俣の悲劇の教訓を適用すること。我々はすでに、女性、小さな子ども、そして男性の中に、水銀汚染による被害を見はじめている。 ・水俣のように、我々が見たことを確認するために20年も待つ必要はない。不作為のコストは非常に高くつく。 ・水俣の悲劇は単独の産業排出源が引き起こしたが、世界中の水銀汚染源は広く拡散している。とるべき措置の優先場所を特定し、水銀貿易を禁止して危害の輸出を止めること。 ・ 汚染場所を管理するのに20 年も待つな。水俣の汚染場所の浄化は、水俣病の問題が発見されてから20 年後に開始された。これでは遅すぎる。もし、早急に行動を起こさなければ、現在の世界のゴールドラッシュの遺産は、世界中に数千の汚染場所と荒廃した地域社会をもたらす。 ■水俣から水銀条約を問う会から日本政府への要請(2013年10月7日) 1. 水俣病被害の全容解明と被害者賠償、補償制度の確立 2. 水俣病発生・拡大に至る責任の検証 3. 水銀排出ない社会の確立と国内法の整備(水銀ゼロの日本モデル確立) 4. 汚染サイトの再検証と安全な処理体制の確立 5. 水銀条約の実施及び推進のための機構整備 (まとめ:安間武) |
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学校に強い香りを持ち込まないで 文科省に啓発要望 香料自粛を求める会 10月4日に、化学物質問題市民研究会と日消連関西グループ、反農薬東京グループ、当会の4団体で、学校等における香料自粛に関する要望書を文科省へ提出しました。 ■香りの強い柔軟剤と健康被害の増加 近年、特に香りの強い柔軟剤の発売以後、洗剤や洗濯・乾燥時用着香剤、衣類用芳香消臭スプレー、シャンプー、リンスなど香りの強い着香製品が増加し、日常的に香料に曝されるようになってしまいました。 健康被害を受ける人も増加、消費者庁・国民生活センター事故情報データバンク(http://www.jikojoho.go.jp/ai_national/)でも、「柔軟剤」や「芳香剤」等による健康被害の訴えが数多く報告されています。6月の環境省クールビズ芳香製品推奨撤回の報道後、柔軟剤による体調不良や健康被害に関する新聞報道も続きました。 9月19日には国民生活センターが報道発表で、「柔軟仕上げ剤」に関する危害相談件数の急増を報告、消費者に注意喚起し、業界にも「商品の注意表示や啓発活動など周囲への配慮を促す取り組み」を求めました。 センターの商品テストでは洗濯物を干した室内空気中の揮発性有機化合物(VOC)を分析、いくつかの成分は香料原料や香料の溶剤として使われる化学物質と推定され、総揮発性有機化合物(TVOC)の室内濃度上昇分は、強い芳香の製品が、柔軟剤不使用の場合や微香の製品より3.5倍から7倍も高く、最も濃度が上昇した製品では、一定の換気率で干してから1時間後の上昇分が140μg/ m3と厚労省の定める室内濃度暫定目標値400μg/m3の3分の1を超えていました。 ■教室で授業を受けられない、登校できない 当会が香料への暴露体験事例を募集したところ、約3週間で47もの事例が集まりました。学校でのさまざまな香料暴露に苦しむ子どもたちの声がありました。 小学生の頃から洗剤や色々な香料入り製品の匂いに敏感で、頭痛、眠気、身体がだるくなり、先生の化粧品やリンス、衣服の洗剤等の香料も頭が痛くなるという子や、周りの人の服の柔軟剤等の香りで気分が悪く、体がだるくなり、頭痛、不眠、頻尿などの症状に苦しみ、次々と頭痛を起こす物が増えていったという子がいます。2人とも中学進学後、同級生が部活の朝練習後に使用する制汗剤や全身ローションの香りに頭痛がする、頭痛や気分が悪くなる日が増えたと訴えています。 ある高校生は、クーラー使用のため窓が閉め切られるようになると、頭痛、倦怠感、リンパ腺の腫れなどの症状が顕著になり、教室にいられる時間が少なくなって、大学進学を考えて勉強したいと進んだ高校で、授業が思うように受けられなくなりました。 別の十代の青年は、小学4年で化学物質過敏症と診断を受けて以来、登校をあきらめ、自宅での自学自習を続けていますが、近くの小学校での行事参加者の香料入り製品で体調不良になり、強い眠気、倦怠感、食欲不振、鼻血、自律神経失調症、平衡感覚異常等に一週間くらい悩まされるといいます。 ■新聞報道でも−香料暴露で重症化も 岩手県のシックスクール事故で発症、重症化したある生徒は、頭痛や疲労感、息苦しさで一日の最後の授業まで受けることが難しく、中学校では、制汗剤に暴露して強い頭痛や吐き気に苦しむ、冬期に暖房が稼働されると洗剤や柔軟剤の化学物質が揮発するようになって登校できなくなるそうです。 香料暴露で重症化した深刻な事例もあります。教師の整髪料や生徒の制汗剤、机にかけられた香水、来校した卒業生の香水など、香料や香水に繰り返し暴露し、寝たきりになるほど重症化してしまった加古川市の中学生は、喘息症状の出現など徐々に悪化の経過をたどっていますが、学校は適切な対応で生徒を保護することができませんでした。 ■香料は業界自主基準のみで安全か? 香料は、10種から数百種もの物質を混合、溶剤も添加されて作られています。香料にはアレルゲンとなる物質が多く皮膚炎や喘息を誘発し、また偏頭痛を誘発する他、神経毒性や内分泌かく乱作用、変異原性、発がん性、発がん促進作用や異物排出能力阻害作用などを有するものがあります。 シャンプー等製品含有量は0.1〜1%程度でもアレルギー性接触皮膚炎を頻繁に起こす香料や天然香料でも陽性率の高い香料があるのに、日本では、製品表示は「香料」と一括表示で成分を明示しなくてもよく、安全性は業界の自主基準のみで、明確な規制がありません。また、香料は、空気中のガス状や浮遊微粒子状のアレルゲンとなる可能性もあり、気散した成分は呼吸でも体内に取り込まれるのに、成分の吸入毒性についてほとんど検討されていません。 ■EUの規制と海外の香料自粛の取り組み EU(欧州連合)では「化粧品規則」により、香料について26種をアレルギー物質として、製品ラベルへの表示を義務化しています。欧州委員会消費者安全科学委員会は意見書でさらに101の物質の表示義務化や12物質の配合率を0.01%以下とすること等を提言しています。 また、米国でも着香製品による健康被害が深刻化、各地で自治体職員や職場の香料禁止や自粛の方針に取り組む自治体が増えてきました。カナダのノバスコシア州では、州都ハリファックス地域都市が無香料の啓発プログラムを実施、香料不使用の方針を市の職場から公共スペースに拡大して、学校や図書館、バスでの着香製品の自粛を推進、この取り組みは州にも拡がっています。 ■今苦しんでいる子ども達の救済と予防を 学校での香料暴露に苦しむ子どもたちがいます。喘息やアレルギーの子どもたちも増えています。子どもは化学物質への感受性が高く、香料の健康影響の懸念はすべての子どもたちの健康にかかわる問題です。 国は野放しになって氾濫している香料の規制に取り組むべきですが、すぐには実現しません。周囲への配慮を促す啓発も必要で、文科省には学校等における香料自粛の取り組みを進めていただきたいと思います。 −学校等における香料自粛に関する要望− (略)学校等においても、香料によって引き起こされる様々な症状に苦しむ児童生徒等や保護者の多くが、問題の解決に多大な困難を感じています。憲法第25条1項の「生存権」や、憲法第13条に規定される「幸福追求権」、教育基本法第4条「教育を受ける権利」が侵害されてしまう深刻な事例もあります。 どうか、安全で健康を脅かされることなく、能力の発達に応じた教育を受けられるはずの学校で、香料に暴露して健康を害され、望む教育が受けられなくなってしまうような現状をこのまま放置しないでください。(略) 記 1.以下の内容について、各自治体の教育委員会にご指導ください。その際、基準またはポスター案などの参考を例示してください。 (1)学校等で働く教員や職員等学校関係者、また児童生徒等および保護者に、強い香りの着香製品の使用を自粛するように呼びかけてください。その際、アレルギーや喘息の児童生徒が増えていることや、学校は強い香りの香粧品をつけてくるような場所ではないことなども伝えて、特に化学物質過敏症やアレルギーなど配慮が必要な児童生徒が在籍している場合は、当該児童生徒への配慮だけを強調するのではなく、いじめなどの2次的被害が生じないようにしてください。 (2)添付資料のポスター要望案(生徒向けおよび保護者向け)をもとに「香料自粛のお願い」のポスターを作成し、学校等の校舎内、玄関、行事案内立て看板等に掲示して関係者に啓発をはかるとともに、年度初めに保護者向けポスターの内容をチラシ(ポスター縮小版)として配布してください。また、行事の案内文書に来校(園)時の注意事項として香料自粛の配慮を求める文を記載してください。 (3)児童生徒等に、現実に香料暴露による被害者がいることや、香料暴露によるさまざまな健康被害の可能性についても啓発してください。 (4)学校等や都道府県および市町村教育委員会のホームページを通じて、学校等における香料自粛について啓発してください。 (5)学校等では、芳香剤や、清掃業務において香料を含む製品を使用しないでください。 (6)教室内に香料臭が充満することがないよう、普段から空気質に配慮し、冷暖房の使用中も換気に留意するなど、毎日の換気を徹底してください。また、児童生徒等にも、保健だより等で換気をしない場合の室内空気汚染のリスクや換気の必要性等の情報を伝えて、季節を問わず換気の励行を呼びかけてください。 (7)入学試験や部活動の大会等においても、関係者や参加者に、強い香りの着香製品等の使用を自粛するように参加案内文書等で呼びかけてください。 2.参考資料「健康的な学習環境の維持管理のために」を各学校等に改めて周知徹底してください。また、参考資料を改訂し、建材や家具、備品だけでなく、個人使用の香料の問題性や健康影響について明記してください。 3.学校等における香料暴露と健康被害の問題について、保護者、児童、教職員へのアンケート、聞き取り調査を行ってください。 以上 |