ピコ通信/第162号
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平成22年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告
相変わらずつづく家庭内の化学製品による事故 昨年末、厚労省は「平成22年度家庭用品等に係る健康被害病院モニター報告」を発表しました。毎年年末に発表される報告は、皮膚科(皮膚障害 8病院)、小児科(誤飲事故 7病院)と(財)日本中毒情報センター(吸入事故)が協力して行われています。報告の概要は ・皮膚障害は、装飾品(金属製)が38件と最も多く報告されました。 ・小児の誤飲事故は、タバコが130件と32年連続で最も多く報告されました。 ・吸入事故等は、殺虫剤が252件、洗浄剤が156件報告されました。 と、例年と同じ傾向が見られましたが、内容を少し詳しく紹介したいと思います。 ■全体の概要 平成22年度に報告された事例の件数は、合計1,480件(前年度1,523件)でした。 図 報告件数年度推移(平成12年度〜平成22年度)
全体数はあまり変わらず、吸引事故が増加、小児誤飲事故は減少(小児数が減少しているので、単純には比較できない)、皮膚障害は横ばいであることがわかります。 ■皮膚障害 全事例数は108例(133件 原因物質複数例含む)種別で見ると、「装飾品」が38件(28.6%)で最も多く、次いで「洗剤」が13件(9.8%)、「時計」及び「ビューラー(まつ毛をカールさせる器具)」が7件(5.3%)、「下着」、「くつした」、「履き物」及び「接着剤」が各5件(3.8%)、「時計バンド」及び「ベルト」が各4件(3.0%)の順でした。装飾品はここ数年増加傾向にあり、洗剤は減少しています。 原因製品については金属製のものが多く、44例について、金属に関するパッチテストが施行され、反応があった金属は多い順にニッケルが28例、コバルトが16例、パラジウムが8件でした。 事例1【原因製品:ピアス】 患者:23歳 女性 症状:21歳の時にネックレスで接触皮膚炎の既往あり。初診日の1年前に両耳にピアスの穴をあけた。初診日の1週間前から左耳に痒み・落屑・紅斑が出現した。 障害の種類:アレルギー性接触皮膚炎。 パッチテスト:コバルト(+)、ニッケル(+)。 治療・処置 シリコンピアスに変更、ステロイド薬外用、抗アレルギー薬・抗生剤内服。 転帰:軽快。 事例2【原因製品:洗剤(洗濯用)】 患者: 32歳 女性。 症状:初診日の2、3、7ヶ月前に洗濯用洗剤で手に痒みが出現し、徐々に増悪した。 障害の種類:刺激性接触皮膚炎。 パッチテスト:使用した洗剤(100倍希釈)(−)。 治療・処置:手袋をして洗剤との接触を回避し、保護剤を外用しているが軽快しない。 転帰:不変。 事例3【原因製品:ネイルアートの材料】 患者:37歳 女性。 症状:2年前からアクリル化合物を含有するネイルジェルを使用するようになる。初診日の3ヶ月前からネイルアートをするたびに1週間程度両手が赤く腫れ上がるようになった。 障害の種類:刺激性接触皮膚炎。 パッチテスト:実施できず、原因不明。 治療・処置:ステロイド薬外用。 転帰:軽快。 事例4【原因製品:芳香消臭剤・アロマ入りろうそく】 患者:41歳 女性。 症状:初診日の2ヶ月前から多数のアロマ入り製品を使用するようになり、足を除く全身に痒み・紅斑が出現するようになった。 障害の種類:アレルギー性接触皮膚炎。 パッチテスト:ゲラニウムオイル(+)、ラベンダーオイル(+)。 治療・処置:ステロイド薬外用、抗アレルギー薬内服。 転帰:軽快。 ■小児の誤飲事故 全事例数は377件。原因製品としては、「タバコ」が130件(34.5%)で最多。次いで「医薬品・医薬部外品」が64件(17.0%)、「玩具」が34件(9.0%)、「プラスチック製品」が25件(6.6%)、「金属製品」が22件(5.8%)、「洗剤類」が18件(4.8%)、「化粧品」が16件(4.2%)、「硬貨」が14件(3.7%)、「電池」が9件(2.4%)、「食品類」が7件(1.9%)でした。タバコが毎年、突出して多い。死亡例はありませんでしたが、入院、転科、転院が19件ありました。 医薬品類の誤飲は、入院に及ぶような重篤な障害をもたらすおそれがあるため、医薬品等の保管及び管理には細心の注意が必要です。 (事例省略) 参考:国立保健医療科学院「子供に安全をプレゼント〜事故防止支援サイト」 (窒息時の応急方法等) http://www.niph.go.jp/soshiki/shogai/jikoboshi/index.html ■吸入事故 全事例数は970件。種別で見ると、前年度と同様、殺虫剤(医薬品等を含む)の報告件数が最も多く、252件(26.0%)でした。次いで洗浄剤(住宅用・家具用)156件(16.1%)、漂白剤83件(8.6%)、芳香・消臭・脱臭剤81件(8.4%)、園芸用殺虫・殺菌剤43件(4.4%)、洗剤(洗濯用・台所用) 36件(3.7%)、除菌剤23件(2.4%)、消火剤22件(2.3%)、灯油22件(2.3%)、除草剤21件(2.2%)、乾燥剤21件(2.2%)の順でした。 製品の形態別の事例数では、「スプレー式」が408件(42.1%)(そのうちエアゾールが228件、ポンプ式が180件)、「液体」293件(30.2%)、「固形」108件(11.1%)、「粉末状」78件(8.0%)、「蒸散型」※69件(7.1%)、その他7件、不明が7件でした。 ※閉鎖空間等において、1回の動作で容器内の製剤全量を強制的に蒸散させるタイプの製品。くん煙剤(水による加熱蒸散タイプを含む)、全量噴射型エアゾール等が該当する。 ▼殺虫剤・防虫剤 殺虫剤・防虫剤に関する事例は271件で、殺虫剤が252件、防虫剤は19件でした。 一度の噴射で長時間効果が持続するバリアー用エアゾール(ワンプッシュ蚊取り等)の報告件数が26件と、平成21年度(9件)と比較して約3倍に増加しています。 事例1 【原因製品:ピレスロイド系殺虫剤(1回使い切りタイプ)】 患者:40歳 女性。 状況: 全量噴射型エアゾール式の殺虫剤を、普通の殺虫スプレーと勘違いし、手に持ったままスプレーしてしまった。約1分後に間違いに気付き、噴射を止めたが、40cmの至近距離で吸入した。 症状:咳、嘔気、嘔吐、頭痛、咽頭発赤(2時間後には改善傾向)。 処置・転帰 :室内の換気、外来で処置(輸液)。 事例2 【原因製品:ピレスロイド系殺虫剤(スプレータイプ、バリアー用エアゾール)】 患者:2歳 男児。 状況:子どもが、ワンプッシュ式蚊取りを何度もスプレーし、症状が出現した。 症状:咳込み(10分後に改善傾向)、嘔吐、眼の充血。 処置・転帰:水洗。転帰:不明。 事例3 【原因製品:有機リン含有殺虫剤(蒸散タイプ)】 患者:27歳 女性。 状況:吊り下げ式の殺虫剤を、台所のゴミ箱のフタの内側に貼った。その後症状が出現したため、設置場所を屋外に変更した。居室に設置してはいけないことは知っていたが、効果が低そうだったのでゴミ箱に設置した。 症状:動悸、悪心、悪寒(悪寒は当日、その他は翌日に出現、2日後には改善)。 処置・転帰:家庭内で経過観察。 事例4 【原因製品:防虫剤(ナフタリン)】 患者:36歳 男性。 状況:3ヵ月前にダニが発生したので部屋に防虫剤を300gまいた。臭いがきつかったため、当日に半分取り除いたが、やはり臭いがきつく1週間後に全部取り除いた。その後も臭いが続くため2週間前に畳を上げたところ、たたみの下の板にも臭いがしみ付いていた。 症状:喉の痛み。 処置・転帰:室内の換気。 転帰:不明。 ▼洗浄剤(住宅用・家具用)、洗剤(洗濯用・台所用) 洗浄剤及び洗剤に関する事例は192件。そのうち、洗浄剤に関する事例は156件、洗剤に関する事例は36件でした。 成分で最も多いのは、次亜塩素酸ナトリウムを含有する塩素系の製品によるもの(93件)であり、製品形態で多いのはポンプ式スプレー製品(99件)でした。 事例1 【原因製品:カビ取り用洗浄剤(塩素系)】 患者:76歳 女性。 状況:気管支喘息のある患者が、清掃作業中に業務用の塩素系カビ取り用洗浄剤のフタを開けた。ガスを吸入し、症状が出現した。 症状:喘息発作、一時呼吸停止、湿性ラ音、低酸素血症、頻脈、意識障害。 処置・転帰:輸液、ステロイド投与(入院6日)。 事例2 【原因製品:カビ取り用洗浄剤(塩素系)】 患者:3歳 男児。 状況:塩素系カビ取り用洗浄剤のスプレー容器がなかったため、付替え用ボトルの内容物を1本分、浴室内にかけた。1時間後に水で流し、浴室は終日換気したが、5時間以上経っても臭いが残っており、入浴した子どもに症状が出現した。 症状:発熱(翌日には解熱)。 処置・転帰:外来受診(経過観察)。 漂白剤:省略 ▼芳香・消臭・脱臭剤 芳香・消臭・脱臭剤に関する事例は81件でした。 本製品に特徴的な形態として自動噴射する設置型芳香剤がありますが、人が近くにいる時に突然噴射する事例や、カートリッジや電池の交換時など、想定しない状況で噴射する事例が今年も報告されています。 事例1 【原因製品:芳香・消臭・脱臭剤(自動噴射型エアゾール)】 患者:3歳 女児 状況 自動噴射型エアゾール式の消臭剤を子どもが上から覗き込んでいたときに、自動でスプレーされ、眼に入った。 症状:眼の痛み(洗眼後に改善)。 処置・転帰:洗眼。 転帰:不明。 ▼園芸用殺虫・殺菌剤等 園芸用殺虫・殺菌剤等に関する事例は67件。成分別では有機リン含有剤が22件、グリホサート含有剤は10件、ピレスロイド含有剤は12件でした。 事例1 【原因製品:有機リン系園芸用殺虫殺菌剤(粉末・顆粒タイプ)】 患者:50歳 女性。 状況:殺虫剤と殺菌剤の希釈液5Lを、電動の噴霧器で庭のバラに散布した。保護具は着用していなかった。直後より症状が出現し、翌日に医療機関で受診した。 症状:当日:下痢、頭痛、手のしびれ、筋肉痛、発熱 翌日:発熱、筋力低下、縮瞳 (第5病日、頭痛、下痢以外は改善)。処置・転帰:外来受診(4日、内服薬処方)。 ▼除菌剤 主に除菌をうたった製品に関する事例は23件。 事例1 【原因製品:安定化二酸化塩素含有除菌剤(スプレータイプ)】 患者:年齢不明 女性。 状況:エアゾール式の除菌剤をスプレーした際、薬剤が眼に入り、症状が出現した。 症状:眼の痛み(2日後も持続)。 処置:洗眼。転帰:不明。 事例2 【原因製品:次亜塩素酸含有除菌剤(スプレータイプ)/アルコール系芳香・消臭・脱臭剤(スプレータイプ)】 患者:38歳 女性。状況:車内で、ポンプ式スプレータイプの除菌剤と消臭剤を大量に使用した。2名が車内にいたが、スプレーした本人のみ症状が出現した。 症状:悪心、めまい(しばらくして改善)。 処置・転帰:家庭内で経過観察。 防水スプレー:省略 参考: 家庭用品等による急性中毒等の情報(財団法人日本中毒情報センター) http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf 厚労省は「正しく使うことで事故は防げる」というのが基本的立場です。大量に撒いた、子どもの手の届くところに置いたなど、"正しくない"使い方、管理例が多く見られますが、そうではない事故例も多々見受けられます。 そもそも、家庭の中に危険な毒物を当たり前に置くことをやめなければなりません。そのためには、製品のマイナス情報をきちんと提供し、危ない製品は規制するべきです。「適切に使えばだいじょうぶ」という考えは、行政もメーカーも消費者もやめるべきです。 スプレー型の事故が増えています。吸入は危険です。"何でもかんでもスプレー"はやめましょう。 1回プッシュで長時間持続、自動噴射型、全量噴射型など、便利さを過剰に求める製品はメーカーはやめてほしいし、消費者は安易に買わないことです。(安間節子) |