ピコ通信/第141号
発行日2010年5月24日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 国際NGOsがEPA長官へ手紙 メキシコ湾の原油流出汚染の修復のためのナノ使用に反対
  2. 千葉市等行政施設における農薬等の使用実態報告
    有害化学物質から子どもの健康を守る千葉県ネットワーク 事務局長 半澤勝男
  3. シロアリ防除処理と住環境の農薬汚染
    荒川民雄 (NPO法人ホウ素系木材保存剤普及協会)
  4. 調べてみよう家庭用品(35) 食用色素(着色料)
  5. 海外情報:子どもの注意欠陥多動症(ADHD)は有機リン系農薬と関係がある
  6. 海外情報:電子産業は臭素化難燃剤や塩ビから離れつつある
  7. 環境問題の動き
  8. お知らせ・編集後記


2010年5月21日
国際NGOsがEPA長官へ手紙
メキシコ湾の原油流出汚染の修復のための
ナノ使用に反対


 4月20日に起きた英石油メジャーBPのメキシコ湾沖(米ルイジアナ州)の石油掘削施設の事故により大量の原油が流出していますが、その汚染修復のために、米グリーン・アース・テクノロジー社が工業用ナノ粒子からなる分散剤を大量にメキシコ湾に撒くことについて米EPAに承認を求めようとしています。
 これに関し、米環境団体FoE(地球の友)を中心に、当研究会を含むナノの問題に取り組んでいる世界のNGO 16団体が連名で5月21日付けのレターを米環境保護庁長官に提出しました(編集注1)。
 この事故は2010年4月20日に、米ルイジアナ州のメキシコ湾沖合80kmで操業中のBPの石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」の爆発で、海底約1.5kmの掘削パイプが折れて海底油田から大量の原油がメキシコ湾全体へ流出したというものです。
 5月21日のCNNによれば、BPは流出元となっている油田のパイプにチューブをつないで原油を吸い上げる作業を実施しており、この作業で日量約5000バレル(約80万リットル)の原油を回収しているが、当初の予想を大幅に上回る量の原油が流出しているとしています。BPは、回収されずに流出を続けている原油がどの位の量になるのかは明らかにしていませんが、世界最大級の海洋汚染をもたらしていると言われています。また分散剤の大量散布による二次汚染が懸念されています。

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2010年5月21日
米環境保護庁長官 リサ・ジャクソン殿
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親愛なるジャクソン長官

 最近、メキシコ湾で起きた原油流出事故による汚染を修復するために、グリーン・アース・テクノロジー社が大量の工業用ナノ粒子をメキシコ湾に撒くことについてEPAの承認を求めようとしていることが私たちの注意を引いています。ナノテクノロジーにより作り出された"完全にグリーン"な製品を売っていると主張するこの営利会社は、メキシコ湾における英メジャー(国際石油資本)BP社の石油採掘施設の油流出事故の影響を受けた地域に、G-Marine Fuel Spill Clean-UP!/G・マリーン漏洩油浄化!油分散剤(ナノ乳化テクノロジー)を陸上及び水中に撒き散らすことを望んでいます。

 末尾に記した私達NGOは、EPAがナノスケール化学物質、すなわち100ナノメートル(nm)以下の化学物質(同社は彼らの製品は1〜4nmの粒子からなると主張している)を環境中に放出しようとする今回及びその他の同様なプロジェクトを承認しないよう要請します。工業用ナノ粒子はヒト、哺乳類、そして水生生物に有毒であることが示されています。

 私たちは油流出により及ぼされたとてつもない難題を理解しています。しかし、二つの汚染はともに正当化することができません。更なる汚染を放出することにより、この危機的な状況をさらに悪化させることは、特にナノ粒子はいったん環境中に放出されると回収することができないことを考えれば、許されるべきではありません。私たちはこの危険な実験に完全に反対します。

 私たちは、"ナノ乳化テクノロジー"で使用されている今回のナノ粒子について正確には知っていません。それはこの情報は同社の企業秘密であるとされているからです。しかし、私たちはナノスケールで製造されるほとんどの化学物質は、独自で潜在的な有毒性を持っていることを知っています。
 ナノスケールからもたらされるいくつかの新たな特性は望ましいかもしれませんが、このスケールの物質はまた新たな毒性学的リスクをもたらすことがあります。ナノ粒子は単位重量当たり非常に大きな表面積を持ち、このことは同じ化学的成分からなるより大きな粒子に比べて、より大きな化学的反応性、生物学的活性、及び触媒的作用をもたらします。

 残念ながらナノ物質の大きな化学的反応性と生物学的利用能はまた、大きな同一成分粒子に比べてナノ粒子の単位重量当たりの毒性をより大きくします。毒性に影響を与えるナノ物質のその他の特性には、化学的成分、形状、表面構造、表面電荷、触媒的作用、凝集化又は脱凝集化の程度、そしてそのナノ物質に添加される他の化学物質の有無などがあります。

 また、工業用ナノ粒子が食物連鎖に入り込んで小さな生物から大きな生物へ移動することができることを示す科学的な証拠があります。このことは工業用ナノ粒子の有毒性が動物の食物連鎖中で蓄積する可能性があることを意味します。さらなる研究が工業用ナノ粒子は環境中の重要な微生物にダメージを与えることがあることを示しており、これは生態系や下水処理に役立つ微生物に影響を与えることがあることを意味します。魚類や無脊椎動物に低濃度で有害であることを示す証拠が報告されています。微生物と植物への生態毒性影響も多くの研究で報告されています。

 特に、ナノ粒子はゼブラフィッシュ、ミジンコ、藻類、無脊椎動物、ニジマスなどの水生生物に有毒です。その他のナノ粒子はミミズや重要な作物にも有毒であることを示しています。あるナノ粒子は、生命の根幹であるDNAを損傷することが発見されています。このような結果をもたらす潜在的な問題が報告されているのだから、これらの工業的ナノ粒子の広範な散布に対しては予防的アプローチをとることが自然な対応であるように見えます。
 私たちは、EPAがメキシコ湾における流出油の浄化のためのこのプロジェクトに反対し、真に環境的に安全な方法を求めることを希望します。

(賛同16団体。本稿では氏名は省略)
▽Beyond Pesticides▽Center for Environmental Health▽Citizens Against Chemicals Pollution(化学物質問題市民研究会)▽ETC Group▽Food and Water Watch▽Friends of the Earth▽GE Free Latin America▽Institute for Agriculture and Trade Policy▽Madison Environmental Justice Organization▽Nanotechnology Citizen Engagement Organization▽Oilwatch▽The Edmonds Institute▽The International Center for Technology Assessment▽The Loka Institute▽Renanosoma▽Toxisphera

■米EPAの対応
 BPの油漏れ事故に対して米EPAは専用のウェブページを立ち上げ、その状況とEPAの対応を逐次、発表しています。
http://www.epa.gov/bpspill/
 5月20日には、分散剤(dispersant)による汚染を監視するために、"分散剤監視評価指令"を出しました。同日のプレスリリースでは、BPは毒性の低い分散剤を使用するよう求めています。

■G.E.T.社のアピール
G-Marine Fuel Spill Clean-UP!/G・マリーン漏洩油浄化!油分散剤(ナノ乳状テクノロジー)
 グリーン・アース・テクノロジー(G.E.T)社は、この油漏れ事故にナノテクノロジーを使用した分散剤により対応できると、次のようにアピールしています。
 G.E.T. PRODUCT G-MARINE Fuel Spill Clean-UP! は植物由来成分、水ベース成分、生物分解性成分の独自の混合物であり、素早く乳化し、漏洩した燃料や油を包み込む。これらの植物由来の成分はコロイド状のミセル(訳注:界面活性剤が集合した構造体。外側が親水で内側が疎水)を形成するよう作られており、その微小粒子(1〜4 ナノメートル)はオイルやグリース中の長鎖ハイドロカーボン結合に浸透してそれらを分解することができ、水と混ぜるとそれらをコロイド状懸濁液中に保持することができる。オイルがナノ・コロイド状懸濁液中に浮遊すると逆エマルジョンは起こらず、オイルは水溶性になり、水中のバクテリアによって分解される。この分散剤は米労働安全衛生局(OSHA)基準CFR-1910 1200 に基づく取引秘密によって保護されている。成分リストは米EPAによって受理されており、OSHAによる有害であるとみなされる成分は含んでいない。
(安間 武)



編集注1:オリジナルレター
Letter to EPA re use of nano for oil spill clean-up, May 21, 2010

関連情報


千葉市等行政施設における
農薬等の使用実態報告

有害化学物質から子どもの健康を守る千葉県ネットワーク
事務局長 半澤勝男


今年3月、千葉市等千葉県内22市町の行政施設における農薬等化学物質使用状況の調査報告書をまとめました。
 この調査のキッカケは、街路樹や畑に農薬が散布されて苦しんでいる化学物質過敏症の患者の会員が、市役所に規制してほしいと申し入れてもなかなか対応してくれない現状がありました。また、農薬散布の仕方も国の通知やマニュアルを無視した散布になっていることが明らかでした。この状態は他の自冶体も同じではないかと考えました。そこで現状を調査し、そのデータをもとに行政に働きかけていくことにしました。
 調査の結果、国の通知やマニュアルなどが現場に届いていない所が多いこと、相変わらず薬剤の定期散布が続けられていること、市民による活動があるところでは適切な対策がとられていた事などが判明しました。また、自治体は国から法律や通知などで指導がされても、実施状況について検証されるシステムが無いと「通知」などの実効性がないことをあらためて知らされました。

■調査の方法
 調査方法は県内の京葉地区22市町を選び出し、アンケート形式で回答を求めることにしました。依頼文書は「行政施設での化学物質使用状況調査」として首長あてに送付しました。
 調査依頼事項は @調査年度:平成19年度、20年度の2ケ年度のデータ、A調査物質:殺虫・殺菌剤、除草剤などの農薬、芳香剤、漂白剤、消毒剤、床ワックなど、B調査項目:施設ごとに、商品名、薬剤名、使用倍率、使用量(別紙記入用紙)、C事前広報の有無、D調査対象施設:市有の全施設と公園・街路樹。
 調査依頼した22市町で担当した組織は、環境保全課が7ケ所、管財・契約課が5ケ所、総務・広報課が4ケ所、地域・市民課が2ケ所、保健・子ども課が4ケ所とバラバラでした。環境部局が担当していたのは7市だけでした。
 行政の環境対策が形式的、問題意識が希薄で、対策が不充分な状態にあることが白日にさらされる結果になっています。この環境の中で、環境省・農林省の通知が出先機関に届いていないのは当然でした。

■調査の経過
 このように市町がバラバラの体制の状態のため、調査データの回収も期待通りには進みませんでした。6月に調査を依頼して、回答回収は11月までの半年も要しました(1市からは回答なし)。当会の調査依頼を受けた市町は、初めて全施設のデータ集約をしたところが多数ではないかと推測されます。
 農薬等の散布にあたって「害虫の生息調査」をして、より毒性の低い薬剤を使用していた市をみると、そこには当会の会員が活動していました。これまでに繰り返し行政に働きかける活動があった市でした。この調査活動を通して、市民の活動の大切さを再確認しました。
 この調査は、大野博美千葉県議(市民ネットワーク千葉県)の政務調査費による委託事業として取り組みました。当会の会員が、調査データをPC入力するボランテイア作業で完成させました。この成果を、3月25日に県庁記者室で記者会見して発表しました。続いて、22市町などに「報告書」を発送しました。今後はさらにデータの補強をして2版目の発行を準備していきます。
 調査報告書の構成は以下です。
 1. 化学物質等の薬剤別・施設別使用の概要について
 2. 各市町の特徴と問題点の総括表
 3. 各市町の使用状況について
 4. 千葉市回答内容とその問題点
 5. 薬剤別の使用個所の調査について
 6. 施設別に使用される薬剤の調査について
 7. <参考>農薬等化学物質の毒性

■調査結果の概要
◆公園・街路樹
 公園や街路樹においては農林省と環境省連名の通知「住宅地等における農薬使用について」と環境省「公園・街路樹等病害虫・雑草管理マニュアル」が適用される。通知には定期的散布の中止、物理的防除の優先、万が一、農薬を使用する場合においても誘殺・塗布・樹幹注入などと散布以外の方法を検討すること、人体への危険性が高い有機リン農薬の混合散布の禁止、農薬散布する地域周辺の住民への十分な事前周知などが求められている。
 しかし、今回のアンケートにおいては、H19年とH20年ともに同量を同数回散布しているケース、有機リンの混合を散布しているケース、またその疑いのあるケース、周辺住民への事前広報がされていないケースがある。
 また、多くの子どもが頻繁に利用する公園において、パラコートやTPNなどの危険性の高い農薬が散布されているケースもある。
 一方、流山市と成田市の公園や八千代市の街路樹には、セルコートアグリやBT剤といった人体に比較的安全なものを使用し、公園では物理的防除により農薬散布をおこなっておらず評価できる。

◆保育園・幼稚園
 03年に改正された「建築物衛生法」では、6ケ月以内ごとに1回、ネズミ等の生息調査を行い、その調査結果に基づきネズミ等の発生を防止するための措置を講ずること、また、殺鼠剤および殺虫剤の乱用や不適切な使用をやめることとなっている。
 また、厚労省が作成した「建築物における維持管理マニュアル」においては、人の健康に対するリスクと環境への負荷を最小限にとどめるような方法で、環境基準を目標に有害生物を制御し、そのレベルを維持する有害生物の管理対策を求めて事前に害虫の生息調査をすること、薬剤を使用する場合でも処理前後に少なくとも3日間はその旨を掲示すること、また、日常的に乳幼児がいる区域については、薬剤による処理を避けることとなっている。
 しかしながら、定期的に有機リン等の薬剤を保育室に使用しているケースがある。
 園庭樹木への散布は、公園・街路樹と同様に事前周知のないもの、各所、毎年、同量を散布しているケースが見受けられた。散布している薬剤も有機リン系殺虫剤が多く、子どもへの影響が懸念される。
 また、園庭に除草剤(グルホシサート)を使用しているケースがある。このグルホシネートはPRTR法第1種指定の化学物質であり、内分泌系に影響を与えることが疑われている危険な薬剤である。
 柏市は園庭樹木への薬剤をBT剤に、八千代市はセルコートに変えていることは評価できる。

◆小中学校
<校舎内>
 トイレにパラジクロロベンゼンが使用されているケースがあるが、これは[学校安全衛生の基準]で室内空気濃度に規制値がある物質であり、常温で成分が揮発し、発がん性の疑われている物質で危険である。埼玉県や愛知県では県の通知でその使用を禁止している。

<給食室・給食施設>
 「虫コナーズ」などの常時殺虫成分が揮発するタイプのものが使用されているケースがあり、調理・配膳をする場所では、その成分が食品に移行する事が考えられ危険である。「バルサン」などの薫煙タイプのものは、使用後の残留性が懸念される。その他にもスミチオンなどの有機リン系殺虫剤が使用されているケースが多く危険である。
 給食室・給食施設においては、定期的な薬剤散布に頼るのではなく、IPMによる総合的防除を積極的に取り入れるべきである。

<校庭>
 樹木や花壇に、多種多様の農薬が使用されている。有機リン系農薬だけでなく、殺菌剤(TPN)を含むものや除草剤、カーバメイト系農薬なども使用されており、周知の有無が分からないケースや周知されていないケースもある。
 我孫子市、柏市、八千代市ではセルコートアグリを散布していて、評価できる。

 文科省の「学校環境衛生管理マニュアル」には衛生害虫だけでなく、樹木の害虫駆除についても、生息状況を調査すること、発生を見た場合、安易に薬剤による駆除は行わないこと、薬剤による駆除をせざるを得ない場合にあっても、児童生徒等の健康および周辺環境に影響が無いように薬剤の残留性等の性質や毒性等、特徴をあらかじめ確認した上で、休日や夏休み等の長期休暇時に駆除を行う等の配慮が必要である、と記載されている。これを周知徹底すべきである。

◆屋外スポーツ施設
 屋外スポーツ施設は多くの市民が利用する場所であるにもかかわらず、危険な薬剤を広報もなく何回も散布しているケースが目立つ。特に千葉市のデータについては、すべての施設に同じ薬剤が定期的に同量散布されていたことは危険であり、問題である。他の多くの市町のデータが欠落していて、判断できていない。

■今後の取り組み
 今後は、@有害な化学物質使用の現状を自治体に警告し、A自治体職員と連携して、保育園、幼稚園、学校、市民が多く集う施設での環境保全対策の確立を目指して活動に取り組んで行く予定です。



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