ピコ通信/第133号 発行日:2009年9月25日 発行者:化学物質問題市民研究会 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ |
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タイNGOからのメッセージ
水俣病の真の解決こそアジアの願い 市民の力で環境と健康を尊ぶ政府と社会を ペンチョム・セータン さん NGO「タイ環境回復と啓発」(EARTH)代表) English version of this article このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tsuushin/tsuushin_09/pico_133_Minamata_Thai.html 水俣病特別措置法案として、今国会に提出されたチッソ分社化法案は、7月3日衆議院環境委員会及び本会議で一切の審議もなく、可決されました。これについては、水俣の問題に関わってきた患者団体や支援組織は、チッソを水俣病責任から逃亡させ、国に認定基準の見直し/全て水俣病被害者への救済と補償の責任を回避させるものであるとして強く抗議しています。 このような日本政府の対応に、タイのNGOであるEARTHの研究者であり、活動家であり、2006年には研究のために水俣に3ヶ月間滞在したペンチョム・セータンさんから日本の市民にメッセージが届きましたので紹介します。尚、本稿は熊本日日新聞2009年9月23日朝刊にも掲載されました。 ペンチョム・セータンさんのメッセージ
タイ国憲法67条は、大規模開発に対して環境・健康影響の調査と事前公聴会の開催を義務付けている。ところが工場増設計画では健康調査と公聴会は実施されておらず、合同会議の決定は憲法違反である。政府が後日首相と住民の直接対話を設定することを約束し事態は一旦収拾した。 マプタプットは東南アジア最大の石油化学工業団地で、その整備には日本の政府開発援助(ODA)も多額が投じられてきた。しかし、多数の住民が環境汚染による呼吸器系疾患や白血病に苦しみ、工場増設には頑強に抵抗している。 私は、マプタプット住民の辛苦に触れるたびに、水俣病のことを思わずにはいられない。チッソの貪欲と無神経が生んだこの人類の悲劇に、私は長らく関心を抱き、奇しくも公式確認50周年にあたる2006年、現地で患者と支援者の闘いを3ヶ月にわたって調査する機会に恵まれた。チッソ水俣工場前での抗議行動の時は、チッソが密かに水俣湾にダイオキシン類を垂れ流していた件や、あらたに発見されつつあった患者に対するチッソの責任が主な課題であった。チッソ東京本社での交渉に同行した時は、対応に出た3名の職員の無関心と患者たちの憤懣が場の空気を引き裂いていた。 また、患者たちは、チッソが補償金支払い会社を設立して、水俣病の責任と負の歴史を清算しようとしていると警戒していた。 あれから3年、私は、今年7月に水俣特措法が日本の国会を通過したと聞かされた。特措法の下、チッソは事業会社を設立し、その株を売却して患者に補償金を支払う。しかし、補償が終わればチッソは消滅し、チッソの責任も消滅しかねないという。 そうなれば、水俣病はもはや歴史上の出来事となる。一方で、汚染を出した工場は残り、認定基準の見直し/全ての水俣病被害者への救済と補償の問題は未解決のまま放置される。これでは「環境対策は汚染者が負担する」という国際基準を、各方面で発展をとげた日本のような文明国が後退させることになる。 それだけではない。水俣病の経験にもかかわらず、日本は発展途上国に対して毎年150トン以上もの水銀を輸出している、アジアで唯一の水銀輸出国なのだ。事態を憂慮した日本の市民団体が、日本政府に対して、米国やEUにならった水銀輸出禁止法を定めるよう要請する声明を発した。私も署名をしたこの声明は、水銀の国内管理を提言している。 環境破壊に加担するODA、未解決の水俣病、途上国への水銀輸出に共通するのは、責任回避の姿勢である。私は、むしろ日本が、人々の健康や環境を重視していることを内外に示してほしい。日本の市民の力で、日本政府がこれらの問題を真に解決し、この分野でリーダーシップを発揮できるようにしてほしい。日本の正しい選択が、アジア全体、そして日本自身の利益になると思うからだ。 (原文タイ語) 訳:土井利幸(タイ・マヒドン大学研究員) ペンチョム・セータン NGO「タイ環境回復と啓発」(EARTH)代表。2005年度日本財団Asian Public Intellectuals(API)フェロー。EARTHは前身が1998年設立。産業公害の被害住民支援が活動目的 |