化審法の見直し論議が進んでいる
傍聴して市民の監視の目を!
国は化学物質管理政策の在り方に関し、2006年から検討委員会等で審議を行ってきました。昨年8月には、化審法と化管法見直しのための中間とりまとめが発表されました。
当会では、これまで審議の傍聴を続け、本紙でその都度報告し、パブリックコメントや意見を提出する等活動してきました。化審法については、来年度改正案を国会に提出するために、今年1月から審議が始まっています。これまでに3回審議が行われていますので、概要を報告します。
これまでの日程
- 2007年8月 中間とりまとめ公表
- 2008年1月31日 第1回化審法見直し合同委員会
- 同2月19日 第1回化審法見直し合同WG(ワーキンググループ)
- 同3月27日 第2回化審法見直し合同WG
■化審法の概要(次頁図参照)
正式名称:化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
(1)目的
難分解性であって、人の健康又は動植物の生息・生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質による環境の汚染を防止するため、事前審査制度を設け、化学物質の有する性状に応じ、必要な規制を行うこと。
(2)化審法の対象除外
- 化審法の対象外となる化学物質
放射性物質、特定毒物(毒物及び劇物取締法)、覚せい剤及び覚せい剤原料(覚せい剤取締法)、麻薬(麻薬及び向精神薬取締法)
- 特定用途に利用される場合に、化審法の主要な規定が適用されない化学物質食品、添加物、容器包装、おもちや及び洗浄剤(食品衛生法)、農薬(農薬取締法)、普通肥料(肥料取締法)、飼料及び飼料添加物(飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律)、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具(薬事法)
(3)新規化学物質の審査・判定等
- 新規化学物質を製造又は輸入しようとする者は、あらかじめ厚生労働大臣、経済産業大臣、環境大臣に届け出。
- 通常は下記の試験項目の結果を届出者が提出し、国はこれをもとに審査・判定を行う。
(試験項目)
- 微生物等による化学物質の分解度試験
- 魚介類の体内における化学物質の濃縮度試験又は 1-オクタノールと水との間の分配係数測定試験
- 細菌を用いる復帰突然変異試験、ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験、ほ乳類を用いる28日間の反復投与毒性試験
- 藻類生長阻害試験、ミジンコ急性遊泳阻害試験、魚類急性毒性試験
■化学物質のライフサイクルを通じた管理に関する国内外における動向
- 2002 年に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」において合意された化学物質管理に関する世界共有の中長期目標を踏まえ、2006 年には国際化学物質管理戦略(SAICM)が採択され、「ライフサイクルの全般を通じて化学物質の適切管理を達成し、2020 年までに化学物質が人の健康や環境への顕著な悪影響を最小限するような方法で使用され、製造されること」が包括的な目標とされた。
- こうした目標に向け、GHS(化学品の分類及び表示に関する世界調和システム)やPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)等の国際調和的な取組が進められる中、欧州におけるREACH施行など各国ごとの特徴を生かした取組も進められている。
- 我が国では、PCBと同等の性状を有する物質を規制することを目的として化審法が制定され、化学物質の製造・輸入等の段階、いわゆるサプライチェーンの川上を中心とした取組がなされるとともに、その後、化管法の制定により、サプライチェーン中の使用段階における化学物質の排出状況の把握とその削減への取組も進められてきた。
- このような中で、今後はWSSD目標の達成に向けて、ライフサイクルの全般を通じた化学物質の一層の適正管理が求められており、川上事業者のみならず、川下事業者も含め、サプライチェーン全体で各事業者が適切な化学物質管理を進めていくことが重要となっている。
■化学物質の審査・管理の在り方に関する今後の検討課題(合同WGにおける検討課題)
第1回WG
テーマ:ライフサイクルにおける使用実態を考慮した化学物質管理
WSSDの2020年目標を踏まえ、高ハザードが懸念される物質への対応を担保しつつ、今後、リスクベースでの化学物質の管理をどのように促進すべきか。そのために、サプライチェーンを通じて、どの様な情報をどの程度まで伝達させることが求められるか。
- ライフサイクルにおける使用実態を考慮した化学物質の管理体系
- サプライチェーンにおける化学物質管理のための情報伝達ツール(MSDS等)と方法論
- 高リスクのおそれのある化学物質のサプライチェーンを通じた管理(高リスクのおそれのある化学物質を含有する製品への対応含む)
- 高ハザード化学物質のエッセンシャルユースへの対応
第2回WG
テーマ:リスク評価の必要性と効率的実施方法
化審法におけるリスク評価とそのために必要となるデータ(ハザード、暴露情報)の種類及びそれらの収集方法は、国が担うべき役割(基盤整備・規制的観点を含む)を踏まえると如何にあるべきか。その場合、国際整合性や企業秘密性との関係を踏まえればどのようなデータ収集方法にすべきか。
- リスク評価の目的とその範囲、国の役割
- ハザードデータの種類(SIDS・GHS等)とその収集方法
- 製造等数量、用途・暴露情報の種類とその収集方法
- 収集したデータに関する企業秘密情報の取扱い
第3回WG
テーマ:新規化学物質審査制度等のハザード評価方法のあり方
化審法の新規化学物質審査制度(上市に際してのハザード評価方法)は、環境汚染の未然防止を図りつつ、国際整合化・合理化を図る観点からどのような問題点、改善策があるか。
- 少量新規確認制度、低生産量への特例、中間物等確認制度の在り方
- 有害性懸念の低いポリマーの審査の在り方・ハザード評価結果の開示(物質の名称公示を含む)
- 審査におけるQSAR・カテゴリーアプローチの活用
- 環境中への残留可能性に関する考え方
- ナノテク材料の取扱い
第4回WG
テーマ:今後の化学物質管理のあり方
国際的な取り組みとも調和しつつ、既存化学物質を含む市場に流通する化学物質を適切に管理するための我が国の政策はいかにあるべきか。その中で、有害性情報・曝露情報の収集も含めた国によるリスク評価・リスク管理措置を、今後、効率的かつ着実に実施していくためには、化審法が担う役割と具体的な方策(優先順位のつけ方、リスト化等)はどうあるべきか。
- 2020 年目標を踏まえたリスク評価・管理の長期的な戦略
- 既存化学物質を含む上市後化学物質のリスク評価の進め方(リスク評価の優先順位づけ、監視化学物質の位置づけの見直し、Japan チャレンジプログラムの評価・今後等)
- リスクが懸念される化学物質に対する適切なリスク管理措置
- 化学物質のリスクに関する情報の適切な提供
- 化審法と化管法との連携(管理対象物質リストの共有化、規制と自主管理のベストミックスの可能性等)
■第1回WGで出された意見(抜粋)
(1)化学物質のリスクに応じた管理体系と安全性情報の伝達
- MSDSは、化管法対象物質に加え、GHS対象物質についても対象とすべき。
- 化学物質・調剤と成形品に関する情報伝達は異なる。成形品中の化学物質は一般的にはリスクが少ないが、環境中に溶出するものは留意すべき。
- MSDSは事業者間の情報伝達だけでなく、環境汚染の観点から消費者へ広げていくべき。
- リスク管理の強化がポイントであり、どのような場合に誰がどういうリスク評価をして、リスク情報を伝えるかを議論すべき。
- 化学物質の用途については、ばく露評価ができるよう、適切なグルーピングを行い、詳しい情報の伝達が必要。
(2)高ハザード化学物質の厳格な規制
- 高ハザード物質は、現行法を維持し、入り口で取り締まるべき。
- REACHではCMR(発がん性、変異原性、生殖毒性を持つ物質)など毒性の範囲が広がっている。化審法もPBT(残留性・蓄積性・毒性)だけから変えていく必要がある。
- 第一種監視化学物質相当物質については、表示義務をかけてもよいのではないか。
(3)リスクの観点から懸念の高い化学物質の適切な管理
- 今は難分解性物質が化審法の対象となっているが、良分解でもリスクがあるものをどのように扱うか。
- 化審法の審査は水系の曝露を基本としているが、大気汚染物質についても考えるべきではないか
- 現行の第二種特定化学物質制度について、規制措置が十分であるか検討すべき。
- 規制を行うだけでなく、まずは適切な管理がなされるべき。
■第2回WGで出された意見(抜粋)
(1)化審法におけるリスク評価の目的とその実施についての考え方
- ばく露の大きさに応じてハザード情報を収集するのは合理的と考える。ただし、ハザードが強いものを規制する余地は残すべき。
- ラフなリスク評価を行った結果に基づき、化審法で厳しい措置を行うことには反対。○ ばく露情報の分析を行った後、ハザード情報を収集・分析する方が効率的。
(2)リスク評価のためのばく露関連情報の収集
- ばく露評価は類推できないので、最低限、製造・輸入量、用途情報が必要。無論、PRTR情報や環境モニタリング情報もあれば望ましい。
- 承認統計に基づく実態調査の回収率が低いのであれば、制度化するべきではないか。○ 詳細用途は企業秘密であるが、カテゴリーに分ける程度であれば提供可能。
(3)リスク評価のためのハザード情報の収集
- OECDのSIDS必須項目は初期リスク評価のためのものである。別途、長期毒性、生殖発生毒性情報を収集する枠組みが必要。
- 現在は水系のばく露を中心に評価しているが、詳細リスク評価のためには、吸入毒性等も考える必要があるのではないか。
- リスク評価を行う際にQSARを活用する方向で検討すべき。
(4)化審法におけるリスク評価の進め方
- 国が中心となってリスク評価を行い、事業者にも協力を頂くということでいい。
- すべての物質の安全性点検を行うことは無理なので、カナダのカテゴリー化のように、ばく露に基づく優先順位付けは重要と考える。
- 用途情報等の詳しいばく露情報があればより正確なリスク評価を行うことができ、不確実係数が小さくなるため、企業にもメリットがある。ハザード試験実施はお金がかかる一方、用途情報は既に企業が知っているもの。
- 既存物質情報収集のジャパンチャレンジがうまくいかないのはなぜか、それを化審法見直しで解決できるようにすべきだ。
(5)国が収集した情報に関する企業秘密の取扱い
- 安全性情報は社会で共有するべき財産であり、エンドポイントの情報や試験条件については情報公開するべき。
- REACHにおける、a)調剤の完全な組成、b)物質又は調剤の正確な使用、機能、用途、c)正確な物質又は調剤のトン数、d)製造輸入事業者と販売事業者又は川下ユーザーとのつながり、が適当ではないか。
- 正確な製造量等の公表については、独占禁止法に関する懸念がある。
- 情報公開法では「競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」は不開示とされており、それに基づいて判断すればよいと考える。
国が目論んでいる化審法見直しの要点は、以下のように思われます。
- ハザード(毒性)ベース規制からリスク(毒性×曝露)ベース管理へ。:2003年の改正で一部取り入れられたリスクベースを、基本に据えようと考えている。
- 曝露量に応じて審査の手続きを変え、効率化と事業者の負担の軽減をはかる。
- 国際的な動向への対応(サプライチェーン全体での情報の伝達と管理など)
- 事業者による自主管理、自主的リスク評価といった自主的取組を一層すすめる。
我々市民にとって歓迎すべき点は、"国際的な動向への対応"以外には見当たりません。これまで、十分ではないにしても新規物質についてはハザード規制が行われてきましたが、改定後は製造・輸入量が大量の物質以外は簡単な審査あるいは審査省略などに変わる恐れがあります。みなさんも産業界傍聴者ばかりの審議を傍聴して、市民の監視の目が光っていることを示しましょう。
今後の日程:
- 第3回WG:5月29日(木)14:00〜16:30
- 第4回WG:7月10日(木)16:00〜18:30
(安間節子)
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