ピコ通信/第108号
発行日2007年8月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. ”化管法見直し”中間とりまとめ案にパブリックコメント提出
  2. 環境省/第2回農薬吸入毒性評価手法確立調査部会開催
  3. 化学物質問題市民研究会10周年記念連続講演会
    脳の発達と化学物質 子どもの脳が危ない−黒田洋一郎先生 第2回 (下)
    脳神経研究の最新情報と私たちにできること
  4. 調べてみよう家庭用品(6)−芳香・消臭・脱臭剤
  5. 家電リサイクル工場見学記/東京エコサイクル株式会社
  6. RDFの悲劇/ゴミ固形燃料化施設&リサイクル施設が稼動してシックタウンに
  7. 化学物質問題の動き(07.07.24〜07.08.23)
  8. お知らせ・編集後記


化学物質問題市民研究会10周年記念連続講演会
脳の発達と化学物質 子どもの脳が危ない
第2回 脳神経の基礎と子どもの発達への影響 (下)

黒田洋一郎さん (東京都神経科学総合研究所)

 化学物質問題市民研究会10周年記念講演会として第1回5月12日(土)に引き続き、第2回を6月16日(土)に東京芸術劇場で開催し、黒田洋一郎先生に第1回の続きを講演していただきました。今号は第2回の講演に関する最終報告です。
(文責 化学物質問題市民研究会)



■発達障害の子どもたちをどうするか?
早期発見・早期治療・支援・予防

  1. 早期発見:可能になり始めた。
    自閉症児は1−2歳で頭が少し大きい。広範性発達障害児は海馬の発達の形が少し違う
  2. 治療薬:覚せい剤作用(リタリンなど)のないADHD対症治療薬が開発されてきている。
  3. 支援教育:発達障害者支援法〔2005年4月施行〕特別支援教育が今年4月から始まっている。
  4. 予防:化学物質検診(PCBなど)を推進〔千葉大学医学部 森 千里先生〕
    PCB、水銀、鉛、殺虫剤、除草剤など毒性化学物質が環境から妊婦、子どもに入るのを防ぐ。体内から排除(解毒)する。
■毒性学の最近のトピック:DNAマイクロアレイ(編集注)を用いたトキシコジェノミックス(毒性遺伝情報学
  • 多くの遺伝子の発現の変化を一度にみられる。
  • 発達障害だけでなく、ガンなどあらゆる病気や障害は必ず遺伝子の発現の変化を伴っている。
  • どの遺伝子の変化が病気や障害と関係しているかがわかれば、安全性を調べる強力な実験手段となる。
(編集注)DNAチップとも呼ばれている。ガラスなどの基板上にDNA断片を高密度に実装し固定したもの。

■基礎生物学の最近のトピック:エピジェネティックス

 エピジェネティックス(epigenetics)とは、遺伝子への後天的な調節・修飾により遺伝子発現が制御されることを研究する医学・生物学分野のことです。
 正常な発達には、長期にその細胞の分化に働く遺伝子群をオンにし、初めのうち(胎児期)細胞の数を増やすために使っていた分裂・増殖に働く遺伝子をオフにする必要があり、オフはDNAのメチル化などによって行われています。例えば、脳腫瘍の場合、脳の細胞は出来上がったら、分裂・増殖の遺伝子をオフにしなければならないのに、オンになったために異常に増殖を始める、それがガンです。
 ホルモンなど短期に遺伝子発現を調節している仕組み(それが特に重要なのは神経系、免疫系)の研究も含めて、エピジェネティックス研究が盛んになってきました。遺伝子の塩基配列変化(突然変異)よりも発現変化の方が生物の生殖、発達分化、生存に重要なので、脳を含めてエピジェネティックス研究が盛んになってきています。

■環境ホルモンが次世代、次々世代に影響を及ぼす可能性

 性ホルモン系を攪乱する環境ホルモンとして知られる抗カビ剤・ビンクロゾリンや殺虫剤・メトキシクロルを投与された母ラットから生まれた子だけでなく、孫、曾孫、曾々孫まで4代にもわたって、精子をつくる能力が低下するなど、オスの生殖機能が阻害されているという報告がされました(Science 2005年)。
 ビンクロゾリンを投与された妊娠母ラットから生まれた子ラット(F1)は、その次の世代(F2)さらにはF4に至るまで精子形成やがん、肝機能障害などの疾病が対照群に比べて有意に発症率が高かったというものです。ビンクロゾリンはDNAのメチル化に異常を起こし、それが世代を越えて引き継がれていることが原因と警告しています。

■子供の情動が遺伝子発現で変わる可能性

 母ネズミが子ネズミの世話をよくすると、ストレスに強い子ネズミが育つという、最近の研究があります。
 この子ネズミでは、脳の情動や記憶に関係している海馬という領域のニューロンや神経回路の発達がよく、糖質コルチコイドホルモンの受容体が多く発現していました。
 さらに、この効果は一生変わらないものではなく、ケアがよい条件で育ち、ストレスに強い子ネズミでも、成長後にある化学物質を投与すると、ストレスに弱い対応を示すようになってしまうと報告されています。
 最新の論文では、この逆の効果、即ちストレスに弱い子ネズミに別の化学物質を投与すると、ストレスに強い行動をとるようになるという結果が示されています。(長井、久保田等 実験医学vol.24, 2006参照)
 ヒトにあてはめられるかは分かりませんが、母親がせっかくケアして育てても、人工的な化学物質によっても、性格が変わってしまう可能性、また逆の可能性もあることを示唆しています。
 脳、神経細胞の特徴の一つに、可塑性(柔軟性)があります。いったん正常に発達しなくても、正常になる可能性は残されているので軽度発達障害の子どもも回復する可能性があります。

■人工化学物質に対して人体は一般には無防備

 天然にも毒物はありますので、進化の過程で化学毒性物質に対する防御システムができたヒトを含む生物の系統だけが、生き残っているのです(肝臓の解毒システムや脳を守る血液脳関門)。何が危ないか、天然の毒物の知識はどの民族でも豊富です。それに対して、ここ50年で新しく生じた人工の毒物に対しては、人体は一般に防御できないのです。そのため、新しい病気や障害が増えています。
 胎児、乳児や老人など、防御が弱い者にまず影響が出ます。おとなには影響が出なかったり、症状は後から出ることが多いので因果関係がすぐにははっきりしないなどのために、問題視されにくいのです。

■毒性未知の化学物質が多い

 現在は、何が危ないかわからないまま生産、使用してしまっています。これからも多くの化学物質に「こんな毒性があった」という情報が出てくるはずです。
 EUのREACHの考え方のように、様々な毒性実験で安全性を確立してから生産、販売すべきなのです。医薬品では、臨床試験をする前に多くの毒性試験が義務付けられています。それでも臨床試験では副作用が多発します。また、発売後も問題になることが多くて(サリドマイド、キノホルム、タミフル)、タミフルのように少数例でも因果関係が疑われて、販売・使用が規制される例は多いのです。
 ところが、農薬、工業化学物質では規制はザル状態です。医薬品と異なり、曝露は広範で量が測定しにくく疫学は困難で検出力が低い。したがって、因果関係が証明しにくいのです。

■予防原則が必要な理由
 疫学調査は実際に生活している人間の集団を対象にしているので、動物実験などに比べて結果にばらつきが大きく、正反対の結論が出ることが珍しくありません。検出力を高めるためには膨大な時間やお金、人手がかかり、現実にはできにくいと言えます。
 動物実験で毒性が確認された化学物質について、ヒトに対する影響はわからないというコメントがよくありますが、ヒトへの影響を調べるのには被害者が充分な数だけ出た後、さらに時間や膨大な費用のかかる疫学調査しかありません。その間に被害はますます増えるのです。
 医薬品の場合は、動物実験で毒性が確認されれば開発をあきらめ、人への臨床試験は行いません。化学物質についても予防原則に則り、それと同じにするべきです。

■私たちにできること

1.体内に入れない。
・PCB、農薬などが多く含まれている食品をなるべくとらない(脂溶性のものは脂肪に蓄積)、買わない(消費者の選択)。
・どんなものが危ないのかの情報を入手。地産地消など生産者とのつながりの中での食料の入手。
・殺虫剤(ことに室内での使用)、除草剤を使わない。

2.体内汚染状況を知る
 発達障害では妊娠が予想される方
 ・PCB:血液検査
 ・重金属:毛髪検査

3.体外に排出する
 ・PCB:高脂血症治療薬の応用
 ・重金属:キレート作用のある野菜繊維など

4.社会への働きかけ
 ・地域環境を良くする(農薬の空中散布をやめさせるなど)
 ・国の政策をかえさせる(安全性試験の義務化など)
 ・国際的なつながり(EUの予防原則による化学物質規制案REACH、安全確認の責任は企業に)

 1人ではできないこのような活動には、化学物質問題市民研究会のような活動が大事だと思います。
 米国カリフォルニアに2003年に新設された自閉症など脳発達障害児のためのM.I.N.D.研究所が、親が寄付や行政の資金援助も得てつくっています。日本でも、被害者が自分達でこういう形の組織をつくることをこれから考えてはどうでしょうか。(終わり)
(まとめ 安間節子)



家電リサイクル工場見学記
東京エコサイクル株式会社

 8月7日、当研究会では国内の家電リサイクルの現状を知るために、家電リサイクル工場見学会を実施しました。当研究会メンバー7人が東京エコリサイクル株式会社(東京都江東区)を訪問したので報告します。

■東京エコリサイクル(株)の概要
 工場は、新木場駅から車で10分、東京都江東区若洲の東京湾埋立地の一番奥にあります。日立、三菱、シャープ、三洋、ソニーなどいわゆる家電リサイクルBグループ系が株主となり、2001年の家電リサイクル法に対応して家電リサイクル工場が建設され、昨年からはパソコンのリサイクルにも対応しているとのことです。同社のウェブによれば業務内容と設備内容は下記の通りです。
 http://www.tokyo-eco.co.jp/

業務内容:
 ・使用済み家電製品(エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機)等の再資源化
 ・使用済み家電製品の指定引取業務
 ・PC/OA機器等産業廃棄物の収集運搬
設備:  手分解前処理、破砕、断熱フロン回収、磁力選別、渦電流選別、プラスチック風力選別、テレビ個体破砕、プラスチック破砕、 集塵設備、荷受・荷捌き設備 他
能力:
 60万台/年(12時間/日)=100t/日

■パワーポイントによる説明  (同社営業部長宇野元雄氏)
(1)家電リサイクル法について
対象
 エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の4品目であり、それぞれに再商品化率(=有価物重量/全重量)が設定されている。(例えばテレビ:55%)

リサイクルの流れ:
 ほとんどは買い替え時に販売店に引き取られ、排出者がリサイクル料金を払うとリサイクル券が張られる。引き取られた廃家電は全国400か所にあるメーカー指定引き取り所に集められ、そこから全国47か所のリサイクル工場に搬送されてリサイクル処理される。他にも消費者が郵便局でリサイクル料金を払い、メーカー指定引き取り所に持ち込むルートもある。東京エコリサイクルはリサイクル工場とメーカー指定引き取り所を兼ねている。

(2)リサイクル品の特徴
・多様なメーカーの様々な年代の家電が持ち込まれるので分解が一品一様である。
・例えば洗濯機のピークは1995年頃の全自動が多いが、2層洗濯機もまだ多く出る。
・冷蔵庫は1990年代前半が平均的で洗濯機より長く使われる。
・持ち込まれる時期もボーナス時など買い替え時に多くなり、年間変動が大きい。

(3)処理プロセス
単品確認工程
・リサイクル券と現品の確認、重量測定
前処理工程
・手分解による部材(有価物)の回収
・回収レベルは経済性を損なわない程度
粉砕・選別工程
・前処理手分解後、コンベアで共通粉砕機へ
・磁力や風力で鉄、非鉄、プラスチック類に分類。4品目ごとに工程は若干違う。
・エアコン、冷蔵庫は冷媒フロンの回収
・テレビのブラウン管の取り外し
・作業は流れ作業ではなく、1人で全てを行うセル方式

(4)プラスチックのリサイクル
・専用機で素材毎に粉砕、サイクロンでダスト吸収し、成形加工原料用の粒にする。

(5)法令順守の推進
 同工場にはメーカー各社が出資した管理会社が毎年一回検査・監査に入る。排出品処理、計画書類、フロン管理、安全衛生など。

(6)メーカーのリサイクル容易化設計
・部品点数を減らす。
・ユニット化する。
・ねじ位置に目印をつける。
・材質を表示する。

■Q&A
Q1:工場で処理されて出てくるものは何か?それらはどこに行くのか?
A1:再資源化できるもの(鉄、銅、アルミ、プラスチックなど)は素材として再資源化業者に委託する。モーター、コンプレッサー、熱交換器、テレビのファンネル・ガラス(一酸化鉛を20%以上含む)、プリント基板、バッテリー、ハードディスク等の部材は取り外して再資源化業者に委託する。フロン、圧縮ウレタン等は処理業者に委託する。

Q2:委託業者の管理はどのように行っているのか?
A2:委託企業には立ち入り検査を実施している。振動、騒音、臭気、焼却炉の性能、過去の処理状況、付近の住民との関係

Q3:輸出管理はどのように行っているか?
A3:日立製作所の輸出管理に準じている。バーゼル条約の抵触などは詳細にチェックしている。輸出先の現地調査、輸入許可証の確認、二次委託先の確認等を行っている。

Q4:リサイクル工場の難しい点は何か?
A4:持ち込まれる廃家電は一品一様で季節変動がある。したがって設備の標準化が難しく分解は人手になる。典型的な3K職場であり作業員の確保が難しい。

Q5:塩ビ製のものはどうしているか?
A5:塩ビは電線の被覆に使われているが、根元から切って分別している。最近は減ってきている。

■作業場の見学
 パワーポイントによる説明を受けた後、2階の見学通路のガラス越しから1階の作業場の見学及び、入室管理が行われているパソコン分解作業室を見学しました。

1階の作業場
(1) 手作業による前処理工程であり、冷蔵庫前処理工程、洗濯機前処理工程、エアコン前処理工程、テレビ前処理工程がある。
(2) 流れ作業ではなくセル方式である。
(3) 前処理が済むとコンベア又は圧送により2階の粉砕、断熱材・フロン回収工程及び、金属・樹脂選別工程に送られる。

パソコン解体室
(1)データが外部に漏れぬよう入室管理を行っている。
(2)パソコンは資源有効利用促進法に基づいてリサイクルしている。
(3)現在は持ち込まれるパソコンの台数は少ないが、再資源化用にプリント基板、ハードディク、液晶パネル、バッテリー等の部材を取り出している。
(4)ハードディスクは穴を開けるなど物理的な破壊を行っている。



■感想
(1)家電リサイクル法に基づき、法令を遵守して廃家電4品目の適切な処理を行っていることがうかがわれました。
(2)しかし、同工場では処理しない取り外された部材(テレビのパネル/ファンネルガラス、プリント基板等)が途上国に輸出され、現地で不適切な処理が行われることがないのか懸念があります。
(3)家電リサイクル法に基づくリサイクル・ルートや自治体が廃棄物処理法に基づき独自に進めるリサイクル・ルートで処理されるのは、廃家電排出量の約半分くらいで、それ以外に、近所に毎日回ってくる回収業者等からのルートがあり、このルートから途上国に中古品名目で電子廃棄物として流出することを許す現在の法規制を改めなくてはならないと感じました。
(安間 武)



RDFの悲劇
ゴミ固形燃料化施設&リサイクル施設が
稼動してシックタウンに


兵庫県神崎郡神河町 橋 省平

 私の住む神河町は兵庫県の中央に位置する、人口13,500人の小さな町です。工場と呼べるような事業所はわずかに点在するのみで、これといった農産品もなく、県内外に知れ渡るような観光施設もない、何の変哲もない田舎町です。しかしながら、それが故に工場の煤煙や農園に撒かれる農薬あるいは自動車の排気ガスに悩まされることもなく、退屈ながらも安全で安心して暮らせる、人も環境もとても穏やかな町でした。
 この町の中心地域で平成15年4月、中播北部クリーンセンター〔ゴミ固形燃料(RDF)化施設およびリサイクル施設、以下施設と呼ぶ〕が稼動し始めました。それと同時に、周辺住民がとんでもない事態に見舞われ始めたのです。杉並病に酷似する公害が施設周辺で発生しているのです。新しいゴミ処理場が稼動した地域から被害の実態をレポート致します。

 なお、私は施設稼動約2年前に化学物質過敏症を発症し、療養中のCS患者です。

■RDF&リサイクル施設の概要
 クリーンセンター内で稼動しているゴミ固形燃料(RDF)化施設は、ゴミを破砕→熱風(300℃程度)による乾燥→圧縮成型してクレヨン状の固形物を製造する施設で、27t/日の処理能力を有しています。また、リサイクル施設も併設されており、缶・ビン・紙類の回収だけでなく、不燃ごみや粗大ゴミを破砕処理して選別・資源化することや、プラスチック類の圧縮成型なども行なわれています。処理能力は10t/日です。
 化学物質過敏症患者の私に、通常のシックハウスとは次元の異なる異様な空気を感じさせるこの施設は、自宅やすぐ近くの公立病院まで約500m、高校まで約300m、幼稚園・小学校・中学校まで約800m、南風が吹けばその排気ガスがスーパーマーケット・銀行・学校・民家などをすっぽり覆ってしまうような位置に建設されています。
 町の中心地域を直撃する最悪の場所で有害な排気ガスを垂れ流し続ける結果、この施設は次のような被害を引き起こしています。

■わが街はシックタウン!
 私の母親(70代)は私同様化学物質に弱く、いの一番に影響を受けました。施設が試験運転を始めて3週間経ったころ、トイレで瞬間的に意識を失い、腰を打ちつけて腰椎を骨折してしまいました。3ヵ月ほど寝込んで何とか歩けるようになりましたが、回復後もまた同じ目に遭い、さらに免疫力の低下をきたして帯状疱疹も発症しました。そしてさらに高血圧・慢性頭痛・不眠・頻尿・便秘など次から次へと不快な症状に見舞われ、現在に至っています。これまでに4回の入退院を繰り返しています。
 父親(80代)も施設稼動後2年ほど経った頃に帯状疱疹を発症し、入院しました。退院後も体調は思わしくなく、物が二重に見えたり、頭部血流量の減少を指摘されたり、あるいは頻繁に近所で転んだりしています。施設稼動前はとても元気だったのですが、稼動後は老化現象が急激に進み、一気に老け込んでしまいました。
 もちろん我が家だけが被害を受けているわけではありません。
 3年ほど前のある日のこと、施設近くに住んでいる女の人がスーパーで私を認めて寄ってこられ、「うちのお父さん(ご主人)がおかしいねん。『臭いがする。臭いがする』言うて家に閉じこもってしもうたり、用もないのに車で出かけて、3時間ほど帰って来んかったり…」というふうに話し始められました。

 「私も同じことしてましたよ。ゴミ処理場から有害な排気ガスが出ているのは間違いないと思います。……」などと説明すると、「頭おかしいなったんかと思とったんやけど、安心したわ!」と言い残して立ち去られました。
 その後ご主人の様子を伺ったところ、「喘息と膝の関節炎を発症して入院中」とのことで、「県民局の環境課に苦情を申し立てても相手にされない」などとも話されていました。
 その他にも「メニエール病と緑内障に罹った。」、「耳鳴りが止まず、安定剤を飲まないと眠れない。」、「○○さんノイローゼやって。」「○○のおばちゃん鬱病やないかと思う。」等々、化学物質の影響を疑わせる症状に悩む人たちの声や噂話が近所から聞こえてきます。

■私自身の体調
 私自身ももちろん影響を受けています。施設稼動2年前に発症した化学物質過敏症は、稼動まで順調に回復していたのですが、施設から排出されるガスに耐えられるはずもありません。施設稼動後3ヵ月で自宅を離れ、現在も借家住まいを余儀なくされています。
 自宅で排ガスを浴びていた当時の主な症状は、"目がチカチカする""胃がむかつく""睾丸が萎縮し痛む""花粉症が極端に増悪した""血糖値が急上昇した""身体がだるい""頭が重い""イライラする"などでした。新たに出現した症状もあれば、以前からの症状が悪化したものもありました。
 これらの症状から逃れるために、用事もないのに自宅を離れて近隣をうろうろしていたことが多々ありました。その間、確かに症状は和らいでいました。
 最近、施設の稼働中に自宅に立ち寄ることがありましたが、数分で喘息に似た激しい咳が出始めました。実は、RDF施設とリサイクル施設の稼動時期には時間差があり、RDF施設より約1年遅れてリサイクル施設が稼動しています。私が自宅でRDF施設の排気ガスに悩まされていた頃(リサイクル施設稼動前)には、咳はまったく出ませんでした。したがって、リサイクル施設から喘息を誘発する物質が排出されているのではないかと考えられます。

■多発する突然死
 施設が稼動し始めてから約2年後、近所の21歳の娘さんが脳卒中で亡くなられました。昨年11月には近所の58歳の男性が、駐車場に止めてあった車の中から遺体で発見されました。死因は心筋梗塞でした。この4年間私の自宅を取り巻くような状態で、突然死(脳卒中や心臓発作など)が多発しています。やはり亡くなる方はお年寄りが多いのですが、それは必ずしも高齢のためではなく、平日昼間、施設の稼動時に自宅で過ごしているからではないかと推測しています。
 そんなこともあって、自治会の"死亡率"(年、対人口1,000人)を計算してみました。
 (死亡率=死亡者数÷年数÷人口×1,000、死亡者数は町広報誌を基に計算)
・施設稼動後2年6ヵ月平均
 私の住んでいた自治会(人口約550人): 約11.6
 私の住んでいた自治会を除く旧神崎町(人口約8,600人):約9.6
 平成18年の兵庫県全体 : 約 8.4
・施設稼動前5年平均
 私の住んでいた自治会 : 約5.8

 私の住んでいた自治会の死亡率は、上記のように施設稼動後2倍に跳ね上がっています。
 「死亡率が男女とも過去最低を更新。がんと脳卒中、心臓病の3大疾病が前回調査(2000年)よりいずれも減るなど大半が減少した」(2007年4月27日 読売新聞)などと報じられるなか、新たに稼動したゴミ処理施設の近辺では死亡率が異様な変化を示しています。

■施設建設をめぐる状況
 施設稼動と健康被害の間の因果関係をもっと客観的に追求したいのですが、それができないこの地域特有の事情があります。
 このRDF施設・リサイクル施設は近隣3町の行政事務組合が、当初、隣町で建設を進めていました。ところが、住民の強硬な反対に遭い、裁判を提起され、計画を進められずに立ち往生してしまいました。当時の状況に詳しい方からの情報によりますと、その時行政に対して救いの手を差し伸べたのが、現在施設が稼動している地域の自治会役員たちでした。反対運動はありましたが結果として役員の説得が功を奏して、自治会全体がゴミ処理場を誘致しました。建設地の売却、公民館の建設、土地の区画整理、地元対策費などによって相当程度の経済的利益を得たと言われています。 そして私の住んでいた自治会の役員たちも、区長が役場出身ということもあり、住民には諮らぬまま全面的に協力しました。
 つまり当地のRDF施設・リサイクル施設は行政に押し付けられたものではなく、住民が"もらいに行って"、その結果建設された代物だということなのです。
 施設の安全性に異を唱えることは、行政に睨まれるだけでなく、村の役員や役員たちに同調した近所の人たちと反目することにもつながります。計画の段階で建設反対を唱えていた人たちも、今では誰も何も言いません。
 東京杉並区の不燃ゴミ圧縮施設「杉並中継所」周辺で健康被害が発生しているという事実があるのならば、他の地域においても同種のゴミに対して同様の処置を施せば、類似した被害が発生するに違いないと考えるほうが妥当ではないでしょうか。
 経験からして、化学物質の健康への悪影響は、加齢や生活習慣あるいはストレスなどが原因だと誤診されることが非常に多いように思います。
 ゴミ処理施設と健康被害の因果関係が、可能性も含めてまったく情報として伝わらないため、住民も医者も気づかないまま杉並病のような公害が全国に広がっている、と私は考えています。



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