ピコ通信/第85号
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子どもへの健康影響が心配!
団地内保育園等の高濃度ダイオキシン汚染が発覚! 〜東京都北区豊島五丁目団地のダイオキシン土壌汚染問題〜 藤原寿和 (化学物質問題市民研究会代表) ■発端は 東京都北区は今年1月、豊島五丁目団地(右図)内にある旧区立豊島東小の跡地を開発するため、地下1m部分の土壌汚染調査を行ったところ、環境基準値を大きく超える14,000pg-TEQ/g〔以下、単位はpg(ピコグラム)と略す〕のダイオキシン類を検出(環境基準値は1,000pg)。さらに団地内9カ所の地表下5cm部分の調査を実施したところ、東豊島保育園の園庭から最大2,200pg、東豊島公園から最大1,300pgのダイオキシン類が検出された。 区では、この結果を受けて、4月19日、速報値を発表するとともに、ダイオキシン類が検出された2カ所を立ち入り禁止にし、シートを張るなど飛散防止措置をとった(右下写真)。そして東豊島保育園の保護者に対する説明会を4月20日に実施した。また、この団地の管理者である独立行政法人都市再生機構(旧住宅都市公団)でも、当団地の芝地及び植栽地等の土壌について、安全性を確認するための調査に着手するとともに、団地内の汚染が見つかった箇所で土壌が露出している部分については、ブルーシート等による飛散防止措置を行った。
■さらに深刻な汚染が判明! その後、区や都市再生機構では、引き続き深度別調査など、詳細な調査を継続して実施している。その中間報告が8月末に両者から発表されたが、その結果はさらに驚くべき内容のものであった。これまでのダイオキシン類の最高値は14,000pgだったが、今回発表された最高値はなんと240,000pg。環境基準値の240倍という驚くべき数値であった(右表)。
また、豊島五丁目団地に近接している豊島5・6丁目にあるコスモ石油跡地や潟gンボ鉛筆跡地の2箇所からも、土壌環境基準値を200倍も超える200,000pgの高濃度ダイオキシン汚染が見つかっている。 北区も都市再生機構も、汚染が発覚した当初は、これほどの汚染が存在しているとは想定していなかったようで、北区が開催した4月20日の豊島東保育園での保護者説明会では、子どもたちへの健康への影響を聞かれた王子保健センターの所長が、以下に引用するように、影響の否定発言に終始していた。
これまでのところでは、北区も都市再生機構も、汚染原因が何であるかについては明らかにしていない。北区環境課によれば、汚染が見つかったこの土地には、1924年から68年まで、大日本人造肥料鰍ニ日産化学工業鰍ェ操業しており、その後、日本住宅公団が土地を取得しているが、69年から約3年の間は、工場施設が残されていたという。そして71年から72年にかけて工場施設が撤去され、現在に至るまで豊島五丁目団地として利用されてきた。 この6月10日付けで日産化学工業鰍ェ都市再生機構に提出した資料によれば、当時日産化学はこの工場で2,4-Dソーダ塩やBHCなど有機塩素系の農薬を生産していたことが判明している。今回の高濃度ダイオキシン汚染の原因がこれら農薬起因ではないかと推測される所であるが、一部公表された汚染地におけるダイオキシン類の異性体別構成パターンによれば、意外なことに農薬起因ではなく、PCB製品起因かもしくはこれらの製品あるいは廃棄物等の焼却起因の可能性が考えられる。この汚染原因については、今後の詳細調査の結果を待って明らかにされるであろう。 ■今、何が必要なのか 北区や都市再生機構によって、現在詳細調査の実施や当面の緊急対策の実施、そしてダイオキシン類特別措置法による地域指定などの検討が行われているが、30数年間にわたって高濃度ダイオキシン汚染地に長年居住してきた住民の健康への影響、とくに最高濃度が検出された保育園の園庭の汚染土壌で遊んでいた園児たちの健康調査が早急に必要ではないかと思う。(藤原寿和) |
換気設備によるホルムアルデヒドの低減効果
福沢 正人(長野県塩尻市) 松本歯科大学病院検査科病理・薬剤師 1.目的 長野県塩尻市では、文部科学省「学校環境衛生の基準」及び塩尻市教育委員会作成「市内小中学校におけるシックハウス問題対策マニュアル」に基づき、室温が高く化学物質の濃度が一年で最も高くなる夏場に教室空気中の化学物質検査を実施しています。 平成 15年度の市内小中学校における化学物質検査では、多くの教室から基準値を超えるホルムアルデヒドが検出されたため、濃度が非常に高かった2教室について使用中止を決定すると共に、市内小中学校の全ての教室に換気扇を設置することを速やかに決定しました。 この度、塩尻市教育委員会より「平成16年度市内小中学校における化学物質検査結果について(報告)」 (平成16年9月30日)等の資料を提供いただいたので、換気設備によるホルムアルデヒドの低減効果について検討してみました。 2.方法 市内小中学校における化学物質検査の結果より、平成15年度と平成16年度のホルムアルデヒドの濃度を比較しました。 (1)検査 平成15年度の検査は、2003年7月4日(金)から8月14日(木)までの学校休日中に、市内13の小中学校の91教室で実施しました。 平成16年度の検査は、2004年7月20日 (火)から8月31日(火)までの学校休日中に、市内13の小中学校の99教室で実施しました。 なお、平成15年度に検査した91教室中90教室を平成16年度にも検査しました。検査機関は、両年度とも長野県薬剤師会検査セ ンターです。
平成15年度の検査は、一切の窓や戸を閉め切って誰も在室させない状態で、換気設備がある教室でも換気設備を稼動させずに実施しました。 平成16年度の検査は、一切の窓や戸を閉め切って誰も在室させない状態で、全ての教室に設置された換気設備を常時稼動させて実施しました。 3.結果 表1に検査結果を示します。 平成15年度は91教室中63教室(69%)でホルムアルデヒドの基準値100?/m3を超えており、平成16年度は99教室中42教室(42%)で基準値を超えていました。また、平成15年度はホルムアルデヒドが 500?/m3を超える高濃度の教室が2教室あり使用中止となりましたが、平成16年度はホルムアルデヒドが300?/m3を超える教室はありませんでした。 次に、表1に示した教室のうち両年とも検査を実施した90教室の結果を表2に示します。
平成15年度に基準値を下回った28教室は平成16年度には検知管による簡易検査が実施され、28教室全てが基準値以下でした。また、平成15年度に基準値を上回った63教室のうち20教室(32%)が平成16年度の検査で基準値以下になりました。 次に、表2に示した90教室のうち平成15年度に基準値を上回り、平成16年度もパッシブ法(注)で検査が実施された62教室の結果を比較してみました。 その結果、最も低減量が多かった教室では、平成15年度650?/m3だったホルムアルデヒド濃度が平成16年度は150?/m3となり、500?/m3低減されました。しかし、悪化した教室が12教室、測定値が変わらなかった教室が2教室ありました。 表3に両年ともパッシブ法で測定した教室の、低減率と教室数を示します。 62教室中48教室(77%)でホルムアルデヒドの低減効果がみられました。 62教室全て(不変、悪化も含む)の低減率の平均は23%で、低減率の最高は83%、最低は−43%でした。
4.考察 これらの結果から、換気扇を設置することで大部分の教室でホルムアルデヒドの低減効果があることがわかりました。 低減効果の無かった教室については、換気扇による有効な換気が行われていないものと思われるため、換気扇の設置場所を変更するなどの方法により効率的な換気を確保し、再検査を実施する必要があるものと思われます。 また、室温が高くホルムアルデヒドの濃度が一年で最も高くなる夏場には、換気設備を常時稼動させて検査を実施しても4割の教室で基準値を超えることがわかりました。 NPO法人シックハウスを考える会が行なった「2000年シックハウス症候群全国実態調査」には、築10年を経過した建物であっても基準値を超えてホルムアルデヒドが検出される場合があり、一般の住宅の約半数において夏場には基準値を超過することが報告されています。 2003年7月に改正された建築基準法でホルムアルデヒドを放散する建材の使用面積が規制され、換気装置の設置が義務付けられましたが、旧来の校舎においては今後も高濃度のホルムアルデヒドが放散し続けることが予想されます。そのため、教室ごとに空気の流れを確認し、常に有効な換気が確保できるように換気設備を活用していくことが重要であると考えます。 注:吸着剤が充填された捕集管を測定環境に暴露させて、対象物質を捕集する方法。 アクティブ法と共に、学校環境衛生の基準のホルムアルデヒドの標準的な検査法。 |