ピコ通信/第85号
発行日2005年9月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 9月17日/国際市民セミナー報告 (上)
    どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望−

  2. 子どもへの健康影響が心配!
    団地内保育園等の高濃度ダイオキシン汚染が発覚!
    〜東京都北区豊島五丁目団地のダイオキシン土壌汚染問題〜

  3. 換気設備によるホルムアルデヒドの低減効果
    福沢 正人(長野県塩尻市)
  4. 海外情報/子ども安全化学物質法案はEPAにテスト要求権限を与える
    −米会計検査院(GAO)の報告書に基づく法案−
  5. 化学物質問題の動き(05.07.23〜05.08.22)
  6. お知らせ・編集後記


9月17日/国際市民セミナー報告 (上)
どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望−



 9月17日(土)、国際市民セミナー「どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望−」が開催され、多くの参加者によって盛会裏に終了しました。主催は当会もメンバーの"化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言推進実行委員会"です。 当日の講演内容等を2回に亘って紹介いたします。

REACHとは何か?
インガー・シェーリングさん(元欧州議会議員)


 私は2001年に欧州議会で「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書−2001年」の報告者になった時以来、"REACHへの旅"をしてきました。その時に私が受けた感動を皆さんにも共有していただければと思います。

(1) REACHとは何か
 REACHはEUの新しい化学物質政策です。この新たな化学物質政策は化学物質の登録、評価、認可が基本です。REACHの目的は持続可能な発展という目標の下に、健康と環境の保護を高いレベルで確保することです。EUで製造される、あるいはEUに輸入される化学物質は人間と環境に対して安全であることを確実にしなくてはなりません。REACHはまた、経済的効率を強化するものであり、EU産業の競争力を阻害するものであってはなりません。
 予防原則と代替原則がこのシステムを支える基本原則です。

(2) 新規及び既存の化学物質に対する一貫したシステム
 REACHは新規及び既存の化学物質に対し、同じルールを適用する一貫したシステムです。いくつかの例外はありますが、ほとんど全ての産業化学物質を対象とします。殺虫剤、医薬品、化粧品のような製品には別の法律があります。(既存化学物質とは1981年9月以前に市場に出ていた化学物質です。

(3) REACHの最も重要な要素
a) 新規及び既存化学物質を順次取り込む登録スキームの導入(データのない物質は市場からなくす! )
b) リスク評価の責任を政府当局から製造者・輸入者に移行(立証責任の移行)
c) 必要なら川下ユーザーにも化学物質のデータとテストを要求
d) 特別に懸念のある化学物質には認可又は制限を導入(代替または段階的廃止)
e) 化学物質情報の透明性、開放性、一般公衆への開示の確保(公衆の知る権利)
f) 結果として革新を推進、より安全な化学物質の促進
g) システムを効率的に運営する欧州化学品機構の設立

(4) なぜ我々はREACHと化学物質規制の完全な改革を必要とするのか?
 化学物質の生産と消費の増加は莫大なものになりました。20世紀に、私たちの社会は化学物質革命を経験しました。このことは化学物質の世界生産量が1930年の100万トンから2000年の4億トンに増大したことに反映されています。
 この革命は生活の全ての部分に、そしてほとんどの消費者製品に人工化学物質をもたらしました。今日の生活は化学物質なしにはほとんど考えられません。
 しかし、化学物質に高度に依存しているにもかかわらず、我々が高いお金を払うことになる潜在的なリスクや長期的な影響について私たちは十分な知識があるわけではありません。

(5) 現状のEUの規制
 既存化学物質は、1981年以前から市場にある約10万種の化学物質であり、EUの化学物質総生産量の99%を占めます。既存化学物質に対するデータ要求は低いです。
 一方、新規化学物質は1981年以降に市場に出された約3,000種の化学物質であり、新規化学物質に対するデータ要求は高いです。

(6) 現状の化学物質政策はうまくいっていない
 リスクの特定が難しく、したがってリスクへの取組みが困難。
 ・市場にあるほとんどの化学物質の情報がない。
 ・立証責任は当局にある。
 ・いくらテストや分析をしても、化学物質の規制や制限を実施できない。
 ・問題ある物質を適切に取り扱うための有効な法律文書がない。
 ・革新のための動機づけに欠ける。

(7) 化学物質についての知識の欠如
 高生産量化学物質(生産者当り年間1,000トン以上)のうち、3%しかテストされていません。86%は基本データが完備されてなく、低生産量化学物質についてはもっとデータがありません。これら化学物質の全ての用途についてデータがほとんどありません。

(8) 保護措置がとられていない
 化学物質は有害性が証明されるまでは有害ではないとみなされているので、完全なリスク評価がなされた後に初めて保護措置がとられます。このようなアプローチでは、目を向けるべき化学物質の範囲が狭くなり、一方、評価のために時間が非常にかかります。
 1993年以来、10万種の既存化学物質のうち、完全なリスク評価が行われたのはわずか141物質だけです。
 既存化学物質に関する現在の規制が採択されてから11年後の2004年12月、評価結果が公表されたのは28物質だけであり、そのうち23物質はリスク削減をする必要がありました。
 これらの評価の結果、現在までに制限された物質は、わずかに4物質だけです。
 このようなリスク評価のやり方では、たとえ評価プロセスのスピードを上げても、全ての既存化学物質の評価を終わらせるのに5,000年以上かかります。
 多くの化学物質は私たちの日常生活に非常に役に立っています。しかし、多くのものは私たちにとって非常に危険なものであり、さらに人工化学物質のあるものは一度環境中に放出されると残留して消えることがありません。

(9) 環境と健康への影響

 人工化学物質は雨水、土壌、空気、海、植物、大気、そして人間や動物の体内から検出されています。またはるか離れた北極、深い海、山の頂上などからも検出されています。
 国際労働機関によれば、現在3,500万人が有害物質を原因とする職業病に罹り、2003年には43万9,000人の労働者が死亡しています。
 睾丸がんや乳がん、生殖系障害、アレルギーが増加しており、母乳中から350以上の異なる化学物質が検出されています。ヨーロッパでの血液テストでは、76種の化学物質が検出されました。(WWF2003年)
 私自身も2003年にWWFの検査を受け、38種類の化学物質が私の血液から検出されました。DDT、PCB、臭素化難燃剤、フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)・・・などです。

(10) 雨水や母乳、そして人の血液中に有害な化学物質が存在する時には、何かとてもよくないことが起きている
 新規化学物質は既存化学物質と適用ルールが異なるので、既存化学物質に比べて革新が阻害されています。それは、新たなより安全な化学物質を開発するよりも、テスト要求のない既存化学物質を使い続けることの方が安易だからです。
 新たなシステムが早急に必要であり、それが求められています。

コストと利益
コスト
欧州委員会の見積り:
REACHの登録期間11年間で23億ユーロ(約3,100億円)
EU住民1人当り年間0.48ユーロ(約65円)
欧州化学産業界の年間売り上げの0.04%

利益
30年間の健康関連コスト:
500億ユーロ(約6.8兆円 世界銀行資料に基づく)
EUのアレルギーの年間コスト:
290億ユーロ(約4兆円)
(11) 誰がREACHに反対しているのか?
 RREACHの歴史は複雑です。なぜ、化学物質に関する必要でかつ十分な適法な規制について合意に達するのが難しいのでしょうか?
 その答えは化学産業界の規模と力、そして彼らが代表する経済への貢献の中に見出すことができます。しかしまた、力不足の政治家と化学物質の複雑さによるところもあります。
 ・化学産業は世界で3番目に大きな産業分野
 ・世界で従業員1,000万人、ほとんどが中小企業
 ・化学産業は欧州で最大の産業分野で直接雇用170万人、関連雇用300万人
 ・欧州化学産業の2002年輸出高:1550億ユーロ(約21兆円)ほとんどがアメリカとアジア向け

(12) REACHはどのように後退させられたか2001年白書〜2003年のREACH提案
 ・有害物質はより有害性の少ないものに代替→"もし適切に管理できないならば"
 ・消費者製品と輸入品への要求→"環境への重大な放出がある場合に"と後退
 ・業者当り年間製造・輸入量1〜10トンの化学物質の登録とデータ要求→不十分で企業の社会的責任要求なし、ポリマー除外(既存物質の65%)
・産業側の一般注意義務→完全に削除
・知る権利と透明性→企業秘密項目のリスト拡大

(13) REACHは何をもたらすか?
 ・ある期限までに、製造者・輸入者当たりの年間製造量が1トン以上の全ての化学物質のデータが得られる
 ・有害な化学物質からの効果的で迅速な保護
 ・消費者製品中の非常に高い懸念のある物質の使用の終止
 ・より安全な代替が見つかり次第、ライフサイクルの間、環境への放出をもたらす非常に高い懸念のある物質の使用の終止
 ・"一世代目標"の実現
 人間の健康と環境の保護は経済的な考慮より優先されるものでなくてはなりません。REACHはオスロ−パリ条約(OSPAR)の"一世代目標"を実現し、人間の健康と全ての環境の保護を達成するよう、さらにそれを発展させる必要があります。

(14) REACHを導く基本原則は何か?
 新たなシステムはいくつかの包括的な原則によって導かれます。
 ・製造者責任(Producer responsibility)
 ・代替原則(Substitution)
 ・予防原則(Precaution)
 ・ 公衆の知る権利(Public right-to-know)

(15) 結論
 REACHの基本はすばらしいのですが、もともとの白書の提案から後退させられてしまった現在の状態では、必要とされる保護のレベルが提供されないことが懸念されます。特に、REACH提案で、もしボリューム・ベースのシステムをリスク・ベースのアプローチに転ずるようなことが起これば・・・.。
 REACHは1998年以来のEUの政治的課題ですが、私たちはいまだにその最終決定を待ちわびています。うまくいけば、今年の末までにどのような立法になるのか、REACHがどのようなものになるか知ることになるでしょう。

 皆さんのような市民団体やNGOで活動されている方が、REACHについてよく知っていただくことがひじょうに重要だと思います。ヨーロッパだけでなく世界全体に広がり、現状でこういうものが自分たちにとって必要なのだという知識をもっていただければと思います。
 最後に言っておきたいのですが、世界は一つであるということです。私たちが取り組んでいることは、地球すべてに影響することであって、どこでということは関係ないのです。ですから、こうしたモチーフが、一つになって一つの世界を守るということで動いていってくれればと思います。

※当日の資料集(A4判 75頁)は1部500円(送料別)でお分けします。当会事務局へFAX、メール等でお申し込みください。


子どもへの健康影響が心配!
団地内保育園等の高濃度ダイオキシン汚染が発覚!
〜東京都北区豊島五丁目団地のダイオキシン土壌汚染問題〜


藤原寿和 (化学物質問題市民研究会代表)

■発端は
 東京都北区は今年1月、豊島五丁目団地(右図)内にある旧区立豊島東小の跡地を開発するため、地下1m部分の土壌汚染調査を行ったところ、環境基準値を大きく超える14,000pg-TEQ/g〔以下、単位はpg(ピコグラム)と略す〕のダイオキシン類を検出(環境基準値は1,000pg)。さらに団地内9カ所の地表下5cm部分の調査を実施したところ、東豊島保育園の園庭から最大2,200pg、東豊島公園から最大1,300pgのダイオキシン類が検出された。
 区では、この結果を受けて、4月19日、速報値を発表するとともに、ダイオキシン類が検出された2カ所を立ち入り禁止にし、シートを張るなど飛散防止措置をとった(右下写真)。そして東豊島保育園の保護者に対する説明会を4月20日に実施した。また、この団地の管理者である独立行政法人都市再生機構(旧住宅都市公団)でも、当団地の芝地及び植栽地等の土壌について、安全性を確認するための調査に着手するとともに、団地内の汚染が見つかった箇所で土壌が露出している部分については、ブルーシート等による飛散防止措置を行った。
豊島東保育園の園庭(2005年5月筆者撮影
 また、同機構では、汚染地の調査や対策等について検討するため、5月20日、機構内に外部の学識経験者などによる「豊島五丁目団地土壌汚染調査・対策等検討委員会」を設置し、第1回委員会を6月7日に開催。当面の緊急対策を立案し、6月18日に二人の学識経験者委員(内山巌雄京都大学医学部教授、細見正明東京農工大学教授)の出席と北区関係者の立ち合いのもとに、団地住民に対して説明会を開催した。この住民説明会で、団地自治会の役員等から詳細な調査結果の公表を求める要望や、保育園の保護者からは園児の血液検査を実施して欲しいとの切実な要求などが出された。

■さらに深刻な汚染が判明!
 その後、区や都市再生機構では、引き続き深度別調査など、詳細な調査を継続して実施している。その中間報告が8月末に両者から発表されたが、その結果はさらに驚くべき内容のものであった。これまでのダイオキシン類の最高値は14,000pgだったが、今回発表された最高値はなんと240,000pg。環境基準値の240倍という驚くべき数値であった(右表)。
表 深度別土壌中のダイオキシン類濃度
番号施設名最高値
pg-TEQ/g
最高値の
採取深度
1東豊島公園(北)140,0002m
2東豊島公園(南)11,0000.05m
3豊島東保育園14,0001m
4旧豊島東小学校240,0002m
5区道1035号線8,6003m
6区道1865号線2,5000.05m
 区では今後詳細調査の最終結果(10月予定)を受けて、ダイオキシン類対策特別措置法による地域指定のための手続きを進めると発表した。
 また、豊島五丁目団地に近接している豊島5・6丁目にあるコスモ石油跡地や潟gンボ鉛筆跡地の2箇所からも、土壌環境基準値を200倍も超える200,000pgの高濃度ダイオキシン汚染が見つかっている。
北区も都市再生機構も、汚染が発覚した当初は、これほどの汚染が存在しているとは想定していなかったようで、北区が開催した4月20日の豊島東保育園での保護者説明会では、子どもたちへの健康への影響を聞かれた王子保健センターの所長が、以下に引用するように、影響の否定発言に終始していた。
  • ダイオキシン類は、最強の毒性を持つと言われるが、日常生活で摂取する数十万倍の量を摂取した場合の急性毒性を指し、通常の環境汚染レベルなら、健康に対する影響はないと考えられる。
  • 通常の環境汚染レベルでは、奇形等の異常が生じることはないと考えられる。
  • 身体にダイオキシン類が入るルートは、食物からが97%、土からは0.5%とされている。通常の保育園生活で、ただちに土中のダイオキシン類が健康に影響を与えるとは考えられない。
■汚染原因は何か?
 これまでのところでは、北区も都市再生機構も、汚染原因が何であるかについては明らかにしていない。北区環境課によれば、汚染が見つかったこの土地には、1924年から68年まで、大日本人造肥料鰍ニ日産化学工業鰍ェ操業しており、その後、日本住宅公団が土地を取得しているが、69年から約3年の間は、工場施設が残されていたという。そして71年から72年にかけて工場施設が撤去され、現在に至るまで豊島五丁目団地として利用されてきた。
 この6月10日付けで日産化学工業鰍ェ都市再生機構に提出した資料によれば、当時日産化学はこの工場で2,4-Dソーダ塩やBHCなど有機塩素系の農薬を生産していたことが判明している。今回の高濃度ダイオキシン汚染の原因がこれら農薬起因ではないかと推測される所であるが、一部公表された汚染地におけるダイオキシン類の異性体別構成パターンによれば、意外なことに農薬起因ではなく、PCB製品起因かもしくはこれらの製品あるいは廃棄物等の焼却起因の可能性が考えられる。この汚染原因については、今後の詳細調査の結果を待って明らかにされるであろう。

■今、何が必要なのか
 北区や都市再生機構によって、現在詳細調査の実施や当面の緊急対策の実施、そしてダイオキシン類特別措置法による地域指定などの検討が行われているが、30数年間にわたって高濃度ダイオキシン汚染地に長年居住してきた住民の健康への影響、とくに最高濃度が検出された保育園の園庭の汚染土壌で遊んでいた園児たちの健康調査が早急に必要ではないかと思う。(藤原寿和)


換気設備によるホルムアルデヒドの低減効果

福沢 正人(長野県塩尻市)
松本歯科大学病院検査科病理・薬剤師

1.目的
 長野県塩尻市では、文部科学省「学校環境衛生の基準」及び塩尻市教育委員会作成「市内小中学校におけるシックハウス問題対策マニュアル」に基づき、室温が高く化学物質の濃度が一年で最も高くなる夏場に教室空気中の化学物質検査を実施しています。
 平成 15年度の市内小中学校における化学物質検査では、多くの教室から基準値を超えるホルムアルデヒドが検出されたため、濃度が非常に高かった2教室について使用中止を決定すると共に、市内小中学校の全ての教室に換気扇を設置することを速やかに決定しました。
 この度、塩尻市教育委員会より「平成16年度市内小中学校における化学物質検査結果について(報告)」 (平成16年9月30日)等の資料を提供いただいたので、換気設備によるホルムアルデヒドの低減効果について検討してみました。

2.方法
 市内小中学校における化学物質検査の結果より、平成15年度と平成16年度のホルムアルデヒドの濃度を比較しました。
(1)検査
 平成15年度の検査は、2003年7月4日(金)から8月14日(木)までの学校休日中に、市内13の小中学校の91教室で実施しました。
 平成16年度の検査は、2004年7月20日 (火)から8月31日(火)までの学校休日中に、市内13の小中学校の99教室で実施しました。
 なお、平成15年度に検査した91教室中90教室を平成16年度にも検査しました。検査機関は、両年度とも長野県薬剤師会検査セ ンターです。
表1 ホルムアルデヒド検査結果
(基準値100μg)
測定値 平成15年度 平成16年度
0〜100 28 57
101〜200 48 36
201〜300 11 6
301〜400 2 0
401〜500 0 0
501〜600 1 0
601〜700 1 0
91 99
(2)換気設備
 平成15年度の検査は、一切の窓や戸を閉め切って誰も在室させない状態で、換気設備がある教室でも換気設備を稼動させずに実施しました。
 平成16年度の検査は、一切の窓や戸を閉め切って誰も在室させない状態で、全ての教室に設置された換気設備を常時稼動させて実施しました。

3.結果  表1に検査結果を示します。
 平成15年度は91教室中63教室(69%)でホルムアルデヒドの基準値100?/m3を超えており、平成16年度は99教室中42教室(42%)で基準値を超えていました。また、平成15年度はホルムアルデヒドが 500?/m3を超える高濃度の教室が2教室あり使用中止となりましたが、平成16年度はホルムアルデヒドが300?/m3を超える教室はありませんでした。
 次に、表1に示した教室のうち両年とも検査を実施した90教室の結果を表2に示します。

表2 両年とも実施した教室結果
(基準値100μg)
測定値平成15年度 平成16年度
0〜1002848
101〜2004736
201〜300116
301〜40020
401〜50000
501〜60010
601〜70010
9090
 表2のとおり、平成15年度は90教室中62教室(69%)で基準値を超え、平成16年度は 90教室中42教室(47%)で基準値を超えていました。
 平成15年度に基準値を下回った28教室は平成16年度には検知管による簡易検査が実施され、28教室全てが基準値以下でした。また、平成15年度に基準値を上回った63教室のうち20教室(32%)が平成16年度の検査で基準値以下になりました。
 次に、表2に示した90教室のうち平成15年度に基準値を上回り、平成16年度もパッシブ法(注)で検査が実施された62教室の結果を比較してみました。
 その結果、最も低減量が多かった教室では、平成15年度650?/m3だったホルムアルデヒド濃度が平成16年度は150?/m3となり、500?/m3低減されました。しかし、悪化した教室が12教室、測定値が変わらなかった教室が2教室ありました。
 表3に両年ともパッシブ法で測定した教室の、低減率と教室数を示します。
 62教室中48教室(77%)でホルムアルデヒドの低減効果がみられました。 62教室全て(不変、悪化も含む)の低減率の平均は23%で、低減率の最高は83%、最低は−43%でした。
表3 低減率と
教室数
低減率教室数
81〜901
71〜802
61〜700
51〜607
41〜508
31〜409
21〜309
11〜208
11〜04
02
-1〜-103
-11〜-205
-21〜-301
-31〜-401
-41〜-502
62

4.考察
 これらの結果から、換気扇を設置することで大部分の教室でホルムアルデヒドの低減効果があることがわかりました。
 低減効果の無かった教室については、換気扇による有効な換気が行われていないものと思われるため、換気扇の設置場所を変更するなどの方法により効率的な換気を確保し、再検査を実施する必要があるものと思われます。
 また、室温が高くホルムアルデヒドの濃度が一年で最も高くなる夏場には、換気設備を常時稼動させて検査を実施しても4割の教室で基準値を超えることがわかりました。
 NPO法人シックハウスを考える会が行なった「2000年シックハウス症候群全国実態調査」には、築10年を経過した建物であっても基準値を超えてホルムアルデヒドが検出される場合があり、一般の住宅の約半数において夏場には基準値を超過することが報告されています。
 2003年7月に改正された建築基準法でホルムアルデヒドを放散する建材の使用面積が規制され、換気装置の設置が義務付けられましたが、旧来の校舎においては今後も高濃度のホルムアルデヒドが放散し続けることが予想されます。そのため、教室ごとに空気の流れを確認し、常に有効な換気が確保できるように換気設備を活用していくことが重要であると考えます。

注:吸着剤が充填された捕集管を測定環境に暴露させて、対象物質を捕集する方法。
アクティブ法と共に、学校環境衛生の基準のホルムアルデヒドの標準的な検査法。

化学物質問題市民研究会
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