ピコ通信/第77号
発行日2005年1月24日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

    1. 研究会2005年活動の課題と展望
      −REACHの理念にならい日本の化学物質政策を見直そう− 化学物質市民問題研究会代表 藤原寿和
    2. 11/23国際市民セミナー
      化学物質汚染のない地球を求める東京宣言−賛同署名のお願い
    3. [投稿] 化学物質過敏症に苦しむ若者たち−身体症状に加えて精神症状が追い詰める/シグナルキャッチ(佐賀市)
    4. 海外情報/水銀と感受性の高い自閉症児たちに関する新たな科学と新たな洞察
      −EWGレポートの紹介−
    5. 海外情報/携帯電話はDNAを傷つける 新たな国際研究報告
    6. 化学物質問題の動き(04.12.23〜05.01.23)
    7. お知らせ・編集後記


研究会2005年活動の課題と展望
−REACHの理念にならい日本の化学物質政策を見直そう−

化学物質市民問題研究会代表 藤原寿和

 今年は21世紀に入って5年目、研究会の発足からは8年目を迎えます。事務局では、昨年末に合宿をしてこれまでの活動を振り返り、また、今年度及び10周年を迎える2007年度までの中長期の活動計画について話し合いました。その中から、今年の活動の課題と展望について報告したいと思います。

■2004年の活動報告
まずはじめに、2004年の主な活動を振り返ってみたいと思います。

1.「子どもの健康を化学物質から守るための施策調査および提言」プロジェクト
 2003年から、全国の95自治体に対し子どもを対象とする化学物質対策の取り組み状況についてのアンケート調査、および欧米諸国の取り組み状況の調査を実施しました。そして、それらに基づき、国に対しては「子ども環境健康法制定の提言」、自治体に対しては「子どもの環境化学物質による健康影響に関する施策−自治体への提言」を提出しました。これらプロジェクトをまとめた報告書を、2004年9月に発行しました。

2.EUの新しい化学物質規制「REACH」への取り組み
 昨年11月、EUの新しい化学物質規制「REACH」をテーマとした国際市民セミナーを他6団体とともに開催しました。また、セミナーの海外講師を交えて、予防原則に関する勉強会も実施しました。
 REACHとは、安全性が確かめられていない多数の化学物質を大量に使用し続けることを許し、有害性がわかっても迅速に対応できないこれまでの化学物質管理のあり方を見直して、新たにEUが提案した、登録、評価、認可からなる総合的な化学物質規制案です。
 予防原則が根底にあり、既存の化学物質も新規化学物質と同じ扱いとし、安全性の立証責任をこれまでの行政側から企業側へ移す等、人の健康と環境を守るための画期的な化学物質政策です。2006年以降に立法化されると言われており、早期実現が期待されています。
 REACHはEUの化学物質規制ですが、その影響は日本を含む全世界の化学産業界に及び、そのことにより、人の健康と環境の保護という人類の願いが地球規模で促進されることになると期待されています。
 国際市民セミナーには主催者側の予想を超える参加者があり、「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」を発表しました。宣言は、REACHに関し日本の環境団体が一つに結集して意見を表明した画期的なもので、EUに対してはREACHの後退することのない実現を、日本政府に対してはREACHへの干渉の即刻中止を求めるとともに、日本国内においても市民参加のもと化学物質政策の包括的な見直しをするよう要求しています。

3.CS問題への取り組み
 5月の第7回化学物質過敏症患者会、10月の厚労省・環境省交渉など化学物質による被害者への支援活動に取り組みました。また、ピコ通信を通して、一般市民に化学物質過敏症についての理解を深めてもらうよう努めました。

4.講演会等の開催
 今年は、7月の塩ビとフタル酸、8月の疫学セミナーと、他団体との共催による講演会を開催しました。また、6月には研究会主催で、シックハウスと室内空気測定法の学習会を開きました。

■2005年活動の課題と展望

1.子どもの健康を化学物質から守るためのプロジェクト
 昨年の国への提言に基づき、予防原則をベースとした子どものための環境基準の見直し、長期計画に基づく子ども環境健康調査の実施などの施策実現に向けてロビー活動を展開していきます。
 そして、ティーンズを対象に化学物質の知識や危険性を楽しく学習できるウェブサイト「子どものための化学物質ウェブサイト"ティーンズ・ケミカルズ"(仮称)」の構築にも取り組みます。また、デンマーク環境保護庁の報告書「子どもと胎児の化学物質暴露と感受性」についても、翻訳出版化にこぎつけたいと考えています。

2.EUの新しい化学物質規制「REACH」への取り組み
 REACHは欧州だけでなく、今後の日本を含む世界中の化学物質管理のあり方を大きく変える内容を含んでいることから、化学産業界や米国、日本政府などから猛烈な攻撃や抵抗にさらされており、当初の高い理念の後退が懸念されています。したがって、日本でも市民によるREACHの理念の理解を深め、REACHの成立を支援し、また、日本の化学物質制度の根本的な見直し求めていくことが重要です。
 先頃、研究会も参加して「東京宣言推進実行委員会」を結成しましたので、この東京宣言の賛同署名を各種団体、研究者、有識者、個人から集め、日本政府とEUに提出したいと考えています(次記事参照)。この取り組みの一環として、実行委員会の主催で、第2弾の国際セミナーの開催を計画しています。

3.環境ホルモン問題
 昨年から環境省がSPEED'98のリストを全面的に廃止し、それに変わるあらたな仕組みづくりに着手しています。この問題の背景及び新たな環境ホルモン対策に対しても目を向けていかなければなりません。

4.リスクコミュニケーションのあり方
 環境省をはじめ農水省や厚生労働省など化学物質政策にかかわる政府機関や学者、研究者及び企業人の間で「リスクコミュニケーション」という言葉が頻繁に使われるようになってきました。これについて、特に予防原則との関係及び真の市民参加と情報公開などの観点から研究会としてじっくりと議論を深めていきたいと思います。そのための学習講座の開催なども検討したいと思います。

5.継続事業
@ CS問題への取り組み
 被害者への支援活動を中心に、今年も取り組んでいきます。「化学物質過敏症は疾病として科学的に解明されていない」と言って、被害者救済に取り組まない国の姿勢を変えさせたいと考えています。

A PRTRへの取り組み
 法律の施行から3年目になるPRTRへの取り組みを、あらたにNPO法人になった「有害化学物質削減ネットワーク(略称:Tウオッチ)」の構成メンバーとして、積極的に発言しながら取り組んでいきます。

6.読者交流会
 今年は、ピコ通信を購読していただいている読者との交流会を開催したいと考えています。日程が決まりましたらピコ通信でご案内をしますので、ぜひとも参加をしていただき、実りある意見交換ができることを願っています。



[投稿] 化学物質過敏症に苦しむ若者たち
身体症状に加えて精神症状が追い詰める

シグナルキャッチ(佐賀市)


 化学物質過敏症!! 私は、この病気が豊かな日本の社会に生きている誰にでも発症の可能性があることを啓発し、社会の価値観を変える活動をしている。多くの多種化学物質過敏症の患者は、住む場所もなく、追い詰められた生活を強いられている。肉体的苦痛、精神的苦痛は、はかり知れない。
しかしまた、私は若い人が化学物質過敏症(CS)になると、中高年とは違う症状を示すことを知らせたい。それは、精神的症状として現れることである。

 現在25歳の私の娘は、9年前にCSを発症し、その後回復して歯科医を目指すが、大学4年生になって授業で使う化学物質によって再び様々な症状が出てきた。それらの症状は、シグナルキャッチが相談に乗っている若い人達の苦悩を彷彿とさせるものだった。思春期に発症した若い人達は、社会参画を阻まれている。どれほど多くの若者が自分の体の状態の原因を知らず、仕事にいけない自分を責め、将来を悲観していることだろう。
 そういう若者達に、「あなたが動けない原因は、あなたの精神力の問題ではない。この空気があなたを動けなくしているのだ」と知らせたい。親御さんにも、日本に住む多くの人にも知って欲しい。そして一刻も早く解決の道を、医者、学者、国に求めたい。

【娘の不登校
 私の娘は現在25歳。高校2年生の6月頃、学校に行きづらくなった。朝起きると吐き気がひどく、体が重く、なかなか学校に行けない。吐き気、めまいがして、学校まで車で送って行っても、なかなか門をくぐれないこともあった。CSを知らなかった当時、原因は精神的なものと病院でも言われ、私もそう思っていた。精神科医の診断では、「転校が多過ぎ、無理に人に合わせていたために疲れが出たのだろう」ということだった。
 21歳の時、原因が化学物質過敏症と分かって、その精神科医は「そうだろう、ああ言ってみたが彼女は当てはまらないんだよね」とおっしゃった。医師を責めているのではない。むしろ、精神病ではない、と薬は出さず、後々ではあるが、シックハウスが原因だろうと、この病気を見つけてくださったと感謝している。
 CSを知る前、18歳の娘は福岡で一人で暮らすことになった。まだ体調は悪く、朝起きられない、むかむかする、体が重いなどのために、予備校にはなかなか行けなかった。予備校2年目の後半、ようやく体調が良くなり、3年間の予備校生活の末、21歳で歯学部に入学した。
 高校生活を送れなかった娘は、大学生になり、テニス部に入り、学業に部活に青春を謳歌していた。しかし、3年生の解剖実習、4年生の歯学の実習で、またCSの症状が出始めた。

【娘の症状の現れ方を見て】
 一昨年11月、娘から電話があった。何も言わず、エーンエーンと泣いてばかり。ようやく「私はダメだ、部屋を片付けられない、あんな部屋に帰りたくない」と。たかが8畳の部屋が片付けられないのはおかしいし、またそれを悔やむのも尋常ではない。私は娘のところに飛んで行った。駅に迎えに来た娘はいつもの彼女ではなく、抜け殻のようだった。発症していなければ前向きで、積極的で、明るい娘だ。元気なときはCSの相談にも乗り、シンポジウムで体験談を話しもした。
 部屋が片付けられないと、イライラし、こういう自分が情けなくて泣き、自分はだめだ何もできないと自分を責め、また友人の言動の些細なことを、些細なことと捉えられず、恨むほど嫌いになり、そういう自分が許せない。自分は異常だと感じ、また自分の事が不安でたまらない。これらは、シグナルキャッチで親御さんから相談を受けている若い人の問題行動と同じだ。
 「いらいら」「悲しみ」「自責」「不安感」「怨み」など、化学物質が襲った時の尋常でない気持ちの持ち方を、その時の娘の症状からも知った。
 娘は昨年の春も、ある顕著な症状の表れを示した。車に乗って数分後、急にいらいらし、顔つきも変わって、暴言を吐き出した。ハッとした私が窓を全開にして走ると、娘はようやく落ち着いて謝りながらこう言った。「急に体の奥から怒りが湧き起こり、お母さんに無茶を言って、その自分を見ている自分がいて、そういう自分が嫌で嫌で、また怒りが湧いてきた」と。そう言える時は、もう穏やかな明るい娘に戻っていた。
 原因は、車に積み込んでいた、畳大にコピーしたビニールコーティングしてあるポスターだった。前日のシンポジウムの時に張り出していたもので、娘はシックスクールの解決のために参加し、シンポジウムで自分の体験を話した。後部座席に置かれたポスターは、日が当たって大量の化学物質を出し、それが車内に溜っていたのだ。化学物質が溢れた時、即座に人格が変わるという現象を私は目の当たりにした。

シグナルキャッチが関わっている若い人の例を紹介しよう。

【23歳女性】
 中学3年生の時、自宅を新築。中学校も新築2~3年目。その頃から、朝ムカムカするとよく言う。高校3年卒業前に学校をやめた。日ごろ感情の起伏が激しい娘が学校をやめると言うのを、親は止めることができなかった。その後、予備校に行っても長続きしない。私が面談すると、明らかにCSの症状だった。
 しかし、本人はそういうもので逃げたくないと、予備校やボランティアなどに前向きに挑んでいたが、次第におかしな行動を取るようになった。1人でいることに不安を持ち、母親をひと時も放さず、親の運転する車の後部座席に毛布にうずくまって一日中当てもなく回る。その頃は私と会っても、顔の表情は能面のようであった。
 壁に自分の汚れを擦り付ける。一日中大声で泣く。苦しいと転げまわる。寝ていても少しの音で起きて騒ぐので、くしゃみもおならさえも出来ない。物音を立てられないので台所も使えない。親はひと時も寝られない。夫も仕事をやめて一緒に介護をしないといけないかと悩むが、仕事をやめたら収入の道を絶たれる。

【21歳女性】
 小学校6年の秋、転校。社宅が改装された直後に入居。3学期は学校を休みがち。中学生になり、完全な不登校になる。その後も親の転勤により、家を移動。人と馴染むのが苦手なための不登校と捉えていた。
 数年後、母親が社宅の改装時、風呂場に塗布するカビとり剤に激しく反応し、CS患者になった時、娘もCSであることに気が付いた。ここ2〜3年、6月になると人が変わったような行動をとる。音量を最大にして音楽をかける、母親に暴力を振るう、自分の身体を傷つける・・・。
【22歳男性】
 中学生のとき睡眠障害として発症。高校1年の終わりごろから学校に行けなくなる。CSを知って、シックハウスを出て古い家に入るが、庭の消毒によりひどくなる。下痢と便秘と腹痛に悩まされ、体重激減、皮膚は生気を失い、学校に行けない。アルバイトも続かない。22歳の現在まで、古い家を借りるなどして対処するが、除草剤、殺虫剤等、どこに逃げてもCSを助長させるものばかり。家から一歩も出ないでパソコン三昧、風呂に入らない。

 CS患者と分かっている方の現状を一部紹介したが、身の回りには思春期に化学物質に曝露し、20代を迎え、社会参画できずに、苦しんでいる若い人が本当にたくさんいる。しかし、本人も家族もCSを知らずに、焦り、ますますストレスをためて、症状をひどくしている。今、私が娘を引き合いに出して話すと、聞いている人の周りにいる、社会参画できないで苦しんでいる若者の話が出てくる。うつ症状である。
 家から出ない、職場で隅にうずくまって涙を流す、不安だと言う、仕事に出てこない・・・・。今、日本で「うつ病」が多いことは、色々なところで報告されている。その原因の多くが化学物質ではないかと、私は化学物質過敏症の娘の体験から確信する。

【今できる対処法】
 娘が、うつ症状で助けを求めてきた時、私は新幹線に飛び乗った。部屋が片付けられないのは病気のせいだと教え、ヘルパーさんに頼むことを決めた。ストレスを軽減するために。あなたは今、障害があるのだから、出来ない部分を人に手助けしてもらえば生活できるのだと教えた。背中をさすってやった。解決を急がなくていいことを伝えた。
 娘は今、化学物質過敏症を知って、自分の症状と向きあいながら、なんとか元気に学校に通っている。このように病気を知って対処することで、少しは救われるのではないかと感じている。
 子ども(30代でも)が学校に行けない、仕事に行けないと言ったら、親はそのまま受け止めて、子どもが楽にいられる状態にしてほしい。子どもが悪いのではないからだ。身心が冒されているから動けないのだ。
 若い人たちが生き生きと社会生活が送れるよう、早く研究が進むことを切望する。化学物質過敏症を知り、対処できる精神科医を待ち望む。
 もう一度言う。一刻も早く、医者、学者、国に解決の道を求めたい。


化学物質問題市民研究会
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