研究会2005年活動の課題と展望
−REACHの理念にならい日本の化学物質政策を見直そう−
化学物質市民問題研究会代表 藤原寿和
今年は21世紀に入って5年目、研究会の発足からは8年目を迎えます。事務局では、昨年末に合宿をしてこれまでの活動を振り返り、また、今年度及び10周年を迎える2007年度までの中長期の活動計画について話し合いました。その中から、今年の活動の課題と展望について報告したいと思います。
■2004年の活動報告
まずはじめに、2004年の主な活動を振り返ってみたいと思います。
1.「子どもの健康を化学物質から守るための施策調査および提言」プロジェクト
2003年から、全国の95自治体に対し子どもを対象とする化学物質対策の取り組み状況についてのアンケート調査、および欧米諸国の取り組み状況の調査を実施しました。そして、それらに基づき、国に対しては「子ども環境健康法制定の提言」、自治体に対しては「子どもの環境化学物質による健康影響に関する施策−自治体への提言」を提出しました。これらプロジェクトをまとめた報告書を、2004年9月に発行しました。
2.EUの新しい化学物質規制「REACH」への取り組み
昨年11月、EUの新しい化学物質規制「REACH」をテーマとした国際市民セミナーを他6団体とともに開催しました。また、セミナーの海外講師を交えて、予防原則に関する勉強会も実施しました。
REACHとは、安全性が確かめられていない多数の化学物質を大量に使用し続けることを許し、有害性がわかっても迅速に対応できないこれまでの化学物質管理のあり方を見直して、新たにEUが提案した、登録、評価、認可からなる総合的な化学物質規制案です。
予防原則が根底にあり、既存の化学物質も新規化学物質と同じ扱いとし、安全性の立証責任をこれまでの行政側から企業側へ移す等、人の健康と環境を守るための画期的な化学物質政策です。2006年以降に立法化されると言われており、早期実現が期待されています。
REACHはEUの化学物質規制ですが、その影響は日本を含む全世界の化学産業界に及び、そのことにより、人の健康と環境の保護という人類の願いが地球規模で促進されることになると期待されています。
国際市民セミナーには主催者側の予想を超える参加者があり、「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」を発表しました。宣言は、REACHに関し日本の環境団体が一つに結集して意見を表明した画期的なもので、EUに対してはREACHの後退することのない実現を、日本政府に対してはREACHへの干渉の即刻中止を求めるとともに、日本国内においても市民参加のもと化学物質政策の包括的な見直しをするよう要求しています。
3.CS問題への取り組み
5月の第7回化学物質過敏症患者会、10月の厚労省・環境省交渉など化学物質による被害者への支援活動に取り組みました。また、ピコ通信を通して、一般市民に化学物質過敏症についての理解を深めてもらうよう努めました。
4.講演会等の開催
今年は、7月の塩ビとフタル酸、8月の疫学セミナーと、他団体との共催による講演会を開催しました。また、6月には研究会主催で、シックハウスと室内空気測定法の学習会を開きました。
■2005年活動の課題と展望
1.子どもの健康を化学物質から守るためのプロジェクト
昨年の国への提言に基づき、予防原則をベースとした子どものための環境基準の見直し、長期計画に基づく子ども環境健康調査の実施などの施策実現に向けてロビー活動を展開していきます。
そして、ティーンズを対象に化学物質の知識や危険性を楽しく学習できるウェブサイト「子どものための化学物質ウェブサイト"ティーンズ・ケミカルズ"(仮称)」の構築にも取り組みます。また、デンマーク環境保護庁の報告書「子どもと胎児の化学物質暴露と感受性」についても、翻訳出版化にこぎつけたいと考えています。
2.EUの新しい化学物質規制「REACH」への取り組み
REACHは欧州だけでなく、今後の日本を含む世界中の化学物質管理のあり方を大きく変える内容を含んでいることから、化学産業界や米国、日本政府などから猛烈な攻撃や抵抗にさらされており、当初の高い理念の後退が懸念されています。したがって、日本でも市民によるREACHの理念の理解を深め、REACHの成立を支援し、また、日本の化学物質制度の根本的な見直し求めていくことが重要です。
先頃、研究会も参加して「東京宣言推進実行委員会」を結成しましたので、この東京宣言の賛同署名を各種団体、研究者、有識者、個人から集め、日本政府とEUに提出したいと考えています(次記事参照)。この取り組みの一環として、実行委員会の主催で、第2弾の国際セミナーの開催を計画しています。
3.環境ホルモン問題
昨年から環境省がSPEED'98のリストを全面的に廃止し、それに変わるあらたな仕組みづくりに着手しています。この問題の背景及び新たな環境ホルモン対策に対しても目を向けていかなければなりません。
4.リスクコミュニケーションのあり方
環境省をはじめ農水省や厚生労働省など化学物質政策にかかわる政府機関や学者、研究者及び企業人の間で「リスクコミュニケーション」という言葉が頻繁に使われるようになってきました。これについて、特に予防原則との関係及び真の市民参加と情報公開などの観点から研究会としてじっくりと議論を深めていきたいと思います。そのための学習講座の開催なども検討したいと思います。
5.継続事業
@ CS問題への取り組み
被害者への支援活動を中心に、今年も取り組んでいきます。「化学物質過敏症は疾病として科学的に解明されていない」と言って、被害者救済に取り組まない国の姿勢を変えさせたいと考えています。
A PRTRへの取り組み
法律の施行から3年目になるPRTRへの取り組みを、あらたにNPO法人になった「有害化学物質削減ネットワーク(略称:Tウオッチ)」の構成メンバーとして、積極的に発言しながら取り組んでいきます。
6.読者交流会
今年は、ピコ通信を購読していただいている読者との交流会を開催したいと考えています。日程が決まりましたらピコ通信でご案内をしますので、ぜひとも参加をしていただき、実りある意見交換ができることを願っています。
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