ピコ通信/第75号
![]()
目次 |
テフロン製造助剤PFOAの有害性と
デュポン社の情報隠しをめぐる動き 焦げ付かないフライパンでよく知られているテフロンは、水にも油にも強く、熱にも変質しにくい性質により、多くの日用品、産業用の装置などさまざまな用途に使われています。しかし、今日、テフロンの製造助剤であるPFOA(パーフルオロオクタン酸)やPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)といった有機フッ素系化合物や、テフロン器具の過熱で発生する毒性の副生物質への懸念が次第に高まっています。(本紙62、63、64、65号参照) ■原爆製造のために開発 テフロンの歴史は、第二次世界大戦中アメリカが原子爆弾を開発した「マンハッタン計画」にさかのぼります。マンハッタン計画では、原爆の製造に大量のフッ素を必要としており、極めて反応性の強い物質であるフッ素を、いったん取り出した後安定させて保存できる化合物を必要としていました。そのためにデュポン社によって開発された化合物がテフロン(PTFE=4フッ化エチレン樹脂)でした。原爆開発プロジェクトは、「核兵器」と、「焦げ付かないフライパン」という二つの、ともに後になって私たちに困難をもたらす代物をこの世に送り出したわけです。 ■重大な危険性情報を隠したデュポン 2004年7月8日、デュポン社がPFOAの危険性に関する重大な情報を20年にわたり隠しつづけていたことが、米国環境保護庁(EPA)の調査結果として発表されました。米国環境保護庁の発表は、デュポン社の情報隠しについて同庁が1年にわたる調査を行ってきた結果、同社がPFOAが人の臍帯血や飲料用の水道水を汚染していることを知りながら、20年間もこの重要な研究結果を隠していたことを明らかにしました。 以下、特にこの問題について積極的に活動してきた米国のNGOである Environmental Working Group(以下EWG http://www.ewg.org/)の発表情報、米国でフッ素化合物による環境や人体の汚染について活発に活動しているフッ素問題行動ネットワークのニュースレター、EPAの報道向け資料、および2004年8月8日付けのサンデーテレグラフ紙(イギリス)の記事から、デュポン社の情報隠蔽事件とこれまでの経過をたどります。 ■胎児への移行と上水道汚染の事実 デュポン社は、1981年にヴァージニア西部にある同社のテフロンのプラントに関して調査研究を行っており、妊娠中の従業員の胎児にこの化合物が移行するという結果を得ていた事実を隠していたのです。さらに、1991年には、PFOAが近隣の2つの町の1万2000人に供給される上水道を汚染していたという事実をデュポン社は環境保護庁に報告していませんでした。 実は、この研究結果が同社の上層部に伝えらた時、同社は女性の労働者たちを生産ラインからはずし、外部のコンサルタントを招いてこの研究結果に間違いはないか調査をさせました。そして水道水の分析も近隣の2町より広げて行われました。しかし、やがて同社は突然、この再調査を放棄し、これらの情報は隠蔽されました。行政にはなにも報告されませんでした。このことは2003年に水道水のPFOA汚染という事件が起きるまで隠し続けられたのです。 2003年、水道水にPFOAが混入していることが明らかになりました。この事実をめぐり地元で裁判が起き、証拠を調査していく過程で、デュポン社が過去に行っていた調査書類の存在が浮上しました。 2003年4月、この件について情報を収集していたEWGは、EPAに対して、デュポン社が米国の有害化学物質の管理に関する連邦法TSCAに定める「健康や環境を害する重大なリスクを示す情報をただちに報告する」義務に反しているとして訴え出、これを受けてEPAが正式な調査に取り掛かったのでした。 そして約1年後の2004年7月に、EPAの調査結果が発表されたわけです。EPAは、デュポン社を告訴し、告訴状の中で「もしもデュポン社が、PFOAが胎盤を通過するという挙動を示すという情報を、研究結果を得た1981年の時点で公表していたならば、EPAが現在行っているPFOAのリスク調査はもっと迅速に成果を得ることができただろう」と述べています。 事実、PFOAは2003年になるまでEPAの規制的な監視対象とはならず、デュポン社は20年もの間、この物質によって年間何百万ドルという収益を上げ、汚染を拡大し続けてきたのでした。 EWGは、PFOSの生物の体内への蓄積は世界中で驚くべき高レベルに達していると指摘しています。 ■EPAがデュポンの三つの違法行為指摘 EPAは、デュポン社が、3つの違法行為を行っていたと指摘しています。(以下、罰金の計算は、EWGによる) ・違法行為1 連邦法違反:TSCA8条の(e)では、人の健康や環境に害を与える重大なリスクがあると結論するに足る合理的な知見については15日以内にEPAに報告しなければならないと定めているが、同社はPFOAが、人の臍帯血を汚染していることを報告しなかった。EPAは、PFOAが胎盤を通過することを確認した、人の臍帯血汚染の情報は、同法で言う合理的な知見に値するとしている。これによる罰金は最高で1億8380万ドルである。 ・違法行為2 連邦法違反:同じくTSCA8条の(e)。同社の工場を発生源とするPFOAが地域の飲料水を汚染しているということを、同社はEPAに報告しなかった。これは、当局にただちに報告しなければならない情報であるとEPAはみなしている。これによる罰金は最高で9160万ドルに上る。 ・違法行為3 1997年5月5日にEPAは、デュポンの工場の許認可の更新手続きに関して、不完全であるとの通知を出し、同社に対してPFOAであるPFOAについてわかっているすべての情報を提出するよう求めていた。しかし、デュポン社は出生異常に関する研究データの提出を怠っていた。EPAは、デュポン社が資源の保全と回復に関する法律に基づく報告義務の違反にあたると見ている。これによる罰金は3760万ドルに上る。 EPAが10月に発表した報道資料によると、これらの訴因に対して、デュポン社は今年10月28日に異議申し立てをすることになっていましたが、これはデュポン社側の理由により12月16日に延期されました。(その後の経過については、次号以降で報告します) ■英国サンデーテレグラフ紙から 以下は、テフロンは出生時の障害や疾病に関係あり、とする英国サンデーテレグラフ紙(2004年8月8日付け)による、英国を中心とした動きです。 PFOAの影響を巡ってデュポン社を訴えている被害者の一人は、生まれつき鼻孔が一つしかなく、ほかにも顔面に異常があり、これまでに30回もの手術を受けている。母親がデュポンの工場で働いている間にPFOAに 暴露していた。 EWGの科学者は、PFOAは有害で、環境中で自然に分解されることがなく、現に人体で発見されている汚染レベルあるいはそれに近いレベルで、害をもたらす、と警告している。 テフロンをめぐるもうひとつの懸念は、焦げ付かないフライパンが過熱されたときに発生する煙が"テフロン熱"と俗称される症状を引き起こすことである。この熱は一過性のものですぐに収まると言われている。が、この煙で鳥が死ぬ危険性があり、インコやフィンチといった敏感な小鳥は特に危険であるとの獣医の指摘もある。 英国では、環境食糧省がテフロンの使用規制を計画している。環境大臣のアラン・ミカエル氏は、これらの物質が「英国で人や環境に重大で現実的なリスク」をもたらしている、と指摘。同氏は、英国が米国と歩調を合わせてパーフルオロオクタンスルフォネート類の禁止に向けて行動をとるだろうと示唆している。 3M社は、2000年に米国EPAの圧力を受けてこの物質を含む製品の製造から2000年に撤退している。(関根 彩子) 参照: 地球を汚染する過フッ素化合物類類 PFCs (当研究会訳) |