CS 厚労省・環境省交渉報告
−予防原則に基づく対策を求める−
10月7日、化学物質過敏症(以下CS)患者団体、支援団体等による厚生労働省と環境省へのCS対策についての要請行動がありました。当会も取りまとめ団体として参加したので、概要を報告します。
当日の参加者は、化学物質過敏症患者の会などの患者7人、アレルギーの子どもを持つ親3人、その他2人でした。話し合いは、あらかじめ提出していた要望書(6賛同団体)への省側の回答を中心に進められました。
◆厚労省交渉
出席者:健康局生活衛生課、保険局医療課、医薬食品局審査管理課、同安全対策課、医政局歯科保健課、労働基準局安全衛生部化学物質対策課 計7人
要望 1.シックハウス・化学物質過敏症治療専門病院の医師・看護師等の専門性を高めてほしい
回答:医師国家試験において、シックハウス症候群が出題内容項目に新たに加えられた。また、今年の2月に、これまでの知見の整理として「室内空気質健康影響研究会報告書:〜シックハウス症候群に関する医学的知見の整理〜」を公表、自治体をはじめ関係機関に配布した。
要望 2.被害者の経済的救済を実現してほしい
@患者の経済面での救済、援護
A既設の建築物を改善するための補助金、助成など
回答:@税金を使う経済的な援助については、CSに関して病態の解明、治療法が確立されていない現段階では、早急に結論を出すのは難しい。Aは国交省の対応になる。
要望 3.療養施設と避難施設を早急に作ってほしい
被害者は化学物質の被害から逃れて住む場所がなく、路頭に迷っている状況である。中長期間住める療養施設と、近くで農薬が撒かれる、外壁塗装工事が行われるなどの場合、一時的に避難できる施設を建設してほしい。クリーンルームを備えた拠点病院の延長上で何らかの対応を考えてほしい。
回答:国交省の対応になる。住宅的なものになると医療の中では対象にできない。
要望 4.化学物過敏症を病気として正式に認め、保険を適用してほしい
2月に公表された室内空気質健康影響研究会報告書では、シックハウス症候群は病気として認められ保険適用も認められるようになったが、化学物質過敏症についてはいずれも認められていない。職場での病気休暇や裁判での健康被害の証明などの必要性からも正式に認めてほしい。また、保険適用を認めてほしい。
回答:報告書で、シックハウス症候群が病気として認められたとは理解していない。保険適用の可否は、病気に対して決定されるのではなく、処置や検査の手技ごとに決められている。手技の科学的な有効性、安全性が認められて初めて保険適用となる。現在保険適用外となっている手技については、薬事法上の承認をとって、保険適用希望として国に上げれば審査の対象となる。
病名は、国が決めるものではなく、医学会で確立されるもの。国の役割は、病気の定義や治療法、検査法の確立のための研究を支援していくこと。
要望 5.化学物質過敏症の治療法を確立してほしい
回答:2月にまとめの報告書を公表したが、国としては研究費等の支援を引き続き行い、平成15年から3ヵ年での研究が続いている。報告書が出るのは18年度、途中報告も出る。国会図書館、厚労省図書館で閲覧できる。
要望 6.他診療科の治療法の研究を進めてほしい
CS患者がかかる歯科をはじめとする他診療科の治療法の研究を進めてほしい。患者は麻酔薬をはじめ種々の医薬品、医療器具に反応するため、治療が困難で受けられない。特に歯科については、多くの患者が治療を受けられずに苦しんでいる。
回答:昨年1月から医薬品の添付文書に材料、成分について記載することが決められたので、活用してほしい。
要望 7.医療従事者の健康の安全を守ってほしい
看護師、医師など医療の現場で働く者が化学物質過敏症にかかり、失職するケースが増えている。殺菌・消毒剤、医療器具、医薬品などを多用する労働環境においてはその危険性が大きい。早急に実情を調査し、労働環境を改善してほしい。
@労働安全衛生法に則り、医療の職場環境の実態調査と改善指導をすること。
A労働安全衛生法に、医療労働現場で使用する消毒剤等での健康障害を対象に入れること。
Bグルタルアルデヒドの医療労働現場での使用禁止あるいは、厳しい使用規制。
回答:法令で規定された物質を中心に監督、指導を行っている。その中には医療機関も含まれる。
@:現在も進めている。
A:省令の特定化学物質等障害予防規則で、滅菌等に使われるエチレンオキシド、ホルムアルデヒドについての措置が決められている。労働安全衛生規則では、エタノール、クレゾール等皮膚に障害を与える物質についての取り扱いについて決めている。
B:平成15年から16年にかけて、医療労働現場での使用実態について調査を実施。その結果を踏まえて、学識経験者に意見をいただき、それを受けて現在内部で検討中で、できるだけ早く対策を示したい。
要望 8.化学物質による被害者救済のための対策委員会を早急に発足させてほしい
以上要望した被害者救済のためには、関連省庁も交えた対策委員会が必要である。患者、支援団体も含めた対策委員会を早急に発足させてほしい。
回答:平成12年にシックハウス対策関係省庁連絡会議(6省庁)が発足、連携して取り組んできている。今後もこの枠組みを活用して進めていきたいと考えている。
要望 9.予防原則に立った化学物質の使用規制に関する総合的な法律を制定してほしい
化審法によって新規化学物質は安全性が審査されて市場に出ているというが、現に私たちはその被害を受けている。また、新規以外の化学物質についてはほとんど審査されていない。さらに、農薬取締法、薬事法、食品衛生法、消費生活用製品安全法などの法律はあっても縦割り・限定的・基準が緩い等の理由で、私たちの安全は守られていない。
回答:化学物質審査規制法は化学物質の製造段階での上流規制を行い、新規物質だけではなく、国際的取り組みも使って既にある物質の安全性についても取り組んできている。問題となるのは、化学物質の毒性をどのように評価するかという点。これまでの評価は、急性毒性、慢性毒性、発がん性という従来の毒性学に基づいている。しかし、CS、シックハウス症候群については病態の解明、診断法が定まらず、試験法は確立されていない。
では、CSのような新しい毒性にはどのように対処していくかというと、物質ごとの点検、成分表示、殺虫剤などについての使用上の注意など、物によって選択肢を考えていかなくてはならないと考えている。治療法、各省庁の取り組みが進展する中で、徐々に手当てをさせていただきたい。
◆環境省交渉
出席者:廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課、同・産業廃棄物課、環境保健部環境安全課、環境管理局大気環境課、水環境部農薬環境管理室 計6人
要望 1.公園や街路樹、庭等に撒かれる農薬等の薬剤による被害防止対策を徹底すること
公園や街路樹、庭等に撒かれる農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤等)によって、化学物質過敏症(CS)を発症する者が後を絶たない。また、すでに発症した者も、これに非常に苦しんでいる。
農水省から通達「住宅地等における農薬使用について」が出たが、通知が出されても学校や公園、敷地等での農薬散布を一向に改めない等の被害者からの訴えが多い。また、薬剤使用時における事前告知と事後警告、報告を近隣地域や子ども、老人にもわかりやすく掲示・広報してほしい。
要望 2.農薬空中散布による被害防止対策を講ずること
要望1と同様に、有機リン農薬の空中散布によって、子どもや大人が重大な被害を受けている。有機リン中毒の後はCSになることが多い。
要望 3.公営集合住宅や町内会における薬剤一斉散布への規制と指導をすること。
要望4.安易な農薬使用による環境汚染や健康被害について農業者に対して周知徹底すること
1〜4回答:環境省は、農薬を登録する段階でメーカーによる安全性試験等のデータによって、食べ物への付着、土壌への残留、水汚染等の観点から登録してもいいかどうかを判断する登録保留基準を設定している。使用基準については農水省と共管している。農水省からの通知「住宅地等における農薬使用について」も、両省で協議して出した。
街路樹や街中で使用する農薬によって健康への悪影響が心配されるとの声が多いことから、来年度、農薬飛散リスク評価使用検討調査を実施することにしている。
(要望3については、厚労省の担当)
要望 5.野焼きの取り締まり強化と周知徹底をはかること
化学物質過敏症患者は、野焼きにひじょうに苦しめられている。空気のきれいな郊外にと考えて避難してきたのに、農家の野焼きは禁止されていないので、野焼きされると居場所がない。
回答:野焼きについては、ダイオキシン対策のために平成12年に通知を出している。農林漁業において焼却が認められるのは、稲わら、伐採枝条、魚網に付着した海産物等で、廃ビニールは認められない。焚き火その他、日常生活で焼却が認められるのは、キャンプファイアー等での木くず等。違反を発見した時には、保健所や自治体の廃棄物関係部署へ通報してほしい。
要望 6.小型焼却炉の取り締まり強化と周知徹底をはかること
要望5と同様に、工場や商店、民家などでプラスチック等を小型焼却炉で燃やすために、患者はひじょうに苦しい思いを強いられている。
回答:焼却は、すべて国が定める基準に従ってすることが定められている。違反については、保健所や自治体の廃棄物関係部署へ通報すること。
要望 7.廃棄物処理場からの汚染物質を規制すること
住宅の周辺にある産業廃棄物処理場からの汚染物質(VOC、他の化学物質)、排熱によって被害を受けている。
回答:熱については規制がない。その業者が産業廃棄物処理業の許可を得ているか、違反事実はないかなど証拠を手に入れること。
要望 8.印刷工場、化学工場、機械工場等からの有害ガス・悪臭等による被害対策を講ずること
印刷工場等からの排ガスによって健康被害を受ける者が続出している。国では、工場等からのVOCの排出抑制に取り組むと聞いている。周辺住民が被害を受ける事が多いのは、規制の対象外とされる中小工場から。したがって、中小工場からの排出を減らすよう有効な対策を講じてほしい。
回答:VOC排出抑制に取り組むことが決まり、今どのくらいのレベルにしようかと検討しているところ。除去装置は1台1億円くらいかかるので、小さい業者には難しい。水性塗料や粉体塗料に転換していくのがいいが、見栄えがよくないなどと言われる。それを受入れ、環境にいいものとして評価するよう、世の中を変えていきたい。製品開発のバックアップも進めていきたい。来年、基準作成の時に、パブリックコメントを募集する予定である。
要望 9.塗装工事によるVOCの排出を規制すること
患者にとっては近隣で行われる塗装工事もまた、大変苦しいものの一つで、避難を余儀なくされる。周辺へ影響が及ばないような対策を講じてほしい。
回答:今回のVOC規制の対象になっていない。水性塗料や、より溶剤の少ないものを工夫してもらうよう、事業者団体に計画を立ててもらう所から始める予定。
要望 10.土地造成、住宅建築による空気の汚染対策を講じること
回答:車の排ガスについては、ナンバープレートがついている車は来年から規制が始まる。建築機械についても、次の国会で排ガス規制する法案が出される予定になっている。
要望 11.杉並病の原因である不燃ごみ圧縮中継所を一日も早く廃止すること
全体として、対策が前進の方向には向かっていますし、細かい点では進んでいる面もあります。しかし、あまりにも歩みが遅いのはなぜでしょうか。
2001年9月に開催された「科学と予防原則に関する国際会議」で出された"科学と予防原則に関するローウェル声明"では、「被害が起きている、あるいは起ころうとしているとする信頼できる証拠が存在する時には、例え、その被害の正確な特性や程度が完全には理解されていなくても、早期警告に対する行動を起すこと 」と言っています。
また、「政策決定者はしばしば、その政策を勝手に決めたという非難を受けないようにするために、行動を起す前に技術とリスク間の高度な因果関係をさがし求める。しかし、しばしば、高度な証明を得ることはできず、また、将来それを達成できる見通しも立たない」とも。
交渉の中で度々出てきた「科学的に解明されてから」というのは、単に取り組みを遅らすための口実に過ぎないと受け止めざるをえません。(安間節子)
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