厚労省がシックハウス症候群などの「知見」発表
(化学物質過敏症)患者の存在は否定できない
厚生労働省健康局生活衛生課から2月27日、「室内空気質健康影響研究会報告書:〜シックハウス症候群に関する医学的知見の整理〜」が公表されました。
これまで、「化学物質過敏症」が正式に認められていないために、健康保険をはじめ様々な困難を抱えてきたため、化学物質過敏症患者の方たちが首を長くして待っていた報告です。
結論は、シックハウス症候群については 「医学的に確立した単一の疾病というよりも、問題のある住宅において見られる健康障害の総称」 であり、化学物質以外の環境因子によっても同様の症状が起こるので、十分な除外診断が必要。
また、化学物質過敏症については、その発症メカニズムは解明に到っていないが、 「環境中の種々の低濃度化学物質に反応し、非アレルギー性の過敏状態の発現により、精神・身体症状を示す患者が存在する可能性は否定できない」。
今後は、化学物質過敏症の「病態解明や治療法及び予防法の確立のための研究の更意を得た診断基準を暫定的にでも策定する必
要がある」などとしています。以下に概要を紹介します。
◆報告書の概要(抜粋)
室内空気質健康影響研究会は、室内空気質の健康影響について、これまでに実施されてきた調査研究で得られた医学的知見を整理することを目的として開催されたものであり、主として「シックハウス症候群」及び 「MCS(Multiple Chemical Sensitivity:多種化学物質過敏状態)/化学物質過敏症」 の2つの論点について議論を行ってきた。本研究会報告書の概要は、以下の通りである。
1.シックハウス症候群について
(1)健康障害の総称としてのシックハウス症候群
シックハウス症候群は医学的に確立した単一の疾病というよりも、「居住者の健康を維持するという観点から問題のある住宅において見られる健康障害の総称」を意味する用語であると見なすことが妥当である。
これまでに得られた知見によれば、(1)皮膚や眼、咽頭、気道などの皮膚・粘膜刺激症状及び(2)全身倦怠感、めまい、頭痛・頭重などの不定愁訴、が訴えの多い症状であることが示されている。その原因については、化学物質等居住環境における様々な環境因子への暴露が指摘されているが、全てが解明されるに至っていない。
(2)発症関連因子としての化学物質
シックハウス症候群の主な発症関連因子として、建材や内装材などから放散されるホルムアルデヒドや、トルエンをはじめとする揮発性有機化合物が指摘されている。
ホルムアルデヒドについては、0.08ppmという建築物衛生関係法令上の基準値が定められている。皮膚や粘膜に障害のない者については、当該基準値をわずかに上回った濃度の暴露を受けたとしても直ちに影響が生じることはないと考えられるが、アトピー性皮膚炎や気管支喘息をはじめとするアレルギー関連疾患等がある者では、当該基準値を上回る濃度での暴露が持続した場合、皮膚や粘膜の症状が増悪するおそれがある値でもある。
(3)化学物質以外の環境因子の関与
皮膚・粘膜刺激症状や不定愁訴を誘発する要因は必ずしも化学物質だけではない。皮膚・粘膜刺激症状はアレルギー疾患や感染症などの患者でも高頻度に認められる症状であり、また、温度、湿度及び気流等の温熱環境因子が増悪因子となりうる。
また、全身倦怠、めまい、頭痛・頭重などの不定愁訴は、各種疾患により生じるほか、温熱環境因子、生物因子(感染症)、照度、騒音及び振動等の様々な物理的環境因子、精神的ストレスなどが発症・増悪に関連することから、化学物質がかかる症状の関連因子であると判断するためには、十分な除外診断が必要である。
(4)室内濃度指針値とシックハウス症候群との関連
指針値をわずかに上回る濃度での化学物質の暴露を受けた者が、粘膜刺激症状などの症状を訴えた場合に、「シックハウス症候群」と判断される場合があるなど、当該指針値を巡って「シックハウス症候群」についての誤解も見受けられる。
そもそも指針値は、化学物質により「シックハウス症候群」を引き起こす閾値を意味する値ではない。そのため、室内環境での濃度が指針値を超過していることだけをもって、直ちに、当該化学物質が症状誘発の原因であると判断することは必ずしも適当ではなく、症状誘発の関連因子を特定するためには、慎重かつ適切な臨床診断に基づく総合的な検討が必要である。
2.MCS/化学物質過敏症について
(1)非アレルギー性の過敏状態としてのMCS/化学物質過敏症
化学物質が生体に及ぼす影響には、これまで、中毒とアレルギー(免疫毒性)の2つの機序があると考えられてきた。これに対し、近年、微量化学物質暴露により、従来の毒性学の概念では説明不可能な機序によって生じる健康障害の病態が存在する可能性が指摘されてきた。
当該病態については、様々な概念及び名称が提唱されているものの、国際的にはCullenが提唱した「MCS(Multiple Chemical Sensitivity:多種化学物質過敏状態)」の名称が、また、わが国では石川らが提唱した「化学物質過敏症」の名称が一般に使用されている。
(2)MCS/化学物質過敏症に関する臨床研究報告
MCS/化学物質過敏症として報告されている症候は多彩であり、粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭炎)、皮膚炎、気管支炎、喘息、循環器症状(動悸、不整脈)、消化器症状(胃腸症状)、自律神経障害(異常発汗)、精神症状(不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害(痙攣)、頭痛、発熱、疲労感等が同時にもしくは交互に出現するとされている。
(3)MCSに関する国際学会等の見解(省略)
(4)化学物質過敏症の呼称について
非アレルギー性の過敏状態としてのMCSの発症メカニズムについては多方面から研究が行われており、最近では、中枢神経系の機能的・器質的研究と、心因学説に立脚した研究報告が多数なされているものの、決定的な病態解明には至っていない。
しかしながら、その発症機序の如何に関わらず、環境中の種々の低濃度化学物質に反応し、非アレルギー性の過敏状態の発現により、精神・身体症状を示す患者が存在する可能性は否定できないと考える。
本研究会としては、「化学物質過敏症」という名称のこれまでの使用実態に鑑みると、非アレルギー性の過敏状態としてのMCSに相当する病態を示す医学用語として、「化学物質過敏症」が必ずしも適当であるとは考えられない。
今後、既存の疾病概念で説明可能な病態を除外できるような感度や特異性に優れた臨床検査法及び診断基準が開発され、微量化学物質による非アレルギー性の過敏状態についての研究が進展することを期待したい。
3.今後の課題
(1)国民への正しい知識の普及啓発(省略)
(2)医療従事者への関心の喚起(省略)
(3)基礎及び臨床的研究の推進
「シックハウス症候群」については、様々な環境因子の暴露により多彩な症状が発現することが確認されているが、その原因の詳細な把握や、治療法及び予防法の確立のための更なる研究の推進が必要である。
微量化学物質暴露による非アレルギー性の過敏状態としてのMCSに関しては、発症メカニズムをはじめ、科学的には未解明な点が多いのが現状であり、様々な研究領域からの多角的なアプローチによるMCSの病態解明や治療法及び予防法の確立のための研究の更なる推進が必要である。
なお、わが国ではMCSに関する診断基準については、過去に研究班の活動等を通じて策定が試みられたものの、未だ専門家の間での合意を得られていない状況にある。今後研究を推進するにあたっては、現時点で一定の合意を得た診断基準を暫定的にでも策定する必要がある。
2000年〜02年にかけて行われた研究のまとめで、これまで厚労省交渉で何回となく「もうすぐまとまる」と厚労省が私たちに期待を持たせてきた報告です。率直に言って、"期待を裏切られた"というのが感想です。
国には、化学物質過敏症が存在することを「可能性は否定できない」などという表現ではなく、きちんと認め、診断法と治療法の確立と予防対策、そして、患者に対する救済策を取るよう要求していきたいと思います。(安間 節子)
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