ピコ通信/第68号
発行日2004年4月21日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 3/23 第2回PRTRデータを国が公表
    化学物質の排出量が2万トン減少
  2. 東京都が環境確保条例データを公表
  3. 文科省 室内空気調査項目に2物質追加
  4. 海外情報/劣化ウラン兵器 (レイチェル・ニュース#788)
  5. 化学物質問題の動き(04.03.21〜04.04.20)
  6. お知らせ/編集後記


3/23 第2回PRTRデータを国が公表
化学物質の排出量が2万トン減少


 3月23日、第2回目のPRTRデータが国から公表されました。その概要についてお知らせします。

◆PRTR法にもとづいての公表

 1999年7月に公布された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(いわゆるPRTR法)に基づき、化学物質排出移動量届出制度(いわゆる「PRTR制度」)が導入されました。
 人の健康を損なうおそれ、または動植物の生息(育)に支障を及ぼすおそれのある354種類の化学物質について、事業者は環境への排出量や廃棄物にふくまれての移動量の届出を行い、国はその集計結果と届出対象外の排出量の推計値の集計結果を公表することとなっています(注1)。
 昨年3月、2001年度の排出・移動量について第1回目の公表がされ、今回公表された排出・移動データは2002年度の分です。

◆今年度の発表から分かること
  • 昨年度とほぼ同数の全国およそ3万5千の事業所から届出がありました。

  • 排出量(注2)が約29万トン(01年度:31万3千トン 以下同様)、移動量(注3)が21万7千トン(21万6千トン)、排出量と移動量の合計では50万8千トン(52万9千トン)でした。
    02年度は、前年度よりも合計で2万1千トン減ったことになります。

  • 国が推計を行った届出対象外の排出量(対象業種からの届出対象外の排出量、非対象業種からの排出量、家庭からの排出量、自動車などの移動体からの排出量)については、全国の合計で58万9千トン(58万4千トン)でした。02年度は01年度よりも微増しています。

  • 届出排出量と届出外推計排出量を合わせると、約88万トン以上が環境中に何らかの形で排出されたことになります。

  • 総届出排出量の内訳は、大気への排出25万6千トン(総届出排出量比:88% )、公共用水域への排出12千トン(同:4.1%) 、土壌への排出0.30千トン(同:0.10% )。
    また、総届出移動量の内訳は、事業所外への廃棄物としての移動21万4千トン(総届出移動量比:99% )、下水道への移動3千トン(同1.4%)となっています。
    表 02年度の有害化学物質の排出量ワースト5
    (朝日新聞3/30付け)
    化学物質 02年度 01年度 用途・排出原因
    @トルエン 281 (221) 溶剤、排ガス、塗料
    Aキシレン 169 (111) 同上
    B塩化メチレン 43 (84) 金属洗浄
    Cエチルベンゼン 40 (19) 溶剤、石油製品
    Dホルムアルデヒド 29 (28) 排ガス、消毒剤
    単位は千トン。()内は01年度の排出量
  • 推計分を含めた総排出量でもっとも多かったのは、トルエンの約28万トン。次いでキシレンが約17万トン。塩化メチレン、エチルベンゼン、ホルムアルデヒドと続きます。

  • 人に対して発がん性のある特定第一種指定化学物質12物質(注4)の届出排出量・移動量の合計は2万トンです。
    上位4物質は、
     @ 砒素及びその無機化合物: 7.4千トン
     A ニッケル化合物: 4.4千トン  B 石綿: 3.2千トン
     C ベンゼン: 2.6千トン
    の順となっています。

  • また、ダイオキシン類の届出排出量・移動量は4.9kg-TEQでした。
 昨年度と比較すると、今年度は昨年度よりも総排出量が約2万トンも減少し、国は「情報公開することで、企業の排出削減の努力を促す成果が出た」としています(朝日新聞3月30日付)。
 それが事実ならば大変うれしいことですが、届出データは事実を正しく反映しているかどうかなどについて、これから検証していかなくてはなりません。

◆問題となる点
  • 減少した事業所では、どのような対策を取った結果なのか(裏づけの検証−これは今後の削減対策追求の点からも重要)
  • 同規模の自治体間で大きく届出数が違うケースがあるが、報告漏れはないのか
  • どのような化学物質が減って、増えているあるいは減っていない化学物質は何なのか
  • 指定化学物質以外の有害物質へのシフトがないのか
  • 大方の物質が減少している中で、発がん性物質の一部が増加している。ヒ素が埋め立てが20%増加、カドミウムとその化合物が移動量が3倍に、六価クロムとニッケル化合物も3〜4割増加している。
  • トルエンが今年度もワーストワンで、昨年度の22万トンから28万トンへと逆に増えている。ワースト2のキシレンも、11万トンから17万トンへと増加。車の排ガスに含まれる推計値を上方修正したためという。
  • トルエンによるシックハウス(スクール)や印刷工場近隣住民への影響が問題となっている中、削減対策が急務である。
※     ※     ※
 当研究会も参加しているTウオッチ(有害化学物質削減ネットワーク)では、データの検証・評価に取り組んでいく予定です。6月に更新予定のホームページや学習会へもご参加ください。(まとめ 安間節子)


文科省 室内空気調査項目に2物質追加

 文部科学省は、2月10日、「学校環境衛生の基準」を改訂し、各都道府県教育委員会及び各都道府県知事等に通知しました 。改訂項目から、化学物質と関わりのあるものを拾ってみます。

1.「教室等の空気」について

  • 「検査事項」の「(2)ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物」において、「特に必要と認める場合」は、「エチルベンゼン」及び「スチレン」についても検査を行うこととし、これらの物質の「判定基準」について、「エチルベンゼン」は「3800μg/m3(0.88ppm)以下であること」、「スチレン」は「220μg/m3 (0.05ppm)」以下であること」としたこと。(著しく低濃度の場合は、次回からの測定は省略することができる)。 検査は、ア、イの事項について行い、特に必要と認める場合は、ウ〜カの事項についても行う。(特に必要と認める場合とは、新
  • 改築時などにこれらを含む塗料、接着剤、断熱材などを使った場合という意味−文科省)
     ア.ホルムアルデヒド(夏期に行うことが望ましい。)
     イ.トルエン
     ウ.キシレン
     エ.パラジクロロベンゼン
     オ.エチルベンゼン
     カ.スチレン
  • 「検査事項」に「(4)ダニ又はダニアレルゲン」を新たに盛り込み、「検査方法」として、「保健室の寝具、カーペット敷きの教室等、ダニの発生しやすい場所」において行うこととしたこと。
  • 「ダニ又はダニアレルゲン」の「判定基準」について、「ダニ数は100匹/m2以下、又はこれと同等のアレルゲン量以下であること」とし、「事後措置」として、「掃除等の方法について改善等を行う」こととしたこと。
2.「ネズミ、衛生害虫等」について

「ネズミ、衛生害虫等の発生を見た場合」は、「児童生徒等の健康及び周辺環境に影響がない方法で駆除」を行うようにするとしたこと。

化学物質の室内空気濃度の学校実態調査

 エチルベンゼンとスチレンを検査項目に加えるに当っては、同日発表された「学校における化学物質の室内空気濃度の実態調査」の結果が参考とされました。

■調査方法

調査対象
全国各地の新築・改築(1年程度)、全面改修(1年程度)、築5年程度、築10年程度、築20年程度の学校から各10校、合計50校を選定。

測定事項
エチルベンゼン、スチレン、テトラデカン
:教室、保健室、図工室、音楽室、パソコン教室、体育館、外気
クロルピリホス、ダイアジノン
:教室、保健室、体育館、外気
フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
:教室、保健室、図工室、音楽室、パソコン教室、体育館、外気

 エチルベンゼン、スチレン及びテトラデカンについては、50校を対象に測定。また、1日のうち、午前・午後の2回の測定を実施。
 クロルピリホス、ダイアジノン、フタル酸ジ-n-ブチル及びフタル酸ジ-2-エチルヘキシルについては、50校の中から10校を抽出して測定。また、測定時間がかかるため、午前・午後の2回の測定ではなく、1日1回の測定を実施。

調査期間
エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル
:夏期:平成13年 9月〜10月 冬期:平成12年12月〜平成13年2月
テトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ダイアジノン
: 夏期:平成13年 9月〜10月 冬期:平成13年12月〜平成14年2月

■結果の概要

エチルベンゼン
夏期及び冬期において、厚生労働省の室内濃度指針値(3800μg/m3)を超えた箇所はなかった。
(単位:μg/m3)
エチル
ベンゼン
夏期 冬期 通年
午前 午後 午前 午後 午前 午後
最大値 287 2532 803 812 803 2532
平均値 9 13 13 13 9 13
中央値 4 4 4 4 4 4
最小値 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下

スチレン
冬期において、厚生労働省の室内濃度指針値(220μg/m3)を超えた箇所はなかった。
夏期において、午後で277箇所中1か所(0.4%) (図工室)で室内濃度指針値を超えた。
当該図工室で、午前の測定の後、午後の測定の前の授業においてスチレン系接着剤を使用したことが室内濃度指針値を超えた原因であった。
(単位:μg/m3)
スチレン 夏期 冬期 通年
午前 午後 午前 午後 午前 午後
最大値 111 434 30 34 111 434
平均値 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下
中央値 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下
最小値 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下 1 以下

 テトラデカン、クロルピリホス、ダイアジノン、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル:夏期及び冬期において、厚生労働省の室内濃度指針値を超えた箇所はなかった。

 文科省がようやく室内濃度調査に取り組んだのは、一歩前進です。しかし、これらの調査結果からは、今、子どもたちが苦しんでいるシックスクールの実態は浮び上がってきません。それはなぜなのでしょうか。
 一つは、調査がシックスクールの原因を適切に調べていないのではないかということ。
 もう一つは、厚労省の指針値が決して安全値ではないという理由からです。

 厚労省自身「そもそも指針値は、化学物質によりシックハウス症候群を引き起こす閾値を意味する値ではない」(出典:室内空気質健康影響研究会報告書の概要)と言っています。いわば"目安の値"といった漠然としたものなのです。ですから、指針値を絶対視することは危険なことです。
 たかだか数種類の室内汚染物質を学校毎に測定しても、子どもたちの健康を守ることは困難です。それよりも、子ども達の健康に影響のある物質を使うことをやめるという方向に変えていくべきです。それは、そんなに難しいこととは思えません。文科省では、健康実態調査も行うとしているので、結果の発表を待ちたいと思います。(安間 節子)


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る