ピコ通信/第65号
発行日2004年1月22日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 研究会2004年活動の課題と展望/化学物質の子どもへの影響を調査研究したい
    化学物質問題市民研究会代表 藤原寿和


  2. 環境省 VOCの大気への排出規制へ
  3. 海外情報
    地球を汚染する過フッ素化合物類 PFCs その4(最終回)
  4. 隣家のゴルフ芝への農薬散布で化学物質過敏症に/仙台市 男性
  5. 化学物質問題の動き(03.12.15〜04.01.17)
  6. お知らせ/編集後記


研究会2004年活動の課題と展望
−化学物質の子どもへの影響を調査研究したい−

化学物質問題市民研究会代表 藤原寿和

■はじめに
 当研究会では、昨年から「子どもの健康を化学物質から守るための施策調査及び提言」プロジェクト(以下「子ども健康プロジェクト」)を開始しました。
 発達過程にある子どもは化学物質に対する感受性が強く、子どもの環境政策の実施が緊急の課題として国際的に叫ばれています。
 こうした取組みはすでに欧米では推進されていますが、日本では、東京都が化学物質ガイドラインを制定したものの、国レベルでの取組みは遅々として進んでいないのが現状です。
 昨年3月に、環境省が「小児等の環境保健に関する取組」の企画を公表し、当面は「小児等への化学物質の暴露量を算定するための手法を開発し、暴露評価を行うための基礎資料を集積するために、小児等の生活時間、行動パターン等に関するアンケート調査を実施する」こととしています。
 私たちは、身近にあふれる化学物質が、とくに発達過程にある子どもたちに与える影響に着目して取り組む中から、あらためて化学物質政策全般の見直しにつなげていきたいと考えています。

■2003年活動を振り返って
 子ども健康プロジェクトの初年度に当たる2003年度の事業として、私たちは、次の4つの事業を推進してきました。

(1)海外における各国(アメリカ、EU、デンマーク等)の取組み事例を調査(文献収集等)し、国内向けに翻訳紹介すること。
 この事業は9月に開始し、すでにその成果の一部を私たちのホームページに「子どもの環境健康」と題したコーナーを設け、収集した海外文献を翻訳して紹介しています。

(2)国内では、全国の都道府県及び政令市、中核都市を対象としたアンケート調査(子どもを対象とする化学物質対策の実施内容及び計画等)の実施。
 昨年8月に47都道府県、13政令市、35中核都市に宛ててアンケート用紙を送付し、現在、66の自治体から回答が寄せられており、その取りまとめ作業を行っております。
 中間的な取りまとめ結果を私たちのホームページの「子どもの環境健康・自治体調査」に掲載しておりますので、ぜひご覧下さい。

(3)関連するテーマでの学習講座の開催
「化学物質から子どもを守るために」をテーマに、これまで5回の連続講座を開催してきました。この1月17日には、最終回として東京都の「化学物質の子どもガイドライン」をテーマに、都の担当職員から、その内容と今後の展開などについてお話を伺いました。 ホームページ「研究会主催の講座−化学物質から子どもを守るために

(4)以上の調査結果等から国・自治体への政策提言
 3月中にまとめ、提出する予定です。

■2004年活動の課題と展望
 今年の活動方針としては、昨年に引き続き子どもと化学物質をメインテーマに活動を展開していく予定です。
 昨年は文献調査と啓発事業が活動の中心となりましたが、今年は、子ども用商品の実態調査を考えています。化粧品や玩具、文具、食べ物など、子どもをターゲットにした商品が氾濫していますが、そうした商品にどのような化学物質が使われているのか、企業アンケートや試買調査により明らかにしていきたいと思います。
 それをもとに、子どもや若者向けに身の回りの物についての化学物質を中心とする環境情報を伝えるウェブサイト作成にとりかかる予定です。
 また、子どもを取り巻く環境の中で、どの程度化学物質に日常的に暴露を受けているのかの調査も必要と考えています。
 シックハウスやシックスクールの原因物質であるホルムアルデヒドやトルエンなど揮発性有機化合物(VOC)を計測できる「フィルムバッジ」を子どもたちに一昼夜つけてもらい、それを回収して計測することによって、1日の生活の中でどういう汚染状況に曝されているのかを測定することができます。
 屋外では、有機リン系の殺虫剤や農薬の散布に曝されていますが、こうした汚染状況についても明らかにしていきたいと考えています。
 こうした実態調査結果を踏まえて、子どもを取り巻く環境から有害な化学物質の排除、安全な物質への代替化、子ども用商品の成分表示の義務化などを提案していきたいと思います。
 以上のような2カ年の取組みをもとに、子どもの健康を化学物質から守るための「子ども健康基準」の設定や「子ども健康保護対策」の実施などを検討し、関連する取組みを行っている団体等と一緒に、「子ども健康保護法」の制定運動に取り組んでいきたいと思います。
 今年もどうぞ研究会の活動にご参加、ご支援をよろしくお願いします。


隣家のゴルフ芝への農薬散布で化学物質過敏症に
仙台市 男性

 私は、隣家が年16回も撒いたスミチオン、その他農薬等によって体がすっかりだめになりました。
 住宅地にある我が家の隣家はゴルフ好きで、平成9年頃から小さな庭にゴルフ場出入りの芝業者を入れて、本格的なゴルフ芝(注)を作り始めたのです。芝生の広さは60m2くらい。芝業者はゴルフ場で使う動力付きのポンプ車で来て、大量にスミチオン等の混合農薬を散布し始めました。
 ゴルフ芝業者が農薬を撒き始めてから私の体調は狂い出しました。
 平成10年には、犬の散歩中知らぬ間に、お尻から血を流しながら歩いていました。家に帰ってジーパンを見ると血でどす黒くなっていました。
 平成11年には隣の家で業者が農薬を散布するたびに気持ちが悪くなり、頭痛がし、段々ひどくなっていきました。その後、農薬に敏感に反応するようになりました。理由はよく分かりませんが、家族で症状が出たのは私1人です。

 業者による使用農薬はスミチオンだけではなく、10種類以上になります。その中には、WHOの国際化学物質安全性カードで発がん性の恐れのある農薬とされている除草剤MCPPもあります。
 その他、EPAによって人に対する発がん性物質であると認められているキャプタンも使われました。キャプタンとフェニトロチオン(スミチオン)は、たいてい混合されて使われました。アメリカでは2004年に禁止になるダイアジノンも年に数回散布されています。
 隣家の前の道は、中学校の通学路なのに、このような危険のある農薬を、当然のように散布していたのです。その危険性を、農林水産省は一切公開していません。
 医師たちからも、病気と農薬との因果関係は立証はできませんとはっきり言われました。業者には、「国の基準を守っているのだから文句があるなら国に言え」と言われる始末です。

 県の農業振興課の担当者は、私が隣家の農薬で苦情を申し立てたとき、はじめは「全く問題ないです」と言っていたのですが、私が「それでは、その資料を情報公開条例に基づいて出して下さい」と依頼したとたん、調査することになりました。しかし、実際に調査が始まったのは、それから2カ月後です。
 県の職員による虚偽行為は幾度となく繰り返されました。
 例えば、県の病害虫防除所長が、「一般的に、スミチオンは1週間位で自然分解する」と回答したり、県の初めの調査書があまりにいい加減なので、担当者に確認しようと10数回電話してもすべて「担当者は農水省に出張しており、いつ来るかわかりません」と対応されたり。また、農薬取締法には強制力があるのに、県の農業振興課は「強制力がないので、業者にお願いして調査するしかなかった」と回答したり。
 県による調査の結果は、スミチオンを年14回(県がやっと認めた分だけでも)。国の基準が6回ですから、少なく見積もっても8回は超えているのです。業者の嘘がはっきりしたのですが、罰則規定はありません。

 平成11年に、隣家はゴルフ芝を枯らしたので、ようやく問題は解決したかのように思えました。ところが翌年、隣家は普通芝を元通りに張り直し、今度は自分で夜中や朝方にこっそり農薬を散布する事態になりました。
 すでに化学物質過敏症になっていた私にとっては、また地獄が始まりました。
 平成14年、結局私からの何回もの苦情の末、隣家は庭の芝をはがしました。
 しかし、私の家の周辺には水田やゴルフ場が多く、化学物質過敏症になってしまった私は、農薬から逃れるため、昨年、町の中心部に引越しました。今住んでいる場所は農薬散布が少ないので、体調もだいぶ回復に向かっています。
 今私が言いたいのは、農薬に関して隣人も、農薬散布業者も県の農業関連職員もなぜ嘘をつくのかです。
 また、なぜ農林水産省は農薬の毒性を公開しないのか。なぜ医師は、農薬に関して無視をするのか。なぜ、医師や行政は農薬被害を農薬以外の理由にするのか。
 これは、国が農薬被害者を認めないような政策をしているからではないでしょうか。国が農薬を守っているとしか思えません。子孫の生きられる環境を残すことが必要ではないでしょうか。
 環境省による環境ホルモンリストの大半は農薬です。ヨーロッパのように全ての化学物質成分を情報公開する方向に日本もすべきではないでしょうか。

(編集注:普通芝とは高麗芝のことで、ゴルフ場の他、一般家庭や公園などで使われている。ゴルフ芝とはベントレー芝のことで、ゴルフ場の中でも上級の芝で、農薬を多用しないと保持できない。)




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