1. 連続講座第「化学物質から子どもを守るために」 2003年9月28日開催
第2回 「化学物質の子どもへの影響の実態−アレルギー専門医の立場から」
島津恒敏さん(京都市・島津医院)
■はじめに
私たちの体は60兆個の細胞から出来ていますが、うち2兆個の細胞は免疫系として、神経系や内分泌系(ホルモン)など共同して統一した機能を営んでいます。化学物質過敏症はアレルギーとよく似ていますが、抗原・抗体反応とはちがう、まだよく分からない仕組みで起きます。また、しばしばアレルギー性皮膚疾患や喘息とからんで症状が出てきます。免疫系、内分泌系、神経系の異常が化学物質によって引き起こされるものとしては、シックハウス症候群、シックスクール症候群というものもあります。
■アトピーの治療は原因物質除去が第一
免疫系のTリンパ球は、Bリンパ球を介して様々な物質に対する抗体を作り、それによって異物から体を守ります。アトピーやアナフィラキシーは、IgE抗体がBリンパ球によってたくさん作られることで起こります。
子どもはアナフィラキシーを起こすような抗体を、最初からもっているわけではありません。リンパ球が何に反応するか調べると、乳児の患者の90%はダニに反応しますが、IgE抗体を持つ子は7%ぐらいしかいません。生まれて数カ月でダニにアレルギーを起こす体になるのです。患者の多くは、ダニ対策をしたら皮膚がきれいになります。
原因物質を取り除くことが、私が取る第一の治療法です。しかし、一般的には症状を抑える副腎皮質ホルモン(ステロイド)を使用しています。これがホルモンの働きに大きな乱れを引き起こします。
ステロイドを塗っている人の副腎皮質ホルモンの濃度は、健常者より低くなります。塗らなくなると、脳下垂体は副腎皮質ホルモンが足りないと思ってどんどん作らせるので濃度が高くなります。受容体が異常を起こしていると思われます。これが正常値にもどるのに1年近くかかり、その間、炎症が治りません。アレルギー性疾患のかなりの部分は、乳幼児期からステロイドホルモンを使う事で体が過敏になって悪化していると考えられます。
原因を取り除いても、長く塗ってきた副腎皮質ホルモン剤をやめると症状が大変ひどくなります。しかし、一年もすればすっかりよくなります。
■歯科治療の金属も原因に
私たちが注目しているものに重金属があります。ダニ対策してもよくならない患者がいたのですが、ニッケル鉱山の労働者の手に生じたニッケル皮膚炎の症例を見て、子どもの歯にニッケルクロム合金を詰めている事に気づきました。このニッケル冠は、発がん性から鋳造禁止になってはいますが、在庫はあるので、まだ使われています。
歯からは、使われ方によってはいろいろな重金属が体に取り込まれ、いろいろな問題を引き起こします。偏頭痛や化学物質過敏症なども、歯の重金属を外してよくなったという例をしばしば経験します。
アレルギーを誘発する金属は、水銀、ニッケル、金、パラジウム、インジウム、銀、チタンなどで、ビスフェノールAが問題になるレジン(プラスチック)もアレルギーを引き起こします。水銀は特に問題ですが、アメリカや日本の歯科医は問題がないとして水銀(アマルガム)を使い続けています。
患者ののほとんどは水銀やニッケルに反応します。金は37%、銀は27%、パラジウムは31%、インジウムが24%の人が反応します。歯の金属を除去することで7割くらいはよくなっています。京都の小学校で1997年に調べたところ、歯に水銀を詰めている子が38.3%いて、そのうちの2人に1人は皮膚炎を起こしていました。詰めていない子は皮膚炎が7.6%でした。
口の中に水銀と金が入ると、電流が流れます。金を入れて、水銀がそれまでの10倍も溶け出してひどい皮膚炎になった患者がいました。日本では、水銀は8年前は年間4トン、今でも1トン弱使っています。歯1本にアマルガム中の水銀0.3gとして3百万本分です。6年前、東京の歯科医50人を電話で調べたところ、28%が、昨年の京都での調査では25%が使っていました。これが口の中に入ったままで、化学物質過敏症の下地を作っている可能性があります。
スウェーデンのアマルガム被害者同盟は、1970年代から歯に詰める水銀の危険性を問題にしてきましたが、アメリカの歯科医師会は害は少ないとしています。しかし歯の水銀などの金属を取り除くことでいろんな症状がよくなっている例はたくさんあります。
■生活の中に危険はあふれている
アレルギー様の症状を起こすものとしては、他にも食べ物の添加物、防腐剤、合成着色料があります。酸化防止剤の亜硫酸塩は、ワイン、冷凍した甲殻類、ドライフルーツなどに入っていて、アナフィラキシー様の症状が起こって死ぬこともあります。
作用のメカニズムは抗体やリンパ球を介したものではなく、よく分かっていませんが、自律神経系を介して起こるものではないかと思います。防腐剤の安息香酸やパラベン、医薬品添加物でもアレルギー様の症状が起こることがあり、生活の中に危険は満ちあふれています。
呼吸は、成人が1日3万回、乳児はおよそその2倍で、一生では8億回もしています。だからppm(百万分の一)の濃度でも大気の汚れは、大きい影響を及ぼします。重金属の微粒子など肺胞に入って分解されないものは一生、体に残っています。小さい頃からいろいろなものを吸い込むことによって、集積されていろいろな影響が起こってきます。
■乱用されるステロイド剤
今のアレルギー治療は、副腎皮質ホルモン(ステロイド)を与えて症状を抑えるだけで、生活環境中の原因を取り除こうとしません。その結果、種々のストレスへの対応で中心的役割を担っている視床下部にダメージを与えて、体の調節を困難にすることになります。患者の多くは副腎皮質ホルモン依存症とでもいうべき状態になっています。環境ホルモンには臨界期があって、乳児、新生児期に受けると一生影響が残ります。副腎皮質ホルモンは投与された量がごくわずかでも、受容体の異常が起こり、感受性が弱くなる。それが化学物質過敏症やアレルギー増加の原因の一つになっているのではないかと私は考えています。
今、臓器移植に使われている免疫抑制剤の軟膏タクロリムス(商品名:プロトピック)を子どものアトピー性皮膚炎の治療に使おうとしています。メーカーが未公開にしていた資料からも、動物実験では、長期間連用すると、薄い濃度でも発がん率が高くなることがわかりました。厚生労働省に承認しないよう申し入れましたが、認可されてしまいました。患者に、高い血中濃度では悪性リンパ腫などの発がんが報告されていると説明して、了解を得て使用するという条件つきですが、発がんした場合、だれが責任を負うのかさえはっきりしていません。
■未来の子どもたちのために警鐘を
日本は全世界の富をほとんど独占しているアメリカに追随して環境破壊を助長していて、今そのツケが回ってきています。健康被害の因子は国際的な視野で警告を発していかなければなりません。次代の遺伝子や内分泌系を傷つけるような、とりかえしのつかない環境破壊だけは避けなければならなりません。
21世紀、人類の存続を危惧するような状態を迎えています。日々の治療も、健康に本質的にどれだけ役立つのか疑問も抱きながらやっています。しかし、締め付けがあろうと、分かったことには警告を鳴らしていかなければなりません。
被害者が声を上げて、自閉症の原因としての関連が疑われるとして、ワクチンの防腐剤に使われてきた水銀を追放する動きにまでなったのは非常に大きい成果です。歯の水銀も、原因不明の神経障害を誘発している疑いもあります。また、化学物質過敏症の誘発因子としても問題にしていかなければなりません。
■質疑応答から
Q 抗原を調べる検査はどうすれば受けられるのか?
A 薬物によるリンパ球幼若化試験を種々の抗原に準用する方法がある。私たちは八王子の臨床検査会社に頼む。東京では東京歯科大学、東京医科歯科大学でもやっているが、保健が効かないので、一つ4、5000円から8000円かかる。皮膚でのパッチテストもある。
Q 幼児からぜんそくで、腎臓病になったので薬をやめた。薬そのものがぜんそくの原因になることはないか? 吸入ステロイドは安全なのか?
A ぜんそくの一番の原因はダニ抗原だ。原因を取り除くのが第一の治療で、取り除けない時に薬で対応する。寝具を防ダニ寝具に代えるとよい。ぜんそくは、気道にリンパ球による炎症が起こるためで、吸入剤を使うが、脳下垂体に影響はある。ぜんそく剤そのもので起こることはないが、含まれる防腐剤によってぜんそくが出る人がいる。アスピリンや他の薬でもぜんそくが起こる。
Q 減感作療法とは?
A 減感作療法は、抗原を少し注射して遮断抗体を作ろうというものだ。アトピー性皮膚炎のような遅延型アレルギーには効かないが、花粉症には有効だ。IgG抗体ができて、抗原にくっついて、IgE抗体を介した反応を防ぐ。ときにアナフィラキシーが誘発されることもあり注意がいる。
Q 息子が歯の矯正をしている。その金属もアレルゲンになるのか?
A 矯正ワイヤーはステンレスのピアノ線で、それにコーティングしてある。ニッケルが含まれておりアレルゲンになる。マウスピースに代える方法もある。歯の詰め物とワイヤーを合わせたら電流が起こってよけい溶け出す。
Q アマルガム以外の詰め物は何か?
A 金、パラジウムなどの貴金属があるが、だめな人はセラミックにする。接着剤としてレジン(プラスチック)を使うので、プラスチックの成分に陽性の人は困る。レジンは環境ホルモンの問題があるが、大人ならやむをえず使う。試験で陰性でも、実際に口の中に入れて問題が起こることもある。
Q キレート療法はやっているか?
A ヨーロッパでは盛んだが、原因を取り除くのが先だ。セレニウムを用いることはある。サプリメントとしてビタミン剤や抗酸化剤は一定の役割を果たすだろう。
Q 免疫抑制剤のプロトピック(タクロリムス)は、害は少ないという人もいるが?
A アトピーは抗原でTリンパ球が刺激されて起こる慢性の炎症だから、原因を取り除くことが必要だ。タクロリムスも対症療法だ。臓器移植をする時ほど血中濃度は上がらないが、その薄い濃度でも、動物実験では発がん性が高くなる。乳幼児に使うとリスクはさらに高い。臓器移植は命がかかっているから、副作用があっても必要悪とされる。3年間プロトピックを塗り続けていた16歳の少女を診たが、悪性リンパ腫を発症していた。国内初の例だろう。アメリカでも悪性リンパ腫の例が多く出ている。製薬会社は因果関係を否定するだろうが。
Q 金属アレルギーが起こる濃度はどれくらいか?
A 口の中でどれだけ溶けているか詳しいデータはない。ナノグラム単位でも起こる。イオン化してそれがタンパクとくっついて異物と認識されると抗原となる。健常者でも金属に対して免疫反応が起きている。耐性が保たれない人が発症するのであって、しきい値は決められない。
Q 検査で金属アレルギー反応が出なかったとしても、子どもの口の中の金属を取り除いた方がいいのか?
A 虫歯ができたら歯の治療は必要だ。虫歯を防ぐことが金属アレルギーの第一の予防策だ。水銀やニッケルが断突に悪い。銀、パラジウムの方が安全だ。フッ素入りの合成界面活性剤の歯磨きも、金属の表面をみがくことで溶けやすくする。症状が無いのに口の中の金属全部を外せとまでは言えない。
Q 合成界面活性剤を使った洗剤や化粧品の化学物質が、経皮毒性として体に入ってくるがどう考えるか?
A 合成界面活性剤は生活でたくさん使っていて、消化管や皮膚からの異物の吸収を高める。発がん物質を界面活性剤と一緒にすると吸収量が圧倒的に増える。シャンプーをすると苦しくなるという患者は、シャンプーの中のパラベンや安息香酸やタール系の合成着色料が吸収されるからで、天然油脂のシャンプーに代えさせると落ち着く。体への浸透を助長するので、一方で治療薬を吸収させるのに使ったりする。
Q 安息香酸やパラベンは規制されていない。皮膚炎の原因になっているという論文はあるか?
A 化粧品は現在は全成分表示だが、以前はアレルギーの恐れがあるものが要表示成分で、安息香酸もパラベンも要表示成分だった。それはすでに被害が報告されているものだ。化粧品にはパラベンフリーのものもある。
Q アルミニウムが問題視されているように、金属アレルギーを起こすものが脳関門を通過して脳に蓄積しているという文献はあるか。
A 水銀は脳に蓄積している。重金属がどこに蓄積されているかというデータもあると思う。アマルガムの水銀は胎児に移行することも分かっている。
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