ピコ通信/第57号
発行日2003年5月19日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. CS厚労省交渉/化学物質による健康被害を受けた者への救済策は全くない
  2. 誰もがあす化学物質過敏症になるかもしれない/シグナルキャッチ
  3. ミネラルウォーターからアルデヒド類検出 水道水の何倍もの製品も
  4. 水性塗料と環境問題/荒川いずみ(化学品安全・環境コンサルタント)
  5. 海外情報/レイチェル・ニュース #763 抜粋
    (リスク評価思考の問題点と予防原則について)
  6. 化学物質問題の動き(2003年4月19日〜5月18日)
  7. お知らせ/編集後記


1. CS厚労省交渉
  化学物質による健康被害を受けた者への救済策は全くない


 4月22日、昨年に引き続いて化学物質過敏症患者団体等による厚労省交渉が行われました。当会も賛同団体として参加しましたので報告します。
 交渉には、患者・支援団体側からは化学物質過敏症患者の会を中心に7名が参加、厚労省側からは健康局生活衛生課、医薬局審査管理課化学物質安全対策室、医政局歯科保健課など10名が出席しました。話し合いは、あらかじめ提出していた要望書(6賛同団体)への回答を中心に進められました。

T 継続要望(前々から要望しているもの)
T-1 重・中症患者用の国営治療・療養施設、避難施設の早期実現をしてほしい。
 厚労省回答:国としては、クリーンルームを整備中であり、すでに国立相模原病院に専用の設備を整備。国立療養所盛岡、南岡山、南福岡の3病院にも、シックハウス対応の可能なクリーンルームを整備した。昨年度から東京労災病院にもクリーンルームを整備している。
 避難施設については、厚労省としては対応できない。国交省や自治体なら対応できるのではないか。

T-2 被害者特別治療に対して健康保険適用をしてほしい。
 厚労省回答:保険は疾患に対して適用されるものではなく、処置や検査など診療行為に対して適用されるもの。化学物質過敏症の色々な症状に対する薬や検査に対して保険は適用される。ただ、保険適用はその治療法が研究段階のものでなく、有効性などが確立されたものに対して適用される。実験的なもの、限られた医療機関だけでしかされていないものには適用されない。
 北里大学で保険が適用されないのは、自由診療をとっているから。上記の国立病院を利用してほしい。

T-3 被害者児童向けの学校設置と教材・文具の有害化学物質規制をしてほしい。
 厚労省回答:文科省の管轄。

T-4 歯科治療に使用する薬剤、材料の調査・研究を進めてほしい。
 厚労省回答:大学病院を中心に、アレルギーを持った患者に対する新しい材料の研究が進められている。また、自分の細胞からつくる再生治療など最先端の研究も。それができれば、アレルギーの問題も解決できる可能性がある。
 また、医薬品同様、今年の1月から医療用具にも添付文書をつけるようになった。その中にアレルギーを起こす組成についても記載するようになっている。医者には製品についての情報が伝えられているわけで、医者とよく相談してほしい。

U 新規要望
U-1 化学物質による健康被害者援護法を制定してほしい。
 現在、シックハウス対策などの各種対策が講じられつつあるが、すでに健康被害を受けた者に対しては何らなされていない。
 法律の保護もなく、泣き寝入りしているのが現状である。例えばシックハウスによる被害者は、高額なローンの支払い、避難のための生活費負担増、高額な治療費の支払いなど経済的にも甚だしく困窮している。これはシックハウス以外の化学物質被害者にとっても同様。以下の施策を講じてほしい。
@患者の経済面での救済、援護
A既設の建築物を改善するための補助金、助成など
B患者が住めるモデル住宅の開発、技術公開、相談窓口の設置、指導など
C家具類の使用材料についての法規制

U-2 有害化学物質に関する調査研究の推進
@新規化学物質については、市場に出る前に安全性を十分に調査してから許可する。事故や被害発生の場合は直ちに販売使用中止など。
A有害化学物質発生源に関する調査・研究
B有害化学物質の使用が疑われる商品の調査
C下記における有害化学物質の基準値設定と規制強化
学校、図書館等の公共施設、公共交通機関、賃貸・公共住宅、新車・中古車内、医療・療養施設内、建築・道路工事現場等。
D有害化学物質に関する一般への広報活動と規制
特に以下について。
 野外焼却、防蟻処理、外壁塗装、園芸用農薬、家庭用殺虫剤・漂白剤・消毒剤、石油ストーブ、食品添加物・香料、受動喫煙等々。

厚労省回答:
 新規化学物質に関しては、化審法によって安全性を事前に審査して許可している。
 家庭用殺虫剤等に関しては、添付文書のような形での情報提供を検討しているところである。「殺虫剤指針等の改訂に関する検討委員会」を設けて、すでに2回(02年8月、03年3月)会議を実施し、殺虫剤の安全性再評価のために殺虫剤指針及び同指針の解説の改訂を検討しているところで、かなり厳しくなるはず。食品添加物・香料については、アレルギー抗原性の点からの調査・研究を進めていく方針である。
 2000年度から3か年計画で、シックハウス症候群に関する厚生労働科学研究が進められている。実態把握及び原因の研究(主任研究者:飯倉洋治昭和大学小児科教授)と、病態解明及び診断・治療法に関する研究(主任研究者:石川 哲北里研究所センター長)である。今年の夏頃にはまとまる予定となっている。

製造者は責任をとるべき
 97年から11回にわたって行われている厚労省交渉ですが、シックハウスを中心とした予防策については、建築基準法の改定等成果が上がりつつあるようです。しかし、既に被害を受けてしまった患者への救済策については、まだまったく手がついていないのが現状です。

 厚労省に続いて国交省にも行きましたが、患者のための避難施設等を建設してほしいとの要望に対して、「それは厚労省が取り組むこと。国交省では普通の健康な人のための建築が対象」とたらい回しされ、まったく埒があきません。
 化学物質過敏症の原因を作った住宅建築販売業者や化学品メーカーなど製造・販売事業者と、それを許してきた行政には救済策を講ずる責任があるはずです。(安間)


2. 誰もがあす化学物質過敏症になるかもしれない
  シグナルキャッチ


■CSの症状について
 自然に生活する中で、周りにある化学物質を、呼吸から、食物から、また皮膚から取り込んでその人の許容量を越えたとき、化学物質過敏症(CS)となります。
 今、化学物質過敏症を考えるシグナルキャッチを立ち上げて2年になり、この間知り合った多種化学物質過敏症(MCS)の症状で身動きできない、今日生きる場所を探して苦しんでいる患者さんは私の周りで10名ほどいます。また多種ではないけれどCSで学校に行けない、仕事に行けない若い患者は数えきれません。
 講演などで化学物質過敏症の話をすると、1割の方は化学物質過敏症だったのかと思い当たり、対処法を聞かれます。CSの割合は10人に一人と言われている事を実感しています。
 MCSになれば、日常の生活をする事がとても困難になります。
 あるMCSの患者さんは、この3年間で、家を3回移っています。周りの新築の家が換気扇で強制排気する白あり駆除剤が苦しかったり、借家に施してあった除草剤に苦しんだり、近くの空き地への除草剤や農薬が苦しいから 移転をせざるを得ないのです。どんなに古い家を探しても、周りの社会から容赦なく化学物質が襲ってくるのです。今4軒目の家で、出来る限りの処置を施して生活しています。

■MCSやCSの患者さん達の例
○畳は使えません。外して、古い民家の天井板を購入し床に敷いて、その上にアルミを敷いて生活しています。
○洗剤は石鹸さえも使えません。近隣の洗濯物から匂ってくる洗剤に反応し頭痛がひどくなるので、抗酸化入りの廃油石鹸を購入してご近所に配りそれを使ってくださるようお願いして回っています。なかなか理解してもらえず精神的にも辛い作業です。洗髪はたまごでやっています。
○水に反応するので家事が出来ません。
○電気に反応するので電気製品に近寄れません。夏はクーラー・扇風気はもちろん使えませんが窓を開けると排気ガスや農薬などに反応するため窓は締めています。2年前までは冷蔵庫で凍らせたタオルを頭に載せて暑さをしのいでいましたが、もう冷蔵庫に入れたものは身に被けられないため、息のできない暑さも耐えるしかないのです。冬の夜は早くから、アルミの上で、真っ暗な中でじっとしています。暖房機は電気もガスも灯油も使えず、陶器の湯たんぽだけが暖房です。
○布団にも衣服にも反応するのでかろうじて使える綿の服を着て、寝具も綿毛布を胸の下まで掛けて寝ました。それ以上、上にすると反応して咳が止まりません。じっと凍えています。
○印刷物に反応するので天日に干してからでないと室内におけません。子どもの教科書も印刷や表紙の加工に反応するので干しています。
○トイレットペーパーは再生紙は使えません。バージンパルプを干して使います。便箋にも反応します。どうしても使うときは、罫線がない白紙のものを使います。

■私の子どもたちの場合
 私の子どもたちは、父親の転勤で佐賀に移って、上の子は新築1年目の中学校に転校、下の子は改築したばかりの小学校に転校しました。その後知った事ですが、その小学校の隣にある小学校跡地には、県が樹木に殺虫剤消毒剤を多量に撒いていたのです。その後自宅を新築しました。
 これも後から判ったのですが、隣の400坪の空き地には多い時は一カ月おきに除草剤が撒かれていました。子ども達はシックスクール・シックハウス・農薬に取り囲まれて、当然のようにCSになってしまいました。
 平成7年5月の我が家の新築によって、子ども達の体内に蓄積された化学物質は溢れ出してしまいました。この病気について知って考えると、新築の家に入る前から子ども達はCSのシグナルを発していたのです。しかし、CSというものを知らない私は、成長期の症状かと思って見過ごしてしまいました。
 内科に行っても整形外科に行っても対症療法をするだけで、何の異常もないといわれました。吐き気・下痢など、CSの症状の一端は二人にそれぞれ出ていました。
 上の子は新築の家に入って1年を過ぎ、高校2年生になって、朝、体が重い、吐き気、めまいなどから学校に行くのが困難なほどの症状が出ましたが、必死に登校しようとしました。学校は遅刻を許しません。やっとの思いで登校する子どもを「気力が足りない」と叱咤し、体育や美術などの単位が足りないと留年を言い渡しました。
 通信高校に転校し、それもなかなか行けず、このままではいけないと家を出て通信高校を変え、受験勉強をしながら卒業しました。後から考えると、自宅を出たのがCSの身体にとって良かったのです。
下の子はその当時中学校で、吐いたり、腹痛や授業中寝てばかりの状態だったようですが、学校には行っていたため重大さに気づきませんでした。高校生になって、朝起きてきてもまた寝てしまい、睡眠障害と下痢や腹痛などの症状でだんだん高校に行けなくなりました。そして、下の子が高校2年のとき、私はCSを知りました。
 すぐに新築4年目の自宅を出て、古い社宅を借り入居しました。これで子どもは良くなると思ったら1週間目にまたばったり倒れ、みるみる弱っていきました。何十年もたった古い家でなぜ?と不思議でたまりませんでした。
 会社が庭に植木屋さんを入れて、剪定し消毒剤を撒いて帰ったことを後で知りました。小さな家の隙間だらけの家に寝ていた息子は、それを吸い込み、さらにひどいCSになったのです。そのこともCSを勉強していくうちに、ずっと後で分かった事です。下痢がひどく皮膚はかさかさ、慢性疲労の状態で布団から出られなくなりました。
 その後サプリメントやEMXで少しずつ体力がつき、家を出て大検を取り、受験勉強をしていましたが、だんだん睡眠障害や疲労感が襲い掛かり、今はまだ学業の道も仕事も出来ないで家に居ます。

■誰もが患者になる可能性
 CSには、多くの化学物質に反応して生活が困難な症状と、若い人に見られる、化学物質にひどく反応するようには見られないがなかなか学校や仕事に行けないという二つの症状があるように思います。
 前者の事例はなかなか市民団体では助ける事が出来ません。一刻も早く国がCSを認め、対策を取って欲しいと行政や国に働きかけています。
 後者は、CSによって体が思うように動かず、だんだん学校に行けなくなった事や仕事に就けない事などから、体力・気力が沈滞しているためのように思えます。これも国がCSを認め、子ども達が自立できるよう対策が取られる事を強く願います。子ども達に罪は無いのですから。
 この便利で豊かな社会に生きる私達は、患者さん達とそう変わりない化学物質を体内に取り込んで生活しています。CSに関しては患者か患者ではないかではなく、症状が出てる人かまだ出てない人かと言うほうが的確のように私は思います。
 誰もがいつ患者になってもおかしくないこの社会です。皆が気づき患者にならないように、また患者となってしまっても生きやすいような社会を作っていかなければと痛感します。


化学物質問題市民研究会
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