ピコ通信/第56号
発行日2003年4月19日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 化学物質審査規制法の改正について(下)/化学物質の総合管理法の制定を!
  2. 埼玉県教委がシックスクール対策マニュアル作成
  3. 「小児等の環境保健に関する国際セミナー」から
  4. ピコ通信読者アンケート集計結果報告
  5. 海外情報/有機食品で子どもの農薬曝露が減少
  6. 化学物質問題の動き(2003年3月16日〜4月18日)
  7. お知らせ/編集後記


1.化学物質審査規制法の改正について(下)
  化学物質の総合管理法の制定を!


■生態系への影響の評価について
 従前の化審法の事前評価制度にはなかった生態系への影響に対する配慮をあらたに加えたことは大いに評価できることです。
 しかし、その対象が「第一種特定化学物質」については「高次補食動物」にのみ限定されていることに関しては問題ありです。
 ここで「高次補食動物」とは、「生活環境動植物(その生息又は生育に支障を生ずる場合には、人の生活環境の保全上支障を生ずるおそれがある動植物をいう)に該当する動物のうち、食物連鎖を通じて難分解性及び高蓄積性の性状を有する化学物質を最もその体内に蓄積しやすい状況にあるものをいう」と定義されています。毒性評価の対象としては高次補食動物に限ることなく、もっと保護すべき動植物の範囲を広くとらえるべきだと思います。

■新たな「監視化学物質」の追加定義について
 現行法では「指定化学物質」と定義されていたものを今回の改正法案では「監視化学物質」に名称替えを行い、さらに第一種から第三種まで区分しています。
 このうち第一種は「難分解性及び高蓄積性の性状を有するものであるが、継続的に摂取される場合に人の健康を損なうおそれ又は高次補食動物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがあるものであるか明らかでない化学物質で、厚生労働大臣、経済産業大臣及び環境大臣が指定するものをいう」と定義されています。
 第二種は従前の「指定化学物質」のことであり、第三種は「難分解性の性状を有し、動植物の生息又は生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質で、経済産業大臣及び環境大臣が指定するものをいう」と定義されています。
 そしてこの監視化学物質については、それぞれ所管大臣が有害性調査の必要性を認めた場合に、製造又は輸入業者に対して調査とその結果の報告を指示することができるとされています。
 この点は現行法にはない規定の整備で改善点です。しかし、有害性調査の実施の有無に関しては所管大臣の判断に委ねられていることと、報告が義務づけられていないこと、その結果の公表も義務づけられていないことなどの点で不十分だと思います。

■有害性情報の報告等について
 監視化学物質及び第二種特定化学物質その他の公示された化学物質等の「報告対象物質」については、その製造又は輸入業者が行った性状試験等の結果、難分解性等の性状を有するとの知見が得られた場合には、その内容を前記の所管三大臣に報告することが義務づけられたこと、所管三大臣はその報告対象物質が第一種特定化学物質等の指定の要件に該当すると認めるに至ったときは、遅滞なく指定その他の必要な措置を講ずるものとするとされています。
 この点も現行法にはない新たな規定で前進的と評価ができますが、すべての対象物質について有害性試験等を義務づけたものではない点で不十分ですし、試験自体を事業者に委ねている点で客観性に欠けるおそれを否定できません。これからは、既存化学物質の有害性、安全性の総点検調査をその製造や輸入業者に義務づけるとともに、国もそのリスク評価等の作業を専門家の協力を得て行うように義務づけるべきだと思います。

■化学物質の総合管理法を!
本誌で過去に指摘したことがありますが、化学物質に関する国の法制度は100近くあり、しかもその法律を所管する官庁も経済産業省や厚生労働省、環境省、農水省、国土交通省など多岐にわたっており、しかも相変わらずこれらの所管省庁が縦割りでバラバラ行政が一向に改まってはいません。
 今回の化審法の改正でもこの点の改善(行政改革)が図られていません。今後は欧米各国のように、省庁の枠組みを超えて一元的に化学物質の総合管理が行えるように「化学物質管理省」のような組織を設置することも考える必要があると思います。
 また、日本の化学物質法制度には総合管理法的な基本法がなく、しかも大気、水質、廃棄物、土壌など現象別に細分化されており、これらの法律間に有機的な連携性や総合性、整合性が欠けているきらいがあります。
 「環境の世紀」といわれる21世紀には、過去に生産されストックされた(製品や廃棄物、土壌中)有害化学物質による汚染と被害の顕在化と、将来世代への新たな影響のおそれが現実のことになってくることが予想されています。
 今後は、物(物質、製品等)の流れに沿って、資源の採掘から製造、加工、流通、使用、廃棄、回収、再生利用、廃棄などに至る全行程における化学物質の一体的・総合的な管理が行えるような法体系に抜本的に整備し直す必要があると思います。(藤原)


2.埼玉県教委がシックスクール対策マニュアル作成

 埼玉県教育委員会は、先頃、県立学校での油性ワックスなどの実質禁止を含むシックスクールを予防するための「県立学校のシックスクール問題対応マニュアル」を作成しました(注1)。
その内容は、トルエン、キシレンなどを含む床ワックスを原則禁止、パラジクロロベンゼンが含まれたトイレボールなども使わないよう求めた画期的なもの。県立学校だけではなく、県内の市町村立教育委員会、国立と市町村立の全学校にも配布し、予防対策を呼びかけています。全国の学校の参考になると思われる内容なので、概要(抜粋)を紹介します。

シックスクール問題とは何か
 シックスクール問題とは、学校施設に起因するホルムアルデヒド、トルエン等の化学物質に汚染された室内空気の曝露による健康被害に加え、体質等により極微量な化学物質に過敏に反応する児童生徒等への対応を含めた複合的な問題の総称である。
 体調不良の主な症状は多岐にわたり個人差が大きく、原因物質も多種多様であることが特徴的である。学校においては、シックスクール問題が発生しないよう原因と疑われる物質の低減を図ることが重要である。
シックスクール問題は次の三つに大別される。

1.シックハウス症候群
 住居や学校の新築・改築・改修等の直後に建材、塗料等の施工材および家具、机・いす等の学校用備品等に由来するホルムアルデヒド、トルエン等の化学物質に汚染された室内空気の曝露によって、目や気道粘膜の刺激症状や頭痛などの様々な体調不良を起こすもの。

2.化学物質アレルギー
 教材・文具、床ワックス・芳香剤・洗剤・殺虫剤等に含まれる特定の化学物質の曝露によって、アレルギー症状を引き起こしたり、既往症が悪化するもの。

3.化学物質過敏
 一般の児童生徒等が反応しない極微量な化学物質に過敏に反応してしまう児童生徒等が、学校施設の新築や大規模な改築・改修、学校用備品の大幅な更新等の際に、室内に放散した極微量の化学物質に過敏に反応し、頭痛やめまい、集中力の低下等様々な過敏症状を起こすもの。生活環境中の様々な化学物質に過敏に反応してしまう多種類化学物質過敏の例もある。

シックスクール問題に関する取組方針
(1)学校施設の新築・改築・改修等
 建材や施工材等は、ホルムアルデヒド、トルエン等の化学物質の放散量がもっとも低濃度の仕様のものを選定する。
(2)机、いす、コンピュータ等の学校備品
 (1)に同じ
(3)学校施設の維持管理
 学校において殺虫剤、床ワックス、トイレの芳香・消臭剤等の薬剤や日用品を使用する場合、厚生労働省が定めたシックハウス症候群の原因物質として濃度指針値を定めた物質(注2)を含むものは、原則として使用しない。
(4)環境衛生検査
 定期または臨時の検査で「学校衛生の基準」で定める基準値を超えた場合は、原則として当該施設の使用を中止。対策を講じた後に再検査を行い、基準値に適合していることを確認した上で使用を再開。

化学物質に過敏に反応する児童生徒等への配慮
(1)化学物質に起因する健康問題が疑われる事例への対応
 原因を調査するとともに、必要に応じ、環境衛生検査を実施するなど。
(2)入学・転入時の対応
 保護者や主治医等から学校において配慮すべき事項等を文書で確認し、学校生活を送れるよう教職員、学校医、学校薬剤師等が連携して対応する。
(3)化学物質に過敏に反応する児童生徒等への対応
 化学物質に過敏に反応する児童生徒等が在籍する学校においては、保護者および主治医等から配慮すべき事項等を診断書や文書等で確認し、対応に配慮する。
(協議・確認事項等の例をあげ、きめ細かいマニュアルが書かれている)

運用上の留意事項(抜粋)
・化学物質過敏の児童生徒が在籍する学校にあっては、授業参観などで来校する保護者に対し、タバコや香水などは控えるよう理解と協力を求める。

学校施設の維持管理
(1)施設および樹木の消毒
 埼玉県では、2001年4月1日から「埼玉県における県有施設および樹木の消毒等に関する取組方針」が適用され、いわゆる環境ホルモンを含む殺虫剤等は使用しないこことしている。
 また、害虫等が発生していない場合は定期消毒も行わず、まず、生息調査を行い、害虫等の発生に対しては、トラップや枝の剪定など物理的防除を推進している。学校においてもこれを遵守する。(後略)
(2)給食施設の衛生管理
 有機リン系殺虫剤は可能な限り使用しないことが望ましい。
(3)床ワックス、芳香剤等
 製品表示を確認し、シックハウス症候群の原因物質を含むものは原則として使用しない。配合成分等が未表示の製品については、製品安全性データシート(MSDS)を製造業者等から取り寄せる。
(4)施設の補修
 小規模な塗装などであっても、塗料、接着剤等はホルムアルデヒド、トルエン等の化学物質を含むものは原則として使用しない。

シックスクールに関する実態調査結果

 県内の全公立学校1552校を対象にシックスクールに関する実態調査を2002年6月に実施したところ、化学物質に過敏に反応する児童生徒数は49人(31校)であった。
  • 化学物質に過敏反応する児童生徒は小学生が大半を占め、調査時点では10歳の児童がもっとも多い。
  • 母親にアレルギーがあり化学物質に過敏に反応する場合は、その子どもも同様の傾向がある。
  • 過敏反応物質として、タバコに反応する児童生徒が少なくない。
  • 化学物質に過敏に反応する児童生徒の半数は小学校入学前に発症。過敏反応のきっかけとして、4分の1が住居の新築、改築等。同じく学校も、きっかけの4分の1を占めていた。
(まとめ 安間)

注1:問い合わせ先
埼玉県教育局生涯学習部健康教育課
〒330-9301さいたま市浦和区高砂3-15-1
TEL 048-830-6960 FAX 048-830-4971
E-mail a6960@pref.saitama.jp
http://www.pref.saitama.jp/A20/BT00/kenkou.html

注2:ホルムアルデヒド、キシレン 、パラジクロロベンゼン 、エチルベンゼン、スチレン 、クロル    ピリホス、フタル酸ジ-n-ブチルテトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド、フェノブカルブ

埼玉県教委・シックスクール実態調査結果(抜粋)
埼玉県教育局生涯学習部健康教育課
調査期間:2002年6月
調査対象:全県・市町村立学校 1552校
(内訳)市町村立学校(幼:76 小:833 中:422 高:9 養:3)県立学校(幼:2 高:186 盲・ろう・養:30)

1.化学物質過敏症と診断された児童生徒(教職員)のいる学校等
区分 市町村立学校 県立学校
  養※
人数(児) 44 0 32 7 0 0 0 4 1
人数(教) 5 0 1 0 0 0 0 4 0
学校数 31 0 22 5 0 0 0 3 1
※:盲・ろう・養学校(以下同様)

2. 学校施設の改築等により体調不良が発生した学校等
区分 市町村立学校 県立学校
  養※
ある 37 0 21 6 0 0 0 9 1


3.定期的に有機リン系殺虫剤を使用している学校等
区分 市町村立学校 県立学校
  養※
定期的 417 17 259 125 0 6 0 8 2
発生時 334 20 168 91 1 2 1 45 6


4.トイレの消臭剤としてパラジクロロベンゼンを使用している学校等
区分 市町村立学校 県立学校
  養※
使用 175 1 67 58 0 2 0 47 0


5.床ワックスを使用している学校等
区分 市町村立学校 県立学校
  養※
油性 329 21 158 86 2 3 0 45 14
水生 1192 44 685 335 1 7 2 104 14




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