ピコ通信/第55号
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2.東京都が化学物質の子どもガイドライン(室内空気編)を発表 東京都は1月24日、「化学物質の子どもガイドライン(室内空気編)」を発表しました。 東京都では、今年度の重要施策として有害性が疑われる化学物質による子どもへの健康影響を未然に防止するためのガイドラインの策定に取り組んでいます。今回の室内空気編は昨年7月に発表された鉛ガイドライン塗料編(本紙49号)に続くものです。 その概要を紹介します。詳しくは東京都のホームページをご覧ください(注1)。
【ガイドラインの検討ステップ】 ステップ1 子どもの特徴を考えた ○子どもは大人よりも化学物質の影響が大きい(体重あたりで比較すると、子どもの方が多くの化学物質を吸収している(表1)。成長期の子どもは、化学物質の影響を強く受ける可能性がある) ステップ2 子どもの生活に合わせた調査 ○子どもの施設にいる時間の室内環境や維持管理を調査 ステップ3 子どもの視点に立った対策の提案 ○調査結果を参考に施設の維持管理の方法やリスクコミュニケーションなど6項目(20の小項目)を提案
施設の実態調査 東京都では、このガイドライン策定にあたり、子どもたちが利用する施設の実態を知るために、保育園、小学校、児童館などの室内環境や維持管理状況を調査した。 ・調査期間:2002年6月〜12月 ・調査施設:保育園、小中学校等35施設 ・主な化学物質の結果 調査した26物質のうち、最高値が厚労省指針値(以下 指針値)を超えたのは、図1で示した4物質。すべての化学物質の中央値(●)は指針値(−)を下回っていた。 図1. 主な化学物質の室内濃度 ![]() 単位:μg/m3(ダイアジノンはng/m3) ガイドラインの対象 (1)対象とする施設:主な対象は保育園や学校などであるが、子どもが大人と一緒に利用する図書館やデパートなど、多くの人が集まる施設でも参考にしてほしい。 (2)対象とする物質:原則として指針値が示されている13物質 (3)対象とする子ども:新生児から中学生まで。妊娠中の女性も参考にしてほしい。 ◆室内空気の化学物質子どもガイドライン T 適切な維持管理で施設内の化学物質を減らそう T-1 室内空気には化学物質が含まれていることを想定して施設を利用しよう 「臭わないから大丈夫」は危険。部屋の構造や使用状況に合った換気対策を。
T-2 施設のどこにどんな化学物質が使われているか確認しよう 図面の仕様書やMSDS(製品安全データシート)を利用して、あるいは測定する。 T-3 殺虫剤、床ワックスなど化学物質を一律に大量に使う業務の把握と年間計画書の作成しよう 作業後は換気に配慮する期間を設けるなど。 (中略) T-6 使用する教材や用品、おもちゃの選択などにも配慮しよう 建材や備品以外にも、学習教材・おもちゃなど身近なものにも化学物質は含まれている。子どもが持ち込むものや、施設スタッフの喫煙にも配慮を。 U 新築や改修工事などの時は、その後の使用に配慮しよう U-1 工事にあたり、使用する材料の種類や仕上げ方法など化学物質に関係した事項を含んだ仕様書を作ろう 例:接着剤、塗料の使用後の換気対策 フローリング材など建材の品質の記載 黒板など用品や家具の品質の記載 U-2 工期には化学物質の濃度を減らすために必要な作業日数が含まれているか、引き渡し前の環境測定など具体的な対策が含まれているか確認しよう U-3 新しい施設を使う時は、化学物質を早く外に追い出す工夫をしよう 当分の間、部屋を使う時は常時換気を。 V 化学物質の実態を把握しよう V-1 室内空気中化学物質を測定しよう 厚生労働省の測定マニュアルを利用。 V-2 子どものいる時間帯の空気を採取しよう V-3 子どもの位置で空気を採取しよう 標準:120cm(大人がイスに座った時の口と鼻の位置)3歳児:60cm 赤ちゃん:10cm V-4 指針値を超えたときは、その原因を究明しよう(図2) 図2.指針値を100としたときの核物質の最大値
![]() ホルムアルデヒド、トルエン、アセトアルデヒド、ダイアジノンの4物質は、指針値を超える施設が見られた。 それぞれの発生源と低減化対策 ホルムアルデヒド 発生源:合板などの建材や壁紙用接着剤などに使用。木製家具には、建材としてはほとんど使われなくなった放散量の多いFc2等級合板が使用されている。 対策:換気をよくする。家具などの木製用品を入れる場合は、メーカーに確認。 トルエン 発生源:接着剤や塗料の溶剤として広く使用。新築・改築直後は特に高濃度に。新しい木製家具からも発生。 対策:揮発性が高いため、閉めきった状態が続くと高濃度に。休み明けや朝の換気を。 アセトアルデヒド 発生源:ホルムアルデヒドと同様、接着剤や防腐剤に使用。喫煙によっても発生。 対策:ホルムアルデヒドのような規格基準がないため、MSDSやメーカーに確認。換気。 ダイアジノン 発生源:有機リン系殺虫剤。屋内害虫用に使用。 図3 ある施設のダイアジノンの室内濃度変化 (単位:μg/m3) ![]() 対策:施設内の害虫の種類・生息状況を調べ、薬剤使用の必要性を検討。揮発性や残効性を考えて方法を決める。(例:ゴキブリ−揮発しない餌剤 チョウバエ−発生場所への局所使用)薬剤を施設全体に一律に散布する方法を安易にとらないこと。 アメリカでは、屋内用ダイアジノンは使用禁止となった。 V-5 測定結果は施設スタッフや保護者に公表しよう (後略) ………………………………………………… 東京都が国に先がけて、97年のマイアミ宣言(注2)にうたわれている子どもの環境リスク削減のためのガイドライン作りに取り組んでいる姿勢は高く評価できます。「子どもたちへの5つの約束」として掲げられている、「使わない、持ち込まない、追い出す、取り替える、なくす」はすばらしい宣言であると思います。 ただし、提案されている具体的な対策は、化学物質使用が前提となっているものがほとんどであるというのが残念な点です。まず「使わない」を前提として、他に方法がない場合はリスクを最小限にする対策を提案するというようにしてほしいと思います。 また、厚労省の室内空気ガイドライン値に依拠しているのも気になります。この値が果たして子どもたちの健康を守る値なのかどうか、独自に確かめてほしいと思います。厚労省は、「現行のガイドライン値は、これ以下なら安全ということを示す値ではない」と明言しているのですから。(安間) 注1:東京都のホームページ http://www.kenkou.metro.tokyo.jp/kanho/news/h14/image/kodomoair.pdf 当会のウェブサイトhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 「シックスクールとCS」からも行けます。 注2:子どもの環境保健に関する8カ国の環境リーダーの宣言(97年のG8環境大臣会合)の通称。「我々は、世界中の子どもが環境中の有害物の著しい脅威に直面していることを認識している。(中略)有害物に関する情報が十分でないときは、我々は予防的な原理または予防的なアプローチに則り、子どもの健康を守ることに同意する」と宣言。 |
3.シックスクール/文科省と委員に要望書提出 ヒアリングと議事公開を! 本紙48号(02.8.16発行)で報告したように、文部科学省(以下 文科省)は「シックハウス症候群に関する調査研究」を今年度進めているところです。このことに関して、化学物質過敏症支援センターの呼びかけに当会も応じて、1月21日、文科省と協力者会議委員に対して7団体連名で要望書(次頁参照)を提出しました。 ★会議は非公開! 昨年7月24日に行われた「シックスクール対策に関する取り組み」に関する文科省との交渉で、「今年度、学識経験者等の協力を得て、現在の学校における化学物質の室内濃度や過敏症としてのシックハウス症候群の児童生徒の現状等について調査を行い、その調査結果について分析・研究を行う」ことが明らかにされました。交渉の席で、調査研究会メンバーに患者もしくは保護者を入れてほしい、少なくともヒアリングをしてほしいとの強い要望が出されましたが、文科省側ははっきりとした回答をしませんでした。 ところが、10月2日に文科省スポーツ・青少年局学校健康教育課猪村篤係長にその後の動きについて電話で問い合わせたところ、
★患者団体がヒアリング受ける その後、10月7日に「児童生徒の実態調査等部会」の初会合が開かれ、文部科学省より、ヒアリング実施について提案されたが、メンバーより慎重な意見も出たため、この日は結論が出なかったということを知りました。 さらに、12月初旬に8月5日のシックハウス症候群に関する調査研究協力者会議の議事概要がホームページに公開されました。 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/006/gijiroku/021101.htm これを見ると、委員の認識にかなりのばらつきがあり、これから調査をして結果を検討してとなると、未だだいぶ時間がかかるという印象を持ちました。 こうした状況にあって、1月21日、要望書(次頁参照)を提出。そして、2月10日実態調査等部会第2回会合でシックハウス連絡会シックスクール部の入江さんがヒアリングを受けました(10分意見陳述、10分質問)。 一歩前進ではありますが、文科省のこの閉鎖性は何なのでしょうか。8月5日の簡単な議事概要公表についても、ホームページの新着情報や報道発表には出ていないので、普通は気がつきません。政策立案過程への市民による意見反映や、情報公開などとは程遠いところにいるような文科省の姿勢を変えさせないと、子どもたちの未来は危ういでしょう。(安間) 2003年1月21日
文部科学大臣文部科学省シックハウス症候群に関する調査研究協力者会議 児童生徒の実態調査部会の各メンバー宛 要 望 書
【趣旨】1)文部科学省シックハウス症候群に関する調査研究協力者会議、または同会議児童生徒の実態調査部会において、発症者、発症者家族、発症者団体、支援団体からのヒアリングの機会を設けること 2)文部科学省シックハウス症候群に関する調査研究協力者会議、児童生徒の実態調査部会、および測定方法等検討部会について、議事を一般市民に公開すること 【本文】 私たちは、学校環境における化学物質等により体調不良を起こしている児童・生徒・学生、およびその家族による団体、および、その支援団体です。 校舎などの学校施設や教材・教具から揮発する化学物質、校庭の樹木にまかれる殺虫剤等により、アレルギー疾患やアトピー性皮膚炎が悪化したり、化学物質過敏症を発症または悪化させるなど、学校環境における化学物質が及ぼす子どもへの健康影響が、大きな問題となっております。そのような子どもたちが通学するためには、学校側のご協力をいただく必要があります。また、学校側のご協力をいただいても通学できない重症の子どものためには、家庭訪問による教育等の措置が講じられる必要があります。 文部科学省におかれましては、2001年1月に「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び総揮発性有機化合物の室内濃度暫定目標値等について」を各都道府県教委等へ通知し、また、2002年2月には「学校環境衛生の基準」を改訂し、4種類の化学物質について室内空気濃度の基準値を決め、定期検査および臨時検査を義務づけるなど、この問題への取り組みを進められているところです。 しかし、この問題について実態調査が行われたことがなく、また、教育現場に上記の通知等が十分に周知されておらず教職員の方々の多くがこの問題の知識をお持ちでないため、子どもにとって必要な対策が取られないばかりか、子どもや家族が学校側から「わがまま」「神経質」等、不当な非難を受けるケースも珍しくなく、子どもたちが教育を受ける権利が侵害されているのが実状です。 このたび、シックハウス症候群に関する調査研究協力者会議が発足し、私たちがかねてから要望していた実態調査が行われる運びになり、たいへん喜ばしく存じております。実態調査により、この問題の深刻さと、一刻も早い取り組みの重要性が、さらに明らかになることをご期待申し上げております。 つきましては、一般に十分に知られているとは言い難いこの問題について、ぜひ当事者より、生の実態や切実な訴えをお聞きのうえ、議論に反映させていただき、実態調査の手法、内容等をより充実させ、適切なものとしていただきたいと存じます。このため、発症者、発症者家族、発症者団体、支援団体を対象としたヒアリングの機会を、同会議、または同会議の児童生徒の実態調査部会で設けてくださいますよう、要望いたします。 また、同会議および両部会は、一般市民に対しては議事を非公開にすることが決定されたと伺っております。私たちは、この会議に強い関心と期待を持っており、ぜひ議事を見守らせていただきたく存じます。8月の第1回会議の議事概要は文部科学省のウェブサイト上で公表されましたが、座長の先生以外は、どなたによる発言かも不明で、議論の流れを読み取ることも出来ません。 政策立案過程への市民による意見反映や、情報公開は、民主主義社会における時代の趨勢です。議事の中で、特定の発症者が話題になる場合等のプライバシーに関わる恐れがない範囲で、市民に議事を公表していただきますよう、併せて要望いたします。 要望団体(五十音順) 化学物質過敏症の子どもが環境を考える会 化学物質問題市民研究会 環境病患者会 子どもの健康と環境を守る会 シグナルキャッチ シックハウス連絡会シックスクール部 特定非営利活動法人 化学物質過敏症支援センター (とりまとめ) 特定非営利活動法人 化学物質過敏症支援センター 理事長 横田 克巳 横浜市中区南仲通4-39石橋ビル5F かながわ市民活動スペース内 電話045-222-0685 ファクス045-222-0686 yokohama@cssc.jp |