1.化学物質過敏症患者会・厚労省交渉
避難施設を!健康保険適用を!
8月27日、昨年(本紙37号参照)に引き続き化学物質過敏症患者会による厚生労働省交渉が行われ、当会も賛同団体として参加しましたので、報告します。
患者・支援団体側からは約20名、厚労省側からは健康局生活衛生課、医薬局審査管理課化学物質安全対策室など8名が出席しました。話し合いは、あらかじめ提出していた要望書への回答を中心に進められました。
要望と厚労省回答
要望1.(要旨 以下同様)最近、法改正など各種施策が講じられつつあるが、既に健康被害を受けた者に対するものは少ない。治療方法の確立、治療機関の増大など被害者救済の対策を強力に進めてほしい。
ホルムアルデヒド等の現行ガイドラインは患者にとってとうてい許容できる値ではない。ガイドラインを健常者用と患者用に分けるなど見直してほしい。また、現在検討中の化学物質以外でもウレタン系、アクリル系など著しく重い化学物質過敏症 (Chemical Sensitivity 以下CS)を引き起こすものがあることを知ってほしい。
厚労省回答1.
シックハウス問題については厚労省、環境省、国土交通省など6省で連携をとって取り組んでいるところ。先頃、建築基準法の改正を行い、対策を講じた(注)。また、現在、シックハウスに関して診断基準・治療法・実態についての調査・研究を進めており、今年度中には報告書がまとまる予定。
治療機関については、クリーンルームの整備を進めているところで、北里研究所病院と同様の設備を持つ医療機関は今春から5つになった(国立相模原病院、東京労災病院、国立療養所盛岡病院、国立療養所南岡山病院、国立療養所南福岡病院)。今後も予算の許す限り整備していきたい。 VOC(揮発性有機化合物)のガイドライン値は現在13物質、TVOC(総揮発性有機化合物量)についても暫定値を設定している(本紙43号参照)。できるだけ安全側に立った値にしているが、多種多様な症状に対応したガイドライン値を設定するのは難しい。対象物質は今後増やしていく予定。
要望2.シックスクール問題については、とかく校舎の問題に目が向きがちだが、教科書、教材、文具、実験用具などについても配慮して総合的な面から健康を確保してほしい。そのための調査・研究を始めてほしい。
学校施設内でのタバコ、植木や校庭への農薬散布は直ちに禁止してほしい。
回答2.文部科学省の管轄。
要望3.生活環境中の化学物質の使用は可能なかぎり規制、削減し、適正な使用方法の指導をしてほしい。有害化学物質が出る商品の調査、揮発・溶出などの実状調査・研究を早急に始めてほしい。
患者にとって著しい負担となるもの
- 除草剤、土壌殺菌剤、殺虫剤など各種農薬(ラジコンヘリ等空中散布含む)
- 美・理容院での化学物質、髪染め、シャンプー等化粧品、制汗剤
- 食品添加物、香料、香辛料など
- 歯科治療剤、紙おむつ、殺菌剤、病院や公共施設の消毒、薬品臭
- 合成洗剤(特に濃縮タイプ、殺菌剤、防かび剤入り)、クリーニング関係
- 蚊取り線香、小動物忌避剤、クレゾール等
- 新建材、防錆・防水塗料、接着剤、シール剤、防水性セメント、ホルムアルデヒド等(合板等の接着剤に使われるウレタン樹脂等の焼却では、青酸系の猛毒ガスが発生する)
- 工場、作業所からの煙や排気ガス、跡地の土壌汚染物質、ダイオキシン
- 車の排気ガス、オートバイの白煙、タバコ、ライター油
- 多量の打ち上げ花火による衝撃音と空気汚染
- 電磁波、超音波(ネコやネズミ避け器)
- 起毛剤・防水剤など繊維製品加工剤、発泡ウレタンなどの緩衝材・断熱材
- 温度が上がる電気器具に使う窒素系高分子系材料
- 環境ホルモン物質 等
- 印刷のインキ
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回答3.化審法において、これまでは化学物質の人の健康への影響に限られていたのを、生態系への影響も考慮するよう改正する準備を現在進めている。また、PRTR法も施行され、その効果が期待されている。
「有害物質を含有する家庭用品規制法」で身の回りの危険な化学物質を規制しているが、多岐にわたる家庭用品のすべてに網をかけるのは無理。そのため、衛生監視員による試買調査・検査、モニター病院による健康被害・事故の報告などを行っている。MSDS(化学物質安全性データシート)などを事業者だけではなく、一般国民が利用できるようにしたいとも考えている。
抗菌グッズについては、調査委員会設置を検討中である。
殺虫剤指針の見直しを始めている。未だ方向性が定まっていない段階であるが、有機リン系も含めて安全性、有効性の見直しを始めた所。
継続して要望している事項
以上3つの要望の他に、さらに前々から継続している以下の要望についても話し合われました。
継続要望1.重・中症者用の国営治療施設、避難施設を作ってほしい
回答1.国営治療施設については1頁回答1参照。避難施設については、厚労省では対応は困難。できるとすれば、国土交通省である。
継続要望2.被害者治療にあたって健康保険を適用してほしい
回答2.病名、診断基準については、国が決めるものではなく、学会が決めるもので、明確なものは未だない。
保険適用については、病名が決まっていなくとも症状に対して適用できる。ただ、保険が適用されるには、その治療法の有効性・安全性が確立されないといけない。北里研究所病院は、保険が適用されない自費診療で治療しているという状況がある。5国公立病院では適用されているので、利用してほしい。
継続要望3.化学物質の被害者児童向けの学校を建設してほしい
回答3.文部科学省の管轄。
継続要望4.歯科治療に使用する材料、薬剤を見直し、患者が治療を受けられるようにしてほしい
回答4.歯科治療の材料はすべて化学物質。現段階では、患者さんにまったく影響のない材料はない。添付文書で製品の情報を伝えるようにしたい。
昨年に引き続いて交渉に参加して感じたことは、いつも言われることですが、「この縦割り行政、なんとかならないのか」ということです。患者さんたちは、具合の悪い体を抱えてあっちの省、こっちの省と回らなければなりません。シックハウス対策のための6省連絡会議というのはあるそうですが、せめて窓口の1本化はできないのかとの問いにも前向きの回答はありませんでした。
また、私が「東京都が化学物質の子どもガイドライン作りに着手したが(本紙6-7頁参照)、国としては子ども、お年寄りなど弱者のための値を作る計画はないか」と問いかけたのに対しては、「現在のガイドライン値は、子どもへの影響も考慮した値である。不確実係数を種差10、個体差10で100として、動物実験での無作用量の100分の1としている。また、ホルムアルデヒド、クロルピリホス、ダイオキシンなど個別の物質には子どもへの対応をしている」との答えでした。
厚労省はこのように答えはしましたが、国としては、子どもへの影響について研究しているという情報もありますので、まったく考えていないわけではないでしょう。しかし、早く対策を取ってもらうには国よりも地方自治体を動かす方が早いし、効果的だと思いました。自分が住む自治体にどんどん働きかけて、地方から変えていきましょう。(安間)
注:シックハウス対策のため、居室について、以下の規制を導入する。
(1)クロルピリホスを発散するおそれのある建築材料の使用を禁止する。
(2)ホルムアルデヒドを発散するおそれのある建築材料の使用の制限等を行うとともに、気密性の低い在来木造住宅等を除き、換気設備の設置を義務付ける。
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