ピコ通信/第44号
発行日2002年4月17日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 「化学物質安全対策に関するNPO団体等との
    意見交換報告書」まとまる
  2. 情報通信機器企業がグリーン調達を共通化
  3. 「生態系保全のための化学物質の審査・規制」に意見を出そう
  4. 海外情報:
    ・POPs条約 アメリカが批准へ向けて上院へ提出
    ・EU議会 製造者に使用済み電気製品の処理責任を課す
    ・薬剤、化学物質がアメリカの河川を汚染
  5. 化学物質解説講座(6) 毒性の考え方(その1)
  6. 化学物質問題の動き(2002年3月16日〜4月12日)
  7. お知らせ/編集後記


2.情報通信機器企業がグリーン調達を共通化

グリーン調達とは
 昨年10月に新聞報道されたように、現在情報通信機器業界でグリーン調達の共通化の動きが進められています。
 グリーン調達というのは、企業が原材料等を購入する際に、環境負荷の少ない物品を優先して調達したり、そのような配慮をしている企業から優先して調達したりすることをいいます。行政による同じ様な取り組みとしては、昨年4月にグリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律)が施行されています。欧州での化学物質使用規制に対応し、1998年ごろから世界の情報機器・家電業界を中心に採用する動きが広がりました。

国内大手18社が基準統一
 昨年10月2日の報道によると、国内の情報通信機器企業の大手18社が、各社それぞれが行なっていたグリーン調達の基準を統一することを決めました。共通化されるのは、部品・資材に含まれる化学物質などの開示対象項目で、24物質群にすることが合意されました。これは部品メーカーにとっては、納入企業各社ごとに異なった対応をしなくてすみ、事務の煩雑さから解放されることになります。18社の中でも、開示対象の分類項目は、50から1,300項目までと大きな開きといいます。共通項目に含まれない物質については各社の対応に任されます。
 グリーン調達の中味としては、資材・部品については、化学物質含有量開示の他に、リサイクル性、使用・廃棄時の環境負荷、使用禁止物質、削減対象物質等があり、取引先の企業評価としては、環境マネジメントシステムの有無、情報開示量など、環境負荷低減への取り組みが評価されます。
 今回の情報通信機器企業の動きは、輸出先の欧州で、EUが電器製品への鉛の使用を禁止する等の動きに対応する必要性があったからと思われます。
 18社では、この案をもとに欧州の電子・電気機器メーカー3,000社が加盟する欧州情報通信技術製造者協会(EICTA)や、米国内2,100社が加盟する米電子工業協(EIA)とも交替を行ない、日米欧の共通の基準にすることを目標としています。
 調達する側の企業が、原材料調達先に要請するのは、対象化学物質の含有の有無やその含有量の開示です。これは、挙げられている化学品目全てが即使用禁止になるということではありませんが、企業としてこれらを有害化学物質と認識し、調達資材・部品における含有実態を把握し、それらの削減をはかる努力をしていくということです。
 発表されたリスト中に塩化ビニルや添加剤が含まれていたため、さっそく塩ビ工業・環境協会が、「化学物質の不当な差別」、「科学的根拠が希薄」、「いたずらに社会の不安を煽り、一部の団体、個人による不当な反塩ビ活動を助長する」、「自分達の産業界のみの都合を優先させている」という言葉を使って、「強く抗議致しますとともに即時撤廃を要求致します」との抗議文を出しています。

共通指針の普及を目指す
 今年3月27日の日本経済新聞では、電子情報技術産業協会JEITAがこの18社の動きの支援を行なうことになったと報道されました。これは、今までは国内大手18社といっても、有志の集まり的な動きであったものを、協会に事務局をおくことで、態勢をきちんと整え、そこを対外的な窓口にして進めて行くということだそうです。
 現段階では、開示要請品目群は28に増えて、4月から一部企業によりテスト運用が始まっています。ただし、JEITAでは、まだ引き受けることが決まったというだけの段階で、窓口としての態勢は整っていません。
 JEITAとしては18社だけでなく、電子機器関連業界の共通指針としての普汲を促す方針です。欧米の関連団体とも共通化について大筋合意されているということです。これが素材メーカー段階で共通化されれば、他の製品メーカーにも波及することになります。
 電子機器関連業界としては、これらの動きを自動車メーカー等にも働きかけていく予定です。積水化学が住宅部門でグリーン調達を始めたり、建設・エネルギー業界でも導入する企業が増え始めています。
 このような動きは、対応可能な大手企業だけの動きになりがちですが、それが裾野の方の中小の企業にまで波及するかどうかが課題であると思います。中小の企業が、大手からあぶれた有害物質含有資材・部品の押し付け先ともなりかねません。今後の動きを見守っていきたいと思います。(花岡)

参加18社

沖電気工業、キャノン、三陽電機、シヤープ、セイコーエプソン、SONY、東芝、日本IBM、日本電気、日本電信電話、パイオニア、日立製作所、富士社写真フィルム、富士ゼロックス、富士通、松下電器産業、三菱電機、リコー

開示要請化学品目(全28品目)

【金属類】(以下の金属及びその化合物)
アンチモン、ヒ素、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、クロム、六価クロム、コバルト、鉛、水銀、ニッケル、有機スズ、セレン、テルル、タリウム

【ハロゲン系有機物】
塩化パラフィン、PBB類、PBDE類、ハロゲン系樹脂添加剤、PCB、ボリ塩化ナフタレン、ポリ塩化ビニル

【その他】
アスベスト、アゾ化合物、シアン化合物、オゾン層破壊物質、フタル酸エステル、放射性物質


3.「生態系保全のための化学物質の審査・規制」に意見を出そう

 生態系保全のための化学物質の審査・規制の導入についてまとめられた報告書について、環境省からパブリックコメントが現在、募集されています。募集期間は3月29日(金)〜5月13日(月)です。
 現行の化学物質審査規制法では、もっぱら人の健康の保護の観点から化学物質の審査・規制が行われ、生態系への影響という観点は皆無です。しかし、諸外国では人の健康と環境(生態系)の両者の保護を目的として審査・規制が行われています。
 新規化学物質の審査等を行うよう加盟国に求めているOECDの理事会決定・勧告では、人の健康への影響と環境(生態系)への影響とを同じように位置づけています。OECD加盟国で新規化学物質の審査・規制制度がある25か国のうち、環境(生態系)の保全を法の目的に持たず、生態影響試験を事業者に要求できないのは日本だけということです。

報告書の内容(抜粋)

1.化学物質の審査・規制への生態系保全の観点の導入の必要性
  • 国内における化学物質による野生生物や生態系への影響の発現事例として、トリブチルスズ(TBT)化合物の貝類への影響、除草剤や殺虫剤の水生生物への影響などが報告されている。
  • 環境省の環境リスク初期評価パイロット事業や、新規化学物質の審査における限られた情報からの判断などでも、生態毒性が強い物質や生態リスクが高いと考えられる物質がある。
  • 国際的には、生態系に影響を及ぼすTBT化合物等が条約により規制対象とされ、欧州では短鎖塩素化パラフィンやノニルフェノールの用途制限等の対策が進められている。

2.化学物質の生態系への影響の試験・評価方法
  • OECDでは、統一的な試験方法であるテストガイドラインや、安全性データの信頼性を確保しデータの相互受理の実効性を担保するGLP基準を策定している。・米国やEUでは、生態影響に関する各種のデータベースが整備されている。また、米国を中心に定量的構造活性相関(QSAR)による生態毒性の予測が行われている。

3.各国の化学物質の審査・規制制度
  • 各国の化学物質審査・規制制度を見ると、我が国以外の各国では、人の健康の保護の観点からの審査・規制と、環境(生態系)の保全の観点からの審査・規制の枠組みに特段の差異はない。

4.生態系保全に係る化学物質の審査・規制のあり方
  • 生態系保全の観点を導入する際には、現行の化学物質審査規制法の仕組みに必ずしもとらわれずに審査・規制スキームを検討すべきである。
  • 具体的な規制区分は、その物質の生態毒性(ハザード)の評価による規制と、その物質の暴露による生態影響のおそれ(リスク)の評価による規制を組み合わせることが有効である。
  • 規制内容については、現在の製造・輸入の原則禁止や製造・輸入量を制限する方法のほか、対象物質の使用状況等によっては用途の一部を制限する仕組みについても検討すべきである。
  • 現行の化学物質審査規制法で「良分解性」と判定される物質についても、生態系保全のための審査や規制を一律に免除することは適当でなく、何らかの方策を検討することが必要である。
  • 生態影響試験の実施を求める化学物質の製造・輸入量の基準については、現行(年間1トン超)と同様にすべきかどうかさらに検討が必要である。
  • 水溶性の高分子化合物については、水生生物に影響を及ぼすおそれがあるので、一定の範囲で試験対象とすることを検討すべき。
  • 化学物質の審査において構造活性相関を活用することについては賛否両論がある。知見の集積を図り、その活用の可否、可能とする場合にはその適用条件等について検討すべき。
  • 既存化学物質の点検の加速化が必要。その際、国と産業界との役割分担のあり方について再検討し、産業界の積極的な協力や役割分担を求める方策の検討が必要との意見が多かった。
  • 化学物質の有害性や危険性に関する分類と表示の制度、製造・輸入量や有害性に関する情報の取扱いについても、様々な意見が出され、今後種々の検討が必要と考えられる。


パブリックコメントを出そう
 これまで、生態系の観点が欠けていると批判されてきた化学物質審査規制法がようやく変えられようとしています。環境ホルモンの問題でも、生態系への大きな影響が指摘されてきました。これまで日本の化学物質規制においては、人に影響があるという知見が出ないとなかなか規制されなかったのです。
 生態系を守るということは、まわり回って人をも守るということです。予防原則の観点からも、生態系保全は必要なことです。
 産業界からの反対意見がどっと出ることも予想されますから、「もっとやれ」と後押しする賛成意見もどんどんを出しましょう。
 検討会の議事録を見ると、製造・輸入量基準を10トンに引き上げる案も出ていたようです。報告書では、「検討が必要」となっているので、少なくとも現行の1トン以下にすべきと言っていくことも必要です。予防原則をもっと全面に出すようにと言いましょう。とにかく、形が整っていなくても、たとえ一言でも大丈夫なので、意見を出しましょう。(安間)

◆募集期間:
3月29日(金)〜5月13日(月)

◆意見提出先:
環境省総合環境政策局環境保健部企画課化学物質審査室
〒100-8975 東京都千代田区霞が関1-2-2
FAX:03-3581-3370
電子メール:chem@env.go.jp(添付ファイルではなく、本文に記入)
意見には、住所、氏名、職業(又は業種)、年齢、性別、電話番号を記入し、報告書の該当箇所を明記した上で提出。

◆資料の入手方法:
化学物質審査室(中央合同庁舎第5号館25F)において配付
インターネットによる閲覧:環境省ホームページhttp://www.env.go.jp/info/iken.html
郵送による送付:200円切手を貼付した返信用封筒(A4版冊子が折らずに入るもの。郵便番号、住所、氏名を明記)を同封の上、意見提出先まで「生態系保全検討会報告書希望」と記載して送付。


化学物質問題市民研究会
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