ピコ通信/第32号
発行日2001年4月10日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 欧州委員会、化学物質の持続的な使用について方向性を示す
  2. カーペット、塩ビ床材に有害物質
  3. 第3期市民連続講座「子どもの健康と化学物質」を終えて
  4. 環境ホルモン国際シンポジウム in 横浜(3)
  5. 【海外情報】アメリカ人の化学物質汚染の実態が明らかに
  6. 化学物質問題の動き(2001年3月)
  7. ミニ環境展のお知らせ/編集後記


1.欧州委員会、化学物質の持続的な使用について方向性を示す
 [欧州委員会化学物質白書に関するリリース資料(2月13日付け)より]

 欧州委員会が、将来の欧州連合における化学物質対策方針を示す、「化学物質白書」を採択しました。
 この新しい“化学物質戦略”の主要な目標は、EU域内市場が効率的に機能し、化学産業の革新と競争力を刺激する一方で、人の健康と環境の保護を厳しい水準で確実に行うことです。この採択に関して、欧州連合の環境コミッショナーの一人は「がんを引き起こしたり、人の体や環境に蓄積し、また生殖能力に悪影響を及ぼす物質を段階的に廃止し、代替していくためのステップを踏んでいくことを我々は決断したのです」と語っています。
 この白書は、人の健康を守るために基本的に必要なことと、有害物質汚染のない環境を目指しながら欧州連合内の化学産業の競争力を高めるという二つの面での釣り合いをとっています。また、化学物質に関する評価について情報の公開と、意思決定過程における透明性を高める必要があることにも言及しています。

新しい戦略の要点
  • 1981年9月以前及び以降に市場に流通している有害物質とその使用に関して、提供される保護のレベルが一貫するよう、等しく知見を提供する、一つの有効かつ一元的な規制の枠組みである。
  • 化学物質の試験とリスクアセスメントの責任を当局から産業界へ移行する。
  • (人の健康と環境の)保護レベルを落とすといった妥協をすることなく、技術革新と競争力の保護も行う。
  • 最も危険な化学物質のために厳しい管理が担保されるよう、そうした場合には個々のケースに応じた認可システムを導入する。
  • 化学物質に関する情報の透明性を高める。
  • 1981年以前の化学物質を“既存”、以降のものを“新規”と定義している。

<要点の解説>
 白書は、既存化学物質と新規化学物質とで異なる試験要件が設けられている二元的な現行システムを一つにし、化学物質の大多数を対象とする効率の良い一貫したシステムに転換することを目標としています。
 この戦略は、化学物質に関する既存のリスク評価及びリスク管理システムの問題に対処し、人の健康や環境への影響がほとんど知られていないまま現に流通している化学物質、とりわけ、その大半を占める既存物質を対象とすることを狙いとしています。  新たな枠組みのもとでは、特定の化学物質を生産する産業は、当該化学物質のデータを提供する責任が生じ、当局は産業側が提出したデータを評価して、物質の性質に則した試験プログラムの決定に責任を持つことになります。責任の増大に伴い、それらの化学物質のユーザーメーカー(原体は作っていなくとも調合、製剤などをするメーカー)も、その使用化学物質についてデータを提供しなければならなくなります。
 既存及び新規化学物質を評価する新しいシステムは“REACH”の通称で知られています。
* Registration(登録)
約30,000種の物質(1トンを超える生産量のある既存及び新規物質)について、企業から提出された基礎情報をデータベースに登録する。
* Evaluation (評価)
登録された全ての化学物質のうち生産量が100トンを超えるもの(約5,000物質.15%に相当)、あるいは、懸念が高い場合には、それよりも低い生産量の化学物質についても評価を行う。この評価は、当局によって行われ、また慢性曝露の影響に焦点をあてた試験プログラムを化学物質毎に開発することも含む予定である。
* Authorization (認可)
発がん性、催奇形性、生殖毒性のある物質、及びPOPsの認可制度。

次のステップ
 今後、白書は理事会(Council)と欧州議会に提出されます。関係者は、ブリュッセル(EU事務局本部所在地)および各加盟国における会議に招へいされる予定。この会議の狙いは、白書の発行と、その意義の説明、今後の動きについての討議です。その後、原則づくりと意欲的な達成目標の設定など、この白書に記された戦略の具体化を図るための主要な作業が実質的に開始されます。(関根)

※白書と関連情報のURL
http://www.europa.eu.int/comm/environment/chemicals/index.htm

3.第3期市民連続講座「子どもの健康と化学物質」を終えて

 当研究会では、昨年9月から、今年2月にかけて、6回にわたって第3期化学物質問題市民連続講座「子どもの健康と化学物質」を開催しました。ここで、全体を通して見えてきた問題点についてまとめてみたいと思います。
 私たちが今回、子どもに焦点を当てるに際して意識したのは、1997年のマイアミ宣言でした。それは、先進国8カ国の環境大臣が参加した会議で採択された「子どもの環境保健に関する8カ国の環境リーダーの宣言書」のことです。日本ももちろん参加しています。
 その宣言は、「我々は世界中の子どもが有害物の著しい脅威に直面していることを認識している」という文で始まり、
「曝露の予防こそが子どもを環境の脅威から守る唯一かつ最も効率的な手段である」
「(取り組みにおいて)子どもの環境保護を優先させることを再び宣言する」
「環境保護のプログラムや基準及び試験プロトコールはしばしば、乳児や子どもを考慮に入れることも、また環境の脅威からそれらを完全に保護することも十分でなかった」
「子どもの特異な曝露経路や量−反応関係の特徴を考慮に入れ、国の政策を設定することを誓う」
「情報が十分でないときは、我々は予防的な原理または予防的アプローチに則り、子どもの健康を守ることに同意する」
 等々のことが述べられていて、子どもの有害物質への曝露の特異性、予防原則、子どもの環境保護を最優先とさせることなどが明言されています。
 それと比較しながら、わが国の「子どもと化学物質」についての問題点をあげてみます。

  1. マイアミ宣言以降、アメリカでは、子どものいる環境中でのクロルピリホスの使用禁止が決定され、その他の農薬についても規制が検討されています。EU諸国を中心とする塩ビ製品のフタル酸エステル規制も子どもの健康を考慮した予防的規制といえます。
     一方で、我が国では、子どもに焦点を当てた化学物質対策はまったく取られていません。国際会議で日本も同意したにもかかわらず、無視を決め込んでいます。子どもの人権条約への冷淡さと通ずるものがあります。
  2. 子どもというのは、本来、社会的に最も大切に扱われるべき存在です。しかしそれどころか、行政レベルではむしろ、一般的な社会の水準から見ても、劣悪なものがおしつけられているのが現状です。農薬まみれの小麦とか、アルミの食器など、給食の食材や食器がその典型です。予算がちゃんと金を使うべきところに使われていません。シックハウスが問題となって、住宅で使えなくなった有害な建材が学校の工事にまわされていることもあるそうです。
     家庭でも、子どもたちには、プラスチックの食器とか、安いおもちゃなどがあてがわれています。百円ショップのおもちゃに見られるような、有害物質の入った粗悪な原材料を使った商品が、ただ安価であるというだけで流通しています。
  3. 子ども特有の曝露経路や、曝露による反応についての究明がされていません。呼吸にしても、大人よりは床に近い空気を吸っている等のことにようやく注意が向けられ出したところです。医薬品でも、大部分が子ども向けの用法・用量が確立していないのが現状です。
  4. 子どもが不調を訴えても、大人が信号を読み取れず、単なるわがままだと決め付けられがちで、被害が顕在化しにくい面があります。シックスクールもようやく昨年あたりから社会的に認知され始めましたが、子どもの目線に寄り沿った観察が必要です。
  5. 一番被害を受けるのは子どもたちだとしても、その周囲の大人も被害を免れるわけではありません。シックスクールなら教職員、建設にたずさわった人、おもちゃならその製造者、百円ショップの店員なども被害者予備軍です。消費者被害や公害の後ろには、労災問題が隠されています。
  6. 医療が化学物質被害の原因の一つとして考えられるようになりました。医薬品がアレルギーや化学物質過敏症の原因になったり、病院内の消毒薬が中毒をひきおこしたりしています。医学生が解剖の時のホルマリンで被害を受けているそうです。また、医薬品にも様々な添加物が使われていて、有効成分による副作用以外の問題もあります。
  7. 今回の講座では、学校と医療が問題とされましたが、両者に共通するのは、権威主義的な点です。専門家に黙って任せていればいいという運営を行っているところで、批判を受け入れにくい体質があり、化学物質問題の解決のさまたげとなっています。
  8. 役所も縦割りで、子ども全体をみるところがありません。化学物質に対する対応も、進んでいる役所と遅れているところがありますが、一番子どもや健康に関係しているはずの文部科学省、厚生労働省の感度が鈍いというというのも、権威主義と関連しているのかもしれません。
  9. 国際的には予防原則に則ることがかなり広がってきましたが、わが国の政府は未だ、危機感もないし、毒性や被害がはっきりするまでは対策を取らないという、旧態然の姿勢に終始しています。
  10. シックスクールが昨年ようやく認知され始めたように、まだまだ子どもをとりまく環境で、見落とされている汚染源があるはずなので、広くアンテナをはっておく必要があります。
  11. 福島章先生が、「人間の行動は、社会的、生物学的、心理学的、の三つを総合して考えなければならない」と言われたように、一つの問題でも、様々な要因がからんでいます。なんでもかんでも化学物質のせいにするわけにはいきません。一方で、登校拒否でも、化学物質忌避が原因である場合も考えられます。総合的な、複眼的な視点を忘れないようにしなければなりません。
 未来に化学物質汚染のつけを残さないようにするためには、まず未来の世代である子どもたちの、現在の環境を守ることが第一歩となります。(花岡)


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