WHO Tobacco Free Initiative 2001
タバコ産業界の不当干渉に関する
WHO調査の紹介

情報源:WHO Tobacco Free Initiative Homepage
An Introduction to the WHO inquiry on tobacco industry influence
http://www.who.int/genevahearings/inquiry.html
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2001年11月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tobacco/kaigai/01/01_11who_inquiry.html


報告書全文(pdfファイル)

報告書名は何か?

『世界保健機関(WHO)のタバコ規制の活動を切り崩すためのタバコ産業界の戦略』

報告書は誰が作成したか?

 WHOの事務総長グロ・ハーレム・ブルンドランド博士によって指名された専門家委員会

 専門家委員会委員:
  • トーマス・ゼルトナー教授、公衆衛生局、スイス
  • デービッド・ケスラー博士、イェール大学医学部、アメリカ
  • ド・アンカー・マーティニ、トランスペアレンシー・インターナショナル社専務、ドイツ
  • ファゼル・ランデラ博士、インスペクタージェネラル オブ インテリジェンス、南アフリカ
  • ゼルトナー教授は専門家委員会委員長。委員会は8名の外部研究員の支援を受けた。

委員会はいつ設立されたか?その理由は?

 ブルンドランド博士が1999年10月に設立した。博士によれば:
「・・・アメリカでのタバコ産業界に対する訴訟において開示されたタバコ会社の文書を調査するために設立した。それらの文書は、タバコ規制政策とその研究を切り崩すためにタバコ産業界が行った組織的で地球規模の活動の証拠を示していた。私は委員会に対し、タバコ産業界が国連の組織に対し行っている謀略の実態について調査するよう諮問した」。

委員会による主要な調査結果は何か?

 専門家委員会が集めた証拠は、全てタバコ産業界自身の文書である。タバコ産業界がWHOを彼らにとって重大な敵の一つと見なし、WHOがタバコ規制を主導することを抑制し、中立化し、方向転換させる戦略を計画しているということが専門家委員会によってわかった。
 タバコ産業界は下記のような計画を実施していたことが、彼らの文書からわかった。
  • 喫煙による健康問題から注意をそらすためのキャンペーンの実施
  • WHOが実施する科学及び政策に関する諸活動の予算を削減する企て
  • 他の国連諸機関がWHOに反対するよう働きかけ
  • WHOのタバコ規制プログラムは、先進国が発展途上国の金を使って推進しているということを発展途上国に信じ込ませること
  • タバコに関する重要な科学的研究の成果をねじ曲げること
  • 組織としてのWHOの信用をおとしめること

委員会により示されたタバコ産業界の謀略事例にはどのようなものがあるか?

1.ボッカ・レートン計画
 フィリップ・モリス社のWHO 攻撃のマスタープラン。WHO の地域事務所に不当干渉し、WHOの組織、運営、資源を攻撃目標とした。この計画は、当時のフィリップ・モリス・インターナショナル社の社長(現フィリップ・モリス社CEO)ジェフリー・バイブルの指揮の下、フロリダ州ボッカ・レートンにおける同社トップマネージメント会議で進められた。

2.第三世界の問題
 タバコ産業界は、タバコ規制は先進諸国の問題であり、タバコ規制活動によって被る発展途上国の健康被害は、喫煙による健康被害よりもはるかに大きいという意見を広めようとしていた。彼らは、発展途上国の代理人を国連の各種機関に派遣してロビーイングを行ったり、国際タバコ栽培者協会(ITGA)を前面に出して活動した 。

3.独立機関によるWHO 批判
 タバコ産業界は、WHO の信用をおとしめ、その使命と権限を疑わせ、タバコ規制ではなく他の健康問題に目をそらさせるよう”独立の”学術研究機関、コンサルタント、ジャーナリスト達を動員した。これらの人々や研究機関には、タバコ支援または反 WHO の意見を展開するために、多額の金が支払われていた。

4.第8回 タバコか健康か世界会議
 ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)社とフィリップ・モリス社は、1992年にブエノス・アイレスで開催されたタバコに関する国際会議を切り崩すキャンペーンを展開した。
 その戦術は、会議を横道にそらすよう入念に策をめぐらすこと、会議への参加者を妨害し、記者会見を乗っ取るようジャーナリストを訓練すること、そし会議に参加したアメリカの政治家達が明確な態度を示さぬようメディアを使って画策すること等であった。

5.農薬 EBDC を国連規格に採用
 EBDCはタバコや他の作物を菌やカビから守る農薬である。アメリカ環境保護局(EPA)は、EBDCの副産物は人間に対する発がん性の可能性があるとの結論を出していた。WHOの前農薬担当官は、EBDCを推奨するキャンペーンを展開するためにタバコ産業界の組織CORESTAに雇われていた。その前農薬担当官はまた、国連の農薬検討審議会の暫定アドバイザーに指名されていた。農薬検討審議会がEBDCを国連規格に採用したことについて、この暫定アドバイザーの影響があったかどうか不明であるが、専門家委員会は調査が必要であると考えていると報告書は述べている。

6.国際がん研究機関(IARC)のタバコの煙(ETS)に関する研究
 タバコ産業界は、タバコの煙(environmental tobacco smoke ETS) と肺がんとの関係についての大規模な疫学調査を切り崩すために、数百万ドルを使ってキャンペーンを展開した。この調査は、WHOの後援で設立された国際がん研究機関(IARC)によって実施されたものである。

委員会の主要な勧告は何か?

  • WHOは、国際的なタバコ規制政策に対するタバコ会社の不当な干渉について、世間にもっと知らせるべきである。特にWHOは、2000年10月12〜13日に開催された「タバコ規制枠組み協約」に関する公聴会での討議報告書を刊行すべきである。

  • 他の国連機関及び加盟国は、タバコ会社による不当干渉に関し、WHOと同様な調査を実施すべきである。

  • WHOは、「タバコ規制枠組み協約」に反対するタバコ会社のキャンペーンを押しとどめるべきである。

  • WHOは、タバコ産業界の権益擁護拡大策を抑制するためのプロセスとルールを明確にし、強化し、推進すべきである。

  • さらに、WHOまたは関連機関が後援する、あるいは関係する科学的調査をタバコ会社がねじ曲げようとする企てを阻止すべきである。

  • WHOは、発展途上国でのタバコ規制を抑えようとするタバコ会社の戦術を撃破するための戦略を打ち立てるべきである。

  • WHOは、本報告書に述べられたタバコ会社の画策はなくなったのか、あるいはまだ続いているのか、見極めるべきである。

  • WHOは、加盟国がタバコ会社の過去の所業に対し損害賠償を求めるに当たって、法及び事実がベースとなっているかどうかを検証することを支援すべきである。

(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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