WHO Tobacco Free Initiative 2001
タバコと子どもの権利
情報源:WHO Tobacco Free Initiative Homepage
Tobacco and the Right of the Child
http://tobacco.who.int/documents/crcreport.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2001年5月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tobacco/kaigai/01/01_05_child.html



世界保健機関タバコ・フリー・イニシアティブ(WHO Tobacco Free Initiative )の論文「タバコと子どもの権利(Tobacco and the Right of the Child)」について、目次とエグゼクティブ・サマリーを紹介します。(訳者)

目 次
エグゼクティブ・サマリー

4
第1章 タバコと児童憲章
・タバコについての警鐘
・予防可能な疫病
・タバコ規制の経済性
・国連児童憲章:タバコ規制の基本
・喫煙と児童憲章
・人権の観点からのタバコの検証

6
第2章 タバコか子どもの健康か
・大人の喫煙が子どもの健康に与える影響
・喫煙:子どもの健康への脅威
・児童憲章における責務
・適切な生活水準の権利

12
第3章 タバコ市場と子ども
・児童憲章における責務

17
第4章 児童労働
・児童憲章における責務

21
第5章 結論

23
アペンディックス(補遺)

24
リファレンス(参照)

28


タバコと子どもの権利

 もし、このまま喫煙の増大傾向が続くなら、現在の2億5千万人の子ども達は、いずれタバコにより殺されるであろう。喫煙の増大傾向を押しとどめ、タバコの疫病を終わらせることが、我々の義務であり、我々の叫びである。
 私は世界中至る所の人々と国家に対し、我々の子ども達が将来、タバコのない世界で健康に過ごせるよう、小さなことでも大きなことでも国連と一緒になって活動するよう、呼びかける。
 コフィ・アナン、国連事務総長、1997年

 喫煙は、死を早める数ある原因の中で最も防ぐことが可能なものである。このことが、タバコ市場を消費の落ち込んでいる先進国から開発途上国の若年層にシフトしようとしているタバコ産業をユニセフ(UNICEF、国連児童基金)が非難する理由である。
 キャロル・ベラミー、ユニセフ理事長、1998年

 タバコの蔓延は流行病のようなものであるである。それはタバコの広告を通じて、喫煙者を通じて、そして非喫煙者、特に子どもが曝される煙を通じて感染する。我々の仕事は人々が流行病に罹らないようにすることである。
 グロ・ハーレム・ブルントランド、世界保健機関(WHO)事務局長、1999年



エグゼクティブ・サマリー

 この論文は、タバコによって引き起こされる問題は児童憲章の条項、特に市民としての権利と自由、基本的な健康と福祉及び児童労働にかかわることなので、それらについて検証するものである。

 国連児童憲章は、1989年11月20日の国連総会で採択され、1990年9月に発効された。児童の権利委員会による児童憲章の条項についての解釈、及び各国の実状に照らすと、タバコは正に人権問題であることがわかる。児童憲章は国際的に法的拘束力があるので、同憲章に批准した国々は、タバコの害から子どもを守ることを含めて同憲章で保証された全ての権利を児童が享受できるようにする法的な義務がある。

 世界保健機関(WHO)によれば、毎年約400万人の人々がタバコに関連する病気で死亡しており、2030年までに死亡者数は年間1000万人に増大すると予測している。タバコによる将来の犠牲者の多くは今日の子ども達である。タバコは通常、未成年時から吸い始め、タバコに含まれるニコチンへの依存により、生涯を通じて吸い続けることになる。喫煙が死を招き、病気の原因となるということは科学的に十分証明されているにもかかわらず、タバコ産業側が潜在的な喫煙者として若者ターゲットとしたタバコ販売を積極的に展開しているので、若者の喫煙は増加し続けている。もし、この傾向が続くなら、今日の2億5千万人の子ども達がいずれタバコよって殺されることになるであろう。

 WHOの推定によれば、7億人近く、あるいは世界中の子ども達のほとんど半分が、喫煙によって汚染された空気を、特に家庭で吸っている。受動喫煙への曝露が微量であっても健康に障害を与えるので、これ以下なら安全であるというような受動喫煙の基準は存在しない。多くの子ども達にとって受動喫煙は避けることができず、家庭や公共の場所での受動喫煙の結果、生涯にわたる健康障害を被ることになる。

 喫煙や受動喫煙による子ども達の被害は莫大なものなので、各国は子ども達をタバコから守るための必要な全ての法的措置をとる責務があり、子ども達の利益がタバコ産業側の利益よりも優先するようにしなければならない。喫煙と受動喫煙が子ども達の健康に有害な影響を与えるということは科学的に十分証明されているので、包括的なタバコ規制は、政府の法的な権限であるだけでなく、児童憲章に基づく法的な責務でもある。

 タバコは国家と同様に、家計に対しても直接的にも間接的にも経済的負担を強いて、家計を圧迫するので、必要な食費、被服費、教育費が十分にまかなえず、その結果、子ども達が一定の生活水準を享受する権利を脅かしている。
 児童憲章で保証しているような適切な生活水準が保てなければ、生存し成長する権利は真の意味で実現することはできない。

 世界中でタバコ会社は、子ども達に喫煙に興味を持たせるようなメッセージを意図的に流しながら、極めて有毒な商品(タバコ)の宣伝のために、年間数十億ドル(数千億円)の金を使っている。
 絶えることのない大量の直接的及び間接的的な宣伝により、タバコ産業側はタバコを力強い魅力的なイメージに仕立て上げている。販売目標が子ども達に置かれているので、子ども達は、身体的にも精神的にも、そして社会的成長にとっても有害な喫煙の習慣に染まりやすくなる。児童憲章は各国に対し、子ども達が、自分たちの社会的、精神的、そして道徳的な安寧と肉体的、精神的な健康を推進させる各種情報を得ることができるようにすることを義務付けている。

 子どもたちにタバコとタバコ産業についての情報を知らせるべきである。タバコの短期的並びに長期的な健康への悪影響、タバコの習慣性、タバコ産業が如何に若者をターゲットとしているか、そしてタバコの宣伝が如何に巧妙に若者を誤り導いているか、等についての情報である。児童憲章は各国に対し、正確で目的にかなった情報を子ども達に提供すること、メディアが子どもに有益な情報と素材を提供するよう働きかけること、そしてタバコの宣伝に関する包括的な制限によって子どもたちを有害な情報から守ることを義務付けている。

 タバコ産業での児童労働者の雇用は、危険な作業から子ども達を守るということに違反し、子ども達が教育を受ける機会を奪っている。タバコ産業における児童労働では、ニコチン中毒の危険、有毒な農薬への曝露、そして時には過酷な労働条件が、子ども達の肉体的、精神的そして社会的な成長や教育に対する権利を脅かしている。

 タバコが有害であることの動かしがたい数多くの証拠があり、また、タバコ産業が若者を一生タバコの習慣性の餌食にしようとたゆまぬ努力をしていることに対し、包括的で多様な戦略と強力な社会的政策が必要である。このような政策なくしては、子ども達の権利、特に基本的な健康と福祉及び児童労働に関わる権利、は踏みにじられ続けるであろう。各国は、それぞれが、また協力もしながら、児童憲章に基づく責務、特にタバコから子ども達を守るということを十分に果たさなくてはならない。

(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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