2000年10月13日
タバコ公聴会に対するWHO 事務局長の表明

情報源:Statement WHO/6 13 October 2000
WHO DIRECTOR-GENERAL'S RESPONSE TO THE TOBACCO HEARINGS
http://www.who.int/genevahearings/hearingsdocs/dghearingsen.rtf

掲載日:2000年11月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tobacco/kaigai/00/00_11_who_dg_tobacco_hearing.html


訳者注
 スイスのジュネーブで10月12日,13日に開かれたWHOのタバコ規制枠組み条約に関する公聴会へのブルントラント事務局長の表明を紹介します。
 この公聴会には下記リストに示される世界の164団体が参加し、日本からは全国禁煙・分煙推進協議会の宮崎恭一氏及び日本たばこ産業(JT)が発言しました。
List of Speakers: http://www.who.int/genevahearings/sorder2.pdf

 タバコ規制枠組み条約(FCTC)について意見を述べたいと考える全ての団体に対し、私は意見を提出するよう呼びかけたが、WHOに対し500通を越える意見書の提出があり、それらは直ちにWHOのウェブサイトで公開された。世界の160以上の組織の代表者が、現在ジュネーブで証言中である。彼らは、多国籍タバコ企業、国策タバコ会社、タバコ会社グループ、公衆衛生機関、女性グループ、地域の組織・団体、学会・研究所、からの代表者達である。

 人々の健康を守ることを使命と考える全てのグループは、喫煙による現在及び将来の、特に発展途上国の、人々への影響について極めて深刻な懸念を表明している。彼らは早急に断固とした措置をとるよう主張した。それとは対照的に、多くのタバコ会社は“穏当”で“適切”な措置は何かということに論点を集中している。中にはWHOの役割や、人々の健康に与えるタバコの影響を減少させるためのFCTCのやり方を問題にする会社もある。さらに、いくつかのタバコ会社は、受動喫煙が健康に対し脅威を与えるということを未だに否定し続けている。

 一般的に、タバコ会社は、若者や成人のタバコ消費の削減に対し非常に限られた効果しか期待できないと言われる政策や措置は支持すると表明してきた。しかし、WHOや世界銀行や公衆衛生の専門家達が、効果の測定が可能で持続性のあるタバコ対策であると認めた調停案には反対している。
 調停案の概要は下記のようなものである。

  • タバコ消費税の値上げ
  • タバコの広告、スポンサーシップ、市場開拓の禁止
  • 公衆での喫煙の規制
  • 効果的な禁煙方法の普及
  • 強力は反タバコ広告
  • タバコ密輸への厳しい規制

 加盟各国がFCTC及び各国の法と政策に織り込むべき措置について審議するにあたり、これらの調停案を十分考慮することを希望する。

 多くの証言において、タバコ産業の一部であるタバコ会社は、政治的、財政的、及び人権に関する問題に焦点を絞り込んでいる。
 彼らはよく知られている予測、すなわちタバコ消費を減らそうとする国際的な措置がとられれば、突然、大量の雇用機会が失われ、人々はさらに貧困に追いやられるとともに、国の主権をも脅かすことになるということを再び引き合いに出そうとしている。
 私が他のグループから聞いた所によれば、これらの予測は確かに各国の政策決定者に懸念をもたらしてはいるが、しかし、慎重な調査によれば、多くの場合、その予測には根拠がないとしている。
 従って、タバコ会社は、WHOの191の加盟国からの代表者により進められようとしている交渉を混乱させることが目的のように見える。彼らは、10月16日から始まるFCTC政府間交渉の前に、混乱を起こそうとしている。

 発展途上国からの他のグループは、農村共同体におけるタバコ栽培農家に与える影響について異なった見解を示している。いくつかのグループは、タバコ栽培農家の将来の生計についての不安を述べている。それらの不安は理解できるけれども、それらを正当化するだけの証拠はない。

 しかし、長期のタバコ需要の減少が及ぼすタバコ製品供給への影響については、注意深く調査する必要がある。この調査は、打撃を受ける恐れのある地域や国を特定するのに役立つであろう。またこの調査に基づき、今後、20〜30年の間の予想される困難を最小限に抑えるための選択肢が示されることになるであろう。FAO、世界銀行、米国農務省、カナダIDRC、スウェーデンSIDA、及び WHO が共同でこのような作業を実施中である。

 公聴会において、いくつかのタバコ会社は市場開拓の方針を“妥協点”に向けて軌道修正したと証言した。いくつかの会社は“穏当な会話”を望み、“現実的な解決”をしたいと表明した。WHOは、各国政府はこの提案が実際、何を意味するかということについて注意した方がよいと考えている。我々が留意しなくてはならない根元的な問題は、タバコは常習者の半分を殺す、唯一の合法的消費製品であるということである。

 入手した資料に基づき、WHOはタバコによる健康への被害を減少するために、次の4つの方法があると考えている。

  1. 若者と非喫煙者が喫煙を始めないようにすること
  2. 禁煙を励まし、支援すること
  3. 非喫煙者及び胎児を受動喫煙から守ること
  4. タバコ製品に含まれる有害成分のレベルを下げること

 WHOはこの4つの方法に取り組み、それらを実現するための広範で効果的な措置を支援する。最初の3つの措置は既に多くの国々で取り入れられており、健康に対する効果を上げている。タバコ会社が“より害が少ない”と称するタバコ製品の改良による効果を得るためには、少し時間がかかるし、主要なタバコ会社も公に認めているように、安全なタバコなど未だ存在しない。

 我々の分析によれば、WHO及びほとんどの加盟国と、タバコ会社との間にはその立場において、際だった相違がある。我々WHOは、タバコの使用を減少させることに効果があると分かっている措置は、直ちに実施するよう主張している。我々は、これらの措置がタバコ会社に妨害されることなく実施できることを切に望む。
 しかしタバコ会社は新たな喫煙者と現在の喫煙者の数を効果的に削減する措置には反対し続けるであろう。彼らは、タバコ製品による被害を長期的に減少させるとの立場である。

 このような明白な立場の違いについて我々は懸念しているが、我々はタバコ会社が、タバコの有害性を減少させるためにどのような提案を行おうとしているのか耳を傾けるということを約束した。
 我々は、各国及び国際的なタバコ規制の枠組みを提案するために、科学諮問委員会を設置した。我々は、タバコ製品改良に対するタバコ会社の科学者の意見を聞くために、彼らを今日この後の委員会に招請した。

医学博士 グロ・ハーレム・ブルントラント


(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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