デンマーク環境大臣、Connie Hedegaard(コニー・ヘーデゴア)の
MCS研究センターの開所式でのスピーチ

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情報源:Miljominister Connie Hedegaards tale ved abning af videncenter
for duft- og kemikalieoverfolsomhed (MCS) den 9. januar 2006
(デンマーク語)
http://www.mim.dk/Ministeren/Taler/2006-01-09_MCS-videncenter.htm

訳:玉腰 了三 (化学物質問題市民研究会会員)
掲載日:2007年5月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/cs_kaigai/Danish_Env_Minister_Speech_060109.html

はじめに
 2006年1月9日、デンマークにMCS研究センター(MCS-videncenter)が設立されました。
 これから紹介しようとしているのは、MCS研究センターの開所式でデンマークの環境大臣が述べたスピーチです。デンマークでは私たちが現在使用している「MCS」という用語はもともと無くて、「duft- og kemikalieoverfolsomhed」「香料・化学物質過敏症(性)」という用語を使用していました。しかし世界的に「MCS」と言う用語が広まる中でデンマークでも「MCS」という用語を使うようになってきました。スピーチの中でも両方の用語がほぼ同じ意味で使用されています。この点に留意しながらお読み下さい。また「videncenter」も他の訳し方もあるでしょうが「研究センター」で」統一しました。
 日本の環境大臣や関係者のスピーチと比較しながら読んでみて下さい。何かのお役に立つのではないかと思い公表します。誤訳等を含め、ご意見があればお寄せ下さい。
 なお、スピーチを日本語に翻訳するにあたって、大臣宛に翻訳の許可を直接お願いしましたところ、快諾していただきましたことも報告しておきます。
玉腰 了三(化学物質問題市民研究会会員)


(デンマーク)
環境大臣、Connie Hedegaard(コニー・ヘーデゴア)のMCS研究センターの開所式でのスピーチ
2006年1月9日
(スピーチは公的発言とみなされる)

 ようこそ みなさん
 大変長い道のりを経て、香料・化学物質過敏症に関する新しい研究センターを公に開所できることを、私は嬉しく思います。またこの研究センターが、すでに消費生産物の中に含まれている化学物質アレルギーを研究するセンターの本部が置かれているゲントフテアムト病院(Gentofte Amtssygehus)に設立されたことも嬉しく思います。
 私ども環境省が知るかぎりでは、このセンターは、人が一ヶ所で香料・化学物質過敏症に関する知識や情報を収集することができる、世界で一番最初の施設でありまして、私は今後の共同研究に期待をしています。私たちはすでにアレルギーセンターですばらしい経験を蓄積しています。そこではすでに香料に関係する症状について重要で適切な成果をだしています。

今日的関心事としてのMCS
 ここに至るまでには厳しいとりくみが必要でした。香料や化学物質に特に敏感な人たちは自分たちの問題に光をあてようと必死に活動してきました。
 不幸なケースではありましたが、レントリン事件が彼らの問題を政治的な関心事としました。それはご存知のように次のような事件でした。一人の販売業者がレントリンは人の健康によくないということを知っていたにもかかわらず、室内で木材を処理する手段として使用を人々に勧めました。その結果、人々はレントリンが使用された場所に住んでいたがゆえに病気となってしまったのです。
 それゆえに、その事件は、頭痛・倦怠感・目まい・記憶障害・粘膜症状・呼吸器系の問題や比較的低濃度の香料や化学物質が原因で起こると見られていた他の症状を訴えていた多くの人々の注目するところとなりました。
 香料・化学物質過敏症は、世界の各地で研究が進められており、英語では、"Multiple Chemical Sensitivity,"(多種化学物質過敏症)と呼ばれています。当MCS研究センターはそれゆえ、独自のMCS研究に加え、MCSについてのこれまでに発見された知識を概観するという重要な任務を持っています。
 MCSの諸症状は大変深刻なもので、最悪の場合は日常生活を正常に送ることができない病人に近い状態になります。
香料や化学物質から逃れる闘いは、日常生活を地獄に変えてしまいます。そして多くの人々は不可能と思われるような困難に立ち向かい傷ついています。なぜならば、彼らは自分自身に何が起こっているのか説明さえできないからです。

 問題の印象を伝えるために、MCS患者から受け取った一通の手紙を朗読してみたいと思います。

 「私は29歳です。私がMCS患者になったのは、あとわずかでジャーナリストになるための教育が終わろうとしていた時でした。しかし、階下に住んでいた人がレントリンと同じような毒性の強い塗料を浴室で使用したとき、私は病気になってしまいました。階下の蒸気が上昇し私の部屋に入り込んできました。それ以来、私のMCSの病気は急速に悪化していきました。私の生活は全く変わりました。
 私は、香りのする衛生製品をごく微量でも身につけている人にはもはや近づくことはできなくなりました。私は、店に入ることもできず、訪問者を受け入れることもできず、集会に行くこともできなくなりました。(車内の空気、排気ガスのせいで)車に乗ることもできません。混雑した通りにも行くこともできず、他人がいるところを大手を振って歩くこともできません。
 ところが、状況はいっそう悪くなってきました。階段から漂ってくる香水の香りやまわりの部屋からタバコの煙が原因で、私はアパートにとどまることができなくなり、自分の住みかを失うことになりました。そして私は両親のサマーコッティジ(夏用の別荘)に避難せざるを得ませんでした。そこは海に近いので、アパートを出て以来ずっとそこに住んでいました。ところが、その別荘は木で作られており、その木が放出するガスに私はまた耐えられなくなりました。私の日常生活はたくさんの厳しいMCS症状におおわれています。たとえば、口・喉・鼻や胸などの激しい痛み、めまい、呼吸困難、さらに意識が朦朧としている状態などが挙げられます。私は何かをしようとする時にいつも大変な苦痛を感じるのですが、これらがその苦痛の原因です。
 私の状態は絶えず悪くなっています。そして、私が生活できる別の場所を見つけるのは不可能な状態となっています。」

 この手紙が示すように、目の前にいるのは希望のもてない生活状況に陥っている人たちなのです。−たとえ誰かがその理由を説明できるとしても、問題は無くなりません−   そして私たちは、この事態をただ眺め続けていることもできません。

科学
 だからこそ、私たちには確かな科学的な基礎が必要なのです。
  • 保健当局が、MCS が病気として恐らく認められるべきであるかどうかを評価できるようにするためにも、また
  • MCS研究センターが公共医療施設、社会当局、患者とその関係者に、患者がかかえているさまざまな不自由を減らすためには何ができるのかをアドバイスできるためにも。

 私たちは10人に1人近くの人々が大気中の香料や化学物質に悩まされているとみています。そして1/1000 と1/100の間のある点で(0.001〜0.01)、それらに強く反応する人々がいて、その人たちを香料・化学物質過敏症(MCS)と呼ぶことができるのではないかと考えています。
 しかし、私たちには諸症状がどのように、また何によって生じるのか、分かっていません。さらに誰が、そしてなぜ特別に過敏なのかということも分かっていません。
 ですから、この新しい研究センターには大きな期待が寄せられています。つまり、私たちが設立したこのセンターは、何らかの重要な情報を提供しなければならないのです。
  • それは、少なくともこの20年来の香料・化学物質過敏症の多くの物語は、その中に何かを存在させているであろうし、またそれは各ケースの中に科学的に調査されるべきある現象が存在しているという認識の表れでもあります。
  • それはまた香料物質と化学物質にひどく悩まされている多くの人々のことを深刻に受け止めようというひとつの兆候でもありますし、それはデンマーク環境省が昨年11月に「luften.dk」というホームページ上で行った情報キャンペーンの中でのメッセージでもあります。
  • そして同時に、この設立は当局者としての私たちが確固とした専門的基礎をセンターに要求していることの表れであり、こうすることによって私たちは増加しつつあるMCSにこれ以上の人々が陥らないように予防できることを示しています。今日、私たちはMCSを予防したり、悪化するのを避けるために何ができるかを知っただけでは不十分です。
化学物質
 デンマーク環境省内の私たちにとって、化学物質が健康に対してどのような役割を果たしているのか、また問題を予防するために環境政策では何ができるのか等についてより多くの知識を得ることが特に重要であることは当然のことであります。 私たちは化学物質への不安を取りのぞくための仕事に取りかかっています。しかし私たちは化学物質なしでは生活できません。化学物質は現代社会にとっては不可欠なものとなっています。
 化学物質を合理的な方法で扱い、かつ化学物質が環境や健康に及ぼすかもしれない危険を統制することができるようになることは、共通の責任です。
  • 当局は道理ある法的規制をしなければならない。
  • 一方、生産者はより害の少ない物質の開発に責任をもつと同時に、顧客が多様な物質を正しく使用できるように、顧客が必要とする知識の提供にも責任をもたなければなりません。
  • そして、個々の市民は消費について責任を負い、環境−香水やフェロモンのような不必要な化学物質の使用制限を含む−にも考慮を払わなければなりません。
 私たちの一人ひとりが責任の一端を負うことができるための前提条件は、政治が事実にもとづいて行われることです。化学の分野においては、私たちは各物質が環境と健康に及ぼしている負荷についての明確で最新の知識を持っていなければなりません。それゆえ、私たちが、EUの新しい化学に関する法律であるREACHの中の「立証責任の転換」"vendt bevisbyrden"に努めることはきわめて重要なことです。当局と市民の裁量で、物質を生産して市場に出している工場に、その物質についての必要な知識を報告するところまできています。
 化学物質に関する法規はまず最初にEUで作成されますが、それを実現するのは私たち自身の責務です。そして意見を一致させたデンマーク国会が国内での私たちの努力を強化する新しい政府の化学物質行動計画をサポートしています。新しい計画は、化学物質の知識や適用される規則のより広範囲の知識のより良い交換をもたらします。そして行動計画の点検や実施も強化します。さらに、問題の多い物質の代替にも焦点を当て続けます。

MCSに対する努力の基本
 化学物質行動計画はまたこのような研究センターの有用性を強調しています。私はセンターの貢献により、MCSについて私たちがより賢くなれることに大きな期待を抱いています。
 あなたたちが徐々に香料・化学物質過敏症の原因に関する私たちの知識を増やしてきたように、私たち、デンマーク環境省は問題を解決するために私たちの役割を果たし、MCSの知識を広げようと思っています。
 私たちは、当然のことながら、MCS患者をこれ以上出さないためにできる限りのことをしなければなりません。さらに患者のみなさんの不快な悩みや生活状況がもっとしっかりと理解されるためにも私たちは努力しなければならないのです−当局においても一般の人々の間でも。新しい研究センターはきっとそこへの道を切り開いてくれるでしょう。
 私たちが話していることはまちがいなく複雑な問題であります。問題が明確になるまでには長い時間がかかるでしょう。しかし、MCS患者が経験している苦しみは、香料・化学物質過敏症についてより明白な真実に達することを絶対に必要としています。

センターの開所、おめでとうございます。今後のご活躍を期待しています。


化学物質問題市民研究会
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