ケミカル・センシティビティ・ネットワーク(CSN)
2010年1月25日
公開レター:香水入り切手は障害者の生活を制約する

情報源:Chemical Sensitivity Network, January 25, 2010
Open Letter: Perfumed Stamps Constrain People with Disabiities
Silvia K. Mueller, Bruno Zacke CSN - Chemical Sensitivity Network
http://www.csn-deutschland.de/blog/en/open-letter-perfumed-stamps-constrain-people-with-disabilities/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma, Citizens Against Chemicals Pollution (CACP)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年1月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/sick_school/cs_kaigai/CSN/100125_CSN_perfumed_stamps.html


 1月7日、ドイツ財務大臣、ショイブレ博士は、新たな慈善郵便切手をドイツ連邦大統領ホルスト・ケーラーと連邦福祉協議会議長 Ms. Donata Freifrau Schenck zu Schweinsberg に贈呈した。これらのスタンプのユニークな特徴は、それらが果物の香り(ブルーベリー、ストロベリー、レモン、リンゴ)がすることである。これらの香料は微小カプセルに封入されており、それらがこすられるまでは放出されないことになっている。

香水入り切手はこすらなくても香りを放出する

 CSN はそれらの切手がこするまで本当に臭いがしないのかどうか知りたくて、この香水入り切手のサンプルを入手することにした。私達が新しい慈善切手を買いたいと頼むと郵便局のカウンターの向こう側にいる女性が特別の書類入れを引き出してきて、丁寧に説明した。”はい。これは新しい香りのする切手です”。彼女は、ブルーベリーが描かれた一枚の切手シートを取り出して、うれしそうに声を出した。”まー、こすらなくても香りがするは!”。

 CSNは2枚の福祉切手を買い、注意深く検証した。両方のスタンプは、指でこすらなくても臭いがした。厳密に言えば、ストロベリー切手は、ストロベリー香料入りの安物の歯磨きの臭いがし、レモン切手の臭いは人工レモン・アロマ入りのトイレ洗剤を思い起こさせた。それは天然のフルーツ・アロマのようなものでは全くなかった。レモンのにおいは、切手を室温のまましばらく置いておくとより強くなった。CSNはこすって臭いを活性化することなどしなかった。この切手の臭いは、配送中に避けることの出来ない手紙の摩擦により、そして配送センターでの仕分けシステムを通過することにより、強くなるであろうことが予想される。したがって、香水入り切手は他の手紙を汚染する可能性が十分にある。

 CSNは、使用された香料は健康影響についてテストされたのか、テストにはどのような基準と方法が使用されたのか知りたいと考えている。その安全基準は、標準的な健康な成人が耐えられる毒性負荷なのか、あるいは最も弱い人が耐えられる毒性負荷なのか? それらはアロマ剤そのものをテストしたのか、あるいはそのアロマを含んだ印刷インクをテストしたのか? 切手の材質には健康影響はないのか? ドイツ連邦印刷局の情報は、香料の多くは印刷が完了する以前に放出されることを示唆している。

 ぜん息、香料へのアレルギー、化学物質への過敏、そして香料に激しく反応する人々はこの人気取り宣伝によって影響を受ける。

1月11日、CSNは次のような公開レターを書いた。


香水入り郵便切手は障害を持つ人々を制約する

連邦政府大統領 ホルスト・ケーラー博士 殿
Ms. Frau Donata Freifrau Schenck zu Schweinsberg 殿
ドイツ財務大臣 ショイブレ博士 殿

拝啓

 1月7日、あなた方は財務大臣により発表された新しい慈善切手についてご存知のことと思います。それらは、こするとリンゴ、ストロベリー、ブルーベリー、レモンの臭いを出します。私達は、見た目には好ましく見えるこれらのアイディアを考え直していただきたく思い、ショイブレ博士には財務大臣としてこれらの郵便切手を全て回収していただくよう要請いたします。それはもしこれらの香料に暴露すると危険な状態になる障害者や患者のグループが存在するからです。

 これらの慈善切手から便益を得るべき人々のある者がこれらの切手を流通させることにより害を受けるとしたら、それは皮肉などというものではありません。あなた方はドイツ連邦環境局(UBA/Umweltbundesam)の重要な見解をご存知ありませんか? UBAは香料入り製品は公共の場から回避されるべきと指摘しています。ドイツのアレルギー患者とぜん息患者の連合体(Deutscher Allergie- und Asthmabund e.V.)は、約11%の国民、実際には9百万人以上の人々が香料に対する嗅覚過敏の影響を受けていると推定しています(Meggs et al. 1996)。彼らは、香水の臭いのする部屋には警告表示をするよう求めています。

 これらの人々を香料で健康を損ねる障害を持った人々として適切に認定しているでしょうか?

 米障害者法(ADA)によれば、障害を持った人々は、ひとつあるいはそれ以上の日常生活の行動を本質的に制限する身体的又は精神的障害を持つ個人、その様な障害の歴史又は記録を持つ個人、あるいはそのような障害を持つとして他者により認められている個人、として定義されています。

 香水入り切手はアレルギー、ぜん息、化学物質病、その他感受性の高い人々の生活を不合理なやり方で制限するものです。これは国連条約に違反するものであり、ADAに示される障害者のために規定された保護基準を満たしていません。深刻な過敏症患者と香料により引き起こされるアレルギー患者はこれらの汚染物質の痕跡からの臭いですら困るのです。香水入り切手は疑いなく、困難な財政状況の下で有害物質から安全を確保しようと努力している彼らの生活空間を汚染するでしょう。

 現在までのところ、香料による健康障害を持つ人々は、他人の助けなしに、少なくとも手紙を受け取り開封することが出来ます。生活のこの自主性と正常性が彼らから取り上げられるのです。もし誰かが、香料に暴露して身体的反応を引き起こしたら、その人は最早手紙を受け取ることは出来なくなり、この種の”手紙爆弾”を仕分けるのに他の人々に依存しなくてはならなくなります。恐らく、同時に配達された全ての手紙は一通の香水切手によって汚染されているので、彼らがそれらを受け取る自由が失われます。

 2004年のクリスマス・シーズンに、香りつきスクラッチ・ステッカーによる同じようなキャンペーンがありました。ドイツ郵便局の職員の説明とは異なり、この香料はインク中にしっかりと封入されていません。誰かがこの切手を配達中に又は機械的相互作用でこすらないとは限りません。当時、手紙が配達されるとそれは既に臭いが付いていましたが、今回も再び同じことが起きるでしょう。

 そのような配達は、まだアレルギーの被害を受けたことのない人々も過敏にする可能性があります。使用されている香料は適切にリスクが評価されているのですか? 有害性がないと言い切れますか? ドイツで使用されている香料の大部分は耐性についてテストされていないことを知っていますか? ドイツ連邦政府による”アレルギーに関する特別報告 2000”によれば、一般国民の約15〜25%、すなわち2,000万人以上がアトピー性疾患によって影響を受けており、3分の1、すなわち約2700万人がアレルギーに過敏です。このデータが増えるようなことは、どのようなこともするべきではありません。

 この過敏症を持った人々にとって、臭いは様々な身体的反応を引き起こします。病気と健康の状態により、それらは有害性はない痛みから命を脅かす症状まで様々な範囲があります。下記のような困難が個別に、あるいは組み合わせとして起きるでしょう。

 疲労、くしゃみ、目のチカチカ、ほてり、かゆみ、水ぶくれ、炎症、唇のはれと乾き、鼻粘膜のヒリヒリ、舌の乾き、歯痛、咳、声の嗄れ、呼吸困難、めまい、病気、頭痛、偏頭痛、言語障害、記憶障害、吐き気、心臓痛、頻脈、ショック症状、放心状態、昏睡

 そのような出来事は他の物質への過敏性を増大し、長期間の回避及び健康生活という戦略による回復達成も難しくします。

 他に何もなくても、人工の香りは健康な人の審美的知覚をかく乱し、決して官能の深部に到達することはありません。有機農業者からいくつかのリンゴを買い寝室に置いて、その香りを香水入り切手の香りと比べてください。

 上述の全てを考慮して、私達は臭いに過敏な一般集団中のこれらの人々に予期される健康損傷を認識し、障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)に基づきこれらの香水入り切手の流通は即座に停止すべきことを要求いたします。

敬具

シルビア K. ミューラー、ブルノ・ザッケ

CSN − Chemical Sensitivity Network
英訳についてクリスとジムの支援を感謝します。



化学物質問題市民研究会
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