TNO レポート2003年9月の紹介
日用品に含まれる有害な化学物質

情報源:TNO Report September 2003 by Ruud J.B. Peters
Hazardous Chemicals in Consumer Products


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年11月12日

概要

 環境中に存在する有害化学物質についてはいくつかの研究調査で確認されており、内容ある報告書も増えている。しかし、これら化学物質の多くが我々が購入し家で毎日使う日用品の中に添加剤として使用されているという事実について知っている人はほんのわずかである。
 この調査では、身体手入れ用品、玩具、繊維製品、脱臭剤、洗剤など、日用品 33 種について、ビスフェノール-A、アルキルフェノール及びエトキシル化合物、フタル酸化合物、ムスク(じゃ香)、有機スズ化合物の存在テストを実施した。さらに、いくつかのサンプルについては、これら以外の化合物を特定するための分析を実施した。

 その結果、ほとんどのポリマー製品またはポリマー成分を含む製品は、ノニルフェノールとエトキシル酸ノニルフェノール、フタル酸化合物、あるいはその両方を含んでいた。特にポリマープリント付のパジャマは、最高 54,000 mg/kg という高濃度の DINP と DIDP を含んでいた。このサンプルのノニルフェノールとエトキシル酸ノニルフェノールの平均濃度はそれぞれ 10 mg/kg 及び 1,000 mg/kg であった。
 可塑プラスチック製の赤ちゃん用玩具はノニルフェノールや多くのフタル酸化合物以外に、高濃度のプラスチック可塑材アジピン酸ジイソオクチルを含んでいた。ビスフェノール-A はポリカーボネート製哺乳ビンに 14 mg/kg 検出されたが、缶詰食品のサンプルからは検出されなかった。
 香水もまたフタル酸化合物、特にフタル酸ジエチル、及び、ムスク(じゃ香)、主に多環ムスク HHCB 及び 1 件のニトロムスク MK 、を含んでいた。シャンプー、脱臭剤、及び洗剤で例外的に 1 件、フタル酸化合物が低濃度で検出された。有機スズ化合物はパジャマ 1 件から定量的に検出されたが他のサンプルからは、これらの化合物の”痕跡”だけが検出された。


内容

1.はじめに
1.1有害化学物質
1.2日用品中の有害化学物質
2.調査の目的と取り組み
2.1グリーンピースの調査目的
2.2対象化学物質
2.3サンプル
3方法と分析機器
3.1サンプリングと前処理
3.2分析手法
3.2.1サンプル抽出
3.2.2機器分析
3.2.3結果の計算
4.結果
4.1ビスフェノール-A
4.1.1一般情報
4.1.2ビスフェノール-A についての結果
4.2アルキルフェノール及びエトキシル酸アルキルフェノール
4.2.1一般情報
4.2.2アルキルフェノール及びエトキシル酸アルキルフェノールについての結果
4.3フタル酸化合物
4.3.1一般情報
4.3.2フタル酸化合物についての結果
4.4ムスク(じゃ香)
4.4.1一般情報
4.4.2ムスク(じゃ香)についての結果
4.5有機スズ
4.5.1一般情報
4.5.2有機スズについての結果
4.6GC/MS (ガスクロ/質量分析)スクリーニング
4.7品質管理測定
4.7.1バリデーション
4.7.2抽出標準の回収
4.7.3ブランク・サンプル
5.結論
6.QA/QC について
7.認証
Appendix全製品分析の結果一覧


1. はじめに

1.1 有害化学物質

 過去1世紀の化学産業の発展により世界中に大量の化学物質が供給された。現在、概略 100,000 種の化学物質が使用されており、毎年 500 種以上の新たな化学物質が導入されている[1]。それらのあるものは人間や動物に有害な影響を与えることが知られている。最もよく報告されているのは、多分、ポリ塩化ビフェニル(PCB)や農薬 DDT などの残留性有機汚染物質(POPs)である。 PCBs や DDT は使用が禁止されているが、これらの化学物質は今でも世界中の環境中で検出される。
 一方で、フタル酸化合物、アルキルフェノールとそのエトキシル酸化合物、臭素化難燃剤(BFR)などの、新らたな化学物質が作り出され、大量に使用されている。これらの物質の製造と使用の結果、これらは堆積物中や水中で検出されている。
 グリーンピース向けに実施され、堆積物中有害化学物質に注目した最近の TNO の調査で、フタル酸化合物、アルキルフェノールとそのエトキシル酸化合物、合成ムスク(じゃ香)化合物、及び難燃剤が堆積物サンプルから検出された[2]。

1.2 日用品中の有害化学物質

 このような化学物質が我々の環境中に存在しているということは、いくつかの調査よって確認されており、よく報告されるようになってきている[2、3]。しかし、これら化学物質の多くが我々が購入し家で毎日使う日用品の中に添加剤として使用されているという事実について知っている人はほんのわずかである。これらの日用品には繊維製品、カーペットやカーテン、テレビやコンピュター関連機器、及び化粧品類がある。フタル酸エステルとエトキシル酸アルキルフェノールは、玩具や布地のプリントに用いられる PVC ポリマーの可塑剤として用いられる。

 身体手入れ用品、玩具、繊維製品、脱臭剤、洗剤など、日用品 33 種について、ビスフェノール-A、アルキルフェノール及びエトキシル酸化合物、フタル酸化合物、ムスク(じゃ香)、有機スズ化合物の存在テストを実施した。さらに、いくつかのサンプルについては、これら以外の化合物を特定するための分析を実施した。有機スズ化合物はポリマーを安定させるために用いられ、したがって、時にはTシャツやパジャマのプリントやナプキン(ダイヤパー)に見られる。

 もちろん、これらの添加剤が使われるには理由がある。難燃剤はユーザーを火事から守り、フタル酸化合物はプラスチックの可塑剤として、あるいは香水のキャリアーとして使われる。しかし、日用品の中にこれらの物質が存在する結果、ユーザーはこれらの化学物質に常に曝露し、またこれらの物質は、製品の使用中あるいは使用後、環境中に入り込む。後者の様子は堆積物中にこれらの化学物質が存在することを示す調査結果で明白になった。

 合成ムスク(じゃ香)の 1 つである AHTN の調査結果は局所的な排出源が存在することを示しているが、もう 1 つの合成ムスク(じゃ香)である HHCB の調査結果は、この化合物を含む製品の家庭でのユーザーによる拡散排出が、恐らく環境への排出の主要な源であることを示している。

[1] Jackson T. In: Material Concerns. Pollution, profit and quality of life. Routledge, London, ISBN 0-415-13248-7, 40, 1996.
[2] Vethaak A.D., Rijs G.B.J., Schrap S.M., Ruiter H., Gerritsen A., Lahr J. In: Estrogens and xeno-estrogens in the aquatic environment of the Netherlands. RIZA/RIKZ-report no. 2002.001, February 2002.
[3] Kallenborn R., Gaterman R., Planting S., Rimkus G.G., Lund M., Schlabach M., Burkow I.C. J. Chromatogr. A, 846, 295-306, 1999.


2. 調査の目的と取り組み

2.1 グリーンピースの調査目的

 最近の TNO の調査によれば、堆積物中に多くの有害化学物質が存在することがわかった[4]。本調査の目的はこれらの物質が、日用品の中にも含まれているかどうかを見極めることである。すでに実施されたグリーンピースの調査により、これらの物質は通常の家庭のホコリの中に存在することがわかっている[5]。
 本調査は、化粧品、繊維製品玩具、及び洗浄剤など典型的な日用品中の化学物質の存在及びその考察の結果を示すものである。

2.2 対象化学物質

 本調査では、前回の調査で堆積物中に存在することが確認された化学物質と同等なものを対象とすることとした。下記の化学物質を本調査の対象として選定した。
  • ビスフェノール-A
  • アルキルフェノール及びエトキシル酸アルキフフェノール
  • フタル酸化合物
  • 合成ムスク(じゃ香)化合物
  • 有機スズ化合物
  • 上記以外の”非目標化合物(Non-target compounds)”で、ガスクロマトグラフと質量分析計を用いての GC/MS スクリーニング分析で特定されるもの
 個々の化学物質については 表-1 に示す。これらの化学物質の用途についての情報は第4章に示す。

2.3 サンプル

 グリーンピース UK から 28、グリーンピース・オランダから 5、合計 33 のサンプルが届けられた。サンプルは通常の日用品で化粧品、繊維製品、玩具、除臭剤、及び洗浄剤などであった。全ての製品はグリーンピースが日用品店で 2003年8月に購入したものである。ほとんどの製品については同じものを入手することができる。表-2 (訳注:詳細につき省略)にサンプル品の概要を示す。

[4] Peters RJB. Hazardous Chemicals in Precipitation. TNO report R 2003/198, May 2003.
[5] Santillo D, Labunska I, Davidson H, Johnston P, Strutt M and Knowles O. Consuming Chemicals, Greenpeace Research Laboratories Technical Note 01/2003 (GRL-TN-01-2003), 2003.


表-1 本調査の対象化学物質グループと特定化学物質

グループ特定化学物質略語

フタル酸化合物dimethyl phthalateDMP
 diethyl phthalateDEP
 di-iso-butyl phthalateDIBP
 di-n-butyl phthalateDBP
 benzylbutyl phthalateBBP
 dicyclohexyl phthalateDCHP
 di-(2-ethylhexyl) phthalateDEHP
 di-n-octyl phthalateDOP
 di-iso-nonylphthalateDINP
 di-iso-decyl phthalateDIDP
   
合成ムスク(じゃ香)galaxolide (1,3,4,6,7,8-hexahydro-4,6,6,7,8,8-hexamethylcyclopenta-2-benzopyran)HHCB
 tonalide (7-acetyl-1,1,3,4,4,6-hexamethyl-1,2,3,4-tetrahydronaphthalene)AHTN
 musk ambrette (2,6-dinitro-3-methoxy-4-t.butyltoluene)MA
 musk ketone (4,6-dinitro-2-acetyl-5-t.butylxylene)MK
 musk tibetene (2,6-dinitro-3,4,5-trimethyl-1-t.butylbenzene)MT
 musk xylene (2,4,6-trinitro-5-t.butylxylene)MX
   
ビスフェノール-ABisphenol-ABPA
   
アルキルフェノール及び
エトキシル酸
アルキルフェノール
octylphenolOP
 nonylphenolNP
 octylphenol ethoxylatesOPEO
 nonylphenol ethoxylatesNPEO
   
有機スズmonobutyltinMBT
 dibutyltinDBT
 tributyltinTBT
 tetrabutyltinTeBT
 monooctyltinMOT
 dioctyltinDOT
 triphenyltinTPT
   
非目標化合物 GC/MS(ガスクロ/質量分析)スクリーニングで特定 



3. 方法と分析機器

(訳注:第3章 訳省略)
3.1 サンプリングと前処理
3.2 分析手法
3.2.1 サンプル抽出
3.2.2 機器分析
3.2.3 結果の計算


4. 結果

4.1 ビスフェノール-A

4.1.1 一般情報
 ビスフェノール-A(BPA)は、広範な日用品に使用されているエポキシ樹脂、ポリカーボネート・プラスチック、難燃材、などの中間体として広く使用されている。ポリカーボネート・プラスチックはカルボニル塩化物をジオール・モノマーで凝縮することで得られる。
 食品が直接触れることを前提して最もよく使われるポリカーボネート・モノマーがビスフェノール-A(BPA)であり[6]、これは、水酸化ナトリウム及びビスフェノール-A・ポリカーボネートを形成するための第3アミン触媒の存在下で、カルボニル塩化物と反応する。重合化しない BPA はポリカーボネートから放出される。数年前の研究で BPA は女性ホルモン作用を有することが示されたので、、一般的に内分泌かく乱作用の疑いがある物質の一つとされている[7]。 BPA は適度に水溶性がある。 BPA の化学的構造を下記に示す。

4.1.2 ビスフェノール-Aについての結果
 3 つのサンプル、 1 つのポリカーボネート哺乳瓶、 2 つの缶詰食品について BPA の分析を行った。
 BPA は、哺乳瓶から 14 mg/kg のレベルで検出されたが、これはすでに知られている値[8]とよく相関する。缶詰食品 2 個のいずれからも BPA は検出されなかった。その理由は多分 2 つ考えられる。第 1 は、缶詰食品中の実際の BPA の量がこの調査で使用した分析の検出限界 0.5 mg/kg よりもはるかに低い値であった。第 2 はもし BPA が缶詰食品中から検出されるとしたら、それは常に中又は高油脂性の食品中から検出されるということである。この調査で分析したパスタのサンプルは典型的に低油脂性であり、したがって BPA のポリマーから食品への移動は恐らく促進されなかったと思われる。
 BPA に関する結果をアペンディックスの表-3 (訳注:省略)に示す。

[6] Mountfort KA, Kelly J, Jickels SM, Castle L. Food Additives and Contaminations, 56-63, 14, 1997.
[7] Toppari J. et al. Male reproductive health and evironmental chemicals with estrogenic effects. Miljoprojekt no.290. Danisch Environmental Protection Agency, Denmark, 1995.
[8] Sun Y, Wada M, Kuroda N, Hirayama K, Nakazawa H, Nkashima K. Analytical Sciences 697-702, 17, 2001.
[9] Goodson A, Summerfield W, Cooper I. Food Additives and Contaminants. 1-12, 19, 2002.


4.2 アルキルフェノール及びエトキシル酸アルキルフェノール

4.2.1 一般情報
 アルキルフェノール((APs)とエトキシルアルキルフェノール(APEOs)はプラスチックの添加剤として、また産業用洗浄剤と乳化剤の界面活性剤として用いられる。
 アルキルフェノール((APs)の中でよく使用されるのはノニルフェノール(NP)であり、オクチルフェノールはそれほど使用されていないが、どちらもパラ置換異性体(>90%)である。
 エトキシル酸アルキルフェノール(APEOs)はアルキルフェノール((APs)が酸化エチレンと凝縮反応してできる。低凝縮物は乳化剤として使用されるが、高凝縮エトキシル化合物は織物や壁掛け布の洗浄剤及び溶剤や農薬の乳化剤として使用される[10]。エトキシル酸オクチルフェノール(OPEO)は、エトキシル酸ノニルフェノールよりも多く使われている。アルキルフェノール((APs)は中程度の水溶性であるが、エトキシル酸アルキルフェノール(APEOs)は一般的に APs 自身よりも水溶性が高い。
 n-ノニルフェノールとエトキシル酸オクチルフェノール(Triton X-100 として知られている)の分子構造を下記に示す。

 安定化剤として使用されている 4-NP が、ポリ塩化ビニル(PVC)ポリマー中から 1.4〜1028 mg/kg の濃度範囲で検出された。

4.2.2 アルキルフェノール及びエトキシル酸アルキルフェノールについての結果
 アルキルフェノール((APs)とエトキシル酸アルキルフェノール(APEOs)について合計 11 の日用品が分析された。子ども用パジャマ、典型的な洗浄剤、及び赤ちゃんの玩具である。サンプル 52003227-027(訳注:洗浄剤)を除いて、APs または APEOs 、またはその両方が、それ以外の全てのサンプルから検出された。
 ほとんどの場合、検出されたのは、濃度範囲 1.8〜2,306 mg/kg の NP と、濃度範囲 2〜1,930 mg/kg の NPEO であった。 OPEO は、サンプル 2003227-016(訳注:パジャマ)だけに濃度 99 mg/kg で検出された。OP はどのサンプルからも検出されなかった。恐らくこれは、干渉成分、多分 2,4-ジ-(t-ブチル) フェノール がサンプル中に存在したためと考えられる。
 同様な問題が、サンプル 52003227-013(浴用アヒル)での APEO 分析でも発生した。このサンプルは非常に高濃度のフタル酸化合物を含んでおり、それが APEO の分析に干渉したように見える。
 AP と APEO に関する結果をアペンディックスの表-4(訳注:省略)に示す。

[10]Maguire R.J. Water Qual. Res. J. Canada 34, 37-78, 1999.


4.3 フタル酸化合物

4.3.1 一般情報
 フタル酸化合物は化粧品や身体手入れ用品、特にマニキュア、香水、ヘアースプレー、家庭用クリーナー、及び脱臭剤、さらには軟化プラスチック、赤ちゃんの玩具、プラスチック園芸用品、シャワーカーテンなどに、共通して検出される。後者の製品にはフタル酸化合物は高分子ポリマーの柔軟性を強化するための可塑剤として使用されている。可塑プラスチックのあるものは、フタル酸化合物が総重量の 50%近くになるものもある。
 最近まで、DEHP は難燃剤の主流であったが、現在は DINP が置き換わっているようである。

 香水中には、フタル酸化合物はキャリアーとして用いられている。この用途で最も重要なフタル酸化合物は DEP である。スウェーデン自然保護協会(Swedish Society for Nature Conservation)は、フタル酸化合物が化粧品中にどのように含まれているかの調査を実施した[11]。ほとんどの製品がフタル酸化合物を含んでおり、ほとんどの場合、身体手入れ用品で DEP が濃度範囲 10〜500 mg/kg 以下、香水で 19,000 mg/kg までの濃度であった。DBP も検出されたが非常に少ない量であった。

 フタル酸化合物は通常の家庭用品、化粧品、玩具などに含まれているので人間が曝露する危険性は非常に高い。EU は、3歳児までの幼児用製品でのフタル酸化合物の使用禁止を提案したが、暫定的なもので、わずか 6 種類(DBP, BBP, DEHP, DOP,DINP 及び DIDP)である[12]。
 アメリカ疾病管理センター(CDC)の科学者たちは、人間の尿中のモノエステル代謝物の検出により人間のフタル酸化合物への暴露について報告している[13]。
 DEHP と DEP の分子構造を下記に示す。

4.3.2 フタル酸化合物についての結果
 合計 29 の製品がフタル酸について分析された。身体手入れ用品、香水、玩具、プリントを施した繊維製品、脱臭剤などである。これらのうち 4 製品についてはフタル酸化合物は検出されなかった。 12 製品については個々のフタル酸化合物の検出濃度が 10 mg/kg 以下であった。このことはこれらのフタル酸化合物は多分、真の添加物ではなく、原材料に含まれていたものの残留物か何かであろうと考えられる。残りの 13 製品中からは高い濃度のフタル酸化合物が検出された。これらは大まかに 2 つのグループに分けることができる。一つは、身体手入れ用品、香水、脱臭剤などであり、もう一方は玩具、プリントを施した繊維製品である。

 身体手入れ用品と脱臭剤の中からは、主に、DEP が濃度範囲 10 mg/kg 以下から 168 mg/kg で検出された。他のフタル酸化合物 DEHP が少量、最大 19 mg/kg の濃度で検出された。予想されたように香水からは高濃度の DEP が 325〜22,300 mg/kg の範囲で、3 つの製品、52003227-006、-007、 -008、から検出された。

 玩具については、粘土玩具及び浴用アヒル(52003227-012 及び -013)から高濃度のフタル酸化合物が検出された。粘土玩具は主に BBP と DINP をそれぞれ 32,300 mg/kg 及び 18,500 mg/kg 含んでいた。 DCHP、DEHP、及び DOP もまたこのサンプル中で 4,000 mg/kg までの濃度で検出された。
 浴用アヒル(52003227-013)については、最初、 DINP と DIDP だけがそれぞれ 7,300 及び 6,200 mg/kg までの濃度で検出された。しかし、この種の塩ビ製品としては低いように見えた。 GC/MS (ガスクロ/質量)スクリーニングにより、他の可塑剤、アジピン酸ジイソオクチルがこのサンプル中から検出された。その量は検出されなかったが、このサンプル中の DINP は DIDP と比較することにより、少なくとも 200,000 mg/kg、重量比にして 20 %程度であろうと推定された。

 5つのパジャマのうち3つ(52003227-014、 -017 及び -018)の中から高濃度のフタル酸化合物が検出された。3つとも全て DINP を 27,500 mg/kg から 54,000 mg/kg の濃度範囲で含んでいた。そのうち2つは DIDP を含んでおり、その濃度は2つとも DINP の約10%であり、この DIDP は恐らく DINP の不純物であろうと考えられる。最終的に、これら2つのサンプルのうち1つは、BBP、 DCHP 及び DEHP を 3,400 mg/kg の濃度まで含んでいた。
 全ての場合において、これらのフタル酸化合物はパジャマの前面プリントから出たもので、繊維自身に起因するのではないかもしれない。これらのサンプルは全体に比例したサブサンプルであり、プリントはパジャマの上衣の全面積の約10%なので、プリント材中の実際のフタル酸化合物の濃度はここで得られた結果よりもっと高いであろう。

 フタル酸化合物の分析結果の全てを表-5(訳注:省略)に示す。
 下記のクロマトグラムはサンプル2003227-012(粘土玩具)のもので、このサンプル中の異なるフタル酸化合物が特定されている。


[11] Swedish Society of Nature Conservation. Phthalates in European Cosmetic Products. November, 2002.
[12] Rastogi SC, Worsoe IM. Danisch National Environmental Research Institute. NERI Technical Report No. 373, 2001.
[13] Blount BC et al. Environmental Health Perspectives, 108, 979-982, 2000.

4.4 ムスク(じゃ香)

4.4.1 一般情報
 もともと、ムスク(じゃ香)は雄の性的な香りのシグナルであり、古代からそれを医薬品としてまた香水の定着薬として用いる人々があこがれるものであった。しかし、需要が増大した結果、合成のじゃ香芳香剤を製造されるようになった。最もよく知られる合成じゃ香はムスク・キシレン(MX)、ムスク・ケトン(MK)、そして多環ムスクのトナライド(AHTN)とガラクソライド((HHCB)である。MX、MKなどニトロ・ムスクは有毒で残留性があるのでヨーロッパではもはや製造されておらず、合成多環ムスクに置き換えられた[14]。
[14]Bester K, Huhnerfuss H, Lange W, Rinkus GG, Theobald N. Water Res. 32, 1857-1858, 1998

 MK と AHTN の分子構造を下記に」示す。

4.4.2 ムスク(じゃ香)についての結果
 本調査では、MK 4,600 mg/kg が、唯一つサンプル((52003227-008シャネル 5番)から、少量の MX と 若干の HHCB とともに検出された。もう少し高い濃度の HHCB が他の2つの香水サンプルから検出された。クリスチャン・ディオールの”Poison 毒” とカルビン・クレインの”Eternity 永遠” はそれぞれ、 6,200 mg/kg と 8,000 mg/kg の HHCB を含んでいた。同じ多環ムスクが L’Oreal の2つのシャンプーからそれぞれ 350 mg/kg 及び 540 mg/kg 検出された。 HHCB を多く含んでいる全ての製品は、少量の AHTN を HHCB の約 0.5%から 10%を含んでいた。 AHTN は 9,100 mg/kg という高濃度で唯一つサンプル、Ambi Pur perfume d'interieur Sky (52003227-032)で検出された。他のニトロ・ムスク、MA と MT はムスクを分析したサンプルからは検出されなかった。

 ムスク分析の結果はアペンディックスの表-6(訳注:省略)に示す。
 下記はシャネル5番(52003227-008)から抽出されたムスクのクロマトグラフである。


[15] Rooselaar J, Weijland JW. De bepaling van nitromuskverbindingen in kosmetische producten met behulp van GC en GC/MS. Project EN 94-3, February 1997.

4.5 有機スズ

4.5.1 一般情報
 有機スズの主要な用途は3つある。第1は、船底の防汚(貝殻や藻の付着防止)用塗料中での TBT の使用、第2は、農薬としての TPT の使用、第3は、ポリマーの安定剤としてのブチルスズ及びオクチルスズ化合物の使用である。
 従って、プリントした Tシャツ、衛生帯、オムツなど、ポリマー成分を含む多くの繊維製品は有機スズを含む可能性がある[16]。ある場合には、有機スズは、例えば帆布のように厳しい天候条件下にさらされる布地の防カビ剤としても使用される。
 TBT と TPT の分子構造を下記に示す。

 TNO はこれらの物質の分析について多くの経験がある。数年前までは、主に TBT とその減成(degradation)物質である DBT と MBT が検出された。今日では、 DOT と MOT がより高頻度で検出されるが、それは常に泡、プラスチック、あるいは接着剤のポリマー成分中からである。その濃度は 0.01 mg/kg から繊維製品で 2 mg/kg 以上、製品のポリマー成分で 50 mg/kg 以上である。

4.5.2 有機スズについての結果
 本調査では、9つのサンプル、シャンプー、3つの玩具又はその関連製品、及び5着のパジャマが、7種の有機スズ化合物についてそれぞれ分析した。有機スズ化合物 DOT、MOT、及び TBT の痕跡(定量下限値以下)がパジャマ1着のサンプル((52003227-016)から、 1.4 mg/kg までの濃度で検出された。このサンプルのクロマトグラムを下記に示す。フタル酸化合物の場合と同様に、サブサンプリングを比例して行った、すなわち、パジャマのポリマー・プリント中の有機スズ化合物濃度は、一様にもっと高いであろうということに留意すべきである。
 MOT、DBT 及び MBT の痕跡はサンプル 2003227-015(パジャマ)に、TBT と DBT の痕跡はサンプル 52003227-017(パジャマ) 中から検出した。これら全ての痕跡は機器の検出限界、0.002 mg/kg 以上ではあったが、定量限界、0.01 mg/kg 以下であった。

 下記のクロマトグラムはサンプル 52003227-016 から抽出したものである。DOT とMOT のピークが示されている。
 有機スズ化合物の結果はアペンディックスの表-7(訳注:省略)に示されている。


[16] Gaikema F.J., Alberts P.J. Gaschromatografische bepaling van residuen van organotinverbindingen in textielproducten. De Ware(n)-Chemicus 1999, 23-33.

4.6 GC/MS(ガスクロ/質量分析) スクリーニング

 GC/MS スクリーニングでは、さらに追加的な化合物が多くのサンプルから検出された。いくつかのサンプルについてはクロマトグラムは多くのピークを示して非常に複雑であった。このことは特に香水と脱臭剤サンプル(52003227-008、 -030、 -031 及び -032)について顕著であった。
 驚くべきことではないが、これら製品は多くのテルペン (訳注:植物精油中に含まれる芳香のある化合物)やテルペノイド(分子構造がテルペン状の化合物)、及び、フェニルエチルアルコールやメチルジハイドロジャスモネイト(dihydrojasmonate)を含んでいる。
 香水サンプル中には、さらなるフタル酸化合物が検出された。当初の目標リストにはなかったフタル酸ジイソオクチルである。同じフタル酸化合物が、目標リストにはない他の3つのフタル酸化合物とともに粘土玩具から検出された。
 パジャマサンプル(52003227-014)もまた、フタル酸ジイソオクチルをかなり高濃度で含んでいたので、今後の追加サンプルで監視できるようフタル酸化合物の目標リストに加えることを推奨する。

 テルペンは、また、低濃度の n-アルカン類とともに、風船(52003227-011)から検出された。パテ(接合剤)(52003227-009)から抽出したクロマトグラムで、ポリメチルシロキサンとポリメチルサイクロシロキサンの同族体が特定された。
 3つの洗浄剤((52003227-027、 -028 及び -029)からは、2-ブトキシエタノール、エトキシエtキシエタノール、及び、アルカン・サイクロアルカン混合物が検出された。

 浴用アヒル(52003227-013)の GC/MS スクリーニングでは、更なる可塑剤が非常に高濃度で検出された。それはヘキサジオイック酸のエステルであるアジピン酸ヘキサジイソオクチルであると特定された。このサンプルはまたトルエンを含んでいた。このサンプルのクロマトグラムを特定された成分を表示して下記に示す。
 どのサンプルからも塩素化合物又は農薬は検出されなかった。特定された追加成分をアペンディックスの表-8(訳注:省略)に示す。



(訳注:第4.7節 訳省略)
4.7 品質管理測定
4.7.1 バリデーション
4.7.2 抽出標準の回収
4.7.3 ブランク・サンプル


5. 結論

 本調査では33の日用品サンプルについて、有毒化学物質が含まれているかどうかのテストを行った。ビスフェノール-A、アルキルフェノールとそのエトキシル酸化合物、フタル酸化合物、ムスク(じゃ香)、及び有機スズである。さらに、選定した特定のサンプルについて、GC/MS スクリーニングを実施した。
  • BPA は、3つのサンプル、1つのポリカーボネート哺乳瓶、2つの缶詰食品について分析を行った。BPA は哺乳瓶から14mg/kgの濃度で検出されたが、缶詰食品のサンプルからは検出されなかった。

  • APsとAPEOsは、11のサンプル、1つのプラスチック玩具、5着のパジャマ、2つの塗料、及び3つの洗浄剤について分析を行った。 NP 又は NPEO、又はその両方が洗浄剤を除く全ての製品から検出された。 NP 濃度は大体 10 mg/kg 位であったが、1つだけ 2,306 mg/kg という高い検出値があった。 NPEO の濃度は 1930 mg/kg までであった。最も高い値はプラスチック玩具及びパジャマ4着から検出された。 OP は検出されなかったが、 OPEO は 1つのサンプルから 99 mg/kg の濃度で検出された。

  • フタル酸化合物は、33製品のうち、29品について分析を行った。高濃度の DEP が典型的に香水中から検出されたがポリマー素材は主に DINP と DIDP を含んでおり、本調査では非常に低濃度で検出された DEHP にとって替わったように見える。
     高濃度の BBP と他のフタル酸化合物が粘土玩具中から検出された。追加的に実施した GC/MS スクリーニングで、プラスチックの赤ちゃん用おもちゃが、目標とするフタル酸化合物以外のものとして、高濃度のアジピン酸ジイソオクチルを含んでいることがわかった。
     シャンプー、スキンローション、脱臭剤、及び洗浄剤からはフタル酸化合物は検出されなかった。

  • ムスク(じゃ香)化合物は、7つのシャンプー、2つのスキンローション、3つの香水、及び4つの脱臭剤について分析を行った。合成ムスク HHCB が最も顕著に主に香水から検出され、それより低い濃度で1つのシャンプーから検出された。他のシャンプーとスキンローションは目標とするムスク化合物を含んでいなかった。
     AHTN は香水からは低濃度で、また1つの脱臭剤からは高濃度で検出された。2つのニトロムスク、MK とそれよりはるかに低濃度の MX が1つの香水から検出された。

  • 有機スズは、1つのシャンプー、5着のパジャマ、2つの塗料についてテストを行った。 DOT と MOT が1着のパジャマから検出されたが、MBT、DBT 及び TBT の痕跡は2着以上のパジャマから検出された。

  • 14サンプルについて追加的に GC/MC 分析を実施したが、それらのサンプルから予測された化合物が検出された。一般的に、芳香剤、目標フタル酸化合物以外のプラスチック可塑剤、保存剤、及び溶剤が特定された。
     フタル酸ジイソオクチルとアジピン酸ジイソオクチルが、時には高濃度で、ポリマー成分を含むサンプル1種類以上で特定された。従ってこれらをフタル酸化合物の目標リストに加えることを検討すべきである。


(訳注:下記第6章、7章、アペンディックスの訳省略)
6. QA/QC について
7. 認証
Appendix 全製品分析の結果一覧



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る