ウプサラ大学 プレスリリース 2021年5月21日
後成的機構は、プラスチック中の化学物質が子どもたちの
IQ レベルを低下させる可能性があることを説明できる


情報源:Uppsala University, Press release, 20 May 2021
Epigenetic mechanism can explain how chemicals in plastic
may cause lower IQ levels in children
https://www.uu.se/en/press/press-release/?id=5528&typ=pm&lang=en

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年5月23日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/sweden/210521_UPPSALA_Epigenetic_
mechanism_can explain_how_chemicals_in_plastic_may_cause_lower_IQ_levels_


 化学物質のビスフェノール F(プラスチックに含まれる)は、神経発達に不可欠な遺伝子の変化を引き起こす可能性がある。この発見は、スウェーデンのウプサラ大学とカールスタード大学の研究者によってなされた。このメカニズムは、胎児期のこの化学物質への暴露が、同じ研究グループによって以前にも見られた、7歳の時の低い IQ と関連している理由を説明できる。この研究は、科学雑誌 Environment International に掲載されている。
 ”我々は、ビスフェノール F(略してBPF)が子どもの認知能力(IQ)発達に関連している可能性があることを以前に示した。しかし、この研究により、我々はどの生物学的メカニズムがそのような関連性を説明できるのかを理解し始めている。これは疫学研究に特有のものである”と講演会でカールスタード大学の教授で公衆衛生科学の責任者であるカール・グスタフボルネハグは話した。彼は、データが収集されたスウェーデンの環境縦断的母子、喘息及びアレルギー(SELMA)研究のプロジェクトマネージャーである。

 外的要因は、”エピジェネティック(後成的)”メカニズムを通じて遺伝子活性の変化を引き起こす可能性がある。これは、個々の遺伝子が”メチル化”によって修飾されることを意味する。 遺伝子断片のメチル化が増加すると、細胞機構(cellular machinery)がその特定の部分を読み取ることが困難になる。その結果、メチル化された遺伝子の発現が損なわれることがよくある。

 科学者たちは、妊娠初期の妊婦の尿中の BPF レベルを測定し、その後、出産後の子どもたちを観察した。 DNAメチル化は子どもが 7歳になった時に測定し、彼らの認知能力を調査した。胎児は胎盤を介して母親の血液と接触するため、母親の体内の物質に暴露する。

 分析により、高レベルの BPF に暴露した胎児について、重要な神経学的役割を持つ GRIN2B 遺伝子の特定の部分でメチル化が増加することが示された。さらに、メチル化が高いと、子どもたちの知能指数も低くなる。しかし、この研究では、これらの子どもたちの BPF に対する感受性に性差があるように見えることもわかった。 BPFと認知能力の間のエピジェネティックな関連は、男児でのみ観察された。

 ”BPFの IQ への影響の背後にある潜在的なメカニズムとして DNA メチル化を特定できたという事実は、環境化学物質が分子レベルで私たちにどのように影響するかを理解するための重要な証拠を追加するものである”と、ウプサラ大学の環境毒物学と記事の筆頭著者エリン・エングダールは述べている。

 同研究グループの以前の研究は、妊娠10週目に最高レベルのビスフェノールFに暴露した 7歳児の 25%は、最低レベルのビスフェノールFに暴露した子どもたちの25%に比べて、全検査 IQ が 2ポイント低いことを確認した。これは、個々の子どもには目立たない小さな違いであるが、一方で、人口レベルでは明らかな違いになる。

オリジナル論文:
DNA methylation at GRIN2B partially mediates the association between prenatal bisphenol F exposure and cognitive functions in 7-year-old children in the SELMA study
ElinEngdahla, Carl-Gustaf Bornehagbe>
Environment International Volume 156, November 2021, 106617
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412021002427?via%3Dihub


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