2010年11月4日
シーア・コルボーン博士
内分泌かく乱、公衆の健康、
そして国家と国際的な安全

情報源:Theo Colborn, PhD
Endocrine Disruption, Public Health, and National and International Security
http://www.psr.org/environment-and-health/environmental-health-policy-institute/responses/
endocrine-disruption-public-health-and-national-and-international-security.htmll


これは、2010年11月4日 PSR 環境健康政策研究所の
「次の政策課題になるべき新たに出現している環境的ハザード」

に対するシーア・コルボーン博士の回答である。


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/psr/
psr_Theo_Colborn_Endocrine_Disruption.html

 国家と国際的な安全の観点から、内分泌かく乱は我々の懸念リストの正に一番上に置かれるべきものである。ちょっと待て。内分泌かく乱とは何かと、あなたは問う。よろしい。内分泌かく乱は、あなたの体の中の重要な器官への人工化学物質の狡猾な不法侵入である。それらの器官は、甲状腺と副甲状腺、すい臓、腎臓、胸腺、男性と女性の生殖器官、心臓、消化器官系、そして骨格系のような内分泌系からなる、又はそれらにより制御されている。それらの全ての系はあなたが胎内で形成された過程にかかわったし、今でもあなたが機能することにかかわっている。人間を含む動物は、内分泌系を阻害することができる様々な自然の化学物質と共に進化してきたが、内分泌系の広範なかく乱が国際的な健康問題として出現したのは、化石燃料に由来する莫大な量と数の新たな合成化学物質が市場に導入された1950年代中頃以降のことである。

 近代の毒性学は18世紀にさかのぼるが、毒性学のポストモダン(訳注1)が出現したのは、第二次世界大戦後の大量の人工化学物質の環境への放出と時を同じくした1950年代以降のことであった。その結果、この新たな毒性学は化学物質を製造している人々と、製品中のそれらを使用している人々の手引きとして発展した。公表されている目標は、どのような濃度なら化学物質は環境に放出されても害を引き起こさないかを決めることであった。しかし、1970年代の後半及び1980年代の前半に、何かが悪くなっている不吉な状況が明らかになってきた。野生生物、実験動物、そしてヒト疫学の研究が、一連の健康への悪影響と特定の化学物質又は化学物質族とを関連付け始めた。この健康への悪影響とは、化学物質の安全性を決定するために開発された従来の毒性学的手法では見逃されていた内分泌系への影響である。内分泌系の障害は現在、ますます広がっており、それらは、学習障害と行動及び情緒障害、不妊、生殖腺発達異常、生殖器官のがん、異常な早熟、糖尿病、肥満、アレルギー反応、自閉症、その他多くを含む。

 過去数十年間、申し分のない資格のある科学者らが、化学物質の安全性をテストするために全く新たな手法もって従来の毒性学分野の外からやってきた。発達内分泌学の原則に基づき、子宮内での曝露から始まる疾病ベースのアプローチ(化学物質ベースではない)によって、広く散在している化学物質を、診断、治療、軽減、そして生涯にわたる介護のための計り知れないコストにより、社会と政府に負担をかける多くの障害と結びつけている。受胎前から生涯を通じての化学物質曝露を追跡し、分子と細胞の微妙な影響を検出するために設計された評価手法を用いて得られた、ピアレビューされた多くの研究が、内分泌系の複雑さと微妙さを確認している。

 残念ながら、立法は科学に遅れをとっており、現状は従来の毒性学評価手法により検出された大まかな生殖及び発達影響だけが政府により認められている。生殖異常や目に見える先天性異常だけを内分泌かく乱とする近視眼的な見せかけで化学物質を規制している現在のアプローチでは、人と生態系の健康を守ることはできない。今こそ、政府は部分的な内分泌系作用の全てを包括的にひとつのものとして守るべきである。”がん”という言葉が、多数の器官と組織にかかわり、その深刻度と転移の可能性も異なる全ての種類のがんをさす包括的な表現であるように、”内分泌かく乱”も、全内分泌系の構造と機能に対する最終的な損傷として容認されなくてはならない。人の健康を守るために設計される新たな基準と規制は、内分泌系の多くの部分系における下流の変化を含む内分泌かく乱を除外すべきではない。

 最新の公衆衛生の統計とともに編集された、豊富な21世紀のピアレビューされた文献は、近視眼的な戦略では、地域レベルにおいてより大きな機能的障害をもたらすだけであることを立証している。世界平和に向けて働くために社会が必要とする指導力を提供する十分に健康で知的な人々がだんだん少なくなっていくであろう。化石燃料に由来する化学物質は人間から健全性を奪っており、現在行なわれている従来の毒性学的テストは、現行の時代遅れの規制法規の範囲に入らない化学物質曝露により引き起こされるダメージの検出をしていないので、人類はもはやリスクに曝されるべきではない。経済的及び国家の安全という点から見ても、これ以上遅らせるとそれによるコストは余りにも高くつく。
訳注1
ポストモダン/ウイキペディア
 ポストモダン(Postmodern)とは、「モダン(近代)の次」という意味であり、モダニズム(近代主義)がその成立の条件を失った(と思われた)時代のこと。ポストモダニズム(Postmodernism)とは、そのような時代を背景として成立した、モダニズムを批判する文化上の運動で、近代の行詰りを克服しようとする動きのこと。



化学物質問題市民研究会
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