PANNA プレスリリース 2006年3月2日
カリフォルニア大学の研究チーム報告書の紹介
子どもは考えられていた以上に農薬に脆弱
政府は子どもの高いリスクの科学的証拠を無視していると
健康環境団体が警告


情報源:Pesticide Action Network - March 2, 2006
Kids Even More Vulnerable to Pesticides Than Previously Believed, Study Shows
Health, Environment Groups Warn Government Ignores Scientific Evidence of Higher Risk to Children
By Dr. Margaret Reeves
http://www.panna.org/resources/newsroom/kidsVulnerable20060302.dv.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/pan/060302_PAN_Kids.html


 【サンフランシスコ2006年3月2日】 本日、カリフォルニア大学の研究チームが発表した研究調査(訳注1)によれば、新生児は大人に比べて65〜164倍以上、2種類ののよく使用されている農薬に対し脆弱である。そのことは現在の政府の政策は小さな子どもに対し適切な保護を与えていないことを意味する−天然資源防衛協議会(Natural Resources Defense Council (NRDC))と農薬行動ネットワーク北アメリカ(Pesticide Action Network of North America (PANNA))の専門家らは述べている。

訳注1PON1 status of farmworker mothers and children as a predictor of organophosphate sensitivity
(有機リン系農薬の感受性の指標としての農業労働者である母親と子どものPON1 の状態)

 アーモンド、レタス、桃、ぶどう、トマト、大豆など多くの農産物に使用されている農薬、クロルピリホス(商品名:ローズバンLorsban)とダイアノジンに目を向けたこの新たな研究は、ジャーナル『薬理遺伝学とゲノミクス(Pharmacogenetics and Genomics)』に発表された。

 NRDC は、EPAが子どもを有害な農薬から保護していないことを訴えている関連訴訟の中で、明日、米環境保護庁に訴訟書類を提出する。

NRDC is filing a brief tomorrow in a related lawsuit charging the U.S. Environmental Protection Agency (EPA) with failing to protect children from hazardous pesticides.  ”子どもは、生まれたときには有毒な農薬に対する体の自然防御機能が低い”−とNRDCの医師で科学に者であるギアナ・ソロモン博士は述べた。”残念ながら、子どもを安全にする責任のある当局は、我々の中で最も脆弱な子どもたちもっと強い保護が必要であるという明確な科学的証拠を無視している。”

 カリフォルニア大学バークレー校の科学者らは、1998年以来、カリフォルニアのサリナス・バレー農業地帯のラテン系母親130人とその子どもたちの血液を採取し、有機リン系農薬として知られる農薬を解毒する主要な酵素(PON1として知られる)を分析調査してきた。研究者らは女性と子どもの農薬に対する感受性を予測するためにこの酵素の型とレベルを分析した。

 科学者らが全体のグループを通じて比較したところ、最も感受性の高い新生児らはダイアジノンについては65倍以上、クロルピリホス二ついては131〜164以上、感受性が高かった。さらに、この調査は、感受性が大人及び子どもの中でも著しく変動幅があることを示した。たとえば、ダイアジノンに対する女性の感受性は14倍の幅、子どもの幅は26倍であった。クロルピリホスの感受性は、母親の変動幅が35倍、新生児は65倍であった。研究者らはまた、新生児は母親より保護酵素のレベルが一貫して低く、平均して4倍以上感受性が高かった。

 母親が有機リン系農薬に暴露すると、以前の研究ではその子どものが生まれにくい、早産する、及びその他の問題を示していた。たとえば、同じグループの研究らは、最も高い暴露レベルの母親は早産しやすく(母親の喫煙と似ている)、彼女らの赤ちゃんは反射神経の異常を持ちやすかった。

 コロンビア大学の研究チームは、母親が同農薬に暴露した子どもは低体重で出生が遅れると報告している。他の調査は、妊娠女性がレベルの酵素に検出可能なレベルのクロルピリホスが加わると赤ちゃんの頭の寸法−子どもの認識能力に関連する要素−が著しく小さくなることを示している。

家庭では禁止されているが農業用には使用

 EPAはクロルピリホスとダイアジノの家庭での使用は主に子どもへの危険性のために2001年と2002年に禁止したが(訳注2)、農作物への使用は許可し続けてきた。カリフォルニアでは2003年に150万ポンド(約680トン)以上のクロルピリホスが使用された。最大の使用は綿、アルファルファ、アーモンド、クルミである。同じくカリフォルニアで同年、50万ポンド(約230トン)以上のダイアジノンがほとんど、レタス、桃、アーモンド、プルーン、ほうれん草に使用された。全米では有機リン系農薬は使用されているすべての殺虫剤の70%を占め、2001年には7300万ポンド(約33,000トン)が販売された。

 訳注2 参考:アメリカ環境保護庁によるクロルピリホス排除計画(Author: Kenichi Azuma)

 2001年、EPAの最新データがある2001年に、全ての販売用食物の約20%にひとつ又は二つ以上の有機リン系残留農薬があった。最も高いクロルピリホスは、ニュージランド産のリンゴ、チリー産のブドウ、メキシコ産のトマト、そして、アメリカ産の大豆であった。
(EPAのウェブサイト Measure E8: Pesticide Residues on Foods Frequently Consumed by Children を参照)

 ”我々全ては食物中の農薬に暴露している”−と農薬行動ネットワ”ーク北アメリカ(Pesticide Action Network of North America (PANNA))の上級科学者マーガレット・リーヴェス博士は述べた。しかし、農場労働者と農場周辺の住民は農薬使用により最も激しく影響を受けている。連邦政府は安全基準を設定する時に、これら影響を受ける集団を無視した。この研究は明らかにこれらの集団と我々が食べる食物を守るために緊急な措置が必要であることを示している。”

 昨年8月に起こした訴訟で、天然資源防衛協議会(Natural Resources Defense Council (NRDC))と農薬代替のための北西部連合(Northwest Coalition for Alternatives to Pesticides)は、EPAが法によって求められ、また科学的にも示されたにもかかわらず、子どもの健康を保護しなかったと告発した。訴訟は、さらに、果物、野菜、ミルク、卵、肉、シリアル食品用穀物、及び食用油を含む多くの様々な食品中のいくつかの農薬の新たな残留許容値を確立するEPAの決定にも及んでいる。それぞれのケースで、EPAは1996年食品品質保護法で求められる”子ども保護要素”を適用しなかった。この訴訟はサンフランシスコの第9回上訴巡回法廷で傍聴することができる。

 NRDCの農薬リスクと食品品質保護法についての背景説明は下記ウェブサイトで入手可能である。
 http://www.nrdc.org/media/pressreleases/030915a.asp

 研究報告書は下記ウェブサイトで入手可能である。
 http://www.panna.org/resources/documents/ponPaperChamacos.pdf


訳注2:日本の規制状況
■クロルピリホス:2003年7月施行の改正建築基準法において、居室を有する建築物には、クロルピリホスを添加した建材の使用は禁止。シロアリ駆除剤としては、業界団体の自主規制により2002年から使用中止
農業・樹木用:使われている。
■ダイアジノン:室内濃度指針値 0.29μg/m3(0.02ppb)

訳注3:参考資料
平成年度衛生環境研究所特別研究中間報告書16/有機リン系農薬等による化学物質過敏症の病態解明に関する研究


化学物質問題市民研究会
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