Our Stolen Future (OSF)による解説
アメリカ農村地帯の女性の不妊リスク要因 (OSF による解説)
(訳注:米疫学誌 Epidemiology 掲載論文を OSF が紹介したものです)
情報源:Our Stolen Future New Science
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/reproduction/2003/2003-0904greenleeetal.htm
Original Source : Epidemiology 14:429-436.
Greenlee, AR, TE Arbuckle and P-H Chyou. 2003.
Risk factors for female infertility in an agricultural region
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年11月18日



 グリーンらは除草剤の使用と女性の不妊との間に強い関連があることを報告している。彼らが調査した集団では、不妊の女性はそうでない女性に比べて、妊娠を試みた過去2年間に 27 倍、除草剤の混合あるいは散布の作業を行っていた。喫煙と受動喫煙、成人してからの過体重、飲酒など、その他の要因もまた不妊に関連している。

何を調査したか?

 グリーンらは、女性の不妊と様々なリスク要因との関係を検証する ”ケース・コントロール回顧調査” を実施した。
 彼らは不妊治療を求めた女性の電子データを通じて調査のための不妊女性を募集した。彼女らの診断には、子宮内膜症、無排卵、下垂体−視床下部機能不全、などが含まれていた。カップルの不妊原因のうち、男性が不妊原因、あるいは子宮摘出、精管切除など外科的要因に帰するものはケース群(不妊)から除外した。
 コントロール群は同じ母集団からの妊娠した女性とした。コントロール群の女性は、同年代で、最初の妊娠で胎児検診を受けており、また妊娠を望んでから12ヶ月以内に妊娠した女性とした。また、過去に妊娠あるいは妊娠の維持に困難があった女性、あるいは男性パートナーに不妊の疑いがある女性はコントロール群から除外した。
 これにより、コントロール群(妊娠対象)とケース群(不妊対象)は年齢及び医療受診時期が同じベースとなった。
 曝露の履歴を確認するために、ケース群及びコントロール群の各女性に対し、妊娠の試みに先立つ2年間の行動について質問調査した。質問事項には、人口統計的情報、職業、曝露、農薬の使用、農場での居住、喫煙、飲酒、等が含まれていた。

何が分かったか?

 潜在的なケース群として 1,791 人が、コントロール群として 822 人が検討された。募集と検討の後、ケース群として 322 人、コントロール群として 322 人が選ばれ、調査に参加した。ケース群及びコントロール群は、年齢、家計年収、喫煙の有無、体格、初潮年齢、過去のパートナー数など、ほとんどの変数がよく対応した。

 学歴については若干異なっていた。(ケース群は少し学歴が高いようであったが、それでも大卒以上が特に多いというわけではなかった)。ケース群は、幾分、受動喫煙とアルコール消費が多く、太り気味であった。これらの変数のオッズ比はほとんど 2 以下であるが、週に少なくとも 7 回以上アルコールを摂取する女性の不妊のオッズ比は 6.7 上昇した。

 いくつかの関連性の中で、グリーンリーらは不妊と農薬との関連性を検証して 2 つの顕著な点を見出した。不妊女性は妊娠した女性に比べて約 27 倍多く除草剤(殺虫剤ではない)の混合又は散布作業を行ったこと、及び、約 3.3 倍多く防カビ(殺菌)剤を使用したことである。これらのオッズ比は、学歴、受動喫煙、その他の変数の調整を反映したものである。
 このことは、農場、牧場、田園で暮らすと不妊になりやすいということになるのであろうか。

 不妊リスクが 27 倍であるということと、除草剤の混合と散布との関連性は非常に強いものであったが、この場合に当てはまるケース群(不妊)の女性の数が 21 というのは比較的少なかった。よってオッズ比の 95 %信頼範囲は 1.9 から 348 非常に広かった。

何を意味するか?

 この調査でわかったことは、以前に行われた疫学的調査、及び、研究室での実験で示された不妊と農薬との関連性の結果とよく一致する。動物を用いた研究室での実験は非常に明快である。すなわち、多数の経路から作用する多数の化合物は様々な評価項目に影響を与え、それらに曝露した動物の妊娠を抑制する。人間に関しては、2003年の スワンらの報告 ”ミズーリ州の男性における尿中の農薬(アラクロール、アトラジン、ダイアジノン)濃度が高いと精子の数が減少する危険性が高いという調査” が、今日、最も強力な事例である。(訳注:当研究会訳

 これらの証拠の重みは、特に動物での実験を鑑みると、非常に強力である。全ての証拠を合わせると、アメリカの女性と男性の受胎・受精能力は、今日の農薬の使用により損なわれているということがわかるる。
 この調査におけるグリーンリーらのデータは、女性が妊娠を望むなら少なくとも2年前から除草剤や防カビ剤を扱う作業を避けるなどの予防措置をとるよう示唆している。
 一方スワンの結果は受精能力を損ねるに十分な曝露は、必ずしも直接農薬を取り扱わなくても起こりうることを示しており、従って曝露を減らすための広範な措置が必要であることを示している。


化学物質問題市民研究会
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