パデュー大学 2022年10月6日
大気中に何かある
それはナノプラスチック汚染だ

情報源:PURDUE University, October 6, 2022
Something's in the air: It's nanoplastic pollution
https://www.purdue.edu/newsroom/releases/2022/Q4/
somethings-in-the-air-its-nanoplastic-pollution.html


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年10月17日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/221006_PURDUE_
Somethings_in_the_air_Its_nanoplastic_pollution.html



広く普及しているパイプ修理技術により、ナノプラスチックが大気中に放出されることが新たな研究で判明した

 【インディアナ州ウェストラファイエット】ペットボトル、ビニール袋、自動車部品、さらには化粧品からすり減ったプラスチックの小さな破片が、土壌や水源に入り込む。それらは化学サイクルを混乱させ、生態系の健全性を損ない、海洋と陸上の両方の環境を汚染する。それらは最終的に空気中にも入り、肺をより効果的に損傷する可能性がある。しかし、それが起きるには、水や土によってすり減らされ、風によって空に舞いあげられる必要がある。

 Nature Nanotechnology に掲載された新しい研究では、先進国全体で毎日発生しているあるプロセスが、これらのマイクロ及びナノプラスチック粒子の空中拡散を加速させ、人間と環境の健康にリスクをもたらすことを発見した。この研究は、パデュー大学理学部の分析化学教授であるアレクサンダー・ラスキンが主導した。



2016年、現場硬化パイプ(CIPP)の設置中にテストを行うパデュー大学の研究者 (写真:パデュー大学)
 ラスキンは環境法医学の専門家である。彼は複雑なサンプルを採取し、分析化学の方法を使用して、空気中に何があるかを正確に判断する。この場合、空気中にあるのは、以前は考えられなかった量のエアロゾル化されたナノプラスチックである。

 研究者らは、マイクロプラスチックが、現場硬化パイプ(CIPP/cured-in-place pipe)(訳注1)修理のプロセス中に放出される白いプルームに含まれる蒸気と化学液滴の複雑な混合物の中にあることを発見した。(ビデオ参照:パデュー大学

 この問題の発端は、あらゆる近代都市の地下の下水道管を修理する技術に潜んでいる。下水道管が破損した場合、それを修復するためのオプションは、物理的にその周囲に穴を掘ってその一部を交換するか、人間の動脈のように弱った部分にステント(訳注:狭窄部を内部から広げる管状の医療機器)を取り付けることである。

 ”彼らがしていることは、樹脂に浸した、事実上大きな靴下をパイプの中に差し込むことである”とラスキンは説明する。”彼らは掘削を必要とせず、現地でパイプの漏えい部を密閉する。これは非常に高度で実用的な技術である。彼らは靴下を膨らませるとき、加圧蒸気を使用し、それが放出されて化学噴霧として現れる。しかし結果として生じる排出量を制御することはできず、ナノプラスチック粒子を含むかなりの量の汚染が発生することが判明した。”

 その結果、このプロセスが行われる全ての近代的な都市部または郊外地域に、これらのマイクロプラスチック及びナノプラスチックの数え切れないほどの、重大で、これまで考慮または調査されたことのない発生源が存在する。以前は、科学者らは、プラスチックが空気中に入る唯一の経路はゆっくりとした分解とそれに続く一貫した風だと考えていた。

 ”大気中に浮遊するマイクロプラスチックとナノプラスチックの量は、風によって運ばれるものだけであると考えられてきた。我々がここで示しているのは、ナノプラスチックを大気中に投棄して汚染している、現代世界のいたる所で一般的に使用されているプロセスである”とラスキンは述べた.

 ラスキンは、パデュー大学の土木工学及び環境・生態工学の教授であるアンドリュー・ウェルトンと協力して、ウェルトンがほぼ 10 年間研究してきたこの現場硬化パイプ修理法の影響を定量化した。ウェルトンの研究は、地方自治体、公共事業体、公衆衛生機関に、このパイプ修理方法による環境汚染を軽減し、労働者をよりよく保護する方法について助言するのに役立った。

 この新しい研究は、ウェルトンとパーデュー大学の他の研究者らが長年研究してきた、建設作業員が現場硬化パイプ修理法を使用してパイプを修理するときに、空気中に正確に何が存在するかという謎をさらに解明するであろう。

 ”我々が初めてプラスチックパイプが大気を汚染する施工法を調査したとき、独立したテストや監視はまだ行われていないことがわかった”とウェルトンは述べた。”近所や環境に敏感な地域で使用されており、労働者、周囲の人々、緊急対応要員、及び環境に、直ちに健康影響を及ぼすことがあった。このパイプ修理を実施する作業員が、マイクロプラスチックやナノプラスチックの排出噴霧の内部または近くで、呼吸保護具なしで立っているのをよく見かける。この新しい研究は、これらの労働者らがマイクロプラスチックとナノプラスチックを吸い込んでいた可能性が高いことを示している。”

 吸入され、エアロゾル化されたマイクロプラスチックが人間の健康に及ぼす影響は、広くは研究されていない。特に、科学者がそれを重大な問題として認識していないためである。エアゾール スプレー (ヘアスプレーなど) に含まれるクロロフルオロカーボン (CFC) の問題を予告した最初の研究と同様に、この論文は重要である。科学者らがこれまで認識していなかった潜在的な重大なリスクを指摘したのはこれが初めてである。彼らは、ローレンス・バークレー国立研究所が運営する高度放射光源加速器(Advanced Light Source Synchrotron)施設と、パシフィック・ノースウェスト国立研究所が運営する環境分子科学研究所で、ソノマ・テクノロジーの社員でラスキン研究室の博士課程学生であり、その観察を筆頭著者として論文に発表したアナ・モラレスが追加の専門知識を提供して、ナノプラスチックの化学画像測定を実施した。

 ”誰もこの問題を気にかけていないわけではない”とラスキンは述べた。 ”しかし、知識には解決策が必要である。問題があることがわかったので、問題を評価すれば全ての人を安全に保つための緩和と戦略を開発できる。”

 この研究は、国立科学財団によって資金提供さた。

オリジナル研究
Nature Nanotechnology
https://doi.org/10.1038/s41565-022-01219-9

訳注:オリジナル研究のアブストラクト
  • 下水道管の修理によるナノプラスチックの大気放出
    Atmospheric emission of nanoplastics from sewer pipe repairs
     ナノプラスチック粒子は、吸入、摂取、皮膚浸透を通じて人間の健康に有害な影響を与え、水生および大気システムに悪影響を与える環境汚染物質であるが、その特性化は不十分である。現在、環境ナノプラスチック (EnvNP) は、陸域および水生環境に放出されたマイクロプラスチック又はより大きなプラスチック破片の風化断片であると明確に想定されているが、大気中の EnvNP は、風やその他の機械力によるエアロゾル化のみに起因すると考えられている。ただし、意図しない EnvNPs の発生源と排出量はよくわかっていないため、さまざまなリスク評価では、ほとんど考慮されていない。ここでは、都市部の下水道管の修理に一般的に使用されている技術から排出される蒸気を含んだ廃棄物成分として、大量の EnvNPs が大気中に直接排出される可能性があることを示す。排出された廃棄凝縮液の包括的な化学分析により、不溶性コロイドが豊富に存在することが明らかになった。これは、乾燥後に、組成と粘度が EnvNPs と一致する固体有機粒子を形成する。これらの世界的に使用されている下水道修理作業からの EnvNPs の空中放出は、人口の多い都市部で蔓延している可能性があり、緩和が必要な大気質及び毒性学的レベルに重要な影響を与える可能性があることを示唆している。
訳注1:現場硬化パイプ(cured-in-place pipe)
  • 現場硬化パイプ(hmn.wiki)
    現場硬化パイプ( CIPP )は、既存のパイプラインを修理するために使用されるトレンチレスのリハビリテーション方法です。これは、既存のパイプ内のジョイントレスでシームレスなパイプライニングです。最も広く使用されているリハビリテーション方法の1つとして、CIPPは、直径0.1〜2.8メートル(2〜110インチ)の範囲で、下水道、水、ガス、および化学パイプラインに適用されます。


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