アメリカ国立健康研究所(NIH) 2022年5月10日
研究が合成化学物質(PFAS)を肝臓の損傷に関連付ける
ラリサ・ギアハート=セルナ Ph.D., MBA
情報源:National Institutes of Health (NIH) May 10, 2022
Study links synthetic chemicals to liver damage
by Larisa Gearhart-Serna, Ph.D., MBA
https://www.nih.gov/news-events/nih-research-matters/
study-links-synthetic-chemicals-liver-damage


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年5月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/
220510_NIH_Study_links_synthetic_chemicals_to_liver_damage.html



要約
  • 100以上の研究のレビューにより、多くの一般的な製品に見られる合成化学物質である PFAS が肝臓損傷のマーカーに関連していることがわかった。
  • 調査結果は、PFAS暴露が、非アルコール性脂肪性肝疾患などの肝障害の有病率の増加に寄与している可能性があることを示唆している。



PFAS を含むかもしれない一般的な製品には、耐油性の紙、ファーストフードの容器と包装紙、電子レンジ用ポップコーンバッグ、ピザボックス、キャンディー包装紙などがある。zeljkodan/Shutterstock
 生地、食品包装、調理及び洗浄製品など、我々が使用する製品に含まれる特定の化学物質は、人の健康に害を及ぼす可能性がある。研究者らは、PFAS として知られるパーフルオロアルキル物質及びポリフルオロアルキル物質と呼ばれる化学物質類について懸念を抱いている。 PFAS には何千ものタイプがある。それらは、多くが環境中で非常にゆっくりと分解し、肝臓などの人間の組織に蓄積するため、”永遠の化学物質(orever chemicals)”として知られている。

 研究によると、事実上全ての米国成人で検出可能なレベルの PFAS が検出されている。 PFAS の健康への影響は潜在的に多くあり、胎児の成長、臓器の発達、生殖、及びその他の健康上の結果に影響を与えることなどが報告されてい。研究は、それらがホルモン調節と免疫系を妨害する可能性があることを示している。

 近年、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)(訳注1)と呼ばれる健康状態の診断が、明確な理由もなく増加している。特定の有害物質への暴露は、NAFLDのリスクを高める可能性がある。南カリフォルニア大学ケック医学校のエリザベス・コステロ、サラ・ロック及びリダ・チャッツィ博士が率いるチームは、PFAS が肝臓に影響を与えるかどうかを調査した。

 チームは、PFAS と肝臓に関する 111の調査研究からデータを収集し、レビューした。25件がヒト、86件がげっ歯類である。彼らは、人々に一般的に見られる 3つ、すなわちパーフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、及びパーフルオロノナン酸(PFNA)を含む、いくつかの PFAS に関する報告されているデータを調査した。研究者らはまた、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(訳注2)などの肝臓酵素の研究中でのレベルを調べた。高レベルの ALT はヒトとげっ歯類の両方の肝障害のマーカーであるため、ALT は研究に役立つ酵素である。

 主に NIH 傘下の 国立環境健康科学研究所(NIEHS)によって資金提供されたこの研究は、2022年4月27日に Environmental Health Perspectives に掲載された。

 チームは、3つの一般的な PFAS 化学物質全てが、血中の ALT レベルの上昇に関連していることを発見した。これは、ヒトとげっ歯類の両方の研究に当てはまった。げっ歯類の研究では、PFAS 暴露は脂肪肝疾患(fatty liver disease)の初期段階である脂肪症(steatosis)にも関連していた。

 PFAS と肝臓への影響を結び付けるヒトのデータは限られていたが、多くのヒトと動物の研究のこの系統的レビューは、 PFAS と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の間の関連を示唆している。男性と女性の両方の肝臓損傷に対する PFAS の影響を別々に調べた研究はほとんどなかったが、それらは結果が異なることを示唆していた。これは、PFAS が肝臓にどのように影響するかについての潜在的なメカニズムが、特定のホルモンの活性に関係している可能性があることを示唆している。 PFAS が肝臓を傷つけるメカニズムとその程度を明らかにするには、さらなる研究が必要である。

 ”この研究は、PFAS が段階的に廃止された後も環境に残留するため、PFAS を人間の健康への懸念として真剣に受け止める必要があることを明確に示している”とコステロ(南カリフォルニア大学)は言う。

 PFAS の健康への影響に関する最近の調査結果に照らして、米国環境保護庁は最近、PFAS汚染との闘いに向けて取っている新しい行動を発表した。

関連リンク

参照研究: Exposure to per- and Polyfluoroalkyl Substances and Markers of Liver Injury: A Systematic Review and Meta-Analysis. Costello E, Rock S, Stratakis N, Eckel SP, Walker DI, Valvi D, Cserbik D, Jenkins T, Xanthakos SA, Kohli R, Sisley S, Vasiliou V, La Merrill MA, Rosen H, Conti DV, McConnell R, Chatzi L. Environ Health Perspect. 2022 Apr;130(4):46001. doi: 10.1289/EHP10092. Epub 2022 Apr 27. PMID: 35475652.

NIHの国立環境健康科学研究所(NIEHS)、国立がん研究所(NCI)、及び国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK); 米国農務省(USDA)


訳注1:NAFLD
訳注2:ALT
  • アラニンアミノ基転移酵素(ウィキペディア)
     人体のほとんどの組織に含まれているが、なかでも肝細胞への分布が圧倒的に多い。そのため、肝細胞の破壊(あるいは細胞膜の透過性亢進)の際には血中濃度が上昇する(逸脱酵素)


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る