健康環境同盟(HEAL) 2014年2月18日
情報発表:
化学物質と子どもの脳神経発達阻害に関する新たな証拠
(グランジャン博士とランドリガン博士によるレビュー)


情報源:Health and Environment Alliance (HEAL), 18 February 2014
Information release: New evidence on chemicals and children's stunted neurological development
http://www.env-health.org/resources/press-releases/article/information-release-new-evidence

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年2月21日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/
140218_HEAL_new_evidence_on_neurological_development.html


 子どもたちの健康が環境汚染によりどのように影響を受けるかついての二人の主導的専門家、フィリップ・グランジャン博士とフィル・ランドリガン博士は、脳と神経系の障害の”世界的な静かな広がりの兆候”(自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、ディスレクシア(失読症)等から広く無症状脳機能減退まで)に寄与している化学物質についての主要な証拠のレビューを刊行した。

 ランセット神経学(Lancet Neurology)に発表されたその分析は、発達神経毒素として疫学で認められている12の化学物質と214の成人神経毒素とともに(過去7年間、発達神経毒素の数は6から12へと倍加し、成人神経毒素もまた202から214に拡大した)、もっと多くの神経毒素が未発見のままであるはずであることを明らかにした。

 著者らは、現在の世界の化学物質規制は、発達中の脳が環境中の有毒物質に対して比類なくぜい弱な子どもたちを守るためにはひどく不適切であると考えている。

 ’化学物質の脳汚染(brain drain)’の世界的な広がりへの対処への主要な障害は、1) 発達神経毒素が特定されていないということを意味する神経毒性のための化学物質のテストに大きなギャップがあること;2) 規制には膨大な証拠が必要であること−である。彼らは、既に市場出ている化学物質の義務的なテストに基づく世界的な防止戦略;新規化学物質の上市前評価;及び脳毒性についての化学物質を評価するための国際がん研究機関(IARC)のような国際機関を提案している。

 EUにおいて化学物質がいかに健康に影響を及ぼすかについて取り組んでいるヨーロッパの非営利組織である健康環境同盟(HEAL)のディレクター、ゲノン・ジェンセンは、次のように述べている。

 ”2006年の化学物質の神経発達への影響に関する証拠のレビューは、ヨーロッパにおける農薬認可の改革への主要な推進力になった。我々は、この新たなレビューが、他のものとともに、テスト要求と管理措置を含んで、特に EU 内分泌かく乱物質政策、REACH 及び農薬関連法について緊急に必要とされる規制の改善を促進することを期待する”。

 ”これらの変革は、我々の子どもたちの脳を守り、彼らの生活の質を改善することなどに役立つだけでなく、発達神経毒素のより良い検出と管理は、我々すべてを経済的に助けることになるであろう。この研究は、神経発達への化学的毒素による健康阻害コストは莫大かもしれないという事実を指摘している。もうひとつの最近のレビューは、EUにおける水銀だけによる健康コストは、IQ 損失について年間90億ユーロ(約1兆2,500億円)にまで達するであろうことを発見した”。

 ランドリガン博士とグランジャン博士の評価の中で発達神経毒素に最近加えられた化学物質は、REACH(産業化学物質)、農薬、殺生物剤を含む様々な EU の法律の一部に関連する。それらのうちのいくつかは、”内分泌かく乱情報(US Endocrine Disruption Exchange (TEDX))で潜在的な内分泌かく乱物質として分類されている。

 例えば、農薬クロルピリホス(訳注1)はいまだにEUで広く使用されており、EUの残留農薬登録に存在する。それは現在、健康への懸念から見直しが行われている。HEAL は、発達神経毒素をより良く特定し排除するために、そして新たな情報センターと世界的な防止プログラムを確立するために必要な国際的な協力へのEUの意味ある取り組みを開始するために、グランジャン博士とランドリガン博士の記事が全てのEUの法律のレビューと改善のためのベースとして使用されることを主張する。

ランセット研究へのリンク:
発達毒性の神経行動学的影響(Neurobehavioural effects of developmental toxicity)
http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(13)70278-3/abstract
Dr Philippe Grandjean MD, Philip J Landrigan MD: The Lancet Neurology, Volume 13, Issue 3, Pages 330 - 338, March 2014


訳注1
クロルピリホス/ウィキペディア
 有機リン化合物である。コリンエステラーゼ阻害作用を持ち、殺虫効果を持つことから農薬やシロアリ駆除などに用いられる。日本では、シックハウス症候群への対策として、居室を有する建築物へのクロルピリホスを含んだ建材の使用が、建築基準法の改正により2003年(平成15年)から禁じられた。 訳注:関連記事


化学物質問題市民研究会
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