Science News 2010年4月16日
水銀の驚き:米が危ない
数百万の中国人にリスク、潜在的に他の場所も同じ


情報源:Science News April 16, 2010
Mercury surprise: Rice can be risky
Millions in China are at risk, and potentially elsewhere as well By Janet Raloff
http://www.sciencenews.org:80/view/generic/id/58350/title/Mercury_surprise_Rice

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年4月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/100416_mercury_rice.html


 毒性学者に水銀中毒から避けるには何が最良かと問えば、間違いなく彼らはある種の問題ある魚を食べ過ぎないようにすることであると助言するであろう。(問題ある魚が何なのかについて相当な混乱があるが、とりあえずよいことにしよう。)しかし、中国からの新たな研究が、数百万人の人々が水銀汚染された食物を大量に食べてリスクがあるのは、魚ではなく米である−ことを示している。

 そして悪いことには、米は、世界の大部分で主食であるということである。

 中国とノルウェーの研究者らは中国内陸部の地方−そこでは人々は魚はほとんど食べない−における食物水銀汚染を調査した。彼らは貴州省に焦点を当てたが、そこは”中国の水銀の首都”と呼ばれる場所である。この地域には、石炭火力発電を備えた産業に加えて、12の大きな水銀鉱山と精錬所があるが、これら産業施設の全てが多量の水銀で汚染された大気と水を大量に排出している。

 北京にある中国科学アカデミーの大学院大学のフア・ザーンとキシビン・フェン及び彼らの共著者らは、大気、水、及び地域の市場から入手した全ての主要食物中の水銀を測定した。次に、貴州省全土の様々な地域社会の住民のこれらの食物の摂取のモデルを作成した。これらの地域社会には、自然保護区内にある村、大きな石炭プラントの風下の地域、現在は使われていない亜鉛精錬所の近くに住む人々、及び水銀鉱山の操業により大気が汚染されている地域が含まれている。

 これらの地域社会での水銀暴露は非常に大きな変動があるが、調査した全ての人々は、神経毒性が最も強く容易に吸収される水銀のひとつの形態であるメチル水銀の日々の摂取の94〜96%が米によるものであるということが、Environmental Health Perspectivesに発表される(訳注1)。メチル水銀中毒は母親の胎内で暴露した子どもたちの知能指数(IQ)が低いこと、血圧が高いこと、及び成人してからの心臓系疾患に関係している。

 貴州の激しい穀物汚染は多分に、水田には無機水銀をもっと毒性の高いメチル水銀に変換することのできるある種のバクテリアが存在するという事実によると、この論文は述べている。さらに、貴州では70%以上の人々(約2,700万人)が、一家の年収平均が米ドル換算で300ドル以下であるような貧しい地域社会に住んでいる。

 驚くべきことではないが、これらの地域社会の家族は食生活でカロリーの大部分を米に依存している。そして地域で栽培される米の総水銀量は高いレベルにある。それは地域により異なるが、最も高い汚染は水銀鉱山地域であるワンシャン(万山)である。

 さらに重要なことは、ワンシャン(万山)で採取した穀物中の総水銀の約11%がメチル化されていたということである。この特に毒性の高いメチル水銀は、人々が毎日、0.5キログラム以上食べるこの地域の米1キログラム当たりに平均9.3マイクログラム含まれている。

 キログラム当たりでは、肉は米より総水銀量を多く含んでいる(220マイクログラム対78マイクログラム)。しかし肉のメチル水銀は、米におけるメチル水銀の割合よりもはるかに小さく、わずか0.85マイクログラムである。

 皮肉なことに、この地域の人々は貴州の魚を多くは食べないけれども、こ地域の魚のメチル水銀濃度は比較的低く(キログラム当たり0.06ミリグラム)、中国が勧告する食物摂取における制限値の約10分の1である。

結論:貴州の人々の食事は、ワンシャン(万山)のような水銀鉱山や精錬所からの水銀汚染の大量の降下の影響を受けた米以外には大きなリスクは多分ない。しかし、そのような地域社会において、汚染された米は年間の水銀汚染に関し、沿岸国である日本やノルウェーにおける魚よりも、大きな原因となっている−と研究者らは観察している。とは言っても、貴州におけるメチル化された水銀の摂取は、沿岸のアジア諸国や多くの西欧諸国における魚の大量節食者よりも”はるかに低い”であろう。

 もちろん、大きな疑問は米の水銀汚染は貴州に特異なことなのかどうかである。著者らはそうではないと疑っているが、それを確認するために更なる研究が必要であろうと述べている。そして、もちろん、世界経済が上昇する中で、汚染米が貴州だけにとどまってはいないかもしれない。



訳注1:オリジナル論文のAbstract
Environmental Health Perspectives Online: 08 April 2010
In Inland China, Rice, rather than Fish is the Major Pathway for Methylmercury Exposure


Hua Zhang, Xinbin Feng, Thorjorn Larssen, Guangle Qiu, Rolf D. Vogt

Background: Fish consumption is regarded as the primary pathway of methylmercury (MeHg) exposure for most people in the world. However, in the inland regions of China, most of inhabitants eat little fish, but at the same time live in areas with considerable mercury (Hg) releases to the environment.

Objectives: We assessed exposure of THg and MeHg to such populations in inland China to exhibit the main exposure pathway.

Methods: We used Guizhou province as an example, as this represents a region seriously contaminated with respect to Hg in China. We selected four case study regions in Guizhou province, representing typical environments with severe pollution from Hg mining and smelting (Wanshan), traditional (recently closed) zinc smelting (Weining), heavy coal based industry (Qingzhen) and a village in a remote Nature Reserve (Leigong).

Results: The probable daily intake (PDI) of MeHg for adult population (with 60 kg body weight) was considerably higher in Wanshan than the other three places. With an average PDI of 0.096 (range of 0.015?0.45) μg/kg body weight per day (bw/day), approximately 34% of the inhabitants in Wanshan exceeded the USEPA established reference dose (RfD) of 0.1 μg/kg bw/day. The PDI of MeHg for residents in the three other regions were all well below 0.1μg/kg bw/day (averages from 0.017 to 0.023, with maximum of 0.095 μg/kg bw/day). In all four regions, rice consumption accounted for 94?96% of the PDI of MeHg.

Conclusion: The major finding from this study is that rice consumption is by far the most important MeHg exposure route, however, most of the populations (except those in Hg mining areas) have low PDI of MeHg.



化学物質問題市民研究会
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