2003年11月米国立科学アカデミー掲載論文
DEHP による精子形成細胞の過剰形成が
複合内分泌かく乱に関係する

(論文の概要紹介)

情報源:Phthalate-induced Leydig cell hyperplasia is associated with
multiple endocrine disturbances
Published in Proceedings in the National Academy of Sciences, 2003
Benson T. Akingbemi, Renshan Ge, Gary R. Klinefelter, Barry R. Zirkin, and Matthew P. Hardy
Edited by R. Michael Roberts, University of Missouri, Columbia, MO, and approved November 14, 2003
http://www.noharm.org/details.cfm?type=document&id=870

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年1月29日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/hcwh/dehp_study_in_pnas.html

概要

 環境中の物質への曝露が人間の生殖障害に関連するという可能性について、最近多くの人々が関心を持つようになった。フタル酸化合物は最も一般的にプラスチック可塑剤として食品産業及び建設産業で使用されており、ジエチルヘキシルフタレイト(DEHP)は最も多く環境中に存在するフタル酸化合物である。
 アメリカにおける人間の日常的な DEHP への曝露は重大であり、職業的な又は医療による DEHP 軟質プラスチック医療器具−血液バッグ、透析チューブ、nasogastric feeding tubes などからの曝露が体内の DEHP 汚染レベルを増大している。
 我々は、低レベル環境関連 DEHP への慢性的曝露が及ぼす精巣機能への影響について調査した。我々のデータは、この物質への長期的な曝露がゴナドトロピン黄体形成ホルモン (gonadotropin luteinizing hormone)を誘発し、性ホルモン(雄性ホルモン及び17β発情ホルモン(E2))の血漿濃度を50%以上高めることを示している。  増大するライジヒ細胞(精巣内で精子形成を促進)の増殖活動は、RT-PCRによって決定される細胞サイクルたんぱく質の発現の高まりによって示される。 DEHP に曝露したラットの精巣中のライジヒ細胞の数はコントロール・ラットよりも40〜60%多く、ライジヒ細胞の過剰形成を示している。
 DEHP により誘発された血漿中の雄性ホルモン及び17β発情ホルモン(E2)の増大は、アンドロゲン(男性ホルモン)、エストロゲン(発情ホルモン)、及びステロイドホルモンの受容体間の複合作用の可能性を示唆している。
 慢性的フタル酸化合物への曝露によるゴナドトロピン及びステロイドホルモンのレベルへの影響分析は、人間集団における全体的なリスク評価の一部として位置づけられなくてはならない。

解説

 環境中で高いレベルの化学物質に曝露した野生生物の新生児に、停留睾丸、尿道下裂、生殖障害など尿生殖器系異常の発生率が高まっているという報告は、これらの物質が人間の生殖健康にも害を及ぼすのではないかという懸念を多くの人々にもたらしている。[1,2]
 フタル酸化合物はプラスチック可塑剤として、幼児の玩具や消費者製品(例えば、石けん、シャンプー、香水の容器)及びチューブ、カテーテルなどの医療器具に使用されている。
 アメリカ厚生省は1985年に、アメリカにおける人間の全ての汚染源からのジエチルヘキシルフタレート(DEHP)の1日摂取量は5.8mgであると推定している。[3]
 つい最近、疾病管理予防センダー(CDCP)から出版された報告書の中で DEHP の主な代謝物質であるモノエチルヘキシルフタレート(MEHP)の尿中のレベル(mg/l)は、男性が3.26〜4.15、女性が2.93〜3.51であり、これらの量は検査に先立つ24時間以内に体内に取り込まれたDEHPのわずか10分の1を表しているに過ぎないとしている。[4]
 最近の実験室研究のレビューで、アメリカ国家毒性計画センター人間生殖リスク評価専門家委員会は、 DEHP は人間の生殖に有害な影響を与える潜在性があると結論付けた。[5]
 実際、この物質がラットとマウスの精巣機能に影響を与えるとして提案されたいくつかのメカニズム、すなわち、精巣の鉄分と亜鉛の減少、酸化抑制状態の変化、及び、ホスホリパーゼA2(燐脂質を加水分解する酵素)の抑制、は人間にも関連することである。[6,7]

 従来のフタル酸化合物の研究は一般的に短期間に高用量をもって行われていた。しかし、急性曝露という従来の支配的な考え方(パラダイム)は、人間が長期間低レベル曝露を受けるという実際の生活状況を正しく反映していない。
 さらに、慢性曝露(今回の研究では4週間、あるいはそれ以上)は、生殖機能汚を調整する hypothalamo朴ituitary釦esticular(HPT) axis に与える内分泌かく乱物質の影響を研究する上で好ましいモデルを提供する。
(以下略)

参照

1. Sharpe, R. M. (2001) Toxicol. Lett. 120, 221232.
2. Akingbemi, B. T. & Hardy, M. P. (2001) Ann. Med. 33, 391403.
3. U.S. Department of Health and Human Services (1985) Fourth Annual Report on Carcinogenesis (U.S. Dept. of Health and Human Services, Washington, DC), National Toxicology Program Publication No. 85-002.
4. U.S. Centers for Disease Control and Prevention (2003) Human Exposures to Environmental Chemicals (U.S. Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta).
5. National Toxicology Program Center for the Evaluation of Risks to Human Reproduction (2000) NTP-CERHR Expert Panel Report NTP-CERHRDEHP-00 (National Toxicology Program Center for the Evaluation of Risks to Human Reproduction, Washington, DC).


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る