健康な病院 : 有害な殺虫剤を使わずに害虫対策
目次、序言、エグゼクティブ・サマリーの翻訳紹介 情報源:Healthy Hospitals: Controlling Pests Without Harmful Pesticides Report of Health Care Without Harm, November 2003 http://www.noharm.org/details.cfm?ID=864&type=document 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2003年11月14日 目 次
序 言 ジャッキー・ハント・クリステンセン/ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(HCWH) 2003年11月 ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(HCWH)は、1996年9月、カリフォルニア州ボリナスの ”公共の福祉” 会議に参集した 28 団体が結成して生まれた。参加した我々は、非常に特定した目標 : 我々は医療廃棄物の焼却に反対する ”批判的な集団” であること−を持っていた。 我々は ”安全と医療が妥協することなく、医療業界がもはや環境に対する有害性の源とならないよう変えていく” という我々の使命を展開していく中で、健康医療環境の影響が与えるより広範な関連について確かに考えてはいたが、当時は、我々は主にダイオキシンと水銀の放出の危険性に焦点をあてていた。 我々は、医療従事者が悪意を持って環境や人々の体を汚染しているわけではなく、彼らはその行為の危険性について十分な情報を持っていないためであるということがわかった。我々は、医療業界がデータと選択肢を与えられた時、彼らは ”害を及ぼさないことが第一 first, do noharm” を選択すると信じていたが、実際、ほとんどのケースがその通りであった。 我々のメンバーの活動を通じて、ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(HCWH)は病院のダイオキシンと水銀の放出の削減と多くの医療廃棄物焼却炉の閉鎖に寄与した。 我々の組織は、医療システム、医療専門家団体、労働者、環境団体、地域の組織、健康擁護団体など、52 カ国、427 メンバー組織からなっている。 ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(HCWH)は組織が拡大し、メンバーもより多様になるにつれ、我々はダイオキシンや水銀だけから、以前には医療管理者、スタッフ、医師らのレーダー・スクリーンに捉えることができなかった、患者と作業者双方のために病院の環境をより安全にすることを含む、その他の問題に目を向けるようになった。 これらの問題には下記が含まれる。
我々がこの問題について着手し始めて分かったことは、病院や診療所の内外で使用されている農薬の量とタイプに関する情報がほとんどないというこてであった。従って、我々の最初に取り掛かったことは我々自身でデータを収集する調査を実施したことであった。 我々は、US ニュース・ワールド・レポート 2001 の ”上位病院リスト” の 171 病院に調査票を送ることから着手したが、HCWH メンバー団体が居を構える市やその周辺の 100 施設に焦点をあて、又は接触した。 接触した 171 の病院のうち、何度も電話し、手紙を書き、ある場合には HCWH メンバーが直接出向い多結果、 22 の病院から調査票の回答があった。我々の調査は、完全にその病院を代表する科学的データを求めるものではなかったが収集されたデータは、わが国の一流の医療施設でどのような害虫対策を行っているかの片鱗を示す有益な資料であると我々は信じている。 またこの調査は、病院や健康システムが自身の害虫対策と殺虫剤使用について評価し、年月とともに進捗状態を監視する有益なツールとして使用することができる。 多くの人々は、殺虫剤を使うことが害虫に対処し清潔で健康的な医療施設を維持する唯一の方法であるという前提に立っているが、この報告書は、有毒な殺虫剤を使わずに、そして患者の医療の品質に有害な影響を与えずに、上手に害虫対策を行うことができるということを示している。 健康医療施設は、従来の害虫対策に対する考え方を変え、安全で効果的な統合害虫管理の指針に従うことで、 ”害を及ぼさないことが第一 first, do noharm” に対するもう一つの好い機会を持つこととなる。 ジャッキー・ハント・クリステンセン ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(HCWH) 2003年11月 エグゼクティブ・サマリー 病院は健康と治療を求める場所として意図されている。それなのに、アメリカの一流病院について実施した本調査により分かったことは、アメリカの主要病院では規則的に有毒殺虫剤を使用しているということである。このことは患者とスタッフの健康にリスクをもたらし、病院の安全性について疑問を提起するものである。 現状の病院の害虫対策をよく理解するために、ヘルス・ケア・ウイズアウト・ハーム(HCWH)は、US ニュース・ワールド・レポート(2001)に引用されている 171 の上位アメリカ病院施設に調査票を送付した。調査の結果、いくつかの病院は最も害の少ない方法、及び/又は、殺虫剤の使用の告知を行っているが、ほとんどの病院では、統合害虫管理(IPM)と呼ばれる、より安全な害虫対策を実施している病院でさえも、まだ多くの殺虫剤を使用しているということがわかった。 この調査で、回答してきた 22 の病院から分かったことは:
(a) 病院内での殺虫剤使用に関連する多くの潜在的健康への有害性 (b) 国立病院害虫対策実施調査の結果 (c) より安全な害虫対策の実施、及び患者、訪問者、及びスタッフに対する殺虫剤使用の告知の有効性とその必要性 もちろん、病院を清潔に保ち健康を脅かす害虫がいないようにすることが本質的であるが、同時に、患者、スタッフ、及び訪問者を殺虫剤への曝露から保護することも重要である。 免疫系や神経系を危険にさらしている病院の患者、年寄り、乳幼児と子ども、及び、アレルギー及び農薬への過敏性を持つ人々は特に殺虫剤の毒性影響に脆弱である。ある特定の薬物治療を受けている患者もまた殺虫剤に対する反応が高められる。 「健康医療施設の害虫対策は他の種類の施設とは異なるものである。衰弱や回復のそれぞれの段階によって、また物理的及び精神的環境によって、患者への影響は異なるので、殺虫剤の全ての使用に対し、注意深い保護方針を採用することが求められる。どのような殺虫剤の使用でもその程度が不確かなリスクが生じる」 と退役軍人省は述べている[1]。 アメリカ医療協会の科学関連委員会は、次のように述べている。 「低用量の殺虫剤への曝露の長期的な健康影響に関しては独特の不確実性が存在する。現状の調査システムは、殺虫剤使用又は殺虫剤関連疾病に関連する潜在的曝露問題を特定するためには不適切である。これらのデータが十分ではないことを考慮して、家主、農民、及び作業者は自身及び他者への殺虫剤曝露を制限し、最も害の少ない化学殺虫剤か非化学代替物を使用するなどの配慮が必要である」[2]。 殺虫剤は、好ましくない、又は人間の健康を脅かす昆虫、植物、及び動物を殺す又は駆除することを意図する危険な化学物質である。その多くは室内空気の品質を低める揮発性成分を含んでいる。 殺虫剤は害虫と人間体内の有益な組織を殺すだけでなく、ぜん息を悪化させ、吐き気、頭痛、発疹、めまいなどの急性症状を引き起こす。多くの殺虫剤はまた、がん、先天性欠損症、神経系や生殖系障害、及び化学物質過敏症の触発などの慢性的影響とも関連している。 殺虫剤中毒は、誤診断される、あるいは正当に認められないことが多いが、それは多分に、多くの医療従事者が環境疾病に関する教育訓練を十分に受けておらず、また、ほとんどの人が自分がいつ殺虫剤に曝露したかを知らないからである。 なぜ病院に焦点をあてるのか アメリカには 5,810 の登録病院があり[3]、そこには年間、3,200 万人の入院患者、8,300 万人の外来患者、1億800 万人の救急患者がいる[4]。従って非常に多くの個人が健康医療施設で有毒な殺虫剤に曝露する可能性がある。病院によってはその患者は特に殺虫剤の有毒影響に脆弱である[5]。 病院は、医療専門家の基本的な理念である ”害を及ぼさないことが第一 first, do no harm” を維持するために、効果的でより安全な害虫対策についてのリーダシップを示す特別な義務がある。 幸いなことに、統合害虫管理(IPM)と呼ばれる害虫対策の方法を用いることで、有害な殺虫剤を使用する害虫対策の必要性がなくなり、あるいは大幅に減少し、病院の患者、スタッフ、及び訪問者のための健康な環境を確保することに役立つ。 統合害虫対策(IPM)は、病院内及び敷地における害虫のえさ、水、及び、すみかを少なくする、あるいは、なくすことにより、そして、芝生や庭を健康的に保つことで、害虫問題を防ごうとするものである。 害虫の発生を抑えるためにとるべき最初の措置は、衛生設備の改善、建物内設備の修理(パイプ漏れの修理、ひび割れの修理など)、そして、防虫網、捕虫器、除草などの物理的又は機械的な措置を行うことである。 最も害の少ない化学物質は、それ以外の方法が失敗した時にのみ用いられる。もし殺虫剤を使用するなら、病院関係者が必要な予防措置を取れるよう、使用に先立ち、関係者全員に知らせなければならない。 統合害虫管理(IPM)戦略は、学校、公園、政府施設、病院などで全国的に好結果をもって実施されつつある。例えば、オレゴン健康科学大学、ブリグハム女性病院、ハーバード大学、サンフランシスコ市、シアトル公園レクレーション局、ニューヨーク市公立学校、総務局等での IPM プログラムが、IPM は経済的で効果的に実施することができることを実証している。 この報告書は、1995年の報告書、 『A Failure to Protect by Beyond Pesticides 』 及び 『 New York Attorney's General report Pest Management in New York State Hospitals 』 とともに、全国の医療施設で用いられている殺虫剤の種類と量に関するデータを追加するものである。それは、有害な殺虫剤がアメリカの病院で共通に用いられているという前回の調査結果を確認し、さらに詳細に掘り下げるものである。(抗菌化学物質はこの報告書では対象としていない。) 勧告 統合害虫管理(IPM)アプローチを採用している病院もあるが、アメリカの病院の大部分は、より安全な害虫対策を大至急、採用する必要がある。コスト効果のある IPM プログラムは患者とスタッフの健康を脅かす有害な殺虫剤の不必要な使用を排除することができる。 病院、政府当局、公衆、及び害虫対策業界は全て、最も害の少ない IPM プログラムを採用する病院の数を増やすために行動を起こすことができる。 [1] Department of Veterans Affairs. 1986. Pest Management Operations, Chapter 2. Environmental Management Service. February 3. p.5. [2] American Medical Association, Council on Scientific Affairs. 1997.“Educational and Informational Strategies to Reduce Pesticide Risks.”Prevention Magazine 26:191-200. http://www.amaassn.org/ama/pub/article/2036-2492.html [3] American Hospital Association. 2001. Fast Facts on U.S. Hospitals from Hospital StatisticsTM. Chicago, IL. [4] CDC. 2002. “Hospital Utilization.” National Center for Health Statistics. Center for Disease Control and Prevention. U.S. Department of Health and Human Services. Hyattsville, MD. [5] Vacco, D. 1995. Pest Management in New York State Hospitals: Risk Reduction and Health Promotion. Attorney General of New York State. New York State Department of Law. December 5; Duerhing, C. 1996. The Healthy Hospital Part Two: Pesticide Risks and Alternatives. Medical and Legal Briefs 2(1) July/August. |