EHP サイエンス・セレクション 2020年5月28日
食品容器包装中の PFAS:
熱くて脂っこい食品の暴露

ネイト・セルテンリッヒ
情報源:Environmental Health Perspectives, Science Selection 28 May 2020
PFAS in Food Packaging: A Hot, Greasy Exposure
Nate Seltenrich
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/EHP6335

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年6月17日
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 まず、DDTがあった。その後、BPA が登場した。そして次に、誰にとってもおなじみの名前になっている最新の化学物質は、その頭字語が PFAS であるパーフルオロ及びポリフルオロアルキル物質である。このクラスの化学物質は、強力な界面活性剤として、また水、油、及び汚れをはじく能力のために高く評価されている[1]。PFAS は、他にも様々な用途があるが、熱くて脂っこい食品を保持するように設計された紙製品に添加される。 環境健康展望( Environmental Health Perspectives )に発表された最近の研究では、そのような食品が PFAS への人々の曝露にどのように寄与するかを詳しく調べている[2]。

 すべての PFAS は環境中に残留し、食品容器中に見られるものの一部は生物蓄積性があり、人体にも有害である[1]。そのクラスの中で最もよく知られている化学物質であるペルフルオロオクタン酸(PFOA)とペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)は、米国では 2000年〜2015年の間に徐々に廃止された[3]。 フッ化炭素短鎖からなる多くの新たな PFAS が仲間入りしている[4]。これらの短鎖 PFAS は、人体からより迅速に排出されるという証拠があるが[5][6]、それでもまだ人の健康への懸念を示している[4]。

 マサチューセッツに本拠を置く非営利の研究機関であるサイレント・スプリング・インスティテュートは、PFAS を調査している組織のひとつである[7][8][9][10]。サイレント・スプリングの研究科学者であるローレル・シャイデルが率いる 2017年の研究では、全米のファストフード・レストランから収集された食品接触紙製品(ハンバーガー包装紙など)の 46%、及びに板紙サンプル(フレンチフライボックスなど)の 20%に耐油性の PFAS コーティングが見つかった[11]。その新しい EHP 報告書でシャイデルとサイレント・スプリングの同僚らは、 5つの一般的な PFAS(PFOA、PFOS、ペルフルオロノナン酸、ペルフルオロデカン酸、およびペルフルオロヘキサンスルホン酸)の血清中のレベルとファストフード、ピザ、及び電子レンジ・ポップコーンの消費量との関係を推定した[2]。

 ”我々は、PFAS が [ファストフードの] 容器包装で広く普及していることは知っていたが[11]、ファストフードをより多く食べた人は PFAS への曝露が増加するのかどうか疑問に思った”とシャイデルは述べた。 ”他の研究もまた、電子レンジ・ポップコーン容器にはほとんど常に PFAS が含まれていることを示しているので[12]、我々はより多くのポップコーンを食べた人も同様に、より高いレベルを持っているのではないかといぶかしんだ。

 この研究は、2003年から2014年の間に、全米健康栄養調査(NHANES)の一環として 10,000人以上の個人から収集されたデータに基づいて行われた。その調査では、血液サンプルに加えて、前の日、週、月、および年に何を食べたか、どこで食べたかなど、詳細な食事情報を収集した。

 NHANES が対応していない容器包装の役割を明らかにするために、シャイデルと彼女の同僚らは、食品がどこで食べられたかに焦点を当てた。 人々が家庭で食べると報告した食品の 90%は食料品店からのものであるため、研究者はその食品の多くは家庭で調理され、容器包装中の PFAS に接触する可能性は低いと想定した。 その分析は魚介類の消費について抑制したが、それらは以前には高い PFAS レベルに関連付けられていた[13]。

 彼らの発見は彼らの仮説を支持するように見えた。家庭でより多くの食物を食べる人は平均して PFAS の血清濃度が低く、ファストフードやピザレストランを含んで外食を多くする人は平均してわずかに高い濃度であった。 しかし、研究者たちは、これらの違いのいくつかは、さまざまな場所で消費されるさまざまな種類の食品に関連している可能性があると指摘した。 ポップコーンの消費もまた、4つの化学物質の血清濃度が有意に高かったことに関連していた。

 研究に関与していないスウェーデンのストックホルム大学の教授であるイアン・カズンズは、米国での化学物質の主要生産者である 3M 社が 2002年末[14]、すなわち全米健康栄養調査(NHANES)の最初の調査の 1年前にその製造を中止していたことから、著者らが食事と PFOS レベルの関連を発見したことに驚いたと述べている。

 ”著者らは、生産の変化にもかかわらず、これらの正の相関関係が見つかる理由について良い考察を提供している”と彼は言う。つまり、最近の食物消費は過去の行動を反映しているかもしれず、 人間の血液中の PFOS の半減期が 4.8 年と言うことは、それがゆっくり排出されることを意味する。言い換えれば、今日人間の血中に存在する PFOS は過去の暴露を反映している。 それでも、彼はこれらのアイデアがさらに検証されることを望んでいるとカズンズは言う。

 カリフォルニアに拠点を置くデータ科学者で、今回の研究には関与していないが、ハーバード大学で以前に PFAS を研究していた[15]シンディ・フーは、その調査は興味深く、関連性がある課題を提示している一方で、いくつかの重要な限界があると言う。”通常、食品接触材料に含まれる化学物質を見ると、それらの多くは全米健康栄養調査(NHANES)に含まれていないか、含まれていても、検出頻度が低すぎるために著者らによって削除された」とフーは言う。

 最終的に、著者らは、観察した関連性を食品容器包装だけに決定的に帰することはできないが、2019年にデンマークが行ったように[16]、食品の包装における PFAS の使用を止めるためのさらなる励ましを提供すると結論付けた。 彼らは、PFASへの暴露に寄与する食品接触材料の可能性は、”毒性と残留性についての懸念と相まって、代替案の使用を支持している”と書いた。

 ネイト・セルテンリッヒ(Nate Seltenrich)は、サンフランシスコ・ベイエリアの科学と環境を取材している。 エネルギー、エコロジー、環境健康などのテーマに関する彼の著作は、地域、国内、及び国際的なさまざまな出版物に掲載されている。


参照:
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