EHP 科学セレクション 2014年8月
BPA と生殖健康:科学の現状をレビューする
ジュリア R. バーレット
情報源:Environmental Health Perspectives, Science Selection, August 2014
BPA and Reproductive Health: Reviewing the Current State of the Science
Environ Health Perspect; DOI:10.1289/ehp.122-A223
Julia R. Barrett
MS, ELS, a Madison, WI?based science writer and editor, has written for EHP since 1996. She is a member of the National Association of Science Writers and the Board of Editors in the Life Sciences.
http://ehp.niehs.nih.gov/122-A223/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年8月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/14_08_ehp_BPA_and_Reproductive_Health.html

 2006年、専門家委員会は、高生産量化学物質であり、先進国のほとんどの人々の体内はもとより環境中からも広く検出されるビスフェノールA(BPA)への暴露により引き起こされる可能性のある健康影響に関するその時点の文献をレビューした(参照1)。新たなレビューは、それ以来得られた知識について、潜在的な生殖健康に焦点を当てつつ、一方、新たなそして長引く疑問をも考慮しつつ、それらを評価した(参照2)。

 BPA は、ポリカーボネート・プラスチックとエポキシ樹脂の構成要素であり、食品や飲料の容器から感熱紙のレシートまで多くの製品中で使用されている。これらの製品から様々な程度で漏れ出し、皮膚、呼吸器、そして口からの経路を通じて慢性的な低レベルの暴露をもたらしていることが見つかっている(参照1参照3)。そのような暴露は、米・環境保護庁により設定されている現状の参照用量以内であると考えられていたが、そのような参照値が設定された後に実施された調査は、健康影響はもっと低い用量で起きるかもしれないことを示唆している(参照1参照3)。

 さらに、BPA は極めて弱いエストロゲン様化合物であるとする初期の仮定とは対照的に、最近の調査は、ある場合には低レベルBPAは、エストラジオール(天然の女性ホルモン)と同等の強さで細胞反応を刺激することができることを示している(参照4)。ゲノムのエストロゲン受容体(genomic estrogen receptors)に加えて、BPAは、様々な作用に関与するいくつかの他の受容体と結合する。生物監視データは、ほとんどの人々は生物学的に活性であると予測されるBPAのレベルに暴露していることを示している(参照1参照3)。

 本レビューは、2007年から2013年までの間に発表された実験室データとヒト研究に基づいている(参照2)。それは広範にわたる多くの複雑な研究を評価するために構造的アプローチをとっている。”研究がそのように複雑な理由は、BPA が非常に複合的であるからだと私は考える”と、共著者でありイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の比較生物科学教授ジュディアン・フラウズは述べている。”それはおそらく、異なる組織、異なる生物種、異なる用量、そして異なる暴露の発達ウインドウで、異なる作用のメカニズムを持つからである”。

 このレビューは、出生前暴露、早期暴露、及び出生後暴露、及び多くの評価項目に関連しつつ、高用量及び低用量研究の両方を包含している。統合されたデータは、もし多数の生物種における多数の研究が同様な BPA 関連影響を示すなら”強い”とみなされ、いくつかのしかしほとんどではない研究が同様な評価項目を示す又は全ての種については一致しない場合には”限定的”、もし研究数が限定されている又はひとつの種だけ又は生体外(in vitro)の場合には”決定的ではない”とみなされた。

 著者らは、BPA は、動物ヒトの両方への卵巣毒素であり、動物の子宮と前立腺毒素であるとする強い証拠があると結論付けた。彼らは、子孫の数、出生時体重、及び妊娠期間の長さへの影響は限定的であり、ヒト研究には一貫性がないが、動物研究は幾分強いと結論付けた。BPA がヒトの精巣毒素であり、胎芽着床欠陥の原因であるとする証拠もまた限定的であった。卵管、胎盤、及び思春期発達に関する BPA と影響について結論を引き出すためには利用可能な情報が十分ではない。

 ”ヒト研究によるデータと動物研究によるデータの比較は重要であり、本レビューの主要な強さである”と、タフツ大学統合生理学病理生物学の准教授であるベバリー・ルビンは述べている。”このレビューは、ここで示されたように、広い範囲で、多くの異なるレベルで起きることができ、暴露のウインドウと用量により大きく影響を受けることがある BPA の潜在的な生殖影響について知りたいと望んでいる人々はもちろん、この分野の調査に携わる人々のために”優れた資源を提供している”。ルビンはこのレビューに関わらなかった。

 著者らは、将来の研究は発達中の重要な期間を強調し、実際のヒト暴露をよりよく反映する継続的な BPA 暴露測定と用量を使用することを推奨している。研究はまた、共存する要素との潜在的な相互作用を認め、恒久的影響及び一時的影響を区別すべきである。The Endocrine Disruption Exchange (訳注1)の研究者であり、このレビューには参加していないジョアンナ・ロチェスターもまた、研究がいかによく設計され、実施されたかを重みづけることを示唆しているが、そのことは、他の点では申し分のないこのレビューにおける潜在的な限界であると彼女は感じた。

 ”私が考えることのひとつは、これらの体系的なレビューが真に重要なことは研究の質を見ていることである”ロチェスターは言う。彼女は、”もし、メカニズムを示しつつ、また用量間の関係を示しつつ、生体内(in vivo)で、生体外で(in vitro)で、そしてすべてが一緒に提示されるヒトの結果を見ることができるなら、もっと大きな全体像を得ることがもっとやさしくなるであろう”。

参照

1. vom Saal FS, et al. Chapel Hill bisphenol A expert panel consensus statement: integration of mechanisms, effects in animals and potential to impact human health at current levels of exposure. Reprod Toxicol 24(2):131-138 (2007); doi: 10.1016/j.reprotox.2007.07.005.

2. Peretz J, et al. Bisphenol A and reproductive health: update of experimental and human evidence, 2007?2013. Environ Health Perspect 122(8):775-786 (2014); doi: 10.1289/ehp.1307728.

3. Vandenberg LN, et al. Human exposures to bisphenol A: mismatches between data and assumptions. Rev Environ Health 28(1):37-58 (2013); doi: 10.1515/reveh-2012-0034.

4. Rubin BS. Bisphenol A: an endocrine disruptor with widespread exposure and multiple effects. J Steroid Biochem Mol Biol 127(1-2):27-34 (2011); doi: 10.1016/j.jsbmb.2011.05.002.


訳注1:TEDX について
(About TEDX から要約)
 TEDX (The Endocrine Disruption Exchange, Inc.) は、内分泌かく乱物質と呼ばれる発達と機能を阻害する化学物質に低用量で、及び/又は環境中で曝露することにより引き起こされる人の健康と環境の問題に主に取り組む唯一の組織である。アメリカの非営利公益法人である501(c)(3)法人であるTEDX (The Endocrine Disruption Exchange, Inc.) は、コロラド州Paonia にあり、州法の下に会社組織となっている。同社は、環境中において低濃度で内分泌かく乱物質やその他の産業化学物質により及ぼされる人の健康や環境への脅威に関し広く著作し講演しているシーア・コルボーン博士によって設立された。
TEDXについてのさらなる情報:About TEDX



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